(1716)第一カッター興業株式会社 インフラの補修・人材供給の強化

2022/04/14
 

 

高橋 正光 代表取締役社長

第一カッター興業株式会社(1716)

 

企業情報

市場 東証プライム市場
業種 建設業
代表取締役社長 高橋 正光
所在地 神奈川県茅ケ崎市萩園833番地
決算月 6月末日
HP https://www.daiichi-cutter.co.jp/

 

財務情報

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

総資産

純資産

ROA

ROE

19,337百万円

2,760百万円

2,936百万円

1,743百万円

17,991百万円

14,321百万円

17.5%

13.6%

*2021年6月期実績。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。ROAは総資産経常利益率。

 

目次

 

1.会社概要
2.トップインタビュー
3.課題・マテリアリティと取り組み
4.中期経営計画方針 2022年6月期-2024年6月期
5.財務・非財務データ
<参考>
(1)ESG Bridge Reportについて
(2)「ROESGモデル」について

1.会社概要

ダイヤモンド工法とウォータージェット工法による専門技術を強みとする社会インフラの維持補修工事を展開。ビルメンテナンスやIT機器のリユース・リサイクルも手掛ける。
ダイヤモンド工法は、工業用ダイヤモンドを使って道路や構造物の切断削孔を行うもの。従来のコンクリート破砕工法では、常に騒音や振動、粉塵等の公害を意識する必要があったが、ダイヤモンド工法は、安全に、スピーディーに、正確に、環境に影響を与える事なく工事を行う事ができる。
一方、ウォータージェット工法は、超高圧で水を噴射してコンクリートの結合を破壊する。鉄筋を傷める事なく、ピンポイントでコンクリート構造物の修繕補修が可能。

 

グループは、ワイヤーソーやコアボーリング工事を手掛ける(株)ウォールカッティング工業、海洋土木(水中での切断穿孔工事)に強い(株)光明工事、沖縄県に拠点を置く(株)新伸興業、建築関連のウォータージェット工法に強い(株)アシレ、及びリユース・リサイクル事業を手掛ける(株)ムーバブルトレードネットワークスの連結子会社5社と、持分法適用関連会社のダイヤモンド機工(株)等。
新規開設やM&Aにより子会社含め全国に23事業所を展開している。

 

【1-1. 沿革】

日本で最初に道路の切断機を導入した建設会社でアルバイトをしていた創業者が今後の需要拡大を予見し、1967年8月、神奈川県茅ケ崎市に「ダイヤモンド工法」によるアスファルト・コンクリート構造物の切断・穿孔工事を目的とし、同社を設立した。

 

当初は工事案件も少なかったが、建設省(現:国土交通省)が、道路の切断工事の際には安全性などの観点からカッターを使用することを義務付ける通達を発出したことが契機となり、仕事量が増大していく。
同業他社が自身の地元で事業を行っていたのに対し、同社は1969年6月に札幌営業所を開設したのを皮切りに、千葉、栃木、水戸、高崎などへ展開。同時に道路切断のみでなくコンクリート構造物の穿孔工事や切断工事など工事対象範囲の拡大も進めていく。顧客ニーズに迅速に対応する機動力、工事品質の高さ、工事に使用する材料や機械についての豊富な知識やノウハウなどが顧客に高く評価され業容は着実に拡大し、2004年には株式を日本証券業協会に店頭登録した。
2000年代に入り、M&Aによる工法の多様化や事業所の全国展開を一段と加速させ、2017年12月には東証1部に上場。
インフラ老朽化という日本が直面する社会的な課題解決に取り組んでいる。

 

【1-2. 企業理念】

新中期経営計画策定にあたり、リブランディング・プロジェクトを実施。コーポレートブランドをリニューアルするとともに、以下のようなTAGLINE(※)、PURPOSE、STATEMENT、MISSIONを掲げた。

 

 

 

 

 

TAGLINE 日本語:街の道路から宇宙まで 全ての社会インフラを綺麗にする会社です

英語:RESET AND GO

PURPOSE 平時も有事も社会インフラの安全を守り、安定した社会を支える。
STATEMENT 高度経済成長期に作った社会インフラの多くが改修の時期を迎えています。全国の道路、水道はもちろん、日々使っているビル、発電所やダムや鉄道など、一度止まってしまうと日常にも経済にも大きく影響を与えます。そうなる前に、私たち第一カッターは社会インフラ改修作業の一番手として新しいものを作る前に古いものを取り除き、再起動させる仕事をしています。

私たちは日常業務の中で安全安心だけでなく、作業効率性、人材育成制度、技術革新を行い、若い働き手が少なくなったとしても多様な人が働ける環境作りを目指します。世界のどこかで違う言葉をもつ人とも共同し、誰もが働きやすい環境を目指すことで、ゆくゆくは危険な場所には人が行かずにロボットで作業できるようになるかもしれません。

そして、日本では天災が頻発し、災害対応も日常的になってきました。日常的に鍛錬することで、有事における作業でも本領を発揮し、危険な場所でも安全に作業します。

私たちはただの職人では止まらない。日々の仕事に革新を持たせ、社会を支えることに繋げてく。世界でも宇宙でも第一に呼ばれる会社を目指します。

MISSION 性別国籍を問わず、職人が安全で働きやすい環境を作り、業界の発展に寄与する。

 

高効率/低環境負荷となる施工技術を磨き、社会と顧客の課題に答える。

 

独りよがりにならず、かっこいい人・組織を目指し社会や家族に誇れる会社である。

 

※TAGLINE
企業のコンセプトや理念を表したり、その企業や製品、サービスがどんな価値を提供しているかを端的にあらわしたりする言葉

【1-3. 事業内容】

事業は、切断・穿孔工事事業、ビルメンテナス事業、及びリユース・サイクル事業に分かれる。
切断・穿孔工事業は、同社、(株)ウォールカッティング工業、(株)光明工事、(株)新伸興業、(株)アシレ、ダイヤモンド機工(株)が手掛け、ビルメンテナス事業は同社が、リユース・リサイクル事業は(株)ムーバブルトレードネットワークスが、それぞれ手掛けている。

 

 

 

<切断・穿孔工事事業>
切断・穿孔工事とは、道路等の各種舗装、及びコンクリート構造物の解体、撤去等に必要な切断工事、穿孔工事の事。
同社グループの切断・穿孔工事事業では、工業用ダイヤモンドを使用したダイヤモンド工法(第一カッター興業株式会社の登録商標)、及び水圧を利用したウォータージェット工法を中心に事業を展開している。
切断・穿孔工事で発生する排水は回収され、大型中間処理施設で中和され切断水として再利用される。また、切断されたコンクリート等の廃棄物は脱水処理後、コンクリート等の原料へと再生される。

 

グループで全国をカバーしており、同社が東日本全域に、(株)アシレが神奈川・大阪に、(株)ウォールカッティングエ業が主に東海地方に、(株)光明工事が大阪・中四国地方に、(株)新伸興業が沖縄県に、ダイヤモンド機工(株)が九州地方に、それぞれ営業基盤を有している。

 

同社グループは専門工事業者として、インフラの建設工事や維持補修工事の一翼を担っており、主な得意先は総合建設業者、道路建設業者、及び設備業者等。得意先が工事を受注し、コンクリート等の切断穿孔工事を同社グループに発注する。得意先は公共事業関連工事を中心に事業展開しているため、同社グループが施工する工事も大半が公共事業関連工事である((株)アシレは民間分野の客層が大半)。
一方、公共事業関連工事以外の工事としては、化学工場・石油プラント・発電所等のメンテナンスやウォータージェット工法による洗浄等が挙げられる。工事を種類別に分類すると、土木工事、建築関連工事、都市土木工事、道路・空港工事、生産設備メンテナンスに分類される。

 

◎主要取引先
大成建設、大林組、鹿島建設、ショーボンド建設、鉄建建設、東鉄工業、JFEエンジニアリング、IHIインフラシステム、野村不動産パートナーズ、大成ロテック、鹿島道路、山九、三菱地所コミュニティ、三井不動産レジデンシャルサービス、NIPPO、日本道路、清水建設、三井住友建設他(順不同)。

 

◎主な工事内容

土木工事

橋梁工事、港湾工事、ダム関連工事といった、大型構造物の補修・撤去工事を行っており、水中など特殊な環境下での切断・穿孔作業の場合にも、専属のオペレーターによる施工を行っている。

建築関連工事

建物解体工事、免震工事、耐震工事、改修工事、新築工事といった、解体・リニューアル工事に伴う各種作業を行っている。また、周辺施設への環境負荷軽減にマッチした施工方法で、従来工法では困難な施工にも対応している。

都市土木工事

鉄道工事、廃棄物処理施設工事、上下水道施設工事といった、都市基盤施設における土木関連工事を行っている他、計画立案から施工までトータルで対応する環境関連工事も手掛けている。

道路・空港工事

道路の補修等に伴う各種切断や表面処理、劣化コンクリート除去、空港での滑走路グルービングや灯火設置のためのコアドリリング等作業を行っている。グルービングマシンやコア特装車といった特定条件での切断・穿孔作業が可能な事が同社の強みである。

生産設備メンテナンス

生産設備メンテナンスでは、工場メンテナンスに伴う各種設備洗浄、改造工事に伴う無火気切断、床の塗り替え、及び下地処理等を行っている。同社では産業洗浄技能士を常駐させる事で、作業の品質と安全を確保している。

 

◎主要なテクノロジー:独自の工法
*ダイヤモンド工法
工業用ダイヤモンドを使って道路や構造物の切断・削孔を行う。フラットソーイング、コアドリリング、ウォールソーイング、ワイヤーソーイング、グルービングの5つの基本工法をもとに、独自のアイデアで多種多様なダイヤモンド工法を行っている。
「ダイヤモンド工法」は同社の商標登録であり、業界No.1の実績を有している。

 

ダイヤモンド工法に用いられる工具には、「ダイヤモンドブレード」、「ダイヤモンドビット」、「ダイヤモンドワイヤー」があり、それぞれダイヤモンド砥粒を使用している。
「ダイヤモンドブレード」は、ダイヤモンド砥粒をメタルボンドで焼き固めた(焼結した)チップを基盤の周りに付けたもの。
「ダイヤモンドブレード」を高速で回転させる事で対象物を切断する(建材の種類や切断の深さ等に応じてサイズを使い分ける)。「ダイヤモンドビット」は筒状のチューブの先端にダイヤモンドチップの付いた刃先を付けたもの。高速で回転させ対象物を穿孔する(穴の大きさや穿孔の深さによって様々なビットを使い分ける)。
「ダイヤモンドワイヤー」はダイヤモンド砥粒をメタルボンドで焼結したビーズをワイヤーに一定間隔で装着したもの。対象物に制約がなく、複雑な形状物であっても切断できる。

 

フラットソーイング
一般に床・床版・舗装のような水平面の切断に最適な工法。ダイヤモンドブレードを機械に取り付け、機械の進行に合わせてオペレーターが後方から歩きながら一人で操作する。目地切り、傷んだ舗装の打ち替え・撤去目的のコンクリート部分の切断、電気・電話・ガス・水道・下水道など舗装下に管を敷設する際の舗装部分の切断等に用いられている。動力はガソリン・ディーゼル・電気・油圧等で、切断によって過熱した切れ刃を冷却するために、刃先に水を送りながら切断する(圧縮されたエアーを冷却に使う乾式フラットソーイングもある)。

 

(同社Webサイトより)

 

コアドリリング
ダイヤモンドビットによって被穿孔物に工具を貫入させて孔をあける工法。正確な円形切断を求められる現場で使用される。給排水管・電気配線・空調設備のダクト、耐震補強等、どのような径の孔でも容易に穿孔できる。強度検査用サンプル採取や、アンカーボルト用の穿孔、厚い壁の一部を除去する場合のラインカット等、仕上がりの精度が特に求められる現場で活躍する。

 

(同社Webサイトより)

 

ウォールソーイング
壁や斜面・床面等に走行用ガイドレールをアンカーボルトで固定し、ダイヤモンドブレードの高速な回転と駆動機のレール上の移動によって対象物を切断する工法。ドアの開口部や換気口・窓の設置に多用され、直角・斜め共に切断可能。レールに沿って切断するため、正確に開口部を設ける事ができる。また遠隔操作も行えるため、どのような状況下においても安全な作業が可能。本体が小型・軽量なため持ち運び自在で、ビルや高速道路・地下鉄等、作業スペースの狭い現場においても優れた機動力を発揮する。

 

(同社Webサイトより)

 

ワイヤーソーイング
ワイヤーソーに一定の張力を加えながら、油圧式またはエンジン式の駆動機により高速回転させて対象物を切断する工法。対象物の形状に左右される事なく、厚大・複雑な構造物も容易に切断可能。また遠隔操作や自動運転もできるため、水中・高所・地下等あらゆる環境下において安全かつ自由に施工できる。

 

(同社Webサイトより)

 

グルービング
硬化した路面に車輌の走行方向と平行あるいは直角方向に切削を行い、複数の浅い溝(安全溝)を同時に施工する工法。専用のグルービングマシンを用いて、ドラムと呼ばれる筒状の装置に複数のダイヤモンドブレードを所定のピッチに重ね、セットしたものを回転させ路面を切削する(滑り抵抗や排水性を向上させる事で路面を改善する)。ドライ工法とウェット工法があり、滑走路や舗装道路、急斜面に施工する事で路面使用時のスリップを未然に防止する。1956年にイギリスの空港で初めて施工され、世界に広がった。

 

(同社Webサイトより)

 

*ウォータージェット工法
水を高圧水発生装置によって加圧・圧縮し、ノズルから噴射される高速水噴流で、はつり(コンクリート製品を、削る、切る、壊す、穴を開ける等の作業)・洗浄等を行う。対象物に与えるひずみが少なく、マイクロクラックがほとんど発生しない、低振動等の特徴を有し、環境に配慮した優れた工法として注目されている。

 

同社では、土木・建築や産業メンテナンス、また環境関連など幅広い分野でウォータージェット工法を活用している。
土木・建築では、コンクリート除去処理、成型(コンクリート壁の開口、コンクリート構造物の部分除去)、表面処理、塗膜除去処理、洗浄処理等で使われ、産業用メンテナンスでは、タンクリアクター等のプラント機器の清掃作業(スケール除去等)で使われる。また、金属切断(アブレイシブ切断)もできるため、火気厳禁の場所での改修工事にも対応する。

 

(ウォータージェット工法の特長)

振動が少ない ブレーカー、削岩機等の打撃破砕とは異なり、ノズルから噴射された超高圧水のエネルギーによってコンクリートのセメントモルタル結合を破砕するメカニズムが特徴。
構造物への影響が最小限 対象物に与える変形、ひずみ、残留応力が少なく、マイクロクラックもほとんど発生しないため、構造物への影響を最小限に抑えた作業が可能。
ピンポイントで除去 適切な圧力と流量の設定により、鉄筋を傷めずコンクリートの劣化部分だけをピンポイントで除去できる。
塗膜や付着物だけを除去 圧力の調整によって、対象物の塗膜や付着物だけを除去できる。
遠隔操作 対象物とノズルが接触しないため機械の遠隔操作が容易。曲線・曲面における自由な作業が可能となり、均一な品質が得られる。

 

<ビルメンテナス事業>
同社単独の事業である。集合住宅やオフィスビル等において、排水管清掃、貯水槽清掃、給水設備点検、床清掃、ファイバースコープ調査、機械式ピット清掃等を行っている。

 

<リユース・リサイクル事業>
(株)ムーバブルトレードネットワークス、持分法適用非連結子会社1社、持分法非適用関連会社2社の事業である。リユース事業では、主に一般企業からタブレット、パソコン、サーバー、液晶ディスプレイ等の中古IT関連機器・OA機器を仕入れ、データ消去及び補修・改修を行った後、主に法人に対してこれらの機器を販売している。また、主に法人向けにIT関連機器のデータ消去を行うサービスや、OA機器のオフィス設置サービスも行っている。リユースが難しい中古品については解体した後、中間処理を行い再資源化を行うマテリアルメーカー・素材業者に販売している。一般的な素材から金・銀・コバルト等の希少金属まで再資源化を行う業者への販売を行う。

 

【1-4. ビジネスモデル、特徴・強み】

(1)ビジネスモデル「下請け専業で受注件数を拡大」
同社は「元請け」にはならず、「下請け」専門で事業を展開している。
一般的には多重下請け構造にある建設業においては、収益性が高い「元請け」を志向するほうが有利ではないかとも見られがちである。しかしながら、「元請け」は一つの工事案件の川上から川下まで全てに目を配らせる必要があるが、「下請け専業」である同社は最も強みを持つ工事のみを手掛けることができるため、仕事の手離れが良い。結果的に、多くの新規工事を受注していくことが可能であり、スケールアップを目指しやすい。

 

(2)特徴・強み
①「全国展開で業界ナンバーワンの実績」
同社は専門工事業でニッチな業態であるため、売上・利益の規模を追求していくには一定の工事件数や顧客数を確保していく必要があるため、早くから全国展開を進めてきた。
現在全国に23の営業所を有し、協力会社とのネットワークも活用して、地元の工務店からスーパーゼネコンまで約7,000の顧客から受注した年間約6万件の工事を手掛けているが、全国展開を行っているのは同社のみであり、この工事件数を手掛けることができるのも同社ならでは。
多様な顧客から受注することでリスク分散が出来ている点も同社の大きな強みである。

 

(同社提供)

 

 

②「ヒト」のいる価値を追求
自社のコアコンピタンスは「ヒト」と考えている。
労働集約型産業である建設業界においては、少子高齢化の流れの中で現在約340万人の建設従事者は2030年にはその1/3が高齢化によって離職すると言われており、その影響は極めて大きい。
そうした中、10年後には「ヒト」がいることの価値は今とは比較にならないほど高まることは確実であり、ヒトを有している企業の競争優位性は飛躍的に向上すると考えている。
そのため、同社では「優秀な人材を供給することが社会的な責務である」との認識の下、「ヒト」を大事にし、いかにして多くの優秀な人材を確保するかに向けて取り組んでいる。
省力化も今後のテーマではあるが、消極的に採用を抑制するのではなく、「ヒトがいることの価値」を強く意識し、競争力強化と社会的な責務を追求していきたいと考えている。

 

③幅広い工種を高水準な技術でワンストップで対応
同業界には約1,800社の企業が存在しているが、同社のように多くの人材を有して、「切る」「はつる」「洗う」「剥がす」「削る」をキーワードに、特化した技術を幅広く提供している企業は数少なく、その点を多くの顧客に高く評価されている。
一つの現場において、道路を切る、コンクリートに穴をあける、柱を撤去するといった作業が必要な場合、それぞれの作業に適した工事業者を指定する必要はなく、幅広い工種を高水準な技術でワンストップ対応できる同社は、大きなアドバンテージを有している。

 

④協力会社とのネットワーク
協力会社とのネットワークも同社の競争優位性における重要なポイントである。
同社では協力会社を重要なパートナーと認識しており、社内でも「下請け」と呼ぶことを禁じている。
現在、自社施工と協力会社による施工を凡そ半分ずつとしており、これによって工事量が減少している状況でも自社施工は常に高稼働を維持でき、反対に突発的な工事が発生しても協力会社により対応することができる。全国展開を可能としているのも協力会社とのネットワークによるもの。
協力会社は業界トップの同社の仕事を手伝うことに意義を感じており、同社もそれに甘えることや上から目線で対応することなく、共存共栄で社会的課題解決に取り組んでいる。

(同社提供)

 

【1-5. 価値創造のフロー】

(作成:株式会社インベストメントブリッジ)

 

同社は、業界トップ企業として、「ヒト」をコアコンピタンスに高い技術力で、老朽化した日本の社会インフラの補修・修繕のための各種工事を手掛け、国民に安全・安心な生活を提供するとともに、持続的企業価値向上を実現している。

2.トップインタビュー

●社会的責任、社会的存在意義について

Q.近年、社会全体が持続可能な成長を目指す中で、その重要なプレーヤーの一員である企業の理念、ミッション、社会的存在意義が重視されています。

先ずは社長がお考えになる御社の社会的な責任や存在意義についてお聞かせください。

 

道路、橋、上下水道といった日本の社会インフラは高度経済成長に合わせて整備されてきたのですが、それから既に60年近くの年月を経た現在、その老朽化が日本全体の大きな課題となっています。

例えば最近各地で発生する突然の道路陥没事故なども、多くは下水道管の老朽化に起因するものですし、東日本大震災の発生を契機に多くの施設で耐震強度不足が明らかになっています。

また、もともと自然災害の多い日本ではありますが、近年台風や豪雨の被害が激甚化しており、老朽化したインフラが大きな被害を受け、国民の生活に大きな影響を及ぼしています。

 

 

そうした中、我々が行っている耐震補強、水道管の更新工事、メンテナンス、高速道路の補修、橋や河川の復興・復旧工事などは、日本国民が安心して生活していくうえで極めて重要な取り組みであり、人々の安全と安心を守ることが我々の社会的な責任であり、存在意義であると考えています。
加えて、老朽化が進む社会資本ストック量が今後も増大していく中で、各種工事を適切かつ確実に施工していくためには優秀な人材を採用・育成して現場に継続的に送り出していかなければなりません。
そうした人的資本の供給も当社の重要な責務であると強く考えています。

 

●ESGについての認識、考え方

Q.今伺った御社の責任や存在意義とESGの関係性についてお聞かせください。

 

先程申し上げたように、当社は老朽化が進む日本の社会インフラの補修やメンテナンスに携わることで国民の安全・安心を守ることが社会的な存在意義であり、そのための人材供給が果たすべき大きな責任であると認識しています。
つまり、こうした社会的な責任や存在意義は、ESGのうちまさに「S」そのものであると言っていいでしょう。
また、「E」についても、創業以来、公害対策として各種工事につきものである騒音や振動の軽減に向けた工法の開発などにも取り組んできましたし、近年はカーボンオフセットについても注力しています。

 

そうした意味では、自社の社会的責任や存在意義を明確に意識しながら、持続的に事業活動を推進していくことが、社会問題や環境問題を解決すると同時に、企業価値の向上に繋がっていくものと考えています。

 

 

●主要マテリアリティにおける取り組み

Q.今回御社では11のマテリアリティを選定しました。(「3.課題・マテリアリティと取り組み」参照)
このうち、御社の持続的成長にとって特に重要なマテリアリティについて社長のお考えを伺いたいと思います。

 

まず最初は、「人的資本」についてです。社長は御社における人的資本の位置づけについてどうお考えになっていますか?

 

先程も申し上げたように、老朽化した日本の社会インフラの補修や維持にあたることを社会的な存在意義とする当社において、人的資本は責任もってその責務を果たすための必要不可欠な重要な資産です。

 

私は現場で働く当社の社員を「かっこいい」と誇りに感じています。
泥にまみれることもあれば、酷暑の中汗まみれになったり、極寒の中で凍てつきながら作業したりと様々な環境の中でも、使命感を持って笑顔を忘れずに仕事をしている姿は本当にかっこいいのです。
でもそのかっこよさに彼ら自身がまだまだ気付いていない。これは大変もったいないことで、気付いていないばかりに、例えば身なりに気を配らないというようなケースも出てきてしまう。
そうではなく、良い仕事、立派な仕事、社会のためになる仕事をしているのだというように,意識を変えて行きたいと思っています。
そうすればもっと多くの人が当社の仕事を理解し、入社希望者も増えるだろうし、お客様との関係もより強固なものとなってくるはずです。
そうした意味で、人的資本の重要性を強く認識する中で、社員の意識を変えるような環境作りに取り組んでいくのが社長である私のミッションであると考えています。

(同社提供)

 

そのために必要な取り組みの一つが「ブランディング」、特に社内におけるブランディングが重要と考え、管理者層及び役職者の育成を目的とした「第一カッター・マネジメントスクール」において映像を制作しました。

 

テーマを「10年後の第一カッター」として、未来の社会情勢や自分たちの私生活、一緒に働く仲間、そして災害時には被災地の復興に協力するなど、会社があるべき姿を想像して、参加者各自が考えたシナリオを持ち寄り、一つにまとめ、配役まで整えた上で自分たちも演者として作品に出演しています。

 

道路を切り、汚れを洗い、構造物を撤去する、モノを無くす私たちの仕事は、製造業や建設業のように形として残る成果物が無いため、中々達成感を得づらく、各人の甲斐性に頼ってしまっている部分があることも否めません。
そこで、今回の研修では、研修生が共創して一つの映像作品を成果物として制作することとしてみました。

 

この研修・映像制作を通じて、我々が日々行っている業務においても、過程をデザインし、演出して仲間と共同で作業していくことは、モノつくりと同じであり、しっかりと達成感を得ることができるのだと、参加メンバーは実感できたようです。
また全従業員向けに発表したところ、多くの従業員から非常に良い感想や前向きな意見を貰うことができました。
彼らの意識に働きかけ、「かっこいい」気づきの一つを提供できたのではないかと考えています。
当社ウェブサイトで公開しておりますので、是非みなさまにもご覧いただきたいと思います。
URL https://youtu.be/JywTRAXxLYs

 

加えて、2021年の新中期経営計画策定に際し、ブランディングのリニューアル、パーパスの制定などにも着手し、メッセージの発信力強化を図りました。

 

また、これ以外にも私からは、全社員対象にした経営報告会、社内報、朝礼・夕礼用メッセージなど、様々な機会を通じて繰り返し繰り返しメッセージを発信しています。

 

女性の戦力化にも取り組んでいます。
現在のところ現場では3名の女性社員が働いていますが、現場の雰囲気が明るくなり、お客様も可愛がってくださる等、良い面が現れています。
今後は彼女らの意見を現場の改良・改善に繋げていきたいと思います。
例えば、機械の重さは女性が作業する上で解決すべき課題となりますが、これを解消することは女性のみでなく高齢化対策にも繋がります。
また、これまでは作業の1から10まで全てできて初めて一人前と言われていたのですが、力のある男性社員が1から7まで手掛け、彼女たちが仕上げの8から10までを担当するといったことでもいい訳です。
分業にすることで効率性が向上することもありうるので、そうした気づきを多く見出すためにも、女性たちが配属されている営業所には、女性を目いっぱいえこひいきするようにと言っています。
つまり、女性が働きやすい環境を作ることは、現場全体にも多くのメリットをもたらすだろうということです。
彼女らがもう数年現場を経験した後は、施工管理や営業に異動する事もあるでしょうから、彼女らが長く活躍してくれることは、次の女性社員の入社に繋がっていくきっかけとなりますので、環境作りに注力するとともに彼女たちの活躍に大いに期待しています。

 

一方で当社が持続的に成長していくためには、現場のみでなく、専門性を持った人材の確保も必要です。
例えば、財務、人事、広報、開発といった分野です。
こちらは中途採用を中心に陣容を強化していく必要があると考えています。

 

Q.では従業員の働き甲斐醸成、教育・育成制度、従業員の健康と安全などについてどんな考えの下、どんな取り組みを行っているのかお聞かせください。

 

育てるという点で最も意識しているのは仕事のチャンス、チャレンジの機会を与えることです。
例えば、採用のための展示会の企画や実施に入社2年目の社員に参加してもらうと、彼は選ばれたことを意識しますし、当日は学生に自分が入社以来してきたことをわかりやすく話すために、自分を振り返ることができるし、人前で話す訓練にもなる。
当社では年次別・階層別にきめ細かい研修を実施していますが、研修と並行して、様々なチャンスを提供し、チャレンジする事で自ら成長に繋げてもらいたいと考えています。

(同社提供)

 

やる気のある社員には、社会人大学への入学も推奨しています。
当然業務を行いながら自ら時間を創り出して、2年ないし4年間勉強を続けなければならないのですから当人はきついと思いますが、それもチャレンジであり、結果として本人の自信にもなり、会社にも十分貢献してくれるので非常に重要な制度と位置付けています。

 

また、当社では家族向けのインフルエンザワクチン接種助成や配偶者の健康診断を婦人科検診のセットで補助するなど、従業員本人だけでなく家族にも適用できる各種助成制度を充実させています。
これは、家族があり、家族が元気でいてくれるからこそ社員が活躍できるのだというメッセージでもあります。

 

Q.続いて御社の競争力強化に向けた取り組み・イノベーションについてお聞かせください。

 

開発に関しては、「困りごと」「安全」「省エネ」をキーワードに様々な開発に取り組んでいますが、加えて、最近開発したオイルを使わず水で駆動させる「水圧駆動式・切断切削工法ECOA(エコア)」のような「環境対策」、少子高齢化の下での「省力化」も重要なテーマと認識しています。

 

省力化に関しては、女性でも働きやすい環境、障がい者が健常者と同様な仕事ができる環境、高齢者が現場に出続けられる環境を創出するための研究開発に注力していきます。
これらが実現すれば、省力化施工の先にある遠隔技術や自動化技術に磨きがかかり、原子力発電所の廃炉を含めたインフラの維持・構築の需要を確実に取り込むことができますので、事業機会の創出に加え、社会的な貢献度も極めて大きいと考えています。
ただ、全てを自社のみで完結させるのは難しいので、様々な大学や企業等とのオープンイノベーションに取り組んでいます。

 

開発力強化は人的資本の育成強化とともに当社の競争優位性の源泉となるものですので、今後とも一段と経営資源を投入してブラッシュアップを図ってまいります。

 

Q. 温室効果ガス排出抑制、振動・騒音の抑制、用水・排水の管理など環境課題についてはどうお考えですか。

 

当社は創業以来、公害対策として各種工事につきものである騒音や振動の軽減に向けた工法の開発などにも取り組んできましたし、近年は「カーボン・オフセット付中間汚泥処理サービス」および「PlaCon floor(プラコンフロアー)®」の2つのサービスにおいてカーボン・オフセットを推進しています。我々の業界においては、カーボン・オフセットを導入している企業は当社のみとなっています。

 

加えて、2020年に日本政府が打ち出した「2050年 カーボンニュートラル実現」目標により、現在二酸化炭素を排出している全国の各種プラントは排出低減に向けた大規模な改修を迫られることとなります。
これは当社にとっては社会課題解決を通じた事業機会の大幅な拡大に繋がるものです。人的資本の拡充を進め、着実にそうした需要、期待に対応してきたいと考えています。

 

Q:コーポレートガバナンスについてのお考え、取り組みをお聞かせください。

 

顧客、株主、地域住民及び従業員等ステークホルダーと共存共栄できるコーポレート・ガバナンス体制を構築し、中長期的な企業価値の向上を図ることを重要な経営課題の一つとして認識しています。

 

ただ、昨年発覚した子会社における不正流用疑惑によって多くの皆さまにご心配とご迷惑をおかけしたことについて改めてお詫び申し上げます。
この事実を真摯に受け止め、二度と同じことを起こさないという考えの下、プライム市場を選択した責務もあり、ガバナンスのあり方を根本から見直しました。
まず、第三者委員会からの提言を受け、取締役の過半数以上を社外取締役としました。また、内部通報窓口を外部に設置し、従業員の心理的な安全性を高めるようにも取り組んでいます。
「コンプライアンスを真ん中に置く企業文化を作る」ことを目指して、改善策を出しており、これを確実に実行していくことで健全なガバナンス体制を構築していきます。戦略でもあり、宣言でもあるとご理解いただきたいと思います。

 

●中期経営計画について

Q.次に、中期経営計画について伺います。まず、前期で終了した前中期経営計画を総括していただけますか?

 

4つの基本戦略ごとにお話しします。

 

「基本戦略1 人材採用・育成の強化・拡充」
採用に関しては、採用チャンネルを増やしたり、中途採用をするにあたってのミスマッチを減らす丁寧な説明を心掛けたりしました。また、当社の社員から友人や知人などを紹介してもらうリファラル採用などにも取り組んだ結果、75名の増員計画に対し、それを大きく上回る133名の増員を実現することができました。
当社社員の約6割が技術職、職人なのですが、将来に向けて人口減少が進む中で、これだけの人材を採用できたことは十分及第点をもらえるかなと思います。
ただ、新卒採用に関しては、まだまだ当社の魅力が伝えきれていないとも感じますので、今後も引き続きパーパスや社会的存在意義の発信を通じて当社への関心を高めていきたいと考えています。

 

育成については、コロナ禍の中では研修を全て計画通りに実施するのは困難が伴いましたが、それでもメンター制度(年齢の近い年上の先輩社員や、社歴が近い先輩社員が新入社員や若手社員をサポートする仕組み)によって新卒社員のフォローはしっかりと出来ていると思います。
加えて、当社では以前から3年目研修を1か月半に亘って行っています。これは、各営業所に散らばっていた同期が一定期間集合することで自分の仕事への取り組みや成長度合いを確認できることに加え、ウオータージェットの工事部、下地処理の工事部、ビルメンテナンスの事業部など、様々な講習を体験することで自分の仕事のみでなく、当社の事業をより深く理解することができます。
研修が終わって自分の職場に戻った時に、そうした経験を自分の仕事に活かしていくことでより仕事の幅を広めていってほしいと考えています。

 

社員の定着を図るための勤怠管理についても、生産性を確保しながら、時間外労働時間の基準も年々厳しく設定することができていますし、年間休日日数も増加施策を進めています。
また、福利厚生についても、従業員が偶然な事故によるケガや病気で働けなくなった場合、減少してしまう所得を補償する「団体長期障害所得補償保険」を導入しましたし、従業員が安心して働くことができる環境創りへの取り組みは着実に進んでいます。
ただ、こちらについてはゴールがあるものでもありませんので、今回の中期経営計画でも引き続き取り組んでいきます。

 

「基本戦略2 営業展開の強化」
市況の影響を受けやすい生活インフラではなく、輸送インフラ及び産業インフラへの注力を図りました。
輸送インフラについては高速道路を中心とした床版のリニューアル工事や耐震補強工事が全体を牽引した一方、空港や鉄道など旅客関連分野はコロナ禍の影響を避けることはできませんでした。
産業インフラについても、生産設備への投資が業種によってはコロナの影響で低調となるケースも見られました。
一方で、脱炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギーへのシフトを受け、水力発電所の改造工事、改修工事が増加しています。
海外進出に向けたテストマーケティングや人材採用についてはコロナ禍により実行は困難な状況でした。海外に活躍の場を広げるということは引き続き考えていきたいと思っていますが、当面は国内市場での活動に重点を置いて行こうと考えています。

 

「基本戦略3 協力会社ネットワークの強化」
工事の施工場所が広域にわたる高速道路のリニューアル工事を積極的に受注してきたことにより、その工事地域の協力会社とのネットワークを広く構築することができました。
協力会社ネットワークの活用により一時的には外注比率が高まりましたが、お客様の要求する品質を確保した工事を施工することができたと考えています。
新たな協力会社とのお付き合いが増えたことで、様々な仕事のスタイル・考え方・業務の進め方をお持ちの協力会社があるのだということを再認識することができましたので、そうした認識を当社の将来的なサービス開発のヒントに繋げていけるのではないかと思っています。
工事量も多く、ネットワーク強化のために協力会社への教育機会の提供やコミュニケーションの活性化なども図っていこうと考えていましたが、コロナ禍の影響でそうした取り組みを想定通りには行うことができなかった点は残念でした。

 

「基本戦略4 研究開発」
成果としては、オイルを使わず水で駆動させる「水圧駆動式・切断切削工法ECOA(エコア)」を完成させることができました。
一部の漁港の改修工事において油漏れしない点をご評価いただき、複数年の工事での採用につながりました。
また、阪神高速道路様、飛島建設様との共同研究から生まれた「Hydro-Jet RD工法」が完成し、本線で施工を実施いたしました。この実績を契機に他の高速道路での採用が広がることを期待しています。通行止め期間を半減できるこの工法は料金収入に大きく寄与してきますので、高く評価されるものと考えています。

 

これら基本戦略のほか成長投資においては、人材教育、研究開発、拠点機能増強、M&A等で、3年累計、目標投資水準の20億円を超える37億円の投資を行うことができました。

 

以上のような戦略の実施に加え、3か年の数値計画についても全項目において計画値を上回ることができました。
十分に合格点を与えられる中期経営計画であったと自己評価しています。

 

Q.続いて、新中期経営計画について伺います。
まず、積極的なブランディング戦略が目を引きます。どんなお考えの下での取り組みなのでしょうか。

 

以前より私は、第一カッター興業で働く社員は格好いいと思っています。老朽化する日本の社会インフラの維持補修という意義のある仕事に暑い日も寒い日も、決して簡単ではない仕事に臨む姿は本当に格好いい。けれども、彼ら自身がその格好良さをもう少し自覚しないともったいないとの想いから、ブランドをリニューアルすることで改めて当社社員の格好良さを明確にしようと考えました。また、同時に当社の社会的な存在意義を明らかにするためにパーパスも制定しました。

 

実際のプロジェクトは社内公募で入社1年目から私を含め、職種も工事、総務、管理など幅広い、総勢38名のチームを形成して進めていきました。
DX、新規事業領域、ブランディング、中期経営計画の4つのカテゴリーに分け活動を進めています。子会社の不祥事があったため、一旦活動をストップさせていたのですが、現在は再開し、パーパスを社内に浸透させるべく活動しています。

 

パーパスの実現に向けて、第一カッターで働く意義をお互いで見つめなおして、従業員のかっこよさを表現することで、当社で働くことを誇れる社員が増えるでしょう、そうなれば採用の応募者、何か手伝いたいという協力会社様、第一カッター興業に仕事を依頼しようというお客様、株主になって一緒に成長しようと考える株主様も増えるのではないか、そこを期待しています。

 

2022年9月に当社は創立55周年を迎えますので、それに合わせて、ブランドの全面のリニューアルを実施する予定です。

 

Q 今回の中期経営計画においては長期展望として「世界一のエンジニア集団」「時価総額1,000億円」を目指す中で、E(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)の各目標及び数値目標(財務・非財務)をコミットし、実現のための戦略として、「人材戦略」「優位性強化戦略」「ガバナンス戦略」「成長戦略」を掲げています。「ガバナンス戦略」は先程伺いましたので、「人材戦略」「優位性強化戦略」「成長戦略」それぞれについてのコメントをお願いします。

 

「人材戦略」
一般的には中期経営計画や事業計画においては「事業」への言及がトップに来るのでしょうが、当社では「人材戦略」を第一番目に掲げています。
これは、「人材戦略」が当社の一丁目一番地、つまり最も重要な課題であると捉えているからです。

 

社会インフラの老朽化は日本の大きな課題です。建設投資のピークが1992年だとすると耐用年数の過ぎた施設や建築物等のストック量は今後も増加する一方です。
そうした中、国や自治体、高速道路会社などは構造物を診断し、長く使えるものは長寿命化を目指し、傷んでるところは早期に補修もしくは撤去する。それが地球環境の負荷軽減にもつながるという考えが一般的になっています。

 

当社の技術はこの社会インフラ維持補修において不可欠なものであると自負しており、だからこそ優秀な人材を持続的に供給する義務があると考えています。
2030年には職人の3分の1が高齢によって離職すると言われ、少子化も進む中でこの責務を果たしていくのは容易ではありませんが、だからこそ人材の育成に関しては多様性の実現や質の向上のほか、ブランディングを通じた社会とのつながりを明確にして仲間を増やすこと、社員が安全・安心して働ける環境を整備することなどが当社の持続的な成長実現の基盤になると考えています。
「人のいる価値」はこれからの10年でさらに高まるでしょうから、こうした取り組みを継続し、結果に繋げることで当社の企業価値も向上していくと考えています。

 

「優位性強化戦略」
このニッチな市場において優位性を高めていくための施策として、「研究開発」「グループ展開」「協力会社のネットワーク」の3つを挙げています。

 

最も重要なポイントは研究開発です。
現在、中・長期的な視点で物事を考えていける研究所的な部門の立ち上げを準備しています。
これによって、生産性の向上、省力化のほか、職人を多く抱えている当社だからこそ出てくるような発想や、先程申し上げた協力会社との関係で気づいた点などを、外部との共同研究にも反映させていくことでソリューションを開発し、将来的に大きな効果を生み出すことができるものと期待しています。
また、協力会社にそうしたソリューションを提供することでサプライチェーンとしての協力会社の発展や成長にもつながるでしょうし、その先には業界の発展にも貢献していきたいと思っています。

 

その他、グループ展開では、人的交流や教育の共有などを通じたグループ会社のメリット最大化やDX導入による効率化なども進めていきます。
協力会社ネットワークについては引き続き重要なパートナーとしての位置づけで、教育や採用の支援などを通じて関係を強化していきたいと考えています。
協力会社からすると、当社は規模も大きいため敷居が高いと見られていることもあるのですが、決してそんなことはなく皆同じ仕事に携わる仲間であるという点を理解してもらうためのコミュニケーションも積極的に図っていきたいと思っています。

 

「成長戦略」
「既存市場の拡大」「M&A」「新規事業」の3つを挙げています。

 

「既存事業の拡大」については、エリアの拡大と深堀り、つまり新分野の開拓を考えています。
エリアの拡大は東京都心部および西日本エリアを強化していこうと考えています。西日本では子会社の光明工事が主に施工にあたっているのですが、同社へのバックアップ体制をより強化していくことが一番の柱になります。高速道路のリニューアルが大阪、中国自動車道、四国の松山自動車道などで増えており、西日本の案件も積極的に拡大させていきたいと考えています。

 

深掘りの1つは、環境関連から今話題になっている火力発電所の解体です。また、火力発電所でも環境負荷の低減が図れる日本の優秀な技術がありますので、火力発電所の改造も案件が増加する可能性があると思っています。その他、水力発電所の増強、風力発電に関しては老朽化した風力発電風車の解体など、従来事業の深掘りである新分野に取り組んでまいります。

 

面白いテーマとしては、宇宙空港の整備事業に関与していきたいと考えています。
私たちはスペースポートジャパンという組織に工事専門会社として唯一正会員として参加しています。将来どういう仕事が具体的に発生するかはまだわかりませんが、現在の通常の空港での工事である、ハイドロプレーニング現象を防止する安全溝の設置、灯火やジェットエンジンによって痛む塗装面の補修などが可能性としてあると思います。
宇宙関連事業は、社員のモチベーション向上にもつながると考えています。

 

M&Aについては、今後も積極的に特色ある企業との関係性を深め、その先にグループ化という形を考えています。
現在の事業領域から大きく外れるものは考えていませんが、現在の仕事の前工程・後工程などが対象になると思います。
我々の携わる工事はかなり細分化されています。発注者であるお客様もまとめて発注したほうが手間も省けるので、例えば、切ってから撤去する場合、「第一カッターさんで撤去もお願いします」とか、工事前の調査や図面制作も依頼されるといったことも可能性があるのではないか、事業領域拡大のチャンスとなるのではないかと考えています。

 

新規事業においては、中小企業の生産性向上への貢献を目指しています。
私たちはこれまでの55年間、エンジニア、職人を多く抱え、試行錯誤を重ねながらも、人に特化し、社員を大切にすることを重視してノウハウ蓄積してきました。
そうした業務管理や社員教育に関するノウハウを、労働集約型産業でかつ人手不足に悩んでいる多くの中小企業に提供すれば、社会課題の解決に繋がるのではないかと考え、現在事業化を見据えて準備を進めています。

 

●ROEについて

Q.ROEに関してはどのようにお考えですか。

 

この数期、ROEは12から13%程度の水準で推移しています。
引き続き投資も実行していきますが、資産効率を高め、当面は同程度のROEを維持し、2036年には15%まで引き上げて株主や投資家の期待に応えていきたいと考えています。

 

●ステークホルダーへのメッセージ

Q.様々なポイントについてお話しいただきありがとうございました。最後にステークホルダーへのメッセージをお願いいたします。

 

当社は極めて地味で、皆様の目に触れる機会が少ない会社ではありますが、最初に述べたように社会インフラの老朽化が深刻化する日本において、課題解決に向けた極めて大きな社会的責任と社会的存在意義を持ったキラリと光る会社です。

 

このたび、そうした社会的な存在意義をより明確化するために、「私たちは平時も有事も社会インフラの安全を守り、安定した社会を支える」というパーパスを設定いたしました。このあるべき姿の実現に向けて行動していくことが社会の貢献と私たち企業としての価値向上に繋がるものと考えています。

 

今後とも持続的な成長の実現と社会への価値提供により、お客様、協力会社、従業員、地域社会、株主、全てのステークホルダーの皆様にご満足いただけるような、さらにキラリと光る企業を目指してまいります。
一方で、このESGレポートの発行によりESG情報開示を強化しておりますが、ESGに関する具体的な取り組みやデータの開示に関しては、網羅性の観点からは決して十分とは考えておらず、社内体制の整備を中心に、重要な課題として取り組んでまいります。

 

ステークホルダーの皆様におかれましては引き続き温かいご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

 

3.課題・マテリアリティと取り組み

第一カッター興業が現状認識している課題・マテリアリティは以下のとおりである。
マテリアリティの選定に際しては、社外へのヒアリングも行っている。

 

課題

マテリアリティ

環境

 

 

温室効果ガス排出抑制
振動・騒音の抑制
用水・排水の管理
社会資本 特化した技術と高水準のサービス
地域社会への貢献
人的資本

 

 

従業員の働き甲斐醸成
教育・育成制度
従業員の健康と安全
ビジネスモデル&イノベーション 競争力強化に向けた取り組み・イノベーション
リスク管理・ガバナンス コーポレートガバナンス体制の拡充
リスク管理(事故、法令)

 

*SASB Materiality Mapなどを参考に作成。

 

【3‐1 「環境」課題におけるマテリアリティ】

環境問題に対する貢献は企業として重要な責務と認識している。各種工法による環境負荷低減に加え、下記にあるように、同社サービスを利用することで顧客企業はカーボン・オフセットを実行することができることから、事業機会の創出にも繋げている。

 

(1)温室効果ガス排出削減
温室効果ガス排出削減のために同社では本業に付帯する「カーボン・オフセット付中間汚泥処理サービス」および「PlaCon floor(プラコンフロアー)®」の2つのサービスにおいてカーボン・オフセット(※)を推進している。

 

※カーボンオフセット
日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガス(GHG)の排出について削減努力を行い、それでも削減できない量を他の場所で実施された削減・吸収活動から創出されたクレジットで相殺し、環境貢献するという考え方。

 

①カーボン・オフセット付中間汚泥処理サービス
カッター事業を通じて排出される汚泥を自社で中間処理する際に使用する施設稼働のエネルギーをカーボン・オフセットする業界初の取り組みである「カーボン・オフセット付中間汚泥処理サービス」を2020年7月1日より開始した。

 

(取組みの概要)
第一カッター興業がカッター事業を通じて排出される汚泥について、自社で中間汚泥処理をする際、処理施設稼動に伴い使用するエネルギーから発生する1年間分のCO2をカーボン・オフセットする。
中間処理を行うことで汚泥は中和水と脱水ケーキになり、中和水は切断水として、脱水ケーキはコンクリートなどの原料として再利用することで環境配慮を行っている。

 

今回、更に企業責任として、汚泥処理施設の稼動に伴い使用するエネルギーもカーボン・オフセットすることとした。
カーボン・オフセットに使用する排出権は再エネクレジットを採用し、サプライチェーンを含めた再エネ活用の機運に応える取組みとなっている。
同サービスでは第三者認証である「カーボン・オフセット認証」を取得し、取組みに対して一定の信頼性・透明性を確保している。
また、カーボンオフセット向けの別途料金は不要であるため、顧客は同社に中間汚泥処理を依頼するだけで環境貢献が可能となる。

 

(同サービス導入の背景)
同社は、コンクリート構造物の切断・穿孔施工を中心に建設・土木・設備の幅広い分野で様々な施工を行い、洗練された技術を提供してきた。昨今、地球温暖化が深刻になる中で、都市開発と地球環境の保全という、相反する事柄の両立が求められるようになり、これからの事業活動の継続のためにも環境負荷軽減に向け、今回のサービス提供をすることとした。

 

②PlaCon foor:カーボン・オフセット対応工事
工場・倉庫の床は、油の付着・落下物による衝撃・重量物の走行による繰返し荷重などの要因で、床やクラック周辺部の破損が生じやすくなる。塗り床に関しても、破損部分から床材の剥離が発生し、剥離面に油などが浸透してしまった場合、コンクリート床自体が脆弱になってしまい床としての機能を損なってしまう。
こうした課題に対し同社ではPlaCon floorと呼ぶ、強度の低い表層を削り、磨きあげることによってコンクリート本来の耐久性を生かした床仕上げを実現する工事を実施している。
PlaCon floorも中間汚泥処理サービス同様、カーボン・オフセット対応工事として展開し、顧客の積極的な環境負荷低減活動を支援している。

 

 

(2)振動・騒音の抑制
【1-3. 事業内容】で触れたように、同社が手掛けるダイヤモンド工法やウォータージェット工法は、振動・騒音が少ないことが大きな特長であり、低価格ではあるものの振動・騒音が大きい従来工法の代替として採用が広がっている。

 

振動や騒音が少ないことは、都市部での工事に際して周辺住民等へ悪影響を及ぼさないほか、老朽化対策工事でも重要な意味を持つ。
構造物の延命化を図る場合、既存の古い構造物の一部を補修・補強によって手をかけて行くが、その手をかける部分で振動が多い工法を使用すると、手を掛けない部分にまでクラック(亀裂、ひび割れ)を発生させてしまう可能性がある。
これに対し、ダイヤモンド工法やウォータージェット工法は目に見えないクラックの発生を抑制できる点が評価されている。

 

(3)用水・排水の管理
同社の主力工法のダイヤモンド工法やウォータージェット工法では作業にあたり水を使用することから、切断によってスラッジ(切り粉)と水が混ざり合った排水が発生する。
この排水を環境に負荷を与えることなく適切に処理するために以下のような工法を実施している。

 

工法など

概要

ウォーターリサイクル工法 冷却水に使用した排水を回収・再利用できるシステム。道路切断時のカッター排水をそのまま吸い上げて、泥土(ノロ)として回収し、ろ過・pH処理・固化処理を施す事により水分と固形分に分離する。水分は冷却水として再利用し、固形分はセメント材料等の資源として再利用することができる。

 

(同社資料より)

乾式ダイヤモンド工法 切断において冷却水を使用しない工法。従来は、水無しではダイヤモンド材料が耐え切れず切断が困難であったが、近年ではダイヤモンド材料の品質が向上し、乾式でも可能である。

汚水が発生しないため環境に優しい他、産廃分量が大幅に少なく処理コストが低減可能、後処理が容易といったメリットがある。

「乾式フラットソーイング工法」「乾式コアドリリング工法」「乾式ウォールソーイング工法」「乾式ワイヤソーイング工法」などがある。

 

(同社資料より)

 

原発などの難易度の高い条件下での使用を想定した、独自の機械や材料の開発も行っている。

中間処分場 自治体からの許認可(中間処分業)を受けた排水の中間処分を行う専用プラントを自社で所有している。

1日10立米メートル以上の処理ができるカッター排水専門の大型中間処理施設は、2014年に同社が全国で初めて開設した。

中間処分場を有することで、同社では切断工事から排水の処分までをワンストップで行うことが可能である。

 

同社ではウォーターリサイクル工法の利用と中間処分場の運営による総合的な排出汚泥対策に取り組んでいる。
各現場の実情に合わせて、顧客に対して汚泥処分のバリエーションを提供できる点も大きな特長である。

 

(4)その他
水圧駆動式・切断切削工法「ECOA(エコア)」
電動工具が使用できない水際や水中工事では油圧機器とエアー工具による作業が一般的で、油圧機器からの油漏れ対策は大きな課題であり、ストレスであった。
同社は油圧駆動(作動油の循環による力)に代わり、水圧駆動(水の循環による力)によるモーターを搭載した穿孔マシンを開発し、この課題を解決した。油漏れリスクがゼロとなったほか、廃オイルの処理も不要であり、環境負荷低減に貢献している。

 

【3‐2 「社会資本」課題におけるマテリアリティ】

(1)特化した技術と高水準のサービス
社会インフラの老朽化が進んでいる。15年後には国内に存在する道路橋約72万6千橋の63%、港湾施設約4万4千施設の52%が建設後50年以上経過する状態となり、この流れは人口動態と同じでほぼ正確な将来推計である。
また、国内建設市場の長期的なトレンドをみると、建設投資はピーク時からリーマンショックには半減するに至ったものの、近年は回復傾向にある一方で、純社会資本ストックの総量は2000年以降増加傾向が収束し、近年では横ばいから微減トレンドに変化している。これは、建設投資が「新設・新築」から「維持・修繕」にシフトしていることを示しており、上記のように大半のインフラ構造物が新設から50年近い時間が経過するなか、「壊して建て替える」か「治療して長く使う」、つまり「維持・補修」の必要性が社会インフラの老朽化とともに急速に高まっている。
公共事業全体が抑制される中で、総務省が公表している維持補修費が毎年堅調な推移を見せているのも、これを証明しており、社会インフラの高齢化が進展するなか、維持・補修の必要性増大は変わることのない流れである。

 

 

 

(同社資料より)

 

こうしたトレンドの中、同社の手掛ける各作業は、既存構造物を今後も使用することを前提とした維持補修で最もよく用いられているものである。
また、【3‐1 「環境」課題におけるマテリアリティ】の②振動・騒音の抑制で触れたように、同社が手掛けるダイヤモンド工法やウォータージェット工法は、振動・騒音が少ないことが大きな特長であり、老朽化対策工事において構造物を傷つける目に見えないクラックの発生を抑制できる点も高く評価されている。
このように同社は、今後時間とともに深刻化する社会インフラの老朽化に対応する技術と、それを支える多くの職人を正社員として有することでこの社会課題の解決に貢献する重要なプレイヤーなのである。

 

(同社資料より)

 

 

(2)地域社会への貢献
①北海道管理「有明ダム」で ネーミングライツ契約を締結
治水インフラに関わる専門工事業者として、北海道経済への貢献はもちろん、ダムカード配布による地域に根差す施設の地名度向上等を図るため、パートナーに立候補した。

 

②お仕事体験教室
キャリア教育の一環として札幌営業所にて小学生を対象にしたお仕事体験教室を実施した。
今後も子供たちに建設業や将来の仕事への興味関心を広げる試みを続ける予定である。

 

 

③職業講和の実施
神奈川県内の中学生を対象に職業講和を実施。建設業の概要や工事現場で働くことの意義や苦労する点等について説明した。

 

④子ども食堂への寄付活動
同社が雇用している障がいを持つ社員が栽培している野菜を、地域の子ども食堂に定期的に寄付している。

 

⑤見守り隊活動
札幌営業所で近隣小学校の登下校見守り隊を始めた。
登下校時の見守りが手薄な歩道橋付近で社員が朝と夕方、小学生が安全に登下校できるよう支援している。

 

【3‐3 「人的資本」課題におけるマテリアリティ】

建設業界では、少子高齢化社会の影響や業界に対するイメージ等、様々な要因により今後の人材不足、技術者不足が課題となっている。
同社では中期経営計画において、「人材」をキーワードに、将来の担い手の確保・育成、働き方改革や生産性向上を重点施策と掲げ、女性や障がい者も気持ちよく働ける環境づくりや、将来的な海外展開も視野に入れた外国人労働者の雇用など、業界に先駆けた新しい取り組みを数多く掲げている。
自社のコアコンピタンスを支えるものは「ヒト」であると認識しており、今後の戦略においても「ヒトで勝つ」ことを軸として積極的に人材の確保・育成に取り組み、競争優位性を更に強化する考えだ。

 

(1)従業員の意識・働き甲斐醸成
◎労務管理・働き方
建設業界は労働時間の上限が特例によって緩和されているが、2024年に向けて労働時間抑制が求められている。
専門施工会社にとって作業員の職場が会社から離れた現場作業所であることから必然的に移動時間も労働時間にふくまれるため労働時間抑制の実現には課題も多いが、人材確保の観点からは他産業に比べて魅力的な企業である必要性がある。
そこで、「ヒト」を最重要課題と置く同社では、業界の段階的な規制強化に先んじて、自社基準での労働時間抑制に取り組んでいる。
注力してきた残業時間抑制に関しては、「1か月840時間以内(月平均70時間)」、「複数月平均 休日労働を含んで4-6か月それぞれ平均80時間以内」という2023年までの目標を前倒しで達成した。
2024年までに原則「休日労働を含んで45時間未満」という目標の達成を目指し、全社的な大型プロジェクトである「ワークライフバランスプロジェクト」を稼働させている。

 

同社では、自宅からの出社後、会社から現場までの移動と、現場が終わってから会社に戻り会社を出るまでの時間を含めた労働時間を認識するため、例え現場作業が定時内で終了していても前後の移動だけでも一日数時間の残業が発生する構造となっている。
同業界では現場作業時のみを労働時間として把握するのが一般的で、移動時間を含めて労働時間と認識すること自体が珍しい対応ではあるが、人材確保の観点からは他産業に比べて魅力的な企業である必要性があることから、この難題に取り組んでいる。同プロジェクトには全社から業務に精通した多くのメンバーを招集し、部会に分かれた形で制度設計を進めており、残業時間抑制に加え、有給休暇制度の柔軟化、完全週休二日制の採用、定期的なベースアップの実施、退職金制度の拡充など、働き甲斐醸成の前提条件として全方向からの労働条件の改善を進め、魅力ある職場づくりを進めている。

 

また、タブレットを利用した勤怠管理を導入しているほか、残業(休日)時間を日々管理できる仕組みを構築しているほか、作業伝票の電子化など事務作業への連携を効率化しており、職人の現場作業以外の業務負荷の軽減も進めている。
こうした労務管理体制は、労働基準局からも評価される水準となっている。
加えて、従業員の多様な働き方をバックアップしており、「全国型・地域限定型勤務の選択」や「働き方に応じた勤務時間帯の設定」のほか、女性作業員の受入可能な現場環境の整備にも取り組んでいる。

 

 

◎ブランド価値向上
加えて、働き甲斐醸成に向け「職人」のブランド価値向上にも取り組んでいる。
同社は創業以来下請専門企業として、表に出ることの少ない目立たない存在として活動してきた。しかし、将来的な老朽化構造物の改修需要増と、人口減による職人不足という需給ギャップが拡大していく業界において、社会インフラを支える重要なプレイヤーである自分たちの魅力を発信し、目立つ存在になる必要がある、という考えのもと、自社のブランディング戦略を推進している。
同社では職人の働く姿は、素直に「カッコいい」と表現できると考えており、そのカッコ良さを社内外に発信する取り組みを進め、多くの人の目に触れる存在となることで自分たちの仕事に誇りを持てるよう取り組んでいる。
2022年3月にはサムライをモチーフにした採用専用サイトをリニューアルした。道路、橋、建物等を切ることに加え、新しい道を切り拓くという意味からサムライと職人をリンクさせ、職人として同社で働くことのカッコ良さを訴求している。

 

(同社提供)

 

また,、現在3名の女性が職人として活躍しているが、今後は女性が職人として活躍できる環境もあらゆる面で整備していきたいと考えている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(同社提供)

 

 

(2)教育・育成制度
同社では現場ごと異なった条件下で施工を行うため、職人には様々な施工技術に加え、広い周辺知識や高いコミュニケーション能力など、求められるスキルは多岐にわたる。
これに対応するため、同社では安全・施工技術・資格取得・周辺知識の習得・人間性の高揚といった様々なカテゴリーに分けた研修を、集合形式で行っている。

 

職人を現場から外して教育機会を与えることは、短期的には生産性の低下に繋がることから、同業他社などでは、いわゆるOJTと称した「見て覚える」教育が一般的だが、高いスキルを備えた職人集団を形成することが結果的には持続的な成果向上に繋がるとの長期的な視野から、同社ではこうした教育制度を採用している。
例えば、入社3年目の工事課社員を対象として実施される「3年目研修」は、30日間以上に及んで特殊工法の体験や自社に対する理解の促進を目的とするもので、長期間の研修が今後の同社を支えていく中堅社員としての成長に欠かせないとの考えである。

 

「技術力向上→資格取得→技術領域拡張→人間力向上→教育指導人材への成長」という人材育成ロードマップに基づいた教育制度は、業界内での差別化・優位性を確保するとともに技術者集団の層の厚みを形成し、同社の更なる競争優位性の強化と成長へと繋がるものである。

 

この他、社会人大学(通信制)への入学も推奨しており、社員の資金負担を軽減する仕組みを取り入れている。

 

(3)従業員の健康と安全
同社は従業員の健康・安全を重視し、業界に先駆けてワークライフ制度を実施。前述の現場の労務管理、事務作業の効率化(システム化)のほか、充実した福利厚生制度など、重要な経営資源である従業員の働きやすい職場環境作りに注力している。

 

◎健康
従業員本人だけでなく家族にも適用できる各種助成制度を充実させている。
*インフルエンザワクチン接種助成
*GLTD保険制度(生涯休業補償)
*配偶者健康診断助成
*禁煙補助金制度
*不妊治療補助金制度

 

◎安全
研修制度による施工に伴う危険に対するリテラシーの向上や、多くの社内ルールをコストよりも優先させ、安全第一の施工を徹底している。
施工に際しては、大きなコンクリート塊の撤去が付随することも多く、重大災害に繋がりやすいことから、特に撤去技術に関しては多くのルールとともに、図解や写真、映像を用いた安全マニュアル資料を使った教育を実施している。
同マニュアルは50ページ以上におよぶもので、撤去作業に関するあらゆる危険発生の可能性のある局面についての注意事項、作業手順、防止策、被害軽減策、アドバイスなどが記されている。

 

【3‐4 「ビジネスモデル&イノベーション」課題におけるマテリアリティ】

(1)競争力強化に向けた取り組み・イノベーション
◎新工法・新技術の開発
同社ではこれまでにも「ダイヤモンド工法」を始めとして、独自技術を開発し業界をリードしてきた。こうした工法や技術の開発力こそが同社競争力の源泉となっている。
2020年にはエコアコアドリル工法という新工法の開発に成功したほか、「切る」「はつる」「洗う」「剥がす」「削る」という5つのキーワードに関連するレーザー技術の確立に向けた投資を行っている。

 

株式会社トヨコー(静岡県)は、これまで工場などでしか使われていなかったレーザーによって「剥がす」「削る」技術を世界で初めて屋外に持ち出し、建設現場で使える技術「クーレーザー」を開発している技術系スタートアップ企業である。
高度成長期に数多く建てられた橋梁は支承部などの重要部で深く進行した錆によって落橋のリスクが高まっている。また石油化学コンビナートの火災事故の多くが錆などの劣化によるものであり、塗料や素材に含まれる有害物質を安全に除去するニーズは世界的に増大している。「クーレーザー」は、光を使用して付着物を除去するもので、構造物の延命化、作業性の向上、環境負荷の低減といったメリットを有している。

 

第一カッター興業はトヨコーのシリーズAラウンドの投資に参加し、新規事業の創出を意図している。現在ではシリーズBラウンドまでの資金調達を完了し、第一カッター興業のほか、前田建設工業株式会社、デジタル・インフォメーション・テクノロジー株式会社、日本郵船株式会社、鈴与建設株式会社、山本光学株式会社、株式会社静岡銀行が出資者となり事業化支援を行っている。
第一カッター興業はその出資者の中にあって工事施工におけるパートナーとしての役割を担っており、レーザー技術を用いて、老朽化した鋼製インフラ構造物の錆の除去や除染といった市場の開拓を目指している。

 

今後も既存工法のブラッシュアップに加え、こうした新工法や新技術の開発を進め更なる競争力の強化を図っていく。

 

◎技術の可視化
2020年6月期より人材育成に資する研究を開始した。
同社の手掛ける技術は、取り扱う機械の数が多いことに加え、全て現場において施工環境が異なり、毎度オーダーメード的な施工を提供する必要がある。新築とは違い、維持・補修作業においては、それぞれ異なる状況の既存構造物に対して柔軟な対応ができるか否かが技術力に大きな影響を与えるという難しさがある。

 

そのため、自動化などの汎用的な技術を応用しにくい領域であり、属人的な職人の技術力が優位性に繋がっているのだが、そこに甘んじることなく、熟練工の技術を可視化することによって、技術の習得スピードを上げる取り組みを開始した。
機械の操作手順を可視化したり、目線の動きを体系化したり、頭・腕・腰などにモーションセンサーを取り付けたりすることで、どのような動きをしているか、どういう角度で動くか、どんなスピードで動くかを分析する。
加えて、この熟練工の技術を学んだ工事スタッフ一人ひとりのレベルアップ自体の可視化も進めている。達成段階表の作成、ハンドガンマイスター制度などにより、自発的な技術力向上を生み出す環境を整備している。

 

(同社資料より)

 

◎開発体制の拡充
社長直轄で、工事本部・営業本部とともに構成する「研究開発部会」では、既存技術の改良から自動化・可視化までを手掛けている。自薦・他薦不問の開発組織で、「困りごと」「不便」「エコ」をキーワードに案件の大小問わず開発を推進。それぞれについての困りごとをクローズアップさせ、プロジェクト方式で社内・大手ゼネコンやプラントメーカーなどの顧客及び取引先・大学・第三者と連携することによって、スピード感を持って開発を進めている。
過去8年間で172件のアウトプットを行っており、同社ならではの独自の工法や技術が生み出されている。

 

新たに開発組織である、「Co-Demensional Innovation Lab. (CDI‐Lab.、協次元イノベーション研究所)を設立準備中である。
同社における独立組織で、上記の研究開発部会とも切り離して運用する。外部専門人材の獲得も視野に入れている。
そのため、研究開発部会が既存技術の改良を行うのとは棲み分けし、DX対応機械開発・アシスト技術・新工法開発など、中長期スパンで、基礎研究から高度なIoT対応機械の開発やアシスト技術の研究、及び新工法の開発をメインとする。
高度技術・工法開発による生産性向上や負担軽減を広く業界全体に提供し、日本にとって欠かせない専門施工業界を持続可能で魅力ある職場へと変えていく。また、DEEP TECH(※)エコノミーへの貢献を果たすことをミッションとしている。

 

これまで、本社敷地の一部を利用して試験施工や研究開発に関する施工を行ってきたが自社開発だけでなく、顧客から持ち込まれる案件も増え、手狭となってきたことから約1,800㎡(539坪)の大型倉庫を試験施工・研究開発専用ヤードに改装し、更なる研究開発の促進に力を入れている。

 

(同社資料より)

 

(開発例)
「Hydro-Jet RD工法」
阪神高速道路株式会社が募集するコミュニケーション型共同研究に、飛島建設株式会社と第一カッター興業株式会社が応募し、3社共同で開発した技術。

 

従来の合成桁橋の床版取替は長期の通行止め期間を必要とし、鋼桁とコンクリート床版の接合部の除去に手間取ることが撤去技術の課題であった。
そこで、その接合部の除去作業を、通行規制を行わずに通行止め開始日までの準備期間に行えるのがHydro-Jet RD 工法。通行止め開始後における接合部の除去作業を不要とし、1回の床版撤去範囲を鋼桁位置に関わらず大きく設定することで、床版撤去期間とこれに伴う交通規制期間を短縮できる。

 

【3‐5 「リスク管理・ガバナンス」課題におけるマテリアリティ】

(1)コーポレートガバナンス
顧客、株主、地域住民及び従業員等ステークホルダーと共存共栄できるコーポレート・ガバナンス体制を構築し、中長期的な企業価値の向上を図ることを重要な経営課題の一つとして認識している。
組織形態は監査役設置会社で、経営の透明性・健全性を確保するため社外監査役及び社外取締役を選任し、経営監視機能の強化を図っている。社外取締役は取締役の過半数としている。

 

組織形態及び取締役、監査役の構成

組織形態 監査役設置会社
取締役 5名、うち社外3名
監査役 3名、うち社外2名

 

<実施しない主な原則とその理由>
※2021年6月の改訂後のコードに基づいて記載を行っております。
【原則1-4.政策保有株式】
当社は、原則として株式の政策保有を行わない方針でございます。しかし、取引の内容・規模等を総合的に勘案し、安定的な取引関係の維持・強化を図ることが当社の企業価値の向上に資すると判断された場合には、取引先の株式を保有する場合もございます。保有する株式については、取締役会において毎年当社の企業価値向上に資するか否かを検証してまいります。検証の結果、保有の意義が認められない、あるいは薄れたと判断された場合は、適宜売却に向け手続きを進めることと致します。
保有する株式の議決権行使については、当該会社の企業価値を毀損させるようなこと等がないかを検討のうえで議決権を行使します。

 

【補充原則2ー4①】
当社は、一人ひとりが持つ多様な価値観や能力をいかんなく発揮できる環境作りを重視しており、人材の登用に際しては、能力や適性など総合的に判断し、性別や採用ルートによらず登用しております。現時点では人材の多様性に関して測定可能な数値目標を定めるには至っておりませんが、今後も引き続き多様性の確保に向けた施策を推進するとともに、目標についても検討してまいります。

 

【補充原則3-1③】及び【補充原則4-2②】
サステナビリティを巡る取組みについては、中長期的な企業価値向上の観点からも重要な経営課題と認識しております。現在、サステナビリティに関する方針及び取り組みに関しましては検討を重ねており、明確になり次第、開示していくつもりでおります。

 

【原則5-1.株主との建設的な対話に関する方針】
当社は財務経理部をIR担当部署としております。株主や投資家に対しては、半期に一度決算説明会を開催するとともに、逐次個別面談等を実施しております。
また当社は、株主や投資家との建設的な対話を促進するためには、当該株主・投資家との信頼関係の構築・維持が重要であり、そのために適切な情報開示を行うことが必要不可欠と認識しております。その認識を実践するため、法令に基づく開示以外にも、株主をはじめとするステークホルダーにとって重要と判断される情報(非財務情報も含む)を積極的に開示する等、経営戦略や経営状況について、当社ホームページを通じ、積極的に情報開示を行っております。
なお、株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針の策定及び開示については、今後の検討事項と致します。

 

<開示している主な原則>
【原則1-7.関連当事者間の取引】
当社は、関連当事者との取引については、原則として行わない方針であります。
しかし、何らかの理由でやむを得ず関連当事者との取引が発生する場合は、当該取引の開始前に取締役会にて審議を行い、承認を得ることとしており、取引の適正性を確保する体制を敷いております。

 

※2021年10月8日付「第三者委員会の調査結果報告書の受領に関するお知らせ」において開示しておりますとおり、当社子会社である㈱光明工事と㈱バランスコントロール(本社:愛媛県松山市)との間において、物品の発注や外注工事の発注が行われており、その一部に利益相反取引に該当する取引や不適切な取引が含まれていたことが発覚いたしました。当社子会社における不正に関する再発防止策につきましては、 「5.その他コーポレート・ガバナンスに重要な影響を与えうる特別な事情」に記載しております。

 

 

(2)リスク管理(事故、法令)
①安全確保に関する取り組み
「人的資本」の項目で紹介した従業員の安全確保のための研修制度のほか、下記のような取り組みを行っている。

(同社提供)

 

構造物の撤去に伴う切断作業時に事故が発生しやすいことから、年間6万件以上の工事案件に対して、構造物の撤去が絡む工事を全件抽出して、案件が発生した時点(計画着手や見積等のタイミング)から、安全性の検討を複数部署にまたがってチェックをする体制を構築している。
計画段階で、安全を担保する工法や手順への変更を反映させること、実際に工事に着手する職人が事前に状況を把握し、危険性を認識して工事にあたることを目的としている。
「安全パトロール」は、手掛ける工種ごとにチェックポイントを明確化した専用チェックシートを利用した、施工現場の実地パトロールのこと。

 

②法令に関する取り組み
同社グループが行っている切断・穿孔工事事業は、建設業法に基づく「とび・土工工事業」、「土木工事業」に属しており、「とび・土工工事業」、「土木工事業」は建設業法による規制を受けている。
企業活動の多くを建設業法に則り運営する必要があることから、許認可の管理から各種資格の管理を管理部門が担い、別途独立組織であるリスク管理委員会が定期的に事業活動に伴うリスクの洗い出しを行い、リスク低減に向けた取り組みを行う体制となっている。

 

4.中期経営計画方針 2022年6月期-2024年6月期

21年11月、中期経営計画(2022年6月期~2024年6月期)を発表した。

 

4-1 前中計の振り返り

建設現場における同社のポジションは下請の一部であり、直接職人を送り出し作業を行う立場にある。しかし、「専門施工業」という切断・穿孔に特化した独自のポジションを確立しており、切断・穿孔に不可欠な高い技術力を有した職人集団の形成が成長のカギとなる。このため、前中期事業計画では、ヒトに軸足を置き、「基本戦略1 人材採用・育成の強化・拡充」「基本戦略2 営業展開の強化」「基本戦略3 協力会社ネットワークの強化」「基本戦略4 研究開発」という4つの基本戦略を進めた。

 

数値目標として掲げた各項目の達成状況は以下の通りである。

◎3か年の数値計画

 

19/6期 計画

同 実績

20/6期 計画

同 実績

21/6期 計画

同 実績

売上高

14,318

14,871

15,700

17,440

17,400

19,337

営業利益

1,624

1,760

1,730

2,296

1,910

2,760

営業利益率

11.3%

11.8%

11.0%

13.2%

11.0%

14.2%

親会社株主帰属利益

1,014

1,251

1,080

1,523

1,190

1,743

EPS

89.12

109.90

94.88

133.86

104.54

153.16

 

 

 

 

 

 

従業員数(連結)

500

501

525

568

550

608

* 単位:百万円、円、人。EPSは2021年1月1日付で1:2の株式分割を実施したため、現在の発行済み株式数に合わせた過年度の表記。

 

全項目において計画値を上回った。

 

◎インフラ別売上構成比

 

16/6期

17/6期

18/6期

19/6期

20/6期

21/6期

生活インフラ

62.0%

59.1%

56.9%

58.9%

54.8%

56.4%

輸送インフラ

23.5%

26.6%

27.0%

29.0%

32.2%

33.9%

産業インフラ

14.6%

14.3%

16.1%

12.1%

12.9%

9.7%

 

輸送インフラは堅調な市況が追い風となり、その比率を高めたが、コロナ禍の影響もあり産業インフラが落ち込んだ。全体の比率としては輸送・産業インフラの比率は3年間で上昇した。

 

◎成長投資

 

内容

19/6期

20/6期

21/6期 計画

21/6期

3年累計実績

人材投資 人材採用・研修

1.7億円

2.0億円

1.0億円

1.6億円

5.3億円

生産性向上 現場環境改善、働き方改革

4.0億円

4.1億円

3.0億円

11.6億円

19.7億円

事業領域拡大 新規営業所展開、M&A

1.2億円

8.7億円

2.0億円

0.1億円

10.0億円

研究開発 R&D、新技術への投資

0.3億円

0.8億円

0.5億円

1.3億円

2.4億円

合計

7.2億円

15.6億円

6.5億円

14.6億円

37.4億円

 

人材教育、研究開発、拠点機能増強、M&A等の積極的な投資を実施し、目標投資水準(20億円)を超える投資実績となり、成長の源泉に繋がった。

 

4-2 新中期経営計画

新中期経営計画においては、社会資本ストックの維持補修に関わる同社がどのように社会課題に対して価値を提供していけるか、また進行を速める少子高齢化に対して、魅力ある職場づくりと技術の伝承といった社会課題に対しても同社としての価値提供についての取組みを表現した。

 

また、同社の事業は社会課題に深く関連しているものの、その存在意義を明確にし、全従業員だけでなく取引先・株主・地域に対しての発信を高め、近年頻発化・甚大化する災害に対しても一番に駆けつける存在であり続けるための準備を平時から行う必要性を強く感じており、中期経営計画に併せてコーポレートブランディングについて刷新を行うこととした。

 

(1)ブランドリニューアル
高橋社長と従業員有志とともに取組んだリブランディング・プロジェクトにおいて、コーポレートブランドをリニューアルするとともに、以下のようなTAGLINE(※)、PURPOSE、STATEMENT、MISSIONを掲げた。

 

 

 

 

 

TAGLINE 日本語:街の道路から宇宙まで 全ての社会インフラを綺麗にする会社です

英語:RESET AND GO

PURPOSE 平時も有事も社会インフラの安全を守り、安定した社会を支える。
STATEMENT 高度経済成長期に作った社会インフラの多くが改修の時期を迎えています。全国の道路、水道はもちろん、日々使っているビル、発電所やダムや鉄道など、一度止まってしまうと日常にも経済にも大きく影響を与えます。そうなる前に、私たち第一カッターは社会インフラ改修作業の一番手として新しいものを作る前に古いものを取り除き、再起動させる仕事をしています。

私たちは日常業務の中で安全安心だけでなく、作業効率性、人材育成制度、技術革新を行い、若い働き手が少なくなったとしても多様な人が働ける環境作りを目指します。世界のどこかで違う言葉をもつ人とも共同し、誰もが働きやすい環境を目指すことで、ゆくゆくは危険な場所には人が行かずにロボットで作業できるようになるかもしれません。

そして、日本では天災が頻発し、災害対応も日常的になってきました。日常的に鍛錬することで、有事における作業でも本領を発揮し、危険な場所でも安全に作業します。

私たちはただの職人では止まらない。日々の仕事に革新を持たせ、社会を支えることに繋げてく。世界でも宇宙でも第一に呼ばれる会社を目指します。

MISSION 性別国籍を問わず、職人が安全で働きやすい環境を作り、業界の発展に寄与する。

 

高効率/低環境負荷となる施工技術を磨き、社会と顧客の課題に答える。

 

独りよがりにならず、かっこいい人・組織を目指し社会や家族に誇れる会社である。

 

※TAGLINE
企業のコンセプトや理念を表したり、その企業や製品、サービスがどんな価値を提供しているかを端的にあらわしたりする言葉

 

(2)中期経営計画2024の位置づけ

PURPOSE「平時も有事も社会インフラの安全を守り、安定した社会を支える。」の実現に向けた道標であり、コミットメントでもある。

 

「安心安全」「持続的な成長」「循環型社会」といった社会課題の実現に向け、人財・ノウハウ・ネットワーク・財務などの資本を活用し、「インフラクレンジング(切断穿孔・ビルメンテナンス)」「リユース・リサイクル」「建設中小へのサービス」といった事業を通じて価値を提供する。

 

(同社資料より)

 

(3)中期経営計画2024の概要

長期展望として「世界一のエンジニア集団」「時価総額1,000億円」を目指す中で、E(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)の各目標及び数値目標(財務・非財務)をコミット。
実現のための「人材戦略」「優位性強化戦略」「ガバナンス戦略」「成長戦略」を掲げている。

 

(同社がエンジニア(職人・技能労働者)にこだわる理由)
労働集約型産業である建設業界においては、少子高齢化の流れの中で現在約340万人の建設従事者は2030年にはその1/3が高齢化によって離職すると言われている。そうした職人の減少に対応するため、工事現場では施工を外注し、工場で製造された製品を現場で組み立てるファブレス化が進んでいる。そのため、職人はその技術を発揮するのではなく下請企業と位置付けられ、待遇は劣化。そうした環境がさらに職人を不人気なものとしてしまうという負のスパイラルが起きている。

 

一方で、日本の社会インフラの老朽化が進んでいる。15年後には国内に存在する道路橋約72万6千橋の63%、港湾施設約4万4千施設の52%が建設後50年以上経過する状況である。また、国内建設市場の長期的なトレンドをみると、純社会資本ストックの総量は2000年以降増加傾向が収束し、近年では横ばいから微減トレンドに変化している。これは、建設投資が「新設・新築」から「維持・修繕」にシフトしていることを示しており、上記のように大半のインフラ構造物が新設から50年近い時間が経過するなか、「壊して建て替える」か「治療して長く使う」、つまり「維持・補修」の必要性が社会インフラの老朽化とともに急速に高まっている。

 

こうしたギャップが発生している中、同社では今後、「ヒト」がいることの価値は今とは比較にならないほど高まることは間違いなく、ヒトを有している企業の競争優位性は飛躍的に向上すると考えており、「優秀なエンジニア(職人・技能労働者)を供給することが社会的な責務であると認識している。

 

(3)中期経営目標

今回の中計及びその先2036年6月期の数値目標は以下の通りである。

 

(同社資料より)

 

(4)各戦略の概要

コミットメント実現のための「人材戦略」「優位性強化戦略」「ガバナンス戦略」「成長戦略」の4戦略の概要は以下の通り。

 

①人材戦略
持続的成長の基盤となる3テーマにおける目標を掲げている。

 

テーマ

目標

EX(従業員体験)の多様化・質向上

 

エンジニアのキャリア多様化

ステージに応じた教育機会

女性活躍

ブランディング 社会的価値の可視化

格好良さの発信

仲間(ステークホルダー)の拡大

安全・安心の追求 安全の可視化

ワークライフの確保

安心な環境

 

◎EX(従業員体験)の多様化・質向上
入社から退社までのジャーニーマップを作成し、従業員の経験価値を可視化する。
常にVISION・MISSIONの共有が重要である。

 

(同社資料より)

 

◎ブランディング
ブランドリニューアルとアクションを通じて、ステークホルダーの信頼を拡げる。
ステークホルダーには、現在の株主・顧客・仕入先・協力会社・従業員にとどまらず、潜在株主、潜在取引先、潜在従業員・潜在関係者など、これから同社との関係構築の可能性のある人々・組織を含む。

 

コンプライアンスを真ん中に置く企業文化により、「働くことを誇れる社員」働いてみたいという採用希望者」「何か手伝いたいという関係者」「一緒に仕事をしたいという顧客」「応援したいという株主」を増やす。

 

◎安全・安心
注力してきた残業時間抑制に関しては、「1か月840時間以内(月平均70時間)」、「複数月平均 休日労働を含んで4-6か月それぞれ平均80時間以内」という2023年までの目標を前倒しで達成した。
2024年までに原則「休日労働を含んで45時間未満」という目標の達成を目指す。

 

「時間:完全週休二日制、年間休日数の増加」「報酬:ベースアップ、株式を用いた退職金制度の拡充」「ライフスタイル:保険拡大と健康増進、働き方の多様化」の多様化」にも取り組んでいく。

 

また、年次・階層・目的別に研修制度を多様化させるほか、安全パトロール、安全・技術の可視化、コンプライアンスなど、安全・技術研修にも注力する。

 

②優位性強化戦略
以下、3テーマ及び目標を掲げている。

テーマ

目標

研究開発

 

研究開発部会

新たな開発組織「Co-Demensional Innovation Lab. (CDI‐Lab.)」

技術×Tech

グループ展開 グループ会社のメリット最大化

人的交流

教育の共有

協力会社ネットワークの強化 整備場の開放

安全教育

未経験者採用の支援

 

◎研究開発
社長直轄で、工事本部・営業本部とともに構成する「研究開発部会」では、既存技術の改良から自動化・可視化までを手掛けている。
自薦・他薦不問の開発組織で、「困りごと」「不便」「エコ」をキーワードに案件の大小問わず開発を推進。
過去8年間で172件のアウトプットを行っており、同社ならではの独自の工法や技術が生み出されている。

 

新たな開発組織である、「Co-Demensional Innovation Lab. (CDI‐Lab.、協次元イノベーション研究所)を設立準備中である。
同社における独立組織で、上記の研究開発部会とも切り離して運用する。外部専門人材の獲得も視野に入れている。
そのため、研究開発部会が既存技術の改良を行うのとは棲み分けし、DX対応機械開発・アシスト技術・新工法開発など、中長期スパンで、基礎研究から高度なIoT対応機械の開発やアシスト技術の研究、及び新工法の開発をメインとする。
高度技術・工法開発による生産性向上や負担軽減を広く業界全体に提供し、日本にとって欠かせない専門施工業界を持続可能で魅力ある職場へと変えていく。また、DEEP TECH(※)エコノミーへの貢献を果たすことをミッションとしている。

 

※Deep Tech
科学的な発見や革新的な技術に基づいて、世界に大きな影響を与える問題を解決する取り組み

 

◎グループ展開
同社は専門工事業でニッチな業態なため、売上・利益の規模を追求していくには一定の工事件数や顧客数を確保していく必要があるため、早くからM&Aも活用した全国展開を進めてきた。
グループ化した会社に対しては、研修、採用、人的交流、営業など多角的にメリットを提供しており、連結後の売上・利益は各社とも大きく拡大している。

 

◎協力会社ネットワークの強化
協力会社とのネットワークは同社競争優位性における重要な要素である。上記の全国展開を可能としているのも協力会社とのネットワークによるもので、協力会社を重要なパートナーと認識しており、社内でも「下請け」と呼ぶことを禁じている。
同社の持続的な成長・社会貢献の為には、協力会社にとって安心・安全な基盤を提供する義務があると考えている。
協力会社には小規模事業者が多いため、自力でのインフラ整備が難しい現状を踏まえ、整備場の開放、各種安全教育の実施、採用支援などの準備を進めていく。

 

③ガバナンス戦略
以下、3テーマ及び目標を掲げている。選択を申請したプライム市場の適合水準を目指す。

テーマ

目標

ガバナンス強化 取締役会の監督機能強化

管理・内部監査部門強化

基本理念・行動指針策定、教育強化

サステナビリティ関連開示の強化 サステナビリティ方針明確化

TCFD対応

非財務情報の開示多様化

株主との対話深化 株主還元方針

資本コスト明示

情報発信の強化

 

◎ガバナンス強化
取締役会は過半数、監査役会は全数と、上位意思決定機関の社外比率を過半以上に引き上げ、監督機能強化を図る。

 

◎サステナビリティ関連開示の強化
以下のスケジュールで各課題への対応を進め、社会に貢献し、持続可能なビジネスモデルを表現し広く認知を高める。

(同社資料より)

 

◎株主との対話強化
以下のような目標実現を目指す。

(同社資料より)

 

④成長戦略
以下、3テーマ及び目標を掲げている。

テーマ

目標

既存市場の拡大 東京都心部強化

九州エリア強化

カーボンニュートラル

宇宙関連事業

M&A 既存事業(事業承継、成長企業、ニッチ特化企業)

周辺事業の模索

新規事業 第4セグメントに向けた試行錯誤

自社人的資本の持つ独自の強みを事業化準備

 

◎既存市場の拡大
東京都心部は想定市場規模年間30億円、九州は同80億円、関西は同500億円と同社では想定しており、市場を深耕する。

 

カーボンニュートラルでは、グリーン成長戦略市場の取り込みを図る。
現在部門別CO2排出割合の最も高いのは電力部門だが、化石燃料を使用している産業・運輸の電化により、電力由来の比率が今後更に高まることが予想されることから、電力業界での市場を模索する。
想定市場規模は170億円。

 

宇宙関連では、スペースポートの整備・保守関連事業の獲得、宇宙空間での活躍を想定している。
前者では、2020年6月に閣議決定された「宇宙基本計画」に基づき、今後スペースポート(離発着場)の整備が進むと見られるため、同社の得意とする空港整備関連技術の獲得を進める。
後者では、世界一のエンジニア集団として、宇宙空間でノウハウが活かせるビジネスを模索する。
現在、一般社団法人 スペースポートジャパン(※)に専門施工会社として唯一正会員として参加している。

 

※一般社団法人スペースポートジャパン
日本にスペースポート (宇宙港)を開港することをもって、広く日本の宇宙関連産業を振興することを目的とし、ビジネス機会の創出、国内外の関連企業および団体との情報交換および連携、情報発信、勉強会やイベントの開催などを行っている。

 

◎M&A
将来不足する付加価値の高いエンジニアと技術の受け皿ととなることを目指し、M&A戦略を推進する。
M&A方針は、以下の3つ。

 

*事業領域の明確化
同社が得意とする、「切る」「はつる」「あらう」「剥がす」「削る」という5つのキーワードを行う専門施工会社

 

*サプライチェーンの前後
同社事業の工事施工の前後にあたる「調査」「設計」「保守」に関わる会社

 

*特化した技術を有する関連事業
他には真似のできない特化した技術・仕組・客層を有する会社

 

◎新規事業
同社は、下請業態・中小零細など規制の枠組みに適合しにくい企業に必要なノウハウを有しており、こうしたノウハウは中小零細企業の生産性向上とシナジーが高いと考えている。そこで、このノウハウを転用した中小企業向けサービス事業を模索する。

 

対象は中小零細企業。日本企業の99.7%が中小企業で、建設業だけでも約47万社が存在する。中小企業向けサービスを開発・提供することで、中小企業の事務生産性向上へ貢献するほか、教育提供による離職率の低下に貢献する。

 

5.財務:非財務データ

(1)財務データ

◎BS/PL

 

2017/6期

2018/6期

2019/6期

2020/6期

2021/6期

売上高

12,840

16,283

14,871

17,440

19,337

営業利益

1,412

2,187

1,760

2,296

2,760

経常利益

1,473

2,263

1,843

2,482

2,936

当期純利益

990

1,487

1,251

1,523

1,743

EPS(円)

87.01

130.69

109.90

133.86

153.16

ROE(%)

13.1

17.0

12.5

13.5

13.6

ROA(%)

14.5

19.4

14.2

17.2

17.5

総資産

10,597

12,707

13,304

15,533

17,991

純資産

8,333

9,822

10,956

12,548

14,321

自己資本比率(%)

75.9

74.3

79.3

77.1

75.8

*単位:百万円。、2021年1月1日に1:2の株式分割を実施。EPSは遡及して調整。

 

◎CF

 

2017/6期

2018/6期

2019/6期

2020/6期

2021/6期

営業CF

913

2,224

1,231

2,515

1,957

投資CF

-594

-622

-649

-1,699

-1,594

フリーCF

319

1,602

581

815

363

財務CF

-113

-140

-179

-198

-69

現金・現金同等物

3,834

5,295

5,698

6,316

6,610

*単位:百万円

 

(2)非財務データ

①社会資本関連

 

2017/6期

2018/6期

2019/6期

2020/6期

2021/6期

株主数

4,086

4,015

2,644

2,298

2,309

協力会社数

1,379

1,420

1,470

1,513

1,546

顧客先数

6,538

6,565

7,136

6,932

7,210

 

②人的資本関連(単体ベース)

 

2017/6期

2018/6期

2019/6期

2020/6期

2021/6期

社員数

347

359

364

390

407

 うち、女性社員数

27

29

30

38

50

 同比率

7.78%

8.08%

8.24%

9.74%

12.29%

新入社員数

25

26

28

46

46

退職者数(定年含む)

27

20

41

22

29

入社3年以内での退職者数

13

7

21

11

14

同比率※

17.1%

9.7%

26.6%

11.0%

9.6%

新卒入社社員の就業継続率※

93.1%

100.0%

84.4%

89.2%

85.7%

※入社3年以内での退職率:退職者数÷過去3年の入社人数
※新卒入社社員の就業継続率:期中在籍していた直近3年間の新卒社員÷直近3年間の新卒入社社員合計
 を分子に置く

 

 

2017/6期

2018/6期

2019/6期

2020/6期

2021/6期

工事件数

59,169

60,225

64,415

62,044

60,113

作業事故件数(協力業者含む)

39

46

47

45

61

作業事故件数(人身、協力業者含む、4日以上休業)

3

0

6

1

0

同事故比率

0.003%

0.000%

0.006%

0.000%

0.000%

※4日以上休業となる期中の労災事故件数 ÷ 期中の工事件数

 

<参考>

ESG Bridge Reportの発行に際しては、柳 良平氏(京都大学経済学博士、エーザイ株式会社専務執行役CFO、早稲田大学大学院会計研究科客員教授)に多大なご協力を頂いた。
この「参考」のパートでは、ESG Bridge Report発行の趣旨についても述べさせていただくとともに、同氏の提唱する「ROESGモデル」の概要を同氏の著作「CFOポリシー」から引用する形で紹介する。

 

(1)ESG Bridge Reportについて

ESG投資がメインストリーム化する中で、投資家からは日本企業に対し積極的なESG情報開示が求められ、これに呼応する形で統合報告書作成企業数は増加傾向にあります。
ただ、統合報告書の作成にあたっては経営トップの理解・関与が不可欠であることに加え、人的リソースおよび予算負担から多くの企業が踏み出すことができていないのが現状です。
また、統合報告書の作成にあたっては各種データの整理、マテリアリティの特定、指標や目標値の設定など多くのステップが必要ですが、現状の準備不足のために二の足を踏んでいるケースも多いようです。

 

しかし、柳氏が「CFOポリシー」で、「日本企業が潜在的なESGの価値を顕在化すれば、少なくとも英国並みのPBR2倍の国になれるのではないだろうか」「ROESGの実現により日本企業の企業価値は倍増でき、それは投資や雇用、年金リターンの改善を経由して国富の最大化に資する蓋然性が高い」と述べているように、日本企業のESG情報提供は、日本全体にとっても有意で積極的に推進すべき事項であると株式会社インベストメントブリッジは考えています。

 

そこで、一気には統合報告書作成には踏み出せないものの、ESG情報開示の必要性を強く認識している企業向けに、現時点で保有するデータやリソースをベースに、投資家が必要とするESG情報開示に少しでも近づけるべく、弊社がご協力して作成しているのが「ESG Bridge Report」です。
日本企業のESG情報開示を積極的に後押ししている日本取引所グループが発行している「ESG情報開示実践ハンドブック」のP6には「ここで紹介している要素が全て完璧にできていないと情報開示ができないということでもない。自社の状況を踏まえてできるところから着手し、ESG情報の開示を始めることで、投資家との対話が始まり、そこから更なる取組みを進めていく際に、本ハンドブックが手がかりになることを期待している」とありますが、「ESG Bridge Report」は、まさに「できるところから着手し、ESG情報の開示を始める」ためのツールであると考えています。

 

柳氏によれば「ROESG」の本格的な展開のためには、ESGと企業価値の正の相関を示唆する実証研究の積み上げ、企業の社会的貢献が長期的な経済価値に貢献する具体的事例の開示などが必要とあり、実際のハードルは高いのですが、各企業のESGへの取り組みがいかにして企業価値向上に繋がっているかをわかりやすくお伝えしたいと考えています。

 

お読みいただいた多くの投資家からのフィードバックを基に、よりクオリティの高いレポートへと改善してまいりますので、是非忌憚のないご意見を賜りたいと存じます。

 

株式会社インベストメントブリッジ
代表取締役会長 保阪 薫
k-hosaka@cyber-ir.co.jp

 

 

(2)「ROESGモデル」について

(拡大する非財務資本の価値、ESG投資の急増、ESGと企業価値をつなぐ概念フレーム策定)
近年、多数の実証研究において企業価値評価における非財務情報の重要性拡大が証明されており、今や、企業価値の約8割は見えない価値(無形資産)、非財務資本の価値と推察される。
加えて、非財務情報と企業価値の関係を調べた多数の実証研究の結果から、ESGと企業価値は正の相関を持つ蓋然性があると考えられる。
一方、グローバルにESG投資のメインストリーム化が進む中、潜在的なESGの価値にもかかわらず多くのケースでPBRが1倍割れもしくは低位に留まる日本企業は、PBR上昇のために「ROESGモデル」により、非財務資本を将来の財務資本へと転換すること、つまりESGと企業価値をつなぐ概念フレームを策定して開示する必要がある。

 

(「ROESGモデル」の概要)
株主価値のうち、「PBR1倍相当の部分」にあたる株主資本簿価は現在の財務資本・財務価値により構成される。
一方、株主価値のうち「PBR1倍超の部分」にあたる市場付加価値は、(将来の財務資本ともいえる)非財務資本により構成されると同時に、残余利益モデルにおいてはエクイティス・プレッド(ROE-株主資本コスト)の金額流列の現在価値の総和でもある。
このことから柳氏は、非財務戦略の結論として「非財務資本とエクイティ・スプレッドの同期化モデル」=「ROESGモデル」を、ESGと企業価値を同期化する概念フレームワークとして提案している。

 

 

「ROESGモデル」においては、「市場価値(MVA)」を通じて残余利益の現在価値の総和としてのエクイティ・スプレッドと非財務資本が相互補完的である、つまり、エクイティ・スプレッドによる価値創造はESGを始めとする非財務資本の価値と市場付加価値創造を経由し、遅延して長期的には整合性を持つ。
そのため、ESG経営は資本効率を求める長期投資家とは市場付加価値を経由して同期化でき、協働が可能であろう。
これを傍証するように、柳氏が実施した投資家サーベイにおいては、世界の投資家の大多数が「ESGとROEの価値関連性を説明してほしい」と要望していると同時に、「ESGの価値の100%あるいは相当部分をPBRに織り込む」と回答しており、「ROESGモデル」は間接的にも長期投資家の大半から支持されていると解釈できよう。
(同氏の「ROESGモデル」の詳細については、柳良平著「CFOポリシー」中央経済社(2020)
をご参照されたい。

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