タイプの異なる企業をどのように比べるか

2019/04/16 <>

・3つの個人投資家説明会に参加してみた。リクルートホールディングス(コード6098、時価総額5.37兆円)、国際石油開発帝石(INPEX 、コード1605、時価総額1.57兆円)、ANAホールディングス(コード9202、時価総額1.40兆円)である。人材開発、天然ガス開発、航空運輸の会社をどのように比較するのか。

・そもそもセクター(業種)が違うので比較するのは難しいのではないか。いや、業績からみて株価の割安、割高をみれば比較できるはずだ。どちらの意見にも一理ある。実際、財務データからみれば、どの上場企業も比べることは容易である。しかし、その意味を理解して、どの会社が企業価値創造に優れているかを見極めようとすると簡単ではない。

・少し視点を変えると、説明会でマネジメントの話をきいて、企業評価のヒント(材料)を得ることはいくらでもできる。1時間という限られた時間で、会社は何を訴えてくるのか。わが社のココを分かってほしいと説明に力を入れる。投資家が知りたいことに応えていない場合もある。質疑が十分でないことも多い。でも、会社を知るよい機会なので、大いに活用したい。

・一方で、ニュースを見聞していると、自分が関心を持っていることは目に飛び込んでくる。関心がないことは無視してしまうので、興味をもって世の中をみておく必要がある。筆者が気になっていることを3つあげておく。

・1つ目は、アジアにおける中所得の罠である。人件費が上がってくると、安いコストで戦えなくなる一方で、先端技術では先進国に追いつけない。そうなると、新興国としての成長が行き詰ってしまうという見方である。

・実際、中国の製造業の賃金は、タイの2倍、ベトナムの3倍である。どの国にもデジタル化の波は押し寄せている。EC(Eコマース)、モバイル決済(QRコード)など、日本をしのぐようなリープフロッグ(カエル跳び)がおきている。しがらみがないと新技術を取り入れて発展しやすいからである。

・2つ目は、移動におけるMasS(マース、Mobility as a Service:移動手段のサービス化)である。自動車は、かつて馬車にとってかわったような変革期にある。ガソリンから電気へ、ドライバーから自動運転へ、所有からシェアリングへかわろうとしている。

・ドローンも利用され始めており、いずれ車が空を飛ぶようになろう。ここでも、リープフロッグ(カエル跳び)が起こりうる。従来型の産業が、伝統のしがらみゆえに先端の変化についていけないかもしれない。人の流れ(人流)も物流も新しい波に入ろうとしている。

・3つ目は、気候変動のリスクである。自然災害と思われるものが、必ずしもそうとはいえなくなっている。地震が原発事故につながった例、山火事の原因が送電線の老朽化にあった例、台風や集中豪雨でサプライチェーンが分断された例などを通して、気候変動が財務に与えるリスクを開示するようにという動きが強まっている。

・TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、気候変動の物理的リスクと、低炭素社会の実現に向けての法規制が変わるリスクに着目し、開示の強化を促している。気候変動に対する企業としてのガバナンス、それへの戦略的対応、リスクの計測とマネジメントが問われている。

・リクルートは、社員4.0万人のうち、海外が1.5万人近い。国内の人材事業(人材派遣)、販促メディア事業(ゼクシイ、SUUMOなど)に加えて、2010年代より、海外事業(Indeedなど)を拡大している。共通するビジネスモデルは、個人と企業をインターネットと情報誌で結びつけて、企業から広告料、成約課金、成果課金によって収入を得る。

・とりわけ、2012年に買収した米国のIndeedがグローバル事業を牽引している。インディードはオンラインの求人情報専門サイトで、企業の求人情報へのクリックに応じて課金する仕組みである。現在、世界で月間2.5億人が使っており、各国においてトップクラスの地位を獲得している。このHRテクノロジー事業が成長をリードしよう。

・今後のビジネスモデルと戦略が明確であり、成長余地もグローバルに極めて大きい。日本発のネットサービス企業で、グローバルに勝負できる企業は珍しい。リクルートが育ててきた企業文化は、1) 新ビジネスを起こす起業家精神を育む土壌、2)圧倒的な当事者意識をもたせる仕組み(年功なしの実力主義)、3)個の可能性に期待し合う場の提供(スター作りとナレッジシェアリング)にある。

・これをグローバルにも広げようとしている。日本式を海外にもっていくのではなく、買収した企業においても各々の独自性の中に、共通の企業文化を育てようとしている。人材開発という領域で、ESGを企業文化にまでもっていこうとしている。ESGの究極の姿は企業文化に定着しているかどうかが問われる。この点に着目したい。

・INPEX(国際石油開発帝石)は、石油天然ガスの開発会社で、日本で消費するエネルギー量の8% を供給する。この比率をもっと上げたいと、世界で開発、掘削にあたっている。世界20カ国で70のプロジェクトを推進しており、日量45万バレルを生産している。これを100万バレルに上げ、世界10位になるという目標を掲げている。

・また、アジア・オセアニアにおいて天然ガス開発の主要プレイヤーとして、グローバルなガスバリューチェーンを構築していく。同時に、太陽光や地熱などの再生エネルギーも伸ばして、全体の1割を占めるように持っていく方針である。

・オーストラリアのイクシスLNGプロジェクトの他、UAE、カザフスタン、アゼルバイジャンでもプロジェクトを進めている。このほかにも、米国シェールガス、ノルウェー、メキシコなどでも事業化に力を入れている。これからは天然ガスが伸びていくので、石油とガスの比率は、現在の7:3 が将来は5:5に向かっていこう。

・原油価格60ドルを前提に業績は大幅に伸びていく。ESGでは、環境の面で低炭素化への対応が懸念される。当社の場合CO2に大きく影響する石炭には力をいれていない。天然ガスを中心に、再生エネルギーにも力を入れるという動きなので、エネルギー開発会社としての存在に問題はない。日本のエネルギー自給に貢献するという意義は大きい。このエネルギー開発力に着目したい。

・ANAは、空運会社として、国際線を伸ばす余地が大きく高まっている。羽田空港の拡張で便数を大きく増加できるからである。

・エアライン業界では、パイロットの飲酒が問題となっている。アルコールの飲酒についてはルールが定まっているが、それに違反した。検査を徹底しているので、そこで引っかかる事例が外国人パイロットで散見されている。事前に発見しているので、酒気帯びのまま従事したわけではない。未然防止はできているが、検査で摘出されないような管理が求められている。

・ANAはもともと国内線中心であったが、成田空港が稼働してから国際線にも参入した。しかし、国際線は18年間赤字であった。それが黒字化したのが2004年、その後も国際線は伸びて、今では事業の柱となった。羽田からの国際線開始も貢献している。

・ANAはフルサービスキャリア(FSC)、ピーチ(peach)はローコストキャリア(LCC)と位置付けて、そのバランスの中で、ビジネス需要/レジャー需要、国際線需要/国内線需要を取り込んでいこうとしている。

・新しい路線もウィーン、チェンマイ、パースへ広がっていく。ハワイへは超大型機(A380)を導入する。ピーチはアジアのリーディングLCCに育てていく。そのための大型投資を継続する。従来の年2600億円の投資を年3600億円へ拡大している。また、ICTの活用でサービスのDX(デジタルトランスフォーメーション)にも力を入れている。

・機材(飛行機)の安全性については、十分注意を払っている。ボーイングのB737 MAX8(小型機)、三菱重工のMRJ(リージョナル機)も適切に導入していく。

・事業が拡大する中で、事業ポートフォリオのバランスもとれてこよう。CO2の削減にも力を入れている。エアラインを軸にグローバルなMaaSをどう実現していくか。羽田の能力拡張を上手く事業に活かすビジネス展開に着目したい。一方で、投資家から株主優待の使い勝手について改善要求が出ていたが、これはなかなか難しい。

・リクルート、INPEX、ANAの3社を、企業価値評価の4つの軸(経営力、成長力、ESG、業績のリスクマネジメント)で評価すると、筆者の評点は各々順に10点、9点、8点(12点満点)であった。国際競争力と利益の拡大余地で差がついたが、3社とも投資したい企業として、大いに期待できよう。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。