(4205)日本ゼオン株式会社 販売価格改定が進み増収増益

2022/05/26

 

 

田中 公章 社長

日本ゼオン株式会社(4205)

 

 

企業情報

市場

東証プライム市場

業種

化学

代表取締役社長

田中 公章

所在地

東京千代田区丸の内1-6-2

決算月

3月末日

HP

https://www.zeon.co.jp/

 

株式情報

株価

発行済株式数(自己株式を含む)

時価総額

ROE(実)

売買単位

1,353円

237,075,556株

320,763百万円

10.9%

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

36.00円

2.7%

163.04円

8.3倍

1,487.33円

0.9倍

*株価は5/2終値。各数値は22年3月期決算短信より。

 

業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2019年3月

337,499

33,147

36,319

18,458

84.06

19.00

2020年3月

321,966

26,104

28,744

20,201

92.44

21.00

2021年3月

301,961

33,408

38,668

27,716

126.74

22.00

2022年3月

361,730

44,432

49,468

33,413

153.22

28.00

2023年3月(予)

400,000

45,500

48,000

34,500

163.04

36.00

*単位:百万円、円。予想は会社側予想。2022年3月期首より「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)等を適用。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。以下、同様。

 

日本ゼオンの2022年3月期決算概要などについてご報告致します。

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2022年3月期決算概要
3.2023年3月期業績予想
4.中期経営計画活動状況
5.今後の注目点
<参考1:中期経営計画>
<参考2:コーポレートガバナンスについて>
付属:Fact Sheet

 

今回のポイント

  • 22年3月期の売上高は前期比19.8%増収の3,617億円、営業利益は同33.0%増の444億円。エラストマー素材事業は、海上運賃高騰、修繕関連費用等が増加したものの、主原料価格上昇に伴う販売価格改定が進み増収増益。輸出コンテナ不足や船繰りの影響で欧米向け中心に出荷に遅れが生じている。主原料である国産ナフサは引き続き上昇基調にある。アジアブタジエンも第3四半期下落したが、年度末にかけて再び上昇した。高機能材料事業は、半導体不足等の影響はあったが増収増益。高機能材料の需要は総じて堅調に推移した。売上・利益とも、期初予想を上回り、ほぼ2022年1月31日に公表された修正予想通りの着地となった。

     

  • 23年3月期の売上高は前期比10.6%増の4,000億円、営業利益は同2.4%増の455億円を予想。エラストマー素材は増収減益、高機能材料は増収増益を見込んでいる。物流状況は前期第4四半期同等、新型コロナウイルス感染症、ロシア・ウクライナ情勢による調達、生産の影響は軽微と見ている。為替および原材料価格の前提は、USD=120円、€=135円、原材料価格は国産ナフサ=60,000円、アジアブタジエン=1,000USD。配当は前期比8円/株増配の36円/株の予想(中間18円/株、期末18円/株)。予想配当性向は22.1%。

     

  • 二度の上方修正を行い2桁の増収増益となった22年3月期に続き、今期23年3月期も増収・営業増益を見込んでいる。原材料価格上昇、価格改定の浸透、円安の進行、国際物流の混乱など今期も外部環境においては不透明な要因が多数あるが、同社の競争優位性を活かして2期連続増収。3期連続営業増益を達成できるか注目していきたい。また、両事業とも生産能力増強を進めており、中期経営計画は確実に進捗しているようだ。着実に上昇している高機能材料事業の収益性が今後どの程度まで高まるかにも注目していきたい。

1.会社概要

自動車部品やタイヤに使用される合成ゴムや、医療用手袋等に使用される合成ラテックスを始めとして、世界的な高シェア製品を多数保有する石油化学メーカー。独創的な技術開発力とそれを生み出す研究開発体制、高い収益性などが強み。
自動車部品、タイヤ、ゴム手袋、紙おむつ、携帯電話、液晶テレビ、香水など身の回りにある多種多様な製品に同社が製造する製品(素材)が使用されている。
グループは、同社および子会社59社、関連会社7社で構成されており、世界16か国に生産、販売拠点を有している。(2021年3月期有価証券報告書)

 

 

 

(同社資料より)

 

【1-1社名と経営ビジョン】

「ゼオ」(Geo)はギリシャ語で大地、「エオン」(Eon)は永遠を意味し、その合成語「ゼオン」には「大地から原料を得て永遠に栄える」という意味が込められており、世界に誇り得る独創的技術によって、地球環境と人類の繁栄に貢献することを経営理念として掲げている(設立時は資本及び技術提携先であった米国B.F.グッドリッチ社の塩化ビニル樹脂製品の商標「Geon」を取って社名としていたが、1970年の資本関係解消を機に表記を「Zeon」と改めた)。

 

【1-2沿革】

同社は、古河電工、横浜ゴム、日本軽金属の古河系3社の共同出資により、米国B.F.グッドリッチ・ケミカル社との提携による塩化ビニル樹脂製造技術の導入を前提として、1950年4月に設立された。
1951年にB.F.グッドリッチ・ケミカル社が35%の株式を取得し、技術及び資本の全面提携が成立し、翌1952年に日本で初めて塩化ビニル樹脂の量産を開始した。
1959年にはB.F.グッドリッチ・ケミカル社から合成ゴム製造技術を導入し、日本で初めて量産を開始。自動車向け需要の増大に対応し、生産設備を拡大していく。

 

1965年にはC4留分からブタジエン(合成ゴムの主原料)を効率よく製造する同社の独自技術であるGPB(ゼオンプロセスオブブタジエン)法による生産を開始した。
B.F.グッドリッチ・ケミカル社が事業の中核を塩化ビニル樹脂事業にシフトするのに伴い、特殊合成ゴム事業を譲り受け、1970年資本提携も解消へ。これに伴い1971年に英文社名をGeonからZeonに変更した。
同じく1971年にはC5留分から高純度のイソプレンや石油樹脂、合成香料の原料などを抽出する独自技術GPI(ゼオンプロセスオブイソプレン)法を開発し生産を開始。

 

1980年代に入り、合成ゴムに加えて、フォトレジストなどの情報材料、合成香料、メディカル分野など新規事業への展開を積極化させていく。
1984年、現在では世界シェアトップとなった水素化ニトリルゴムZetpol®を高岡工場で生産開始。
1990年、GPI法によって抽出、合成された高機能材料事業の主要製品であるシクロオレフィンポリマーZEONEX® を水島工場で生産開始。
1993年、電子材料事業で中国に進出した。
1999年にはゼオン・ケミカルズ(米国、現 連結子会社)が、グッドイヤーから特殊ゴム事業を買収し、特殊ゴム分野で世界トップメーカーとなる布石を打つ。
2000年、水島工場での塩化ビニル樹脂生産を打ち切り、創業事業の塩化ビニル樹脂事業から撤退した。
21世紀に入り、LCD用光学フィルムゼオノアフィルム®の上市、グローバル生産・販売体制の強化、シンガポールにおける溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)の商業運転開始、富山県氷見市のLCD用光学フィルム設備を増強、世界初 スーパーグロース・カーボンナノチューブの量産工場稼働、住友化学とS-SBR生産販売のための合弁会社設立など、積極的な事業展開を進めている。

 

【1-3事業内容】

同社の主要製品は、原油を蒸留分離して得られるナフサを熱して抽出される炭素数の異なる様々な抽出物を原材料としている。ナフサを熱すると、順次、一酸化炭素ガス(C1)、エチレン(C2)、プロピレン(C3)が抽出される。
同社は、プロピレン(C3)を抽出した後のC4留分から独自開発のGPB法によって抽出したブタジエンや、その後のC5留分からGPI法によって抽出したイソプレン・モノマーピペレリンジシクロペンタジエン、2-ブチン等を原材料に加工を行い、合成ゴム、合成ラテックスを始めとした各種素材を生産している。

 

(同社資料より)

 

生産した素材そのものを顧客に販売する素材型ビジネスが中心の「エラストマー素材事業」、素材を同社において一次加工し顧客に販売する部材型ビジネスが中心の「高機能材料事業」、「その他の事業」がある。

 

*いずれも2022年3月期実績。消去、全社前の構成比。

 

<エラストマー素材事業>
「エラストマー」とは、「ゴムのように弾性に富む高分子化合物の総称」(三省堂 大辞林より)で、合成ゴムがその代表例である。沿革にあるように同社は1959年に日本で初めて合成ゴムの量産を開始しており、同事業は会社の基盤を支える事業である。内訳としては大きく、合成ゴム事業、合成ラテックス事業、化成品事業(石油樹脂、熱可朔性エラストマー)に分類される。

 

➀合成ゴム事業
<製品例:タイヤ>
世界トップクラスの品質を誇るタイヤ用合成ゴムを、世界の主要タイヤメーカーに納入している。製造している合成ゴムの種類には、耐摩耗性・耐老化性・機械的強度特性に優れるスチレンブタジエンゴム(SBR)、弾性・摩耗性・低温特性のバランスに優れるブタジエンゴム(BR)、天然ゴムとほぼ同様の特性をもち品質安定性に優れるイソプレンゴム(IR)等がある。
今後はSBRの特性を更に改良した低燃費タイヤ用のS-SBRの需要が急速に拡大すると見込んでおり、これに対応した供給能力増のため、シンガポール工場の第1系列が2013年9月、第2系列も2016年4月に稼働を開始した。シンガポール工場の供給能力は7万トンとなっている。

 

<製品例:自動車用部品>

(同社資料より)

 

自動車エンジンにおいては、ラジエーターホース、フューエルホース、タイミングベルト、オイルシールなどの各部品において耐油性、耐熱老化性に優れた特殊合成ゴムが用いられている。
世界No.1の特殊合成ゴムメーカーである同社はその品質の高さを評価されており、自動車用特殊合成ゴムの中で高いシェアを有している。中でも、タイミングベルト用の水素化ニトリルゴムZetpol®は耐熱性、耐油性、機械的強度特性に優れており、世界で高いシェアを占めている。
また従来品の性能を大きく向上させたZetpol®の新製品を開発した。これは従来製品比で+10℃も耐熱性を改善させたもので、従来のシール・ガスケット部品の長寿命化に対応できるだけでなく、次世代バイオ燃料を用いたエンジン向けにも需要が拡大すると見込んでいる。さらに、押出加工性が良好であることからホース用途にも展開が広がってきた。顧客の評価も上々で、高価なゴムの代替材を中心として、国内、アジア、欧米で採用が進んでいる。

 

➁合成ラテックス事業
合成ラテックスとは、合成ゴムを水中に分散させた液状ゴムのことで、ゴム手袋をはじめ、紙加工、繊維処理、接着剤、塗料、化粧パフ等に使用される。化粧用パフ用アクリロニトリルブタジエン(NBR)ラテックスは世界でも高いシェアを有している。

 

➂化成品事業
C5留分から製品化を行う同社独自のGPI法により粘着テープ・ホットメルト接着剤用素材、トラフィックペイント用バインダー等、幅広い製品化を行っている。

 

<高機能材料事業>
独創的技術である高分子設計や加工技術によって、高付加価値を有した材料・部材を扱っている。
光学樹脂関連及び光学フィルムなど高機能樹脂事業と、電池材料、化学品、電子材料、トナーなど高機能ケミカル事業、メディカルデバイス事業からなる。

 

➀高機能樹脂事業
◎光学樹脂関連及び光学フィルム
GPI法によってC5留分から抽出、合成されたシクロオレフィンポリマーは、独自技術で開発した熱可塑性プラスチックで、製品としてZEONEX® とZEONOR®がある。
ZEONEX®は高透明性、低吸水性、低吸着性、耐薬品性を活かして、カメラレンズやプロジェクターレンズなどの光学部品、シリンジやバイアルなどの医療用容器に使用されている。
ZEONOR®は高透明性や転写性、耐熱性等を活かし、透明汎用エンプラとして、導光板や自動車部品、半導体容器などの幅広い分野で使用されている。

 

シクロオレフィンポリマーから、世界初の溶融押出法で開発された光学フィルムがゼオノアフィルム®で、光学特性、低吸水・低透湿、高耐熱性、低アウトガス、寸法安定性に優れ、液晶テレビやスマートフォン、タブレット端末のディスプレイ、有機ELディスプレイなど幅広い用途で利用されている。

 

(同社資料より)

 

また、同社では世界で初めて「斜め延伸位相差フィルム」を開発し、生産している。
有機ELの光反射防止フィルムとしての採用も進んでおり、今後も中小型用フラットパネルディスプレイ向けの需要拡大が見込まれる。同社の光学フィルムは、富山県高岡市および氷見市、福井県敦賀市の3拠点で生産している。

 

他にも、携帯電話、スマートフォン、液晶テレビ用途に代表される、電子デバイス向け塗布型有機絶縁材料ZEOCOAT®がある。ZEOCOAT®は、透明性が高く、吸水性が非常に低いほか、膜からガス成分を発生しにくいためディスプレイの画質と信頼性の向上を同時に達成することができる。
今後、液晶に比べ薄く成型できる有機ELディスプレイ向けに拡販を積極的に進めるとともに、新しい半導体を用いた薄膜トランジスタやフレキシブルディスプレイ用の絶縁材料での採用を目指している。

 

◎電池材料
リチウムイオン電池用材料として負極及び正極、機能層(耐熱セパレータ―)用バインダー、シール剤を供給している。
現在、リチウムイオン電池はスマートフォン、ノートパソコンなどのモバイル機器の電源として広く使用されており、その高容量化は強く求められている。
さらに、軽量・小型でありながら、大きなエネルギーを蓄えられることから、ハイブリッドカー、プラグインハイブリッドカー、電気自動車向け、スマートグリッドなどの産業電源向けでの採用が拡大しているが、一方で、高温下で使用した場合、寿命が低下しやすいといった課題があった。
同社は、リチウムイオン電池バインダーの高機能化を進め、正極用バインダーとして寿命の低下抑制に大きく貢献する水系機能性バインダーの開発に成功し、また、リチウムイオン電池の蓄電容量を従来比5~15%上げられる負極用バインダーの製品化にも成功した。
正極・負極・機能層(耐熱セパレータ―)用バインダー及びシール剤はリチウムイオン電池の「寿命・容量・生産性・安全性・充放電レート」の5大性能向上に寄与し、電気自動車の普及に貢献するものと考えている。
リチウムイオン電池の将来性に注目し、早くから取り組んできた同社では、「リチウムイオン電池バインダー市場でのトップシェアを維持」するとともに、急速充電など自動車用途でのニーズに応えた新しい材料機能の普及拡大や次世代の新しい電池の実現に向けた機能性材料の提案ができることを目指している。

 

(同社資料より)

 

◎化学品
C5留分より得られる原料を活用して食品・香粧品用の合成香料や、特徴ある溶剤及び植物調整剤などの特殊化学品を扱っている。
グリーン系の合成香料では世界一のシェアを有している他、医農薬中間体の原料やフロン代替用途などの溶剤・洗浄剤・ウレタン発泡剤及び機能性エーテル溶剤など、幅広い産業分野に特徴ある製品を供給している。

 

②メディカルデバイス事業
メディカルデバイス市場は、景気の影響が少なく、また日本における高齢化の進行と新興国の市場拡大で成長が見込まれる一方、医療機器の製造・販売会社に対する法的要件が厳格であるほか、薬事承認申請作業が必要で、医療従事者との関係作りが不可欠であること等から参入障壁が高く、魅力的な市場であると同社では考えている。
同社は、1974年に人工腎臓の開発を開始したのを皮切りにメディカルデバイス事業を積極的に推進し、1989年に子会社ゼオンメディカル株式会社を設立し、同社グループ内で開発・製造・販売・薬事のすべての分野における対応が可能な体制を構築している。
消化器系製品では、胆道結石除去用の差別化製品である「オフセットバルーンカテーテル」、国産初の胆管カバードステント「ゼオステントカバード」、また循環器系製品では、急性心筋梗塞時等に心臓の拍動を補助するデバイスとして、世界最細径の「ゼメックス IABPバルーンプラス」など、豊富な開発実績を有している。

(同社資料より)

 

現在注力しているのが、胆道結石による痛みからの解放につなげる結石除去デバイスである。
同社の開発製品であるゼメックスクラッシャーカテーテル、ゼメックスバスケットカテーテルNT、エクストラクションバルーンカテーテルなど、巨大結石から胆泥・胆砂まであらゆる胆道結石を除去できるデバイスをラインアップしており、結石除去デバイス全体で50%のシェア獲得を目指す。また、2016年3月には、ガイドワイヤータイプとしては世界初の光センサー型FFR(※)デバイスを上市した。光ファイバー型センサーであることから血圧測定のズレが起こりにくい。ガイドワイヤーとしての操作性も高い評価を得ている。

 

※FFR:冠動脈の診断および治療において、病変の重症度を定量的に評価し治療戦略を決定するための冠血流予備量比のこと。

 

【高機能新規素材開発例 ~カーボンナノチューブ(CNT)~】
積極的な研究開発によって様々な新素材を世の中に送り出してきた同社だが、今後大きな成長が期待されるのが「単層CNT」だ。

 

①単層CNTとは?
1993年、独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研) ナノチューブ応用研究センター長の飯島 澄夫博士によって世界で初めて蜂の巣上の炭素原子が網目のように結び付いた、筒状分子構造の物質が発見され、「カーボンナノチューブ(CNT)」と命名された。その構造により、単層CNTと多層CNTに大きく分類できる。多層CNTは比較的生産が容易であることから国内外において実用化への応用開発が推進されている。

(同社資料より)

 

一方、単層CNTは、「鋼の20倍の強度」、「銅の10倍の熱伝導性」、「アルミの半分の密度」、「シリコンの10倍の電子移動度」など、「軽量かつ高強度でありながら高い柔軟性を持つ」、「電気や熱伝導性が極めて高い」といった、多層CNTを上回る優れた特性を持つ。
例えば、リチウムイオン電池の導電助剤への展開、高い伸縮性や強度を持つことから、電子ペーパーや超薄型タッチパネル用の透明導電膜のほか、放熱材料への利用なども考えられている。また、広帯域の光を吸収できる特性があるため、電磁波吸収材としての実用化研究も進んでおり、エネルギー分野、エレクトロニクス分野、構造材料分野、高機能材料分野等、幅広い場面での応用が見込まれている。

(ゼオンナノテクノロジー(株) HPより) 

 

しかし、従来の単層CNTは、不純物が多く、且つ生産性が低いために、製造コストが高く1g当たり数万~数十万円もしているのが大きな課題であった。

 

②同社の取組み&位置づけ
このような背景の中、低炭素社会の実現というグローバルな社会的要請に応え、日本で発見された数多くの優れた特性を持つ単層CNTを応用した新製品を世界に先駆けて事業化、工業化するための技術の確立に取り組んでいる。
同社と産総研が、「スーパーグロース法」という2004年に産総研 畠賢治博士らによって開発された合成技術をベースにして、産総研のつくばセンター敷地内に2010年12月に開設した実証プラントで量産化に向けた研究開発および供給(2011年4月から、産総研より量産品のサンプル供給を開始)を担当し、複合材料の用途開発を上記の研究組合が進めている。
産総研 ナノチューブ応用研究センターが量産化のためのパートナーに同社を選定したのは、同社の荒川公平氏(前取締役常務執行役員)がCNT研究開発者として豊富な実績と成果を有していた事が大きな理由だということであり、単層CNT実用化プロジェクトにおける同社の重要性は大変大きなものである。

 

③今後の展開
スーパーグロース法を基にした量産化技術を確立した同社は、2015年11月、山口県周南市の徳山工場内に量産プラントを竣工させ、世界初の量産を開始した。単層CNTの量産化技術を確立しているのは世界でも同社のみであり、国内外を問わず問い合わせが来ており、順次サンプル出荷を行っており、同社自らも他社に対し用途提案も行っている。カーボンナノチューブを用いたシートによるリチウムデンドライトの抑制技術の開発によって、リチウム金属電極(負極)の大幅な寿命向上を達成し、高エネルギー密度、大容量のリチウム金属電極(負極)の実用化加速への貢献が期待される。(同社2022年1月25日プレスリリース)
一方、単層CNTは、ナノ材の一種でありそのサイズが極めて小さい事、形状が繊維状であることから化学的な特性以外に、サイズや形状によって生体への侵入などによる影響があるのではないかという懸念も指摘されている。
現在、産総研を中心に評価手法の標準化、OECDのエンドポイント測定等の取組みが進められており、国際標準化、法規制化が順次行われると考えられている。

 

<その他の事業>
反応射出成形法(RIM成形法)で使用されるジシクロペンタジエンを原料としたRIM配合液を取り扱っている。

【1-4 ROE分析】

 

15/3期

16/3期

17/3期

18/3期

19/3期

20/3期

21/3期

22/3期

ROE(%)

9.8

8.6

10.3

5.3

7.2

7.9

10.0

10.9

 売上高当期純利益率(%)

6.20

6.12

8.05

3.92

5.47

6.27

9.18

9.24

 総資産回転率(回)

0.80

0.75

0.72

0.78

0.79

0.78

0.71

0.78

 レバレッジ(倍)

1.98

1.86

1.77

1.71

1.66

1.62

1.55

1.52

 

売上高当期純利益率および総資産回転率の上昇により22/3期のROEは前期に続き10%を上回った。引き続き高機能材料セグメントの成長を中心とした収益性の向上が期待される。

 

【1-5特長・強み】

1.世界トップクラスの独創的な技術開発力
C4留分からブタジエンを製造するGPB法は戦後の日本化学史上トップクラスの技術開発であり、アメリカ、韓国を始め世界19か国49プラントに技術供与している。
また、C5留分から高純度のイソプレンや石油樹脂、合成香料の原料などを製造するGPI法も同社オリジナルで、水島工場が世界で唯一の抽出プラントであり、他社には技術供与していないオンリーワンの技術である。
この2つの技術に代表される独創的な技術開発力が同社の大きな強みであり、世界的に高く評価されており、国内外で数々の賞を受賞している。技術関係では、GPB法、GPI法はもちろんのこと、1960年から現在までに48の賞を、環境・安全関係では1982年から現在までに26の賞を受賞している。

 

2.世界的な高シェア
Zetpol®、ZEONEX®、ZEONOR®に代表される同社の独創的技術から生み出された様々な製品は、世界的に高いシェアを獲得している。これ以外にも、化粧品や食品フレーバーに使用されるリーフアルコール、化粧用パフ用NBRラテックスなども「世界No.1」製品となっている。

 

3.独創的な技術を生み出し続ける研究開発体制
「ニッチでも、日本ゼオンらしい得意分野で人のまねをしない、ひとのまねのできない、地球にやさしい、革新的独創的技術に基づく、世界一製品・事業を継続的に創出し、社会に貢献する」との基本理念に基づき、研究開発に取り組んでいる。
主要研究拠点は神奈川県川崎市にある「総合開発センター」だが、製造現場に近いところで研究開発を行うことが効率的であるとの考えから、高岡工場に精密光学研究所およびメディカル研究所を、米沢工場に化学品研究拠点を、徳山工場にトナー研究所を、水島工場に化成品研究室を設立した。また海外では、アメリカ・ドイツ・シンガポール・中国に技術サポート拠点を有している。新たなる研究開発への取り組みも始まっており、新事業・新技術に特化した創発推進センターの設立など、2030年までのゴールを見据えたSDGsへの取り組みも含め、持続的な研究開発に挑戦している。

 

2.2022年3月期決算概要

【2-1 連結経営成績】

 

21/3期

構成比

22/3期

構成比

前期比

予想比1

予想比2

売上高

301,961

100.0%

361,730

100.0%

+19.8%

+16.7%

-0.3%

売上総利益

97,552

32.3%

120,358

33.3%

+23.4%

販管費

64,144

21.2%

75,927

21.0%

+18.4%

営業利益

33,408

11.1%

44,432

12.3%

+33.0%

+34.6%

-2.3%

経常利益

38,668

12.8%

49,468

13.7%

+27.9%

+41.3%

+1.0%

当期純利益

27,716

9.2%

33,413

9.2%

+20.6%

+33.7%

-0.3%

*単位:百万円。予想比1、予想比2はそれぞれ21年5月、22年1月公表の業績予想に対する増減率。

 

◎四半期

 

21/3期1Q

2Q

3Q

4Q

22/3期1Q

2Q

3Q

4Q

売上高

69,492

67,923

78,889

85,657

87,171

91,904

89,681

92,974

営業利益

4,310

5,603

11,157

12,338

13,865

11,086

11,454

8,027

*単位:百万円

 

 

増収増益
売上高は前期比19.8%増収の3,617億円、営業利益は同33.0%増の444億円。
エラストマー素材事業は、海上運賃高騰、修繕関連費用等が増加したものの、主原料価格上昇に伴う販売価格改定が進み増収増益。輸出コンテナ不足や船繰りの影響で欧米向け中心に出荷に遅れが生じている。
主原料である国産ナフサは引き続き上昇基調にある。アジアブタジエンも第3四半期下落したが、年度末にかけて再び上昇した。
高機能材料事業は、半導体不足等の影響はあったが増収増益。高機能材料の需要は総じて堅調に推移した。
売上・利益とも、期初予想を上回り、ほぼ2022年1月31日に公表された修正予想通りの着地となった。

 

【2-2 セグメント別動向】

◎累計

 

21/3期

22/3期

前期比

売上高

 

 

 

エラストマー素材事業

161,626

200,566

+24.1%

高機能材料事業

95,465

106,791

+11.9%

その他

46,977

57,822

+23.1%

調整

-2,107

-3,449

合計

301,961

361,730

+19.8%

営業利益

 

 

 

エラストマー素材事業

12,283

18,623

+51.6%

高機能材料事業

21,960

26,360

+20.0%

その他

2,156

2,318

+7.5%

調整

-2,991

-2,868

合計

33,408

44,432

+33.0%

*単位:百万円。

 

◎四半期

 

21/3期1Q

2Q

3Q

4Q

22/3期1Q

2Q

3Q

4Q

売上高

 

 

 

 

 

 

 

 

エラストマー素材事業

37,104

34,167

43,127

47,228

48,718

50,178

49,030

52,640

高機能材料事業

22,345

24,160

23,693

25,267

25,159

28,923

26,232

26,477

その他

10,559

10,026

12,520

13,872

13,990

13,616

15,251

14,965

営業利益

 

 

 

 

 

 

 

 

エラストマー素材事業

-117

946

4,488

6,966

6,069

4,773

5,088

2,693

高機能材料事業

4,814

4,933

6,579

5,634

7,761

6,258

6,377

5,964

その他

222

237

635

1,062

581

715

635

387

*単位:百万円

 

【エラストマー素材】
通期では増収増益。
主原料価格上昇に伴う販売価格改定が進み増収。海上運賃上昇や修繕費用増などのマイナス要因はあったものの、出荷増、販売価格改定効果で営業利益も増加した。
第4四半期は、合成ゴムや化成品の販売価格改定で前期比・前年同期比とも増収となったが、ラテックス販売価格の鎮静化、海上運賃上昇、修繕費増などで営業利益は前期比・前年同期比とも減益。

 

*合成ゴム
自動車減産の状況下でも需要は依然として堅調であり、国内・輸出・海外子会社とも販売は好調に推移。売上高、営業利益ともに前期を大幅に上回った。

 

*ラテックス
総じて需要が堅調だったことから全体の売上高は前期を上回ったが、医療・衛生用手袋向け市況の沈静化と原料及び物流費高騰の影響が重なり、営業利益は減益。

 

*化成品
需要は堅調に推移したものの、水島工場及びタイ子会社の定期検査による出荷調整に加え、輸出コンテナの不足、船繰り難の影響等も重なり、販売数量は前期を下回った。一方で、原料及び物流費高騰分の販売価格改定が進んだため、全体の売上高、営業利益ともに前期を上回った。

 

【高機能材料】
通期では増収増益。
電池材料、光学フィルムをはじめとして高機能樹脂、高機能ケミカル事業ともに需要は堅調に推移し増収。光学樹脂・電池材料等の出荷量増加、光学樹脂・化学品の価格改定、生産増に伴う製造固定費減、原価低減などで増益。
第4四半期は、電池材料など高機能ケミカルが好調で前期比・前年同期比とも増収、前年同期比で増益となるも、海上運賃の上昇、新規開発費用増などで前期減益。

 

(品目別出荷量の動向)
*電池材料
通期の出荷量は前年比45%の増加。
EV向けは、同77%の増加。中国・欧米向けを中心にEV・PHV市場の拡大に伴い需要は堅調である。
民生他向けは同8%の減少。家電およびモバイル端末向け需要は前期比で出荷は増加しているが一服感が継続している。
産業用途(ESS)は前期比で出荷は増加しており、今期も需要は堅調と見ている。

 

*光学樹脂
通期の出荷量は前年比8%の増加。
光学用途向けは同12%増加。半導体不足によりプリンター向け需要は鈍化したが、セキュリティカメラ向け需要が堅調。
医療その他向けは、同5%増加。プレフィルドシリンジ等医療包装容器向け需要が堅調。第4四半期は、生産・物流要因による前期の出荷減分のまとめ出荷により、前期比76%増加となった。

 

*光学フィルム
通期の出荷量は前年比4%の増加。
中小型向けは同8%の減少。半導体不足によるスマホ・タブレット減産により出荷量が減少した。23年3月期第1四半期からの次期モデル立ち上げに向け回復を見込んでいる。
大型向けは同8%の増加。中国市場向けを中心に需要は堅調である。液晶パネル市場の状況変化によるフィルムへの影響は軽微と見ている。

 

【2-3 財政状態】

◎主要バランスシート

 

21/3月末

22/3月末

増減

 

21/3月末

22/3月末

増減

流動資産

233,248

274,947

+41,699

流動負債

113,853

138,653

+24,800

 現預金

51,970

47,271

-4,699

 買入債務

65,921

82,994

+17,073

 売上債権

75,688

82,498

+6,810

 短期有利子負債

8,960

18,960

+10,000

 棚卸資産

67,354

93,076

+25,722

固定負債

36,722

24,172

-12,550

固定資産

215,573

209,713

-5,860

 長期有利子負債

10,000

0

-10,000

 有形固定資産

117,579

118,299

+720

負債合計

150,575

162,824

+12,249

 無形固定資産

3,293

3,249

-44

純資産

298,246

321,836

+23,590

 投資その他の資産

94,701

88,166

-6,535

 自己資本

295,269

318,623

+23,354

資産合計

448,821

484,660

+35,839

負債・純資産合計

448,821

484,660

+35,839

*単位:百万円。売上債権には電子記録債権を、買入債務には電子記録債務を含む。

 

売上債権、たな卸資産の増加などで、資産合計は前期末に比べ358億円増加した。
買入債務の増加などで負債合計は同122億円の増加。
利益剰余金及び為替換算調整勘定の増加などで純資産は同236億円の増加。
この結果自己資本比率は前期末より0.1ポイント低下し65.7%。D/Eレシオは0.06で前期末と変わらず。

 

3.2023年3月期業績予想

【3-1 業績予想】

 

22/3期

構成比

23/3期(予)

構成比

前期比

売上高

361,730

100.0%

400,000

100.0%

+10.6%

営業利益

44,432

12.3%

45,500

11.4%

+2.4%

経常利益

49,468

13.7%

48,000

12.0%

-3.0%

当期純利益

33,413

9.2%

34,500

8.6%

+3.3%

*単位:百万円

 

増収・営業増益を予想
売上高は前期比10.6%増の4,000億円、営業利益は同2.4%増の455億円を予想。
エラストマー素材は増収減益、高機能材料は増収増益を見込んでいる。
物流状況は前期第4四半期同等、新型コロナウイルス感染症、ロシア・ウクライナ情勢による調達、生産の影響は軽微と見ている。
為替および原材料価格の前提は、USD=120円、€=135円、原材料価格は国産ナフサ=60,000円、アジアブタジエン=1,000USD。
配当は前期比8円/株増配の36円/株の予想(中間18円/株、期末18円/株)。予想配当性向は22.1%。

 

【3-2 セグメント別動向】

 

22/3期

23/3期(予)

前期比

売上高

361,730

400,000

+10.6%

エラストマー素材事業

200,566

217,000

+8.2%

高機能材料事業

106,791

123,000

+15.2%

その他の事業

57,822

63,200

+9.3%

消去または全社

-3,449

-3,200

営業利益

 

 

 

エラストマー素材事業

18,623

16,000

-14.1%

高機能材料事業

26,360

30,000

+13.8%

*単位:百万円

 

(1)エラストマー素材事業
増収減益予想。
*合成ゴム
主原料価格高騰による販売価格改定を実施し増収も、主力工場の定期修繕による製造固定費増等の影響で減益の予想。

 

*ラテックス
手袋用ラテックス価格が沈静化し、減収減益を予想。

 

*化成品
主原料価格高騰による販売価格改定を実施。加えて前期に主力工場の定期修繕が完了したため製造固定費が減少。増収増益を予想。

 

 

(2)高機能材料
増収増益予想。
*光学樹脂
光学・医療その他用途向けいずれも需要は堅調で増収増益予想。

 

*光学フィルム
大型・中小型向けいずれも需要は堅調だが、大型新ライン向け労務費等生産能力増強費用増加等の影響で、増収減益予想。

 

*電池材料
EV市場拡大に伴い需要は堅調で、増収増益予想。

 

4.中期経営計画活動状況

22年3月期を初年度とする中期経営計画を推進中である。

 

【4-1 新中期経営計画の全体像】

企業理念は「大地の永遠と人類の繁栄に貢献する」。
「大地から原料を得て永遠に栄える」という意味を込めた社名にふさわしく、独創的な技術・製品・サービスの提供を通じ、「持続可能な地球」と「安心で快適な人々のくらし」に貢献することを使命とする。

 

そのうえで、2030年のビジョンを「社会の期待と社員の意欲に応える会社」とした。
また、全社員の具体的な行動指針である「大切にすること」として「まずやってみよう」「つながろう」「磨き上げよう」の3つを掲げた。

 

SDGsのうち、9つの目標実現に注力し、社会の期待に応える会社を目指す。

(同社資料より)

 

今回の新中期経営計画は、この2030年のビジョン実現に向けた基盤づくりの2年間という位置づけである。

 

【4-2 2030年の目指す姿と全社戦略】

2030年のビジョン実現に向け、3つの全社戦略を立案した。

(同社資料より)

【4-3 全社戦略の概要と活動状況】

(1)全社戦略
①カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーを実現する「ものづくり」への転換を推進する
2050年を見据えたカーボンニュートラルマスタープランを策定し、長期的な「ものづくり」転換に必要な研究開発・技術革新を粘り強く実施する。

 

2021年度は、第1次カーボンニュートラル マスタープランを作成した。
CO2総排出量(Scope1+2の製造に伴う排出量)を2019年の77.8万トンから、省エネプロセスの革新、燃料転換などにより2030年には2019年度比単体の50%削減し、38.9万トンとする。
Scope3(購入原料に伴う排出量および製品仕様に伴う輸送を含んだ排出量の合計)については今後設定する。

 

◎具体的な取り組み
2022年4月より、国内の各工場で以下のような取り組みを開始した。

高岡工場

・購入電力の100%再生可能エネルギー化

・カーボンニュートラルLNG 購入

徳山工場

・購入電力:100%再生可能エネルギー化

・蒸気:グリーン熱証書の購入

氷見二上工場

・購入電力:100%再生可能エネルギー化

敦賀工場

・購入電力:100%再生可能エネルギー化

 

「炭素資源循環型の合成ゴム基幹化学品製造技術の開発」「光に適合したチップ等の高性能化・省エネ化不揮発メモリ開発」の2つの実証事業が、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業に採択された。

 

前者は世界的なタイヤ需要の増加に応じた使用済みタイヤ・原材料の有効利用を目指すもので、再生可能炭素資源からブタジエン・イソプレンを高い収率で製造する技術を確立する。
後者は、急増する大規模データセンターの電力消費量の削減という社会課題に対し、カーボンナノチューブ(CNT)を用いた不揮発メモリでデータセンターの電力消費量を削減するものである。
いずれも同社の技術的な優位性を活かしてカーボンニュートラルとサーキュラーエコノミー実現への貢献を目指す。

 

②既存事業を「磨き上げる」+新規事業を「探索する」+顧客価値創造に向けたデジタル基盤の整備
2030年の目標は、SDGs貢献製品の売上高比率50%、既存事業ROIC 9.0%、新規事業売上高2020年3月期比600億円増加。
2021年の既存事業のROIC (※)は9.7%と目標を上回っているが、今後の事業拡大を見据えた設備投資の影響を精緻化した上で、水準を見直すべきかどうか判断するとして、現時点で目標の変更は予定していない。新規事業売上高は未だ金額は少額であった。SDGs貢献製品については認定制度を検討中である。
※ROIC=連結税引後営業利益÷(有利子負債期首期末平均+純資産期首期末平均)

 

◎具体的な取り組み
*既存事業を「磨き上げる」
「高機能樹脂と電池材料の強化」「既存SBU(Strategic Business Unit:ストラテジック・ビジネス・ユニット、戦略的事業単位)の勝ち残り」を要の方策と位置付けている。

 

「高機能樹脂の強化」
水島工場の能力増強は2021年7月に完工し、生産能力は年間4,600トン増加。
高岡工場のリサイクルプラントは年間6,000トン増強を計画しており、2024年8月稼働開始に向け準備中。
2024年8月以降、年産47,600トン体制を目指し、さらなる能力増強を検討している。

 

「電池材料の強化」
タイのZeon Chemicals Asiaにおいてリチウムイオン電池向けバインダーの新拠点設立を決定した。2024年の生産開始を目指し準備中である。

 

「既存SBUの勝ち残り」
各SBUにおける取組身は以下のとおりである。

水素化ニトリルゴム

新用途展開に向け、高岡工場の生産能力を約10%増強し、年産約9,900トンとする。2023年の稼働を予定している。

光学フィルム

敦賀工場で世界初の溶融押出法による生産を行う。生産能力を5,000万㎡増強し、年産2億69百万㎡を目指す。2023年10月稼働予定。

リーフアルコール

水島工場の生産能力を400トン増強し、年産1,600トンとする。2022年秋完工予定である。世界シェアNo.1のポジションを更に強固なものとする。

 

*新規事業を「探索する」
「CASE・MaaS」「医療・ライフサイエンス」「情報通信」「省エネルギー」を重点分野に、「重点分野を定めてリソースを集中投入」する。

 

重点分野

具体的な素材・製品

医療・ライフサイエンス

COP(シクロオレフィンポリマー)を用いた検査分析用途部材・マイクロ流路チップ

CASE・MaaS

自動車マルチマテリアル用接着剤(くっ付かない物質同士を接着する新開発素材)

情報通信

新開発耐熱COPを用いたフィルム回路基板・半導体容器

省エネルギー

シート系熱界面材料(TIM)、ソーラーカード

 

◎具体的な取り組み
*Aurora Microplates 社(米国)を買収
2022年2月、シクロオレフィンポリマーを活用した新規事業機会の獲得を目的とし、生化学分析向けマイクロウェルプレートの販売を行うAurora Microplates 社(米国)を買収した。
日本ゼオンのシクロオレフィンポリマー(製品名ZEONEXⓇ、ZEONORⓇ)は、「低自家蛍光」「高光線透過率」「生体分子低吸着」「低不純物」といった特性を持つことから、バイオ医薬品容器、分析用デバイスやマイクロ流路チップなどの生化学分析用途材料として採用されている。
今回の買収により、Aurora Microplates 社が保有するブランドや欧米を中心とした顧客ネットワークを活用するとともに、日本ゼオンの技術力を活かした新規事業の発展を図る。

 

*米国に投資子会社「Zeon Ventures Inc.」を設立
2022年2月、スタートアップ企業への戦略的投資を通して新規事業の創出を加速させるために、米国カリフォルニア州(シリコンバレー)に投資子会社「Zeon Ventures Inc.」を設立した。
上記4成長分野におけるスタートアップ企業に対し 50 百万米ドル規模の投資を行うとともに、同社グループが保有する研究リソースおよび販売チャネル等の資産を共有することで投資先企業のさらなる成長を支援する。

 

*カーボンナノチューブを用いたシートによるリチウムデンドライトの抑制技術を開発
2022年1月、国立研究開発法人 産業技術総合研究所と共同で、スーパーグロース法により製造される単層カーボンナノチューブ(SGCNT)を用いて作製したシートにより、リチウム金属の充放電時に発生するデンドライト(樹枝状結晶)を抑制する技術を開発した。
リチウムイオン二次電池には「容量」「寿命」「安全性」「充放電レート」「生産性」の5つの性能が求められるが、今回開発した技術により、リチウム金属電極(負極)の大幅な寿命向上を達成し、高エネルギー密度、大容量のリチウム金属電極(負極)が可能となる。SGCNT シートは量産が可能であり、同社では高性能なリチウム金属電極の実用化を目指す。

 

③個々の強みを発揮できる「舞台」を全員で創る
2030年の目標は従業員エンゲージメント指数75%、外国人/女性役員比率30%(取締役と監査役を合わせ、社内外を問わない)、女性従業員比率20%程度、女性管理職比率20%程度。

 

2021年の数値は、従業員エンゲージメント指数52%、女性従業員比率13%、女性管理職比率5%であった。
2021年は、「つながり・磨き上げる場」とするため本社オフィスをリニューアルしたほか、自律的なキャリアデザイン構築を目指し「職務の透明化」に着手した。また、公募制DI&B(ダイバーシティ・インクルージョン&ビロンギング)推進プロジェクトの一環として、DI&B Weekを試行したほか、社内広報サイトを制作した。
新しい概念を取り入れて より多くの選択肢を提供することで 目標を目指す考えだ。

 

(2)検討項目など
「投資判断基準としてのICP(※)の導入」「SDGs貢献製品の認定制度の導入」「取締役会の多様性確保」「財務戦略の明確化」などが2030年の目標を達成するための検討項目と認識している。
※ICP(インターナルカーボンプライシング、Internal carbon pricing)
企業が独自に炭素価格を設定し、組織の戦略や意思決定に活用する手法。自社が排出する炭素を独自の基準で金銭価値化し、コストやインセンティブとして可視化することにより、自社の経営を低炭素、脱炭素にシフトしていくために活用される。

5.今後の注目点

二度の上方修正を行い2桁の増収増益となった22年3月期に続き、今期23年3月期も増収・営業増益を見込んでいる。
原材料価格上昇、価格改定の浸透、円安の進行、国際物流の混乱など今期も外部環境においては不透明な要因が多数あるが、同社の競争優位性を活かして2期連続増収。3期連続営業増益を達成できるか注目していきたい。
また、両事業とも生産能力増強を進めており、中期経営計画は確実に進捗しているようだ。着実に上昇している高機能材料事業の収益性が今後どの程度まで高まるかにも注目していきたい。

 

 

<参考1:中期経営計画>

22年3月期を初年度とする中期経営計画を推進中である。

 

【1-1 前中計の総括】

前中計「SZ-20 PhaseIII」では初年度(2019年3月期)に過去最高売上を実現し、最終年度2021年3月期には連結売上高5,000億円以上という目標を掲げていたが未達となった。
エラストマー素材事業では米中貿易摩擦や新型コロナ感染拡大による世界経済停滞が影響した。一方高機能材料事業では光学樹脂、光学フィルム、電池材料が堅調に推移した。

 

【1-2 新中期経営計画の全体像】

企業理念は「大地の永遠と人類の繁栄に貢献する」。
「大地から原料を得て永遠に栄える」という意味を込めた社名にふさわしく、独創的な技術・製品・サービスの提供を通じ、「持続可能な地球」と「安心で快適な人々のくらし」に貢献することを使命とする。

 

そのうえで、2030年のビジョンを「社会の期待と社員の意欲に応える会社」とした。
また、全社員の具体的な行動指針である「大切にすること」として「まずやってみよう」「つながろう」「磨き上げよう」の3つを掲げた。

 

SDGsのうち、9つの目標実現に注力し、社会の期待に応える会社を目指す。

(同社資料より)

 

今回の新中期経営計画は、この2030年のビジョン実現に向けた基盤づくりの2年間という位置づけである。

 

【1-3 2030年の目指す姿と全社戦略】

2030年のビジョン実現に向け、3つの全社戦略を策定した。

(同社資料より)

 

【1-4 全社戦略の概要】

(1)カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーを実現する「ものづくり」への転換を推進する
2050年を見据えたカーボンニュートラルマスタープランを策定し、長期的な「ものづくり」転換に必要な研究開発・技術革新を粘り強く実施する。
CO2総排出量(Scope1+2の製造に伴う排出量)を2013年の72.2万トンから削減する。
具体的には、バイオマスから原料であるブタジエンの生成などに取り組む。

 

2030年の目標値は、日本化学工業協会の指針等を踏まえ今後設定する。

 

(2)既存事業を「磨き上げる」+新規事業を「探索する」+顧客価値創造に向けたデジタル基盤の整備
2030年の目標は、SDGs貢献製品の売上高比率50%、既存事業ROIC 9.0%、新規事業売上高2020年3月期比600億円増加。

 

①既存事業を「磨き上げる」
「高機能樹脂の強化」に関しては、「成長市場を牽引するタイムリーな能力増強投資」と「レジリエンス強化」に注力する。
前者については、水島工場の生産能力を年間生産量37,000トンから41,600トンに引き上げる。2021年7月完工予定である。
後者については、水島工場への依存度を引き下げるために新たな生産拠点の検討を進める。

 

「電池材料の強化」に関しては、リチウムイオン電池に求められる5大性能「寿命・容量・生産性・安全性・充放電レート」の向上に貢献する新製品群を投入する。
その一つである、セパレータ用接着剤「AFL®」は、長寿命と高生産性を実現するもので、高成長を期待している。

 

「既存SBU(Strategic Business Unit:ストラテジック・ビジネス・ユニット、戦略的事業単位)の勝ち残り」に関しては、資源や設備の利用効率を向上させ持続可能性を追求する。
エラストマー素材においては「差別化製品の強化」「各生産ラインの効率化」を、高機能材料においては「強みを更に強くする製品開発と能力増強」に取り組む。

 

 

②新規事業を「探索する」
「重点分野を定めてリソースを集中投入」については、「CASE・MaaS」「医療・ライフサイエンス」「情報通信」「省エネルギー」を重点分野としている。

 

重点分野

具体的な素材・製品

医療・ライフサイエンス

COP(シクロオレフィンポリマー)を用いた検査分析用途部材・マイクロ流路チップ

CASE・MaaS

自動車マルチマテリアル用接着剤(くっ付かない物質同士を接着する新開発素材)

情報通信

新開発耐熱COPを用いたフィルム回路基板・半導体容器

省エネルギー

シート系熱界面材料(TIM)、ソーラーカード

 

 

③顧客価値創造に向けたデジタル基盤の整備
既存事業、新規事業についての顧客価値を創造し、目標を実現するうえで、DXの推進が不可欠である。

 

「デジタル基盤の整備:人材育成(パワーユーザー育成など)、既存事業のシミュレーション高度化、スマート工場の推進」

「経営・事業マネジメントの変革:市場・事業のグローバルリアルタイム把握」

「顧客価値の創造:MI(※)・AIによるビジネスモデルの変革」

 

という段階を踏み、2030年に向けて変革を進めていく。
※MI:マテリアルズ・インフォマティクス。統計分析などを活用したインフォマティクス(情報科学)の手法により、材料開発を高効率化する取り組み。

 

 

 

(3)個々の強みを発揮できる「舞台」を全員で創る
2030年の目標は従業員エンゲージメント75%、外国人/女性役員比率30%(取締役と監査役を合わせ、社内外を問わない)。
働き方の改革、育児介護支援、キャリアデザイン、リカレント教育、職場対話・同好会支援など、従業員の「Well-being(幸福)」を実現するため、より多くの人生の選択肢を提供する環境を創出し、上記目標を達成する。

 

 

【1-5 2030年の財務目標および 株主還元】

新規投資による事業拡大と資本効率向上の両立を目指す。
既存事業ROIC 9.0%、新規事業売上高 2020年3月期比600億円増加という目標達成に向け、2030年度までに累計で3,500億円の新規投資を計画している。
また同社は2010年度から2020年度まで増配を続けており、今後も継続的かつ安定的な株主還元を行っていく考えである。

 

<参考2:コーポレートガバナンスについて>

◎組織形態及び取締役、監査役の構成

組織形態

監査役設置会社

取締役

6名、うち社外3名

監査役

5名、うち社外3名

 

◎コーポレートガバナンス報告書
最終更新日:2021年11月25日

 

<基本的な考え方>
当社は、株主をはじめとする多様なステークホルダーの利益を尊重し、利害関係を調整しつつ収益を上げ、企業価値を継続的に高めることを目指します。その実現のために、コーポレートガバナンスを通じて効率的かつ健全な企業経営を可能にするシステムを構築する努力を継続します。
また、内部統制システムを整備することにより、各機関・社内組織の機能と役割分担を明確にして迅速な意思決定と執行を行います。その経過および結果については適切な監視と情報公開を行い、経営の透明性の向上に努めます。

 

<実施しない主な原則とその理由>
(すべての原則について、2021年6月改訂後のコード(プライム市場向けの内容を含む)に基づき記載しております)
当社はコーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しております。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づいて開示している主な原則>

原則

開示内容

【原則1-4 いわゆる政策保有株式】

・他社の株式を政策保有するにあたっては、その保有が取引先、地域社会その他のステークホルダーとの関係強化をもたらし、ひいては中長期的視点で当社の企業価値向上に資するものかどうか等を十分に検討します。

・このような検討を経て取得した株式については、毎年個別銘柄ごとに保有目的の適切性や保有に伴う便益およびリスクが資本コストに見合っているか等を精査し、保有の適否を検証します。2021年10月29日開催の取締役会において検証を実施し、いずれの銘柄についても保有が妥当であると判断いたしました。今後の検証において保有の意義を失ったと認められた銘柄につきましては、縮減の可能性の検討を進めてまいります。

・政策保有株式の議決権については、投資先企業の中長期的な企業価値向上の観点からその行使の判断を行います。

【補充原則4-11-1 取締役会のバランス・多様性および規模に関する考え方】

・取締役会は、知識・経験・専門性等のバックグラウンドが異なる多様な取締役で構成するものとし、その員数は、会議体として十分な審議を尽くし、迅速かつ合理的な意思決定を行うに適切な規模という観点から、定款の規定に基づき15名以内とします。

・社外の企業経営者や行政官経験者等、豊富な経験および見識を有する者による意見を当社の経営方針に適切に反映させるため、また、取締役会による独立かつ客観的な経営の監督の実効性を確保するため、業務執行に携わらない独立社外取締役を複数名選任します。

・当社の経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキルと、各取締役が有し、且つ当社がその発揮を特に期待するスキルの組み合わせの一覧(いわゆるスキルマトリックス)については、当社コーポレートレポート(https://www.zeon.co.jp/csr/report/)をご参照ください。

【原則5-1 株主との建設的な対話に関する方針】

・当社における株主との対話はIR・SR担当部署が主管し、管理担当役員が統括します。

・IR・SR担当部署は、当社内の関係部門と適宜情報交換を行い、株主に対する正確かつ偏りのない情報提供を行います。

・当社は、四半期毎の投資家向け説明会の開催、当社WEBサイトにて開示する決算説明資料の充実、個人投資家向け会社説明会への参加など、 個別面談以外の対話の手段の充実にも継続的に取り組みます。

・IR・SR担当部署は、株主との対話にて寄せられた意見について適宜整理・分析を行い、代表取締役に報告します。

・当社は、インサイダー取引・適時開示等管理規程に基づき、未公表の重要事実の管理を徹底し、情報漏洩のないよう株主との対話を行います。

 

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