「売りたい強気」と「買いたい弱気」
先週末に仏パリ市内の各地で同時多発的に発生した、銃撃や爆弾などによる襲撃テロ事件を受けて始まった今週の国内株式市場ですが、週初の月曜日こそ下落したものの、以降は上昇に転じ、日経平均は19日の取引開始時点で19,800円台に乗せています。今のところは事件をきっかけにリスクオフムードが強まって相場が売り込まれるような状況にはなっていません。
正直、こうしたマーケットの反応は「意外」と感じられる方も多いかと思います。相場格言には「売りたい強気」といって、今後下落すると思っていても、まだ上がるかもしれないという矛盾した思いを持ってしまうというものがあります。足元の日経平均が「2万円までの上昇は有り得る」ところまで戻しているだけに、達成後の反落が意識されながらも、上値を試してしまうムードになっているのかもしれません。
事件の当事国である欧州株市場でも堅調な推移が続いています。過去を遡って見ますと、2004年にスペインのマドリードで列車爆破テロ事件や、翌2005年にもロンドンで同時爆破テロ事件が発生しましたが、当時の株式市場や経済への影響が一時的だったこともあり、今回のテロ事件についても影響は限定的にとどまると見る向きが多いのかもしれません。
とはいえ、時期がクリスマスシーズン入り直前でもあり、観光や小売に悪影響が出る可能性があるほか、18日の取引時間中に、爆破予告を受けてエールフランス2機が緊急着陸したと報じられると、日経平均の上げ幅が一気に縮小したことからも、現段階ではテロ事件の影響を軽く見ている、もしくはすでに織り込み済みというわけではなさそうです。
また、今回の事件を受けてフランス当局はシリアでの空爆を強化しましたが、欧州に押し寄せる難民がさらに増加することや、テロ事件の拡大なども警戒されるため、必ずしも、事態が改善に向かっているとは言えず、長期化してしまうことも考えられます。
その一方で、欧州では金融緩和に対する期待も相場を支えているようです。欧州では12月3日に金融政策を決定するECB理事会が予定されています。もともとは、前回(10月)理事会後の記者会見で、ドラギ総裁が追加金融緩和を示唆したことがきっかけです。
来年9月までという現行の量的緩和の期間延長や、マイナス金利の拡大など、具体的な緩和手段に言及したことが期待を一層高めたわけですが、その後、「追加緩和の決定にはまだ議論の余地がある」と発言するなど、実は意外と追加緩和の実施は不透明な面があります。それが、テロ事件という不安要素が加わったことで、緩和実施ムードが強まったと考えることもできます。
米国でも、今週発表されたFOMC議事録(10月開催分)の内容を受けて、12月の利上げ実施が規定路線になりつつあります。米国の利上げに対する現在のマーケットの視点は、「利上げ実施の影響を懸念する売り」から「利上げが実施できる堅調な米国経済を好感した買い」へと変化していますが、再び懸念する売りへと傾くかもしれません。
なお、先ほどの「売りたい強気」ですが、本来は「売りたい強気、買いたい弱気」というのが正しい表現です。今週の相場材料となっている地政学的、金融政策動向も含め、足元の相場のムードは移ろいやすいということは意識しておいた方が良さそうです。
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