ノイルイミューン・バイオテック(4893) 自社創薬と共同パイプラインの開発進捗による収益拡大を目指す

2023/07/03

独自技術により固形がんに対する新たな免疫細胞療法の開発を進める
自社創薬と共同パイプラインの開発進捗による収益拡大を目指す

業種:医薬品
アナリスト:鎌田良彦

◆ 独自技術を活用し固形がんに対する新たな免疫細胞療法を開発
ノイルイミューン・バイオテック(以下、同社)は、国立がん研究センター及び山口大学発のバイオベンチャー企業で、同社の玉田耕治社長らが開発したPRIME技術を活用し、免疫細胞であるT細胞の機能を強化することで胃がんや肺がん等の固形がんの治療を行う、がん免疫療法のPRIMECAR注1-T細胞療法の開発を主な事業としている。

◆ 免疫チェックポイント阻害薬登場でがん免疫療法は治療法として確立
体内の免疫を利用してがんを治療するがん免疫療法は、小野薬品工業(4528東証プライム)のオプジーボ等に代表される免疫チェックポイント阻害薬の開発と上市により、従来の外科療法、化学療法(抗がん剤)、放射線療法に次ぐ第4のがん治療法として確立されてきた。

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫細胞のブレーキを解除して免疫細胞のT細胞の能力を高めることでがん細胞を攻撃するというものである。但し、免疫チェックポイント阻害薬は全てのがんに対して治療効果を発揮するわけではなく、治療効果がある場合でも単剤での有効性は10~30%程度とされている。

◆ 血液がんでの有効性が認められたCAR-T細胞療法
免疫チェックポイント阻害薬とは異なるアプローチのがん免疫療法として、遺伝子改変技術を用いてT細胞の能力を増強してがん細胞を攻撃するのが、遺伝子改変T細胞療法である。その中の一つとして、CAR-T細胞療法がある。CAR-T細胞療法では患者の体内から取り出したT細胞に、がん細胞表面に現れるがん抗原を認識するCAR遺伝子を導入してCAR-T細胞を作製し、体外で大量に培養してから患者に投与する。CAR-T細胞はがん細胞を見つけると活性化してがん細胞を攻撃する一方で、正常細胞は攻撃しないという特徴を持つ。

CAR-T細胞療法は、がん患者の約1割を占める白血病やリンパ腫等の血液がんに対して高い有効性が実証されており、日本を含めた複数の国で医薬品として承認されている。

◆ 次世代のCAR-T細胞療法であるPRIMECAR-T細胞療法
しかし、従来のCAR-T細胞療法は、がん患者の約9割を占める固形がんに対しては未だ有効性を示せておらず、承認された薬剤や療法はない。固形がんを対象とする次世代型CAR-T細胞療法の技術開発や臨床研究が各国で進められており、同社のPRIME CAR-T細胞療法もその一つになる。

従来のCAR-T細胞療法が血液がん以外の固形がんに対して効果を発揮しにくい要因としては、以下の2点が挙げられる。1点目は、血液がんではがん細胞が血管内やリンパ管内で増えるため、血管を流れるCAR-T細胞が一対一でがん細胞を攻撃できるのに対し、固形がんは塊として臓器の中で増殖するため、がん組織の内部にCAR-T細胞が到達するのが難しいことである。2点目は、血液がんではがん抗原を均一に持っているが、固形がんでは多数の抗原が不均一に表れており、全てのがん抗原を攻撃するのが難しいことである。

同社では次世代型CAR-T細胞を作るためにPRIME技術を利用している。PRIME技術は、CAR-T細胞等の免疫細胞に免疫細胞の活性化や増殖を誘導するサイトカインや免疫細胞の集積やがん細胞への浸潤を促進するケモカインを産生するように、更なる遺伝子改変を加える技術である。同社ではPRIME技術を利用したCAR-T細胞療法をPRIME CAR-T細胞療法としている。PRIME技術の根幹は、CAR-T細胞の攻撃能力を高めることに加え、患者自身の免疫細胞を活性化し、固形がんに対する多様な攻撃により、長期の治療効果を誘導することにある。

同社ではサイトカインとしてインターロイキン7(interleukin-7、以下、IL-7)、ケモカインとしてchemokine(C-C motif)ligand19(以下、CCL19)を同時に産生するPRIME CAR-T細胞を開発している。CCL19は、T細胞や免疫細胞に抗原を提示する樹状細胞のがん局所への集積やがん細胞への浸潤を促進する機能があり、IL-7は集積したCAR-T細胞や体内のT細胞の活性化や増殖を誘導すると同時に、その寿命を長くする働きがある。

ヒトのリンパ組織には多くのT細胞が集積したT細胞領域があり、この形成にはIL-7とCCL19が重要な役割を果たしている。同社のPRIME技術は、生体が持つIL-7とCCL19の生理学的機能の組み合わせを遺伝子改変技術によりCAR-T細胞に搭載し、がん治療に応用する技術と言える。

◆ 事業モデル
同社はPRIME CAR-T細胞療法を中心とする、がんの治療法創出と研究・開発を行うがん免疫療法創薬事業の単一セグメントであるが、自社創薬と共同パイプラインの2つの事業モデルを有する。自社創薬ではPRIME CART細胞療法の薬剤開発を行い、どこかの段階で製薬会社に導出するか、自社での製造・販売を目指す。導出した際には一時金収入を得、その後の開発の進展に伴うマイルストン収入、上市後のロイヤリティ収入を得る。

共同パイプラインでは他社が開発しているCAR-T細胞療法やTCR-T細胞療法注2の薬剤パイプラインにPRIME技術を供与することで、パイプラインの開発を行っている。共同パイプラインでは、技術供与時に契約一時金を得、その後、パイプラインの進展に応じてマイルストン収入や上市後のロイヤリティ収入を得る。自社創薬に比べ各段階の収入規模は小さくなるが、技術利用料として早期に投資資金の回収ができるというメリットがある。

◆ 開発パイプライン
同社では現在、以下の自社創薬と共同パイプラインを有している(図表1)。開発中のPRIME CAR-T製剤は、薬機法上の再生医療等製品に該当し、早期承認制度の対象となる可能性がある。同制度は、限られた数の症例から有効性が推定でき、安全性が確認された場合には早期承認され、7年を超えない範囲内に有効性、安全性を確認して正式承認を受けるものである。

1) 自社創薬
① NIB101
がん抗原としてGM2を発現する小細胞肺がん、中皮腫等の固形がんを対象とした薬剤である。22年1月からがん標準療法に不応、不適な患者を対象に国立がん研究センターで第Ⅰ相臨床試験を行っている。第Ⅰ相臨床試験は、フォローアップ期間を含めて28年2月までを予定している。現時点では、臨床試験での有効性確認による早期承認制度の適用を契機として導出することを想定している。

② NIB102
がん抗原としてGPC3を発現する肝細胞がんや胃がん等の固形がんを対象とする薬剤である。18年12月に武田薬品工業(4502東証プライム)に導出され、20年7月からがん標準療法に不応、不適な患者を対象に国立がん研究センターで第Ⅰ相臨床試験を行っている。第Ⅰ相臨床試験は、フォローアップ期間を含めて26年12月までの予定である。22年11月に開催された第37回米国がん免疫療法学会で、NIB102の第Ⅰ相臨床試験の中間結果のポスター発表が行われ、当初の4例に関して安全性や薬効が確認され、用量漸増試験が進行中であることが発表された。

③ NIB103
がん抗原としてMesothelin(MSLN)を発現するトリプルネガティブ乳がんや卵巣がん等の固形がんを対象とする薬剤である。18年12月に武田薬品工業に導出され、21年12月から、がん標準療法に不応、不適な患者を対象に国立がん研究センターで第Ⅰ相臨床試験を行っている。第Ⅰ相臨床試験は26年10月までの予定である、

④ NIB104
固形がんの標的抗原に対するPRIME技術を活用した自家CAR-T細胞療法パイプラインで、現在、第Ⅰ相臨床試験開始に向けて基礎研究を実施中である。非臨床試験段階まで同社で開発を進め、その後製薬会社に導出する方針である。

⑤ NIB105
固形がんの標的抗原に対するPRIME技術を活用した自家CAR-T細胞療法パイプラインで、現在、第Ⅰ相臨床試験開始に向けて基礎研究を実施中である。非臨床試験から臨床試験段階まで同社で開発を進め、その後製薬会社に導出する方針である。

2) 共同パイプライン
① ADAP01
Adaptimmune Therapeutics plcが設定したがん標的抗原に対する、PRIME技術を活用した自家TCR-T細胞療法の共同研究パイプラインである。開発状況は非開示となっている。Adaptimmune Therapeutics plcが全世界での独占的ライセンスを有し、同社はAdaptimmune Therapeutics plcから技術供与時のアップフロント、開発状況に応じたマイルストン収入、上市後のロイヤリティ収入を得る。

② AUTL01
Autolus Therapeutics plcが設定したがん標的抗原に対する、PRIME技術を活用した自家CAR-T細胞療法の共同研究パイプラインである。開発状況は非開示となっている。Autolus Therapeutics plcが全世界での独占的ライセンスを有し、同社はAutolus Therapeutics plcから技術供与時のアップフロント、開発状況に応じたマイルストン収入、上市後のロイヤリティ収入を得る。

この他、中外製薬(4519東証プライム)とは22年8月にPRIME技術に関するライセンス契約を締結して契約一時金を受領し、第一三共(4568東証プライム)とは技術評価契約を結び、PRIME技術の評価研究が行われている。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
ホリスティック企業レポート   一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。

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