ブッキングリゾート(324A)小規模宿泊施設に徹底的に寄り添うビジネスモデル
予約プラットフォームに加え、魅力ある宿泊施設づくりを含めた集客支援を提供
小規模宿泊施設に徹底的に寄り添うビジネスモデル
業種:サービス業
アナリスト:髙木伸行
◆ 小規模宿泊施設向けに施設コンセプトの策定から集客までを支援
ブッキングリゾート(以下、同社)は、宿泊施設の予約プラットフォームの運営や予約プラットフォームに掲載している施設に対して運営・開発上のコンサルティングサービスを成功報酬型の料金体系で提供している。小規模宿泊施設に対して、その魅力を引き出し、グランピング施設やリゾート施設、ペット同伴施設といった滞在自体が旅行の目的となるような施設づくりを支援し、適切にPRすることで、売上を最大化することに貢献している。また、ノウハウ獲得を目的に自社で宿泊施設も運営している。
提供するサービスによって、予約プラットフォームの運営や掲載施設へのコンサルティングを行う「集客支援事業」と、施設運営上のノウハウ獲得を目的として直営宿泊施設を運営する「直営宿泊事業」に売上高は区分されている(図表1)。集客支援事業の開始は19年6月、直営宿泊事業の開始は23年2月からである。
(1)集客支援事業
集客支援事業における契約形態には「集客支援」と「完全集客支援」の2種類がある。24年11月末の予約プラットフォームの掲載施設数は345施設、掲載客室数は2,284室であったが、「完全集客支援」による掲載施設数は、60.9%に相当する210施設、掲載客室数は52.0%に相当する1,188室であった。
「集客支援」の掲載施設は、販路のひとつとして同社の予約プラットフォームを利用しており、他の予約プラットフォームや施設独自の予約サイトからも予約を受け付けている。
一方、「完全集客支援」の施設に対しては、販路を同社の予約プラットフォームに集中してもらう代わりに、施設のプランニング、施設の公式サイトの制作・運営等の運営支援、コンセプト設計等を一貫して提供しており、施設自体の魅力造成や日常的に生じる課題の解決を無償で支援している。
同社は予約プラットフォームを経由した宿泊売上の一定率を報酬として受け取っているが、料率は10%と12%の2段階で、同社に予約を一任している「完全集客支援」の対象施設は10%と低く、他の予約プラットフォームも利用している「集客支援」の対象施設は12%となっている。
「完全集客支援」の料率が低いのは、施設の売上全体が同社の手数料の対象となることから手数料収入が大きくなり、コンサルティングの成果もあげやすくなることから、「完全集客支援」での契約を選択してもらえるように戦略的に低い料率としている。ちなみに集客支援事業の売上高の約9割が「完全集客支援」によるものである。
1)「完全集客支援」における支援サービス
上述したように、同社は「完全集客支援」の対象施設に対して、以下の3つの支援サービスを成功報酬型の料金体系で提供している。
① 旅行者に対し予約プラットフォーム及び施設個別の予約サイトに誘導するマーケティングや施設個別の予約サイトを制作・運営することで、予約プラットフォームと施設個別の予約サイトとの連携を図りSEO対策やサイトの修正や変更を即時に行う「集客支援」
② 施設運営ノウハウや同社の直営宿泊施設の運営により蓄積された成功事例・失敗事例の提供、仕入先や取引業者の選定に関する助言、予算の進捗管理といった「運営支援」
③ 事業計画の策定やコンセプト設計、設備計画、運営方法の立案、旅行者の目に留まりやすいソフトコンテンツ開発等を提供する「開発支援」
2)予約プラットフォーム
同社の予約プラットフォームは、特定の宿泊ニーズに特化したものである。アウトドアでありながら、設備の整った環境で快適に過ごせるグランピング施設や1棟貸しのリゾートヴィラ等宿泊することが旅行の目的となるような施設を掲載する「リゾートグランピングドットコム」並びにペット同伴旅行に対応した施設を掲載する「いぬやど」を運営している。
「いぬやど」については、リピート獲得を目的に情報等を発信するため、会員制度をとっており、24年11月末の会員数は5.2万人を超えている。
3)小規模宿泊施設に伴走する事業モデル
同社の予約プラットフォームを利用している宿泊施設は、平均で6~7室程度の比較的小規模な施設が中心となる(図表2)。これらの施設は様々な形態の宿泊施設を総合的に掲載する大手予約サイトの中では埋没しやすく、キャンペーン等による値引きや広告宣伝費といった費用負担に耐えられない先が多い。
同社の「完全集客支援」契約においては、施設個別の予約サイト制作費用、アクセス数増加のためのPR費用、施設運営・開発についてのコンサルティング費用等を個別に徴収することはせず、同社予約プラットフォームを通じて獲得した宿泊予約売上の10%に相当する集客手数料のみを受け取っている。掲載施設側の初期コストを低減し、売上が十分ではない開業前の宿泊施設や経営難に陥った宿泊施設であっても利用しやすいものとなっている。
4)重視する経営指標
事業上の経営指標として、同社はサイトユーザー数、掲載客室数、予約獲得件数、平均客室単価を重視している。平均客室単価を除く各指標は季節要因等の影響を受けながらも、総じて右肩上がりの傾向にある(図表3)。
各指標は、同社がリゾート施設に特化していることから、季節による変動は避けられない。特にサイトユーザー数や予約獲得件数は需要期である夏場に急増する一方、秋から冬にかけては低下する。ただ、平均客室単価については宿泊が目的となる施設が主であることを反映して7万円台~8万円台という、オフシーズンでも高い水準で推移している。
(2)直営宿泊事業
同社は施設運営上の成功事例・失敗事例を蓄積し、集客上有用なノウハウを獲得することを目的に複数の宿泊施設を自社で運営している。あくまでもノウハウの獲得が目的のため、多店舗展開といった、同事業を大きく拡大してゆくような考えはない。
自社の宿泊施設として、23年2月に「ドッグヴィラ千葉南房総」を開業した。その後24年4月に直営施設「RIVERSIDE CAMP FIELD CHICHIBU」、同年7月に同施設に併設する「秩父別邸 木叢-komura-」を開業し複合施設「秩父リゾート」として運営している。
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