セルシード(7776) UpCell®フラスコの収益寄与に注目
橋本 せつ子 社長 |
株式会社セルシード(7776) |
企業情報
市場 |
東証グロース市場 |
業種 |
精密機器(製造業) |
代表者 |
橋本 せつ子 |
所在地 |
東京都江東区青海二丁目5番10号 テレコムセンタービル |
決算月 |
12月 |
HP |
株式情報
株価 |
発行済株式数(期末) |
時価総額 |
ROE(実) |
売買単位 |
|
317円 |
27,659,419株 |
8,768百万円 |
-69.8% |
100株 |
|
DPS(予) |
配当利回り(予) |
EPS(予) |
PER(予) |
BPS(実) |
PBR(実) |
0.00 |
– |
-31.26円 |
– |
47.26円 |
6.7倍 |
*株価は6/1終値。発行済株式数、DPS、EPSは23年12月期第1四半期決算短信より。ROE、BPSは前期実績。
業績推移
決算期 |
売上高 |
営業利益 |
経常利益 |
当期純利益 |
EPS |
DPS |
2019年12月 |
275 |
-780 |
-786 |
-782 |
-66.60 |
0.00 |
2020年12月 |
199 |
-719 |
-744 |
-783 |
-55.31 |
0.00 |
2021年12月 |
161 |
-864 |
-887 |
-914 |
-53.18 |
0.00 |
2022年12月 |
126 |
-743 |
-754 |
-759 |
-36.31 |
0.00 |
2023年12月(予) |
200 |
-840 |
-840 |
-845 |
-31.26 |
0.00 |
*予想は会社予想。単位:百万円。当期純利益は、21年12月期までは親会社株主に帰属する当期純利益。21年12月期までは連結。22年12月期から非連結。
(株)セルシードの2023年12月期第1四半期決算概要等についてご報告致します。
目次
今回のポイント
1.会社概要
2.2023年12月期第1四半期決算概要
3.2023年12月期業績予想
4.今後の注目点
<参考:コーポレート・ガバナンスについて>
今回のポイント
- 23年12月期第1四半期は減収、損失縮小、売上高は前年同期比7百万円減の30百万円。東海大学より自己軟骨細胞シートの製造を受託し、1症例の売上を計上した。営業利益は1億81百万円の損失。同10百万円の損失縮小。
- 再生医療支援事業の売上高は30百万円、営業損失13百万円(前年同期は37百万円の売上高、20百万円の営業損失)。器材製品の拡販に向けた既存代理店との更なる協業強化、2023年3月開催の第22回再生医療学会総会への付設展示会にブースを出展するなど、器材製品の積極的な販売促進活動に取り組んだ。再生医療受託事業については、引き続き共同研究先である東海大学より先進医療にかかる自己軟骨細胞シートの製造を受託し、第1四半期には1症例の売上を計上した。
- 細胞シート再生医療事業の売上高は0.2百万円、営業損失1億14百万円(前年同期、売上高は計上なく、1億16百万円の営業損失)。研究開発の進捗により、企業治験に使用する同種軟骨細胞シートを製造するための原料として、有効性と安全性を確認したマスターセルバンクを確立し、第22回日本再生医療学会総会においてこの成果を発表した。国内外の会社との事業提携及び共同研究契約の締結に向けた活動を積極的に行った。特に、昨今の同種軟骨細胞シートへの関心の高まりを踏まえ、複数の提携先候補と契約締結に向けた活動を積極的に推進しており、同種軟骨細胞シートの価値最大化のため、秘密保持契約締結下で提携先候補企業と交渉を継続している。
- 業績予想に変更は無い。23年12月期の売上高は前期比73百万円増の2億円、営業損失は同96百万円拡大の8億40百万円の予想。
- 再生医療支援事業では、引き続き器材製品を中心に特に海外の販売の拡大に取り組む。前期低調だった海外向け販売は増収を見込んでいる。前期3症例の売上に留まった自己軟骨細胞シートの製造受託は、引き続き東海大学からの製造を受託するほか、他の医療機関からの新規受託案件の獲得にも注力する。これらを通してセグメント売上高2億円を見込んでいる。
- 細胞シート再生医療事業では、食道再生上皮シートについては、引き続き2025年の製造販売承認申請に向けて活動を推進する。同種軟骨細胞シートは、2023年中の治験届の提出、その後の製造販売承認取得に向けて、さらに開発を加速する。パイプラインの技術導出に向け新規事業先候補とも積極的に交渉を重ねていく。
- 引き続き、新製品UpCell®フラスコの今後の収益寄与の状況を注目したい。また、2023年中に予定している同種軟骨細胞シートの治験届提出のリリースを期待したい。
1.会社概要
【1-1 セルシードの再生医療】
失われた臓器や損傷あるいは機能が低下した臓器を再生して治療する新たな医療である再生医療。
東京女子医科大学の岡野光夫名誉教授・特任教授が開発した日本発・世界初の「細胞シート工学」を基盤技術とし、2つの事業を展開している。
一つは、同技術に基づいて作製した「細胞シート(シート状の培養細胞)」を用いた再生医療等製品の開発を行う「細胞シート再生医療事業」。
もう一つが、細胞シートの基盤ツール(培養器材)である温度応答性細胞培養器材等の開発・製造・販売及び再生医療の研究開発・事業化を支援する再生医療受託サービスを提供する「再生医療支援事業」である。
「細胞シート工学」 - 再生医療の基盤技術 -
(同社資料より)
「細胞シート工学」は東京女子医科大学岡野光夫名誉教授が発明した日本発・世界初のプラットフォーム技術である。温度によって分子構造を変える性質を持つ温度応答性ポリマーで表面を加工した細胞培養皿「UpCell®」で細胞を培養する。細胞培養皿の表目は37℃で細胞が付着できる適度な疎水性(水分を弾く性質)になり、20℃では細胞が付着できない親水性(水分を含む性質)になる。このため、温度を変えるだけで、細胞外マトリックス(接着蛋白質)を保持したまま有機的に結合した「細胞シート」を培養皿から回収することができる。
一般に細胞は細胞外マトリックスを分泌し、自らを固定する事により増殖する性質を持つ。言い換えると、接着蛋白質を分泌しながら自らをどこかに固定しないと増殖できないのだが、従来の培養方法では、培養した細胞をトリプシン等の蛋白質分解酵素を用いて接着蛋白質を分解して回収していた(接着蛋白質を分解する以外に培養細胞の回収方法が無かった)。
巨大な再生医療マーケット
再生医療の市場規模は、2050年には国内市場2.5兆円、世界市場38兆円と予想され、今後極めて大きな経済効果が期待される。
(同社資料より、単位:億円)
拡大する細胞培養器材市場
再生医療研究の進展と合わせ、近年は大量に培養した細胞を利用したバイオ医薬品の製造、細胞そのものを用いた免疫療法の開発、食料問題や環境問題の解決に向けた取り組みが盛んに行われている。
現在、一般的に使用される細胞回収技術であるタンパク質分解酵素の利用においては、細胞はダメージを受けた状態で回収され、細胞が有する本来の機能、成分を完全に維持する事が困難だが、同社の温度応答性細胞培養器材製品を導入する事により細胞を無傷で回収する事が可能となる。
これにより細胞本来が有する全ての機能、成分を維持したまま利用できるため、新規市場における産業面での効率や有効性が大きく改善される可能性が注目されている。
(同社資料より)
【1-2 セルシードのビジネスモデル】
Mission : 価値ある、革新的な再生医療をリードし、世界の医療に貢献します
細胞シートを使った大学の研究成果をシーズとして、同社が治験を行い再生医療製品として製品化し、患者に届けている。
(同社資料より)
【1-3 事業内容】
(1)細胞シート再生医療事業
「細胞シート工学」を基盤技術とする治療の開発は様々な部位に用いられているが、同社では、「食道再生上皮シート」と膝軟骨の「同種軟骨細胞シート」の2本に注力しつつ、中枢神経損傷関連疾患に対する新規治療について北海道大学との共同研究も開始した。
「細胞シート工学」を用いた治療の開発
(同社資料より)
「食道再生上皮シート」
日本では、年間約26,300人が食道がんと診断され、年間約11,100人が食道がんで死亡している。男性の発症率、死亡率は女性の5倍と高い。また、日本では食道がんの90%が扁平上皮がんであり、5年相対生存率は男性41%、女性46%と共に50%以下。
治療法として、2008年に保険収載された内視鏡切除手術(ESD)が増加しているが、ESDは手術後の食道狭窄の副作用がある。
しかし、食道再生上皮シートの導入により、食道狭窄の生じる頻度を抑制することができ、QOL(Quality of Life)の向上が期待できる。
食道再生上皮シートは、東京女子医科大学が開発した治療法であり、患者の口腔粘膜から採取した細胞を温度応答性培養器材で約2週間かけて培養し、細胞シートを作成する。細胞シートの培養に合わせて、食道がん切除内視鏡手術を行い、食道潰瘍面に移植する。2008年から2014年にかけて大学で臨床研究が行われ、東京女子医科大学10症例、東京女子医科大学・長崎大学10症例(長距離輸送検証:長崎大学で採取した細胞を東京女子医科大学で培養し、長崎大学で移植手術)、カロリンスカ大学病院(スウェーデン)10症例、の計30症例が既にあり、同社は、東京女子医科大学と開発基本合意契約を締結して同大学の研究成果を事業化に向けて引き継いだ。
2016年4月に治験届を提出し、2019年3月に治験を終了したが、統計的な優位性が証明されず追加治験が必要となった。その後PMDAとの追加治験に関する協議が完了したため、2020年10月に追加治験届を提出し、2021年2月には第1例目症例が登録された。2017年2月には厚生労働省より再生医療等製品の「先駆け審査指定制度」の対象品目指定を受けた。同社では、2025年の製造販売承認申請を予定している。
海外では2017年4月に提携した台湾MetaTech社へ導出。2018年にはMetaTech社が治験届を提出した。
(同社資料より)
「同種軟骨細胞シート」
患者以外の細胞を基にした細胞シートである「同種軟骨細胞シート」は、東海大学整形外科 佐藤正人教授との共同研究であり、スポーツによる損傷や加齢を原因とする軟骨欠損や変形性関節症を適応症とする。
変形性膝関節症とは、緩徐に進行する難治性の関節軟骨変性で、根本治療がない。国内における患者数は潜在的に約3,000万人、そのうち自覚症状を有する患者数は約1,000万人と推定されている。また、高齢化により患者数の増加が予測され、国民健康寿命・介護費・医療費の観点から喫緊に対処すべき疾患であると言う。佐藤正人教授との共同研究は軟骨表面の根本的な再生を目的としている。膝の軟骨は、硝子(しょうし)軟骨と言い、耳や鼻等の軟骨とは異なり、クッション性と対摩耗性に優れた硬い軟骨で再生が難しい。しかし、共同研究を進めている「同種軟骨再生シート」は、硝子軟骨として膝の軟骨を再生できる事が臨床研究で確認されている。
⇒
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⇒ |
(同社資料より)
佐藤正人教授が2017年に世界で初めて移植手術を実施。2017年から2019年の3年間で10名の患者に移植手術を実施した。
同種軟骨シートによる治療は、AMED「再生医療の産業化に向けた評価化基盤技術開発事業(再生医療シーズ開発加速支援)」に採択された(事業期間:2018年10月~2021年3月)。
同種細胞による軟骨細胞シートの開発には、指が6本ある多指(趾)症患者の廃棄組織を使用するため、倫理上の課題を解決する必要があるが、2020年12月には国立成育医療センターより多指症患者から採取した軟骨組織提供の承認を取得した。
2021年7月には、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が公募した補助事業である「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(再生・細胞医療・遺伝子治療産業化促進事業)」に、セルシードが提案した研究開発課題が採択を受けた。
また、2022年8月には産業利用に対応した多指(趾)症手術時の切除組織の継続的な供給と事業化に向けた体制の構築を目的に、同医療センターと検体提供に関する契約の基本的事項について合意し、今後は同種軟骨細胞シートの治験および製造販売に向けて、原料となるヒト組織の供給を継続的に受けることが可能となった。
2022年4月には、日本において「組織再生培養細胞シート、製造方法及びその利用方法」に関する特許が特許査定となり登録された。
一方治験開始までには、安全性および有効性の確認や、品質の担保のための体制作りも不可欠であり、組織から作成した細胞バンクの安全性および有効性の確認、細胞シートの品質管理及び輸送方法の確立などにも取り組んでいる。
2023年1月には、東海大学の佐藤正人教授らの研究グループによって、変形性膝関節症の臨床研究において、膝関節の軟骨欠損部へ同種軟骨細胞シートを移植した患者10名の全例で、術後一年の安全性及び有効性が確認され、その研究成果がネイチャー姉妹誌の『npj Regenerative Medicine』(オンラインジャーナル)に掲載された。
これらの実績をベースに、同社では、2023年中の治験届提出、その後の製造販売承認取得を計画している。
(同社資料より)
(2)再生医療支援事業
細胞シート製品の製法開発・受託製造、施設管理・申請支援、コンサルティングを行う「再生医療受託事業」と、「UpCell®」「RepCell®」「HydroCell®」などの細胞培養器材等の開発・製造・販売を行う「器材事業」で構成されている。
①各事業内容
*再生医療受託事業
製薬会社・研究機関からの委託を受けて、主に細胞シートの受託開発・製造を行う。日本再生医療学会認定の臨床培養士が所属しており、培養の経験豊富なスタッフによる再生医療等製品の製法開発・製造を、特定細胞加工物の製造許可及び再生医療等製品製造業許可を受けた細胞培養センターで行っている。
加えて、製品の開発から製造販売に至るまでの各段階に応じた当局対応承認申請書作成、製造業・製造販売業許可取得支援、技術者の教育などを支援している。
再生医療受託サービスの主な受託案件実績は、歯根膜細胞シート、自己軟骨細胞シート、小児自己上皮細胞シート、細胞シート培養・剥離トレーニングなど。
自己軟骨細胞シートは、再生医療等安全性確保法の法律の下で行われる先進医療Bとして2019年1月に承認され、2020年には東海大学が先進医療Bを開始。セルシードによる自己軟骨細胞シートの製造受託が始まった。2022年も引き続き受託している。
歯根膜細胞シートは、医師主導治験で用いる細胞シート受託製造の第1号案件である。
小児自己上皮細胞シートは、先天性食道閉鎖症術後の小児を対象としている。
また、一貫した品質及びサービスを提供するために、「ISO09001」の認証を維持しているほか、特定細胞加工物製造許可、再生医療等製品製造業許可を取得している。
*器材事業
1989年に東京女子医科大学の岡野教授が発明した温度応答性細胞培養器材は、温度を下げるだけで細胞を剥離することができるため、世界で初めて無傷な細胞シートを回収することを可能とした。
温度応答性細胞培養器材は世界中に販売され、多くの研究者により細胞シートを用いた治療法の研究・開発が盛んに進められている。
これまでも大学、研究機関、製薬企業などユーザーのニーズに合わせ、様々な器材製品を開発・供給してきたが、2022年9月には新製品UpCell®フラスコ、製品の販売を開始した。
UpCell®は、温度応答性ポリマーを器材表面に固定し、細胞に損傷を与える酵素を用いることなく、無傷な細胞がシート状に回収可能な器材。
UpCell®フラスコは、従来のUpCell®ディッシュよりも培養面積を拡大した製品も販売予定で、ダメージを受けていない状態の細胞をより大量に回収が可能となり、免疫研究や細胞治療に関連する研究に最適である。UpCell®6ウェル用セルカルチャーインサートを用いた共培養など生体環境に近い培養により、生体機能をより高いレベルで維持した細胞シートの回収が可能となる。
様々な感染症やがん疾患などの予防法や治療法を開発するための研究用細胞の大量培養を目的とした新たな需要の取り込みを期待しており、中長期的な事業の成長を見込んでいる。
2022年12月には温度応答性細胞培養器材製品 「UpCell® ADVANCE」 が、米国食品医薬品局(FDA)のメディカルデバイスマスターファイル(MAF)に登録された。
MAFは、供給メーカーが、企業情報、製造ノウハウ等の企業秘密や各種データをあらかじめFDAにMAFとして登録しておく制度。これにより、医薬品・医療機器等メーカーは、MAF番号を引用するのみで、FDAに販売承認申請することが可能となる。
MAF登録完了は、FDAによる、品質および安全性に関する確認または評価が完了したことを必ずしも意味するものではないが、医薬品・医療機器等メーカーが「UpCell® ADVANCE」を使用した製品についてFDAに申請する際に、セルシードに秘密情報の提出を求める必要がなくなるため、今回のMAF登録は「UpCell® ADVANCE」の普及に貢献するものとして期待される。
②主要施設・設備
細胞培養センター
先進医療に使用される細胞シートは同社の細胞培養センターで培養(受託加工)している。
延床面積約763㎡で、自動モニタリングシステムによって、清浄度、室圧、温湿度、機器(培養器や保冷庫等)が自動管理され、監視カメラシステムも完備。また、羽田空港まで車で約20分と至近で空輸にも対応しやすい。
2017年3月に取得した「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」第35条第1項の規定に基づく「特定細胞加工物製造許可」(許認可権者:厚生労働省)は、2022年3月に許可の更新が認められた。同許可により特定細胞加工物の受託製造も可能である。
2018年10月には再生医療等製品製造業許可を取得しており、品質を第一とした細胞シートの受託製造体制を構築している。
(同社資料より)
青海セルカルチャーイノベーションセンター
2021年9月より本格稼働を開始した。フラスコ製品の開発・製造など、細胞培養器材の開発・製造を行っている。
【1-4 成長戦略】
「細胞培養器材のビジネス拡大」と「世界展開に向けた事業提携推進」の2つを中心的な成長戦略としている。
(1)細胞培養器材のビジネス拡大
1989年東京女子医科大学の岡野教授が発明した温度応答性細胞培養器材は、前述のように、温度を下げるだけで細胞を剥離できるため、無傷な細胞シートを回収することが世界で初めて可能となり、多くの研究者により細胞シートを用いた治療法の研究・開発が進められている。
2020年に同社では、器材ビジネスとして初めて売上高が1億円を突破した。2021年9月には細胞培養器材製品専用の開発・製造施設を新設したほか、海外における器材製品拡販のアライアンス先である米国サーモフィッシャーサイエンティフィック社と販売契約を2025年まで延長することで両社合意した。
近年は大量に培養した細胞を利用してバイオ医薬品の製造や、細胞そのものを用いた免疫療法、更には食料問題や環境問題の解決に向けた取り組みが盛んに行われている。
ただ、現在一般的に使用される細胞回収技術であるタンパク質分解酵素では、細胞はダメージを受けた状態で回収され、細胞が有する本来の機能、成分を完全に維持する事が困難である。一方で、同社製品を導入すれば細胞を無傷で回収する事が可能となり、細胞本来が有する全ての機能、成分を維持したまま利用できるため、新市場における産業面での効率や有効性改善に大きく寄与するものと期待されている。
(2)世界展開に向けた事業提携推進
再生医療への応用を目的とした研究開発フェーズ向けへの製品販売が順調に拡大しているのと並行し、研究用細胞の大量培養を目的とした新たな用途での製品販売が海外を中心に急拡大している。
このため同社では、従来の再生医療市場における製品展開に留まらず、細胞培養器材新製品開発・製造施設の新設など、新市場のニーズを満たすソリューションを提供するための製品開発に注力中である。
2022年12月には温度応答性細胞培養器材製品 「UpCell® ADVANCE」 が、米国食品医薬品局(FDA)のメディカルデバイスマスターファイル(MAF)に登録された。
海外での販路をさらに拡大するべく、販売体制も強化している。前述のとおり、海外における器材製品拡販のアライアンス先であるサーモフィッシャーサイエンティフィック社と販売契約を延長し、連携を更に強化するほか、一貫した品質・サービスの提供と、より一層の顧客満足を充実させるため品質マネジメントシステムを構築し、2020年1月に国際規格であるISO9001:2015の認証を取得した。
このほか、世界展開に向け、台湾MetaTech社,とのアライアンス(2017年4月)、Up Cell Biomedical Inc.設立(20年1月)、ベルリンで開催された「Translate! 2021 – Metrics and Milestones of Success」での講演(2021年1月)等、日本だけでなくアジアや欧州で開催されている展示会へ参加し事業提携を推進している。今後も各地で開催される展示会へ参加し事業提携先の獲得を目指す。
2.2023年12月期第1四半期決算概要
【2-1 非連結業績】
22/12期1Q |
23/12期1Q |
前年同期比 |
|
売上高 |
37 |
30 |
-7 |
売上総利益 |
16 |
15 |
-0 |
販管費 |
208 |
197 |
-10 |
うち、研究開発費 |
108 |
111 |
+3 |
営業利益 |
-191 |
-181 |
+10 |
経常利益 |
-195 |
-184 |
+11 |
四半期純利益 |
-199 |
-183 |
+15 |
*単位:百万円。
減収、損失縮小
売上高は前年同期比7百万円減の30百万円。東海大学より自己軟骨細胞シートの製造を受託し、1症例の売上を計上した。
営業利益は1億81百万円の損失。同10百万円の損失縮小。
【2-2 セグメント別動向】
22/12期1Q |
23/12期1Q |
前年同期比 |
|
再生医療支援事業 |
37 |
30 |
-7 |
細胞シート再生医療事業 |
0 |
0 |
+0 |
売上高 |
37 |
30 |
-7 |
再生医療支援事業 |
-20 |
-13 |
+7 |
細胞シート再生医療事業 |
-116 |
-114 |
+1 |
調整額 |
-54 |
-53 |
+0 |
営業利益 |
-191 |
-181 |
+10 |
*単位:百万円。
再生医療支援事業
売上高は30百万円、営業損失13百万円(前年同期は37百万円の売上高、20百万円の営業損失)。
器材製品の拡販に向けた既存代理店との更なる協業強化、2023年3月開催の第22回再生医療学会総会への付設展示会にブースを出展するなど、器材製品の積極的な販売促進活動に取り組んだ。
再生医療受託事業については、引き続き共同研究先である東海大学より先進医療にかかる自己軟骨細胞シートの製造を受託し、第1四半期には1症例の売上を計上した。
細胞シート再生医療事業
売上高は0.2百万円、営業損失1億14百万円(前年同期、売上高は計上なく、1億16百万円の営業損失)。
研究開発の進捗により、企業治験に使用する同種軟骨細胞シートを製造するための原料として、有効性と安全性を確認したマスターセルバンクを確立し、第22回日本再生医療学会総会においてこの成果を発表した。
国内外の会社との事業提携及び共同研究契約の締結に向けた活動を積極的に行った。特に、昨今の同種軟骨細胞シートへの関心の高まりを踏まえ、複数の提携先候補と契約締結に向けた活動を積極的に推進しており、同種軟骨細胞シートの価値最大化のため、秘密保持契約締結下で提携先候補企業と交渉を継続している。
【2-3 財政状態】
◎要約BS
22年12月 |
23年3月 |
増減 |
22年12月 |
22年3月 |
増減 |
||
流動資産 |
1,231 |
1,719 |
+487 |
流動負債 |
180 |
216 |
+35 |
現預金 |
1,072 |
1,554 |
+482 |
1年内返済 予定の長期借入金 |
7 |
6 |
-0 |
売上債権 |
25 |
25 |
+0 |
固定負債 |
184 |
183 |
-1 |
たな卸資産 |
56 |
57 |
+1 |
長期借入金 |
151 |
149 |
-1 |
固定資産 |
311 |
310 |
-1 |
負債合計 |
365 |
399 |
+33 |
資産合計 |
1,543 |
2,029 |
+485 |
純資産 |
1,178 |
1,629 |
+451 |
*単位:百万円。 |
負債・純資産合計 |
1,543 |
2,029 |
+485 |
*株式会社インベストメントブリッジが開示資料を基に作成。
現預金の増加などで資産合計は前期末比4億85百万円増の20億29百万円。資本金及び資本剰余金の増加、利益剰余金のマイナス額拡大により純資産は同4億51百万円増の16億29百万円。
自己資本比率は前期末から4.4ポイント上昇し79.2%となった。
3.2023年12月期業績予想
【3-1 業績予想】
22/12期 実績 |
23/12期 予想 |
前期比 |
|
売上高 |
126 |
200 |
+73 |
営業利益 |
-743 |
-840 |
-96 |
経常利益 |
-754 |
-840 |
-85 |
当期純利益 |
-759 |
-845 |
-85 |
*単位:百万円。
業績予想に変更無し、増収、損失幅拡大
業績予想に変更は無い。売上高は前期比73百万円増の2億円、営業損失は同96百万円拡大の8億40百万円の予想。
<再生医療支援事業>
引き続き器材製品を中心に特に海外の販売の拡大に取り組む。
2022年9月に発売を開始したUpCell®フラスコ製品の収益貢献を図り、中長期的な事業の成長と企業価値向上に繋げる。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響による海外代理店の在庫調整は現在では一段落し、受注が回復していることから、2023年度12月期の売上は増収を見込んでいる。
前期3症例の売上に留まった自己軟骨細胞シートの製造受託は、引き続き東海大学からの製造を受託するほか、他の医療機関からの新規受託案件の獲得にも注力する。
また、再生医療に関わる総合的なサポートを通じて、再生医療の研究開発・事業化を支援する再生医療受託製造等を推進する。
これらを通してセグメント売上高2億円を見込んでいる。
<細胞シート再生医療事業>
食道再生上皮シートについては、引き続き2025年の製造販売承認申請に向けて活動を推進する。
同種軟骨細胞シートは、2023年中の治験届の提出、その後の製造販売承認取得に向けて、さらに開発を加速する。
パイプラインの技術導出に向け新規事業先候補とも積極的に交渉を重ねていく。
【3-2 継続企業の前提に関する重要事象等】
前連結会計年度末の手元資金(現金及び預金)残高は10億72百万円で、財務基盤については安定的に推移している。
一方で事業面においては細胞シート再生医療事業の重要課題である細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化の道程を示すまでには至っておらず、同社では、2023年3月末において引き続き継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在していると判断している。
こうした状況の解消を図るべく、食道再生上皮シート並びに同種軟骨細胞シートの開発を推進し、細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化の実現、また事業提携先の開拓を通じた更なる収益機会の獲得を目指すことで、現在の状況の解消を図る考えだ。
4.今後の注目点
引き続き、新製品UpCell®フラスコの今後の収益寄与の状況を注目したい。また、2023年中に予定している同種軟骨細胞シートの治験届提出のリリースを期待したい。
<参考:コーポレート・ガバナンスについて>
◎組織形態及び取締役、監査役の構成
組織形態 |
監査等委員会設置会社 |
取締役 |
4名、うち社外3名(うち、独立役員1名) |
監査等委員 |
3名、うち社外3名(うち、独立役員1名) |
◎コーポレート・ガバナンス報告書(更新日:2023年4月7日)
基本的な考え方
当社は、技術革新と創造性を発揮し、質の高い優れた製品とサービスの提供を通じ、人々の健康と福祉に貢献していくことを使命とし、全ての企業活動において品質を高めるべく企業統治の整備を進めています。
今後につきましては、ディスクロージャーの透明性を高めるため一層説明責任を充実するとともに、さらなる経営のチェック機能強化を図ってまいります。