インバウンドテック<7031> 東京電力グループ向けが売上高の約5割を占める

2021/01/06

多言語対応コンタクトセンター運営や営業代行等の BPO サービスを提供
東京電力グループ向けが売上高の約5割を占める

業種: サービス業
アナリスト:大間知 淳

◆ 2 つの BPO サービスを展開
インバウンドテック(以下、同社)は、顧客から多言語対応コンタクトセンター の運営(マルチリンガルCRM事業)と、電話や訪問による営業代行(セール スアウトソーシング事業)を受託する BPO(Business Process Outsourcing)サ ービス会社である。

BPO とは、自社の業務プロセスの一部を、継続的に外部の専門的な企業に 委託することである。総務、人事、経理等の間接部門で行われていた給与 計算、データの入出力、処理、コールセンターや物流センター運営、事務 処理代行等の幅広い業務を対象に、専門業者がサービスを提供している。

コールセンターは、顧客満足度の向上を通じて業績拡大を目指す経営手 法である CRM(Customer Relationship Management)を実現するための重要 な顧客接点とされている。業界では、「コール(電話)」だけではなく、様々な 通信手段を利用することにより、エンドユーザーとの接点を意味する「コンタ クト」の選択肢や機会を増やすことが重要視されており、コンタクトセンターと いう名称が使われることが増えている。

同社は、電話だけではなく、タブレット端末を使った映像通信、ウェブサイト、 電子メール、SNS 等にも対応しており、エンドユーザーとの多様な接点を有 しているため、自社施設をコンタクトセンターと位置付けている。同社は、コ ンタクトセンターを事業基盤として、2 つの事業セグメントのサービスメニュー を組み合わせることにより、事業領域を拡大すると共に、顧客に対しては、コ ストセンターとして位置付けられることが多い CRM 業務をプロフィットセンタ ーに転換するべく、サービスを提供している。

コンタクトセンターの業務は、一般的に、ユーザー等からの問合せや申込み 等に対応するインバウンド業務と、商品・サービスの営業や調査等を行うア ウトバンド業務によって構成されている。同社の事業セグメントは、エンドユ ーザー等からの問合せへの対応(インバウンド業務)を中心とするマルチリ ンガルCRM事業と、電話や訪問による営業代行(アウトバウンド業務)を行 うセールスアウトソーシング事業に分かれている。

  1. マルチリンガルCRM事業
    マルチリンガルCRM事業は、主にクライアント(企業や病院、消防署、 地方自治体等)の顧客(エンドユーザー)向けに展開するサポート業務 を同社が受託し、同社のコンタクトセンターにて、エンドユーザーからの 問合せに対し、クライアントに代わって同社が 24 時間 365 日体制で対 応するサービスを提供している(一部の案件は、提携先のコールセンタ ー企業から受注している)。

    同社は、12 カ国語(日本語、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、ス ペイン語、タイ語、ベトナム語、ロシア語、フランス語、タガログ語、ネパ ール語)に常時対応しているため、事業名をマルチリンガルCRM事業 と名付けている。

    また、同社は、小規模オフィス・店舗向けには、クラウド型ビデオ通話シ ステムを利用した 1 分 150 円(最低利用限度額 3,000 円/月)から利用可 能な通訳サービス「エコノミー通訳®」を提供している。そのほか、コンタ クトセンターを自社運営するクライアントに対しては、コンタクトセンター の設計、運用検討、オペレーターの採用及び研修、マニュアルやトーク スクリプト作成等の構築サービスも提供している。

    マルチリンガルCRM事業においては、20 年 10 月末時点において、20 人の従業員と、コンタクトセンターのオペレーター業務を担当する 92 人 の臨時雇用者(契約社員及びアルバイト)が所属している。

  2. セールスアウトソーシング事業
    セールスアウトソーシング事業は、主に同社がクライアントに代わって見 込客に対して営業を行うサービスを提供している。

    一般的なセールスアウトソーシング事業で多く見られる成果報酬型の 契約形態は、見込客との契約が成立した段階でクライアントへの売上 が発生するため、業務に従事する営業スタッフがどれだけ契約を獲得 できるかという点がポイントとなるビジネスモデルである。一方、同社で は、営業スタッフの契約獲得量のみではなく、稼働人数当たりの固定売 上が併せて支払われる契約を前提とする方針の下で活動している。

    セールスアウトソーシング事業は、同社のコンタクトセンター及び業務委 託先から、クライアントの見込客に商品等の紹介、販売勧誘、アンケー ト調査等の営業活動を電話(アウトバウンド)及び訪問によって行ってい る。また、クライアントの営業担当従業員や臨時雇用者に対する営業研 修や、クライアントの事業所内でのオペレーターの育成・教育、業務設 計、オペレーターを指導・監督するスーパーバイザー業務等も手掛け ている。

    対象としている商材、サービスに関しては、光回線やモバイル回線、通 信機器の販売、電力会社の切替、住宅ローンの借換等が挙げられる。

    セールスアウトソーシング事業の業務の多くは、委託先企業に業務委 託されているため、20 年 10 月末時点において同事業に所属している のは、4 人の従業員と 4 人の臨時雇用者(契約社員及びアルバイト)だ けとなっている。

    セグメント別業績の推移は、図表 1 の通りである。

◆ 労働集約型のビジネスモデルながら資産効率は高い
自社で雇用するオペレーターを中心に活動するマルチリンガルCRM事業 であれ、委託先企業が雇用する営業スタッフを中心に活動するセールスア ウトソーシング事業であれ、同社が展開する両事業のコストの中心は、自社 のオペレーターに支払う労務費と、委託先企業に支払う業務委託費となっ ており、典型的な労働集約型のビジネスと言える。

同社の売上原価は、主として、固定費である労務費(20/3 期売上高比 18.8%)とセールスアウトソーシング事業の委託先企業等に対して支払う業 務委託費(変動費、同 62.5%)によって構成され、20/3 期の原価率は 85.4% に達している。一方、販売費及び一般管理費(以下、販管費)については、役員報酬や給料及び手当等の固定費が中心であり、20/3 期の販管費率は 7.5%、営業利益率は 7.1%となっている。

現在、同社が運営するコンタクトセンターは本社ビル(東京都新宿区)と鹿 児島県南さつま市に設置している賃借施設の二カ所だけであり、20 年 3 月 期末の固定資産は 42 百万円、総資産は 910 百万円に過ぎない。一方、売 上高は創業以降、順調に拡大した結果、20/3 期における総資産回転率(売 上高÷期中平均総資産)は 3.6 回、総資産経常利益率は 25.4%と高水準を 誇っている。

◆ 大口取引先への依存度が高くなっている
販売実績が総売上高の 10%を上回る大口取引先は、19/3 期以降の全ての 期に亘って 2 社以上存在しており、特定の大口顧客との関係が深くなって いる(図表 2)。

同社は、19/3 期から東京電力ホールディングス(9501 東証一部)の連結子 会社であり、電力やガスの小売事業を担当する東京電力エナジーパートナ ーと、非住宅顧客への訪問による新料金メニュー販売活動等に関する業務 委託契約を締結しており、セールスアウトソーシング事業を中心にサービス を提供している。20/3 期から取引を開始したPinTを含めて、東京電力グル ープに対する売上高は、19/3 期 422 百万円(売上高構成比 14.3%)、20/3 期 1,553 百万円(同 52.1%)、21/3 期第 2 四半期累計期間 415 百万円(同 45.5%)であり、同社の業績に大きな影響を与える存在となっている。

◆ リンクアンドモチベーションのグループ企業として誕生した
同社は、リンクアンドモチベーション(2170 東証一部)の連結子会社であり、 現在の同社の筆頭株主でもあるa2mediaの事業部として 09 年に誕生し、15 年 4 月に分社化された。上場に際してa2mediaによる株式売出しはないが、 新株発行により、a2mediaの出資比率は 18.15%に低下したため、リンクアン ドモチベーションとa2mediaは同社の「その他の関係会社」から外れた。

一般社団法人 証券リサーチセンター
ホリスティック企業レポート   一般社団法人 証券リサーチセンター
資本市場のエンジンである新興市場の企業情報の拡充を目的に、アナリスト・カバーが少なく、適正に評価されていない上場企業に対して、中立的な視点での調査・分析を通じ、作成されたレポートです。

このページのトップへ