日本ビジネスシステムズ<5036> マイクロソフトのクラウドサービスに係る技術力と実績に特徴がある

2022/08/26

マイクロソフトのクラウド製品等のITサービスを提供するクラウドインテグレーター
マイクロソフトのクラウドサービスに係る技術力と実績に特徴がある

業種: 情報・通信業
アナリスト: 大間知 淳

◆ マイクロソフト製品等を提供するクラウドインテグレーター
日本ビジネスシステムズ(以下、同社)は、Microsoft(以下、マイクロソフト)のクラウド製品等のITサービスを提供するクラウドインテグレーターである。1)マイクロソフトのクラウド製品と周辺クラウドサービスの導入等を支援するクラウドインテグレーション事業、2)クラウド利活用における保守・運用・改善を行うクラウドサービス事業、3)クラウドライセンスやハードウエア、ソフトウエアを仕入販売するライセンス&プロダクツ事業の3事業を展開している。

21/9期の売上高構成比は、クラウドインテグレーション事業22.6%、クラウドサービス事業14.3%、ライセンス&プロダクツ事業63.0%であった。セグメント利益率(セグメントに帰属しない一般管理費である調整額を各事業に配賦しないベース)では、クラウドインテグレーション事業とクラウドサービス事業は10%を上回る一方、ライセンス&プロダクツ事業は2.0%と、低水準となっている(図表1)。

◆ クラウドインテグレーション事業
クラウドインテグレーション事業では、主に、マイクロソフトのクラウド製品であるMicrosoft Azure注1(以下、Azure)、Microsoft365注2(以下、M365)、Dynamics365注3(以下、D365)及び周辺クラウドサービスの導入を支援している。

具体的には、①DX計画策定やコンサルティングサービス、②クラウド基盤設計・構築及び設計支援、③アプリケーション開発、④クラウド利活用の内製化支援等を行っている。

マイクロソフトは、リモートワーク等を安全かつ効率的に実施できるクラウドサービスとして、OutlookやTeamsを始めとした様々な機能が利用できるM365に係るコンサルティングや導入等を「モダンワークプレイス」ソリューションと位置付けて、積極的に取り組んでいる。同社においても、エンタープライズ企業(売上高5,000億円以上または従業員5,000人以上の企業)に対するモダンワークプレイスソリューションの提供がクラウドインテグレーション事業の主力サービスとなっている模様である。

同社がM365の導入を支援した企業に所属する従業員のID数は、クラウドサービス市場の拡大を受け、17/9期より急増している。国内エンタープライズ企業の従業員数約1,400万人のうち、同社がM365のライセンスを提供しているID数のシェアは約10%であり、国内トップクラスとなっている模様である。同社は、M365の導入先を中心とした顧客に対して、ITインフラ基盤となるAzureやアプリケーションサービスであるD365等を販売することでクラウドサービスの適用領域を拡大し、顧客単価の上昇を図る方針である。

21/9期において、クラウドインテグレーション事業の業績は、売上高16,961百万円、セグメント利益2,087百万円であり、稼ぎ頭となっている。また、セグメント利益に減価償却費を加算したEBITDAは2,279百万円、EBITDAマージンは13.4%となっている(図表2)。

◆ クラウドサービス事業
クラウドサービス事業では、クラウド利活用における保守・運用・改善を請負い、一貫したサポートを提供している。現在は、マイクロソフトのクラウド製品の保守・運用を中心としたサービス提供であるが、今後は、22年6月から提供を開始した自社クラウドマネージドサービスであるJBS Cloud Suiteの拡販を目指している。

JBS Cloud Suiteは、クラウドを用いたDXデザインから導入・保守運用、利活用までの一貫した支援と、多数のクラウドサービスに関して購入から一元管理、コスト最適化までを実現する管理ツールで構成されている。

21/9期において、クラウドサービス事業の売上高は、3事業の中では最小の10,745百万円であった一方、セグメント利益率は13.8%と高く、重要な収益源として位置付けられる。また、EBITDAは1,650百万円、EBITDAマージンは15.4%となっている(図表3)。

◆ ライセンス&プロダクツ事業
ライセンス&プロダクツ事業では、主に、顧客のクラウド環境を構築するため、M365、D365、Azure等のクラウドライセンスの仕入販売に加え、PCやサーバー等のハードウエア及びソフトウエアの仕入販売等を行っている。また、オンプレミスのインフラ、プライベートクラウド並びにパブリッククラウドで構成されるハイブリッドクラウド環境の構築のための関連ハードウエアとソフトウエアを仕入販売している。

21/9期において、ライセンス&プロダクツ事業の売上高は3事業の中で最大の47,225百万円に達しているものの、利益率が低いため、同事業の利益構成比は売上高構成比に比べて低い水準にとどまっている。また、同事業の減価償却費は僅かであるため、セグメント利益とEBITDAの乖離は小さい(図表4)。

◆ ストック収益割合等を重視した経営を志向している
同社は、オンプレミスからクラウドへのシフトが進むITインフラの市場環境において、マイクロソフトのクラウド製品を事業の中心に据え、顧客のクラウド導入を支援することで事業規模の拡大を目指しており、「社会のデジタル変革をリードするNo.1クラウドインテグレーター」というVisionを掲げている。同方針の下、売上高に対して「マイクロソフト社の製品関連が占める割合」、「ハイブリッドを含めたクラウドサービスが占める割合」、「継続利用を前提とした顧客からの売上が占める割合(以下、ストック収益割合)」をKPIに挙げている。

「マイクロソフト社の製品関連が占める割合」とは、一部または全部において、マイクロソフトの製品・ソリューションが含まれるサービス提供の売上高の割合を示している。また、「ハイブリッドを含めたクラウドサービスが占める割合」とは、提供するサービスの一部、または全部において、クラウドサービスを提供する売上高の割合を示している。多くのエンタープライズ企業におけるクラウド化では、全面的なクラウドへの移行ではなく、オンプレミスとクラウドを組み合わせたハイブリッド型でのサービス提供が期待されており、同社は顧客企業の状況に合わせて最適なソリューションサービスを提供している。

一方、「ストック収益割合」とは、クラウドサービス事業の保守・運用売上や、ライセンス&プロダクツ事業のクラウドライセンスの月額利用料等、継続的な売上となるストック収益の割合を示している。

各指標の20/9期以降の推移は図表5の通りである。

21/9期においては、顧客企業によるリモートワークの採用が相次いだことに伴い、クラウド化の中でもM365の導入が先行して進んだ結果、3つの指標が共に前期比7%ポイント上昇した。

◆ クラウドインテグレーション事業とクラウドサービス事業は労働集約型のビジネスモデル
売上原価の約7割は商品仕入高(ライセンス&プロダクツ事業及びクラウドインテグレーション事業)、残りの約3割は製造原価で構成されている。製造原価は、総製造費用に期首仕掛品棚卸高を加算し、他勘定振替高(販売費及び一般管理費や資産計上される固定資産等)と期末仕掛品棚卸高を控除して算出される。

総製造費用の中心は、クラウドインテグレーション事業とクラウドサービス事業の技術者に支払う労務費(21/9期構成比84.6%)であり、当該2事業は労働集約型のビジネスモデルと言える。15.4%を占める経費は、3事業の費用である地代家賃や消耗品費、減価償却費等によって構成されている。

21/9期の売上総利益率は11.3%であった。事業別の数値は不明であるが、ライセンス&プロダクツ事業については、仕入高が45,065百万円であったことから、10%を大きく下回ると推測される。特に、ハードウエア販売に比べ、クラウドライセンス販売の利益率が低くなっている模様である。

販売費及び一般管理費(以下、販管費)については、給料手当や賞与引当金繰入額等が中心だが、販管費率は8.3%と低水準である。

◆ 特定の顧客への依存度が低い
同社は、クラウドインテグレーターとして独自のポジションを確立しており、元請比率は約9割に達している模様である。顧客業種は、製造、流通、金融・保険、通信・メディアに幅広く分散している。総販売実績に対する割合が10%以上の販売先は存在していない。取引額上位5社の合計でも売上高の2割弱を占めるに過ぎない模様である。

主なエンドユーザーは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306東証プライム)、明治安田生命保険、日本テレビホールディングス(9404東証プライム)傘下の日本テレビ放送網、三菱電機(6503東証プライム)、ホンダ(7267東証プライム)、花王(4452東証プライム)、三菱商事(8058東証プライム)、スターバックス コーヒー ジャパン等の大企業が中心となっている。また、主要元請先としては、官公庁向けに強いNTTコミュニケーションズ等が挙げられる。

なお、主要顧客に三菱系が多いのは、14年に三菱総合研究所(3636東証プライム)と資本業務提携を締結し、三菱系企業への営業展開が進んだためである。上場前に実施した自己株式の処分において、三菱総合研究所への売付け(親引け)が行われており、上場時点で、三菱総合研究所は同社の議決権の20.3%を所有するその他の関係会社となっている。

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一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。