拡大するETFの活用~ETFはパッシブ運用か

2019/05/13 <>

・S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス主催のETFコンファレンスが4月に開かれた。資産運用におけるETFの活用について、さまざまな議論がなされた。その中のいくつかのセッションに参加して話を聴いた。印象に残った論点をいくつか取り上げてみたい。

・ETF(Exchange Traded Fund:上場投資信託)は、特定の指数(インデックス)に連動することを目指す商品である。日経平均や東証株価指数(TOPIX)に連動するETFであれば、マーケット並みのパフォーマンスが上げられる。

・少額でインデックスと同じ動きをする投信が購入できる。十分に分散が効いており、毎月の積立型にも向いている。しかも、手数料や維持費用が安い。

・インデックス連動であるから、ETFの値段はそれなりに上下する。しかし、長期的に市場が伸びていくならば、安定したパフォーマンスが得られるはずである。

・1つの課題は流動性にある。東証には220以上のETFが上場しているが、日々活発に取引されているETF(日経225やTOPIX)がある一方で、取引が低調なETFもある。

・流動性が低いと、買いたい時に値がつり上がり、売りたい時に値が予想以上に下がるということが起こる。つまり、スプレッドが広がってしまうと、使い勝手はよくない。

・これを是正するために、2018年7月より、東証ではマーケットメイク制度を取り入れた。マーケットメーカー(証券会社など)が特定のETFに対して一定量の注文を提示し、それに見合ったインセンティブ(売買手数料の割引)が得られるようにした。

・現在、110以上のETFがマーケットメイクの対象となっている。マーケットメーカーは5社である。これによって、流動性が増加し、スプレッドも縮小する傾向がでている。

・ETFの投資対象となる指数はさまざまである。指数に連動する投資信託が上場しており、1つの商品としていつでも売り買いができる。指数の定義によって、その中身がはっきりしており分かり易い。

・国内株式、海外株式、国内債券、海外債券、REIT、商品(金など)など多様な指数(インデックス)に投資することができる。また、レバレッジ型(ブル型)、インバース型(ベア型)など、原指数の変動をより加速したものや、逆の動きを加速したものなど、儲けやヘッジの商品性を工夫したものもある。

・ブラックロック・ジャパンの藤川取締役(ETF事業部門長)は、運用業界におけるビジネスモデル(BM)の変革は急務であり、その中で、ETFは求められる構造変化により合致した商品性を有している、という点を強調した。

・BMの変革では、①テクノロジー、②規制、③リターン、④顧客という4つの視点が重要となっている。テクノロジーでは、WEB、モバイルに次いで、これからはアシスタンスが求められる。

・規制では、顧客本位の適合性と報酬の透明性が一段と要請される。リターンは、かつてよりも低くなることが想定される。その中で、顧客は、運用の質や価値に、一段と重心を置くようになっている。

・ETFは、1) 高い透明性、2)多様な投資、3)質の高い商品という点で、これからの構造変化に合っている。ETFは過去20年以上にわたって、その資金フローは年率20%の成長を遂げてきた。

・これからも成長は続くのかという設問に対しては、さらなる拡大が見込めるという。また、ETFは指数に連動しているので、それはパッシブ運用ではないかという見方が一般的であるが、こうした見方は必ずしも適切でないと藤川氏は強調した。

・新規の指数をみると、カーボン・エフィシェント指数、ナノテクノロジー指数、ドローン指数、ロボット工学指数、遺伝子工学指数、サイバーセキュリティ指数、自動運転指数、分散台帳(ブロックチェーン)指数など、多様なテーマ型指数も続々登場している。

・これらは、指数そのものが十分アクティブ性をもっている。その指数に連動するからパッシブである、という点だけみるのはもはや適切でない。

・運用のパフォーマンスはどこから生まれるのか。個別銘柄のアルファなのか、アセットアロケーションのリスク・リターンなのか。この点では、後者のリターンをより重視するようになっている。米国では、インデックス運用の78%がETFを使っている。

・アクティブ運用に比べて、ETFのコストは明らかに安い。欧州ではMiFidⅡのスタートに伴って、利益相反をさける目的で報酬の開示がより求められている。低コストのETFがより活用されるようになろう。

・債券においても、従来のブローカートレーダーが縮小し、債券ETFが注目されている。ここでも、米国ハイイールド債や新興国債のスプレッドの高さから、ETFの低コストが利用度を引きつけている。

・世界のETF市場では、やはり米国がリードしている。米国株式市場の上場銘柄をみると、出来高のトップ10はすべてETFで、個別株ではない。ニーズに合った指数開発は続いており、スマートベータ型からテーマ型まで今後も次々に登場してこよう。

・1.5万のETFが既に上場されている。多すぎないかという懸念に対して、デリスト(上場廃止)されるものも増えているが、それ以上に、新しいものがグローバルに増えてこよう。

・ETFは、何らかのマーケット全体を示す指数(インデックス)に連動する。現状では、パッシブ型が中心であり。スマートベータ型やファクター型はまだ一部である。ましてテーマ型のようなアクティブ型は、いろいろ出てもまだほんの一部にすぎない。

・また、日々の取引高をみると、インデックスは全体の一部であり、アクティブ取引が大半を占めている。ETFが流動性のバッファーとなっている面もある。ETFのローコスト性が優位性を発揮している。

・アクティブ型の指数連動を運用する時には、その透明性に十分注意する必要がある。指数の中身について、フロントランニングがおきないように、スプレッドについても十分注意する必要がある。その点では、ETFアナリストが重要になり、金融監督機関のルール設定も強化されよう。

・ロボ(Robo)の活用も、ヒトの判断をサポートするものであって、ヒトかロボか、ではなく、ヒトとロボのハイブリッドが運用を支えていく。では、アドバイザーのアルファは何か。

・バンガードの渡邊ETF戦略部長は、①顧客のポートフォリオ作り、②ウェルスマネジメントの戦略作り、そして、③顧客の行動コーチングを挙げた。

・とりわけ、アドバイザーでは、行動コーチング(ビヘイビアコーチング)が重要であると強調した。顧客の感情的な反応を収めて、運用の規律を守ることである。このアドバイスが本当にできるならば、顧客のアルファ(プラスの付加価値)に大きく貢献しよう。

・ETFを活用して、中長期の運用価値を投資家に提供したいものである。株式のアルファ、インデックスのベータ、ポートフォリオのリターン、それをアドバイスする人のバリュー、それぞれの価値創造に大いに期待したい。

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