日銀「補完措置」は次の緩和への布石なのか?
今週の国内株市場ですが、12月24日(木)の日経平均は節目の19,000円台を回復してスタートし、落ち着きを取り戻しつつある印象です。本来であれば、米FOMCや日銀会合といったイベントを経て年末相場ムードに突入する中、「掉尾の一振」による株高を期待する動きというのが通常の想定シナリオだったのですが、今年に関してはやや荒れ気味の展開となっています。
その主な要因になったのが、原油・資源安傾向と先週末の日銀会合から飛び出した「補完措置」です。先週の米FOMCでは市場が見込んでいた通りに利上げが決まりましたが、足元では原油・資源価格の下落が進行しています。新興国にとっては米利上げによる資金流出懸念に加え、原油・資源安の影響のダブルパンチの格好になるほか、米エネルギー関連企業によるハイイールド債市場の環境悪化なども警戒され始めています。そのため、今後の米利上げペースと原油・資源価格の動向によってはリスクオフが強まる可能性があり、結果的にアフターFOMCも警戒感が残り、イベント通過によるアク抜けにつながらなかった面があります。
さらに、18日(金)の日銀会合で決定された「補完措置」も国内株市場の値動きを荒くさせました。その気になる「補完措置」内容ですが、(1)新たなETF買い入れ枠を設定(年間約3,000億円で当面はJPX400連動のETF買いを想定)、(2)REIT購入の上限を発行投資口の5%から10%に引き上げ、(3)国債買入れの平均残存期間を7~10年から7~12年に長期化させるというのが主になります。
補完措置の発表を受けた日経平均は大きく上昇した後に大きく下落しました。日銀会合の結果は昼過ぎの後場の取引が始まる前後には発表されることが多いのですが、この日は後場の取引が始まっても結果公表がなかったことで、「もしかしたら何らかの決定があるのかも」という思惑が高まりつつありました。そんな中、12時50分に補完措置の第一報を受けて、一気に日経平均が19,869円まで駆け上がりました。ただし、その後は補完措置の詳細を見ると、市場が一部で期待していた資産買い入れの増額など、追加の金融緩和ではなかったことで、今度は一転して売りに押される展開となりました。株式市場の初期反応は期待から失望に変わったと言えます。
元々、今回の日銀会合に関しては、特に大きな動きはないだろうという見方が大勢でした。その意味では補完措置の発表はサプライズを狙ったものといえますが、今月4日のECB理事会で追加緩和が決定されたものの、資産買い入れの増額がなかったことで、欧州株市場が大きく下落した経験を踏まえると、「余計なことをした」、「日銀の限界が露呈した」という意見も散見され、当初の評判は必ずしも良くありません。
あらためて、補完措置の中身を見てみると、(1)については2016年4月から開始されます。実は、日銀は株式市場を支えるため、2002 年11 月から金融機関が保有する株式の買入れを実施していました。その時に取得した株式は2007 年10 月より売却を開始したものの、現在は停止しています。それが、2016 年4月から再開され、売却の規模は年間約3,000 億円となる見込みです。つまり、(1)は金額の規模的に売却再開による市場へのネガティブインパクトを相殺する意味があります。
また、(2)についても、これまでの購入上限である発行投資口の5%というのがネックになり、「これ以上REITの買い支えが難しいのでは?」という懸念を払拭する目的で10%に引き上げたとみられるほか、(3)についても、保有資産のバランス上、金融機関や公的年金がこれ以上の国債保有の比率を下げるのが難しくなりつつあることや、政府の2016年度予算案でも国債の新規発行額が7年ぶりの低水準になる見込みであり、日銀が国債の買い入れ姿勢を見せてもそれに応じる国債が出てこない、いわゆる「札割れ」が発生する懸念がある中で、より期間の長い国債を買い入れ対象にすることで回避する意図があると思われます。
こうして見ると、今回の補完措置は「次」の追加緩和に向けた布石と見ることもできます。とはいえ、株式市場の初期反応からすると、日銀の意図がスムーズに伝わっていないことや、制約を取り除く補完措置を打たないと、さらなる追加緩和が難しいという日銀の苦しい立場が明確になったと考えることもできます。これまでの黒田日銀総裁は、対話重視のイエレン米FRB議長とは異なり、サプライズ型で金融政策を主導してきた面がありますが、今後は対話重視の姿勢に変わるかもしれません。
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