アナリストの力量を活かす

2019/02/25 <>

・アナリストにとっては、エンゲージメントと共に、アクティビストの素養が必須となろう。企業の経営戦略、財務戦略、資本政策などについて、自分なりの一定の仮説を持って議論することになる。ただし、一方的な決め付けではない。

・経営は生身の人間集団の中で展開される。論理的にはベストの解が、その企業にとって本当にベストかどうか分からない。段階を経る必要があるかもしれないし、今の経営陣には馴染まないかもしれない。しかし、そこを本気で議論しておく必要がある。

・そうすると、機関投資家が同じようなエンゲージメントやアクティビストとしての提案を出してきた時には、互いに問題点が分かっている。場合によっては、ソリューションについても具体策がありうる。ここまでいけばアナリストの力量は一流であり、本物であろう。

・大事なことは、アナリストもファンドマネジャーも自らがプロとしての力量を持つと同時に、チームとして若い人材を育て、チームの組織能力を高めていくマネジメント力を高めることである。このマネジメント力が備わってくると、実は企業の経営者とのエンゲージメントにも厚みが出てくる。

・アナリストの分析力といのは基礎能力の1つであるから、これを身に付けた人にはさまざまの活躍の場がありうる。オーソドックスにはファンドマネジャーになる道がある。しかし、ここでは才能が問われるので、誰もがなれるわけではない。

・アナリストのもう1つの応用先は、インベストメントバンカーになることである。企業の資本政策、財務戦略、経営戦略に関わっていく。M&Aのディールで専門性を発揮することもできよう。ここでも分析力は基礎であって、最も問われるのは営業力と交渉力である。そこに的確なアイディアを提供できればプロとして躍進できる。

・企業のIR部門に入って、IRの担当者となること、あるいは企業のIRをサポートするIRコンサルティング会社で専門性を発揮するという道も有力である。

・アナリストとして外から企業の公開情報を分析してきた経験を活かし、企業の中に入って、投資家やアナリストが求める情報の意味付けを吟味しながら、社内のディスクロジャーを担っていく。そして、エンゲージメントの窓口に立って、外部の意見をマネジメントにフィードバックしていく。

・その場合、意外に難しい壁がある。分かり易くいえば、アナリストの時は、社長やCFOと丁々発止会話ができたが、特定の会社に入って社員となると、そうはいかない。従来のような会話ができなくなることが普通である。立場を弁えながら、ここを乗り越えていく必要がある。

・IRコンサルも、アナリストの時のように自由に意見を言っていればよいというわけにはいかない。その会社のIRに役立つように、社内が動くように提案して実行してもらう必要がある。そのサポートを実務的にも行うことが求められる。

・それはビジネスであるから、あるべき姿とは別に作業を任されることも多い。これらをしっかりこなしながら、IRに改革をもたらすような提案実行力が問われる。そこまでの実力を養わないと、IRコンサルは継続しない。

セルサイドアナリストとバイサイドアナリストは何が違うのか。企業を分析して、その投資価値を判断するという点では同じである。しかし、顧客層が異なる。証券会社に属して幅広い機関投資家を相手にする場合と、特定の運用機関の中で、そこのファンドマネジャーと連携する場合ではニーズが違ってくる。

・この点について、実感としてセルサイドはマネジメントを語り、バイサイドはインベストメントを語るといえよう。セルサイドは、会社のIR担当者とは全く別に、その企業を分析し、投資家に売り歩く。企業の将来性に注目するので、マネジメントの分析が根幹を握るといえる。

・バイサイドは身近なファンドマネジャーを、チームの一員としてサポートする。運用商品によってファンドマネジャーが数多くいる場合もあれば、アナリスト自信が運用の一部を直接担っている場合もある。その意味でバイサイドはファンドマネジャーの一員であるとみてよい。

・セルサイドアナリストは、顧客に何を提供するのか。生の早耳情報を自らの得意客に届けて注文をもらうのも1つの方策であった。バイサイドに対して、彼らの分析を手伝うようなミーティングをセットし、メモやデータの作成、簡単なコメントレポートなどでサポートするのも1つの方策であった。

・しかし、ここからが難しいことであるが、便利屋的なサポート業務に慣れてしまうと、深い分析レポートを書き下ろす力量がなかなか身につかない。一方で、深い分析レポートを書くのには時間を要するので、アウトプットが出にくい。

・ここをどのようにマネージするかが、組織能力を高めることができるかどうかの重要な分かれ目である。やりようはあるが、それには一定の覚悟が必要である。担当企業を分析する時には、厳しい目で組織能力を評価していくが、自分が属する組織になったとたんに、それは難しいというのでは、アナリストの沽券に関わるともいえよう。

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