(4169)ENECHANGE株式会社 増益 注目のエネルギーテック

2021/06/17

 

 

 

城口 洋平

代表取締役CEO

ENECHANGE株式会社(4169)

 

 

企業情報

市場 東証マザーズ
業種 情報・通信
代表取締役CEO 城口 洋平
所在地 東京都千代田区大手町2-6-2 日本ビル 3F
決算月 12月末日
HP https://enechange.co.jp/

 

株式情報

株価

発行済株式数(期末)

時価総額

ROE(実)

売買単位

2,116円

11,904,916株

25,190百万円

-2.9%

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

未定

非開示

144.98円

29.2倍

*株価6/8終値。発行済株式数、DPS、EPSは21年12月期第1四半期決算短信より。ROE、BPSは前期実績。
PBRは2021年4月1日付で実施した1:2の株式分割を考慮。

 

業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2018年12月(実)

1,140

93

104

91

17.35

0.00

2019年12月(実)

1,268

-322

-304

-238

-45.40

0.00

2020年12月(実)

1,713

53

6

-16

-3.10

0.00

2021年12月(予)

2,600

未定

*単位:円、百万円。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。以下同様。予想は会社側予想。営業利益以下の各段階利益については黒字を見込んでいるが、機動的な投資判断を実施する観点から、営業利益、経常利益及び当期純利益の具体的な金額予想は開示しない方針。

 

ENECHANGE株式会社の会社概要、成長戦略、城口CEOへのインタビュー等をご紹介致します。

 

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2021年12月期第1四半期決算概要
3.2021年12月期業績予想
4.成長戦略
5.城口CEOに聞く
6.今後の注目点
<参考:コーポレート・ガバナンスについて>

 

今回のポイント

  • 発電や小売を行わず中立的な立場でエネルギー業界のイノベーションを推進する「エネルギーテック」企業。脱炭素社会の実現に向けて、急速な変化が求められるエネルギー企業に対して、最先端のテクノロジーサービス提供を通じて、エネルギー業界全体の変革を支援することをミッションとする。 
  • 事業セグメントは、エネルギープラットフォーム事業とエネルギーデータ事業の2つ。前者では、最適な電力・ガス会社等を選択するための比較・診断・切替申込を、ワンストップで行うことができるインターネット・プラットフォームを提供している。後者では、スマートメーターのデータ解析、再生可能エネルギー発電所の運営効率化等、「エネルギーの4D」の進行に伴い必要となる新たなITシステムを、エネルギー事業者向けにクラウド型で提供している。 
  • 特長・強みは「電力業界のトレンドに特化した SaaSシステムを提供している唯一の企業」「ストック型収益による強固な事業基盤」「豊富な知見を有する人材で構成された経営チーム」の3つ。 
  • 2021年12月期第1四半期の売上高は前年同期比56%増の6億57百万円。売上総利益も同78%増と大幅に増加し、売上総利益率の高いプラットフォーム事業の売上増加により粗利率も10.1pt上昇した。営業利益は同22%減の33百万円。プラットフォーム事業においてユーザー獲得費用(広告宣伝や販売手数料)の積極的な投資を行った。期初は赤字予想であったが増収で利益を確保。また、営業損益からユーザー獲得費用を除いて算出した調整後営業利益は同163%増の3億21百万円と大幅な増益となった。 
  • 2021年12月期の売上高予想は第1四半期決算発表後の21年5月24日、前期比51.8%増の26億円に上方修正(期初予想は23億円)。営業利益以下の各段階利益についてはユーザー獲得費用(広告宣伝費・販売手数料)の投下を行いながらも黒字を維持する方針。機動的な投資判断を実施する観点から、具体的な金額予想は開示していない。 
  • 中長期成長イメージとして、毎年30%以上の売上高成長を継続し、2027年12月期までに売上高100億円を目指す。売上高100億円が見込まれるタイミングで、ステークホルダーからの更なる信頼を獲得するため、プライム市場への上場を目指す。 
  • 城口洋平CEOに株主・投資家へのメッセージを伺った。「当社の社会的な意義、事業の可能性・将来性をご評価いただき、皆様とともに脱炭素社会を実現していきたいと考えておりますので、我々の成長スピード加速に向けて是非ご支援いただきたいと思います」とのことだ。 

1.会社概要

【1-1 沿革】

同社代表取締役CEOの城口洋平氏は、2011年に発生した東日本大震災を機に、エネルギー問題への関心を深め、エネルギー・電力制度の最先端であるイギリスの理系最高峰であるケンブリッジ大学へ留学。自身の専門領域である統計学・データ解析との接点である電力データAI解析の工学部修士・博士課程に進学した。
留学中の2013年、日本の電力自由化を契機とした規制緩和後の市場における事業開発及びスマートメーターデータの研究開発を目的に産学連携研究機関「Cambridge Energy Data Lab Limited」を設立。
2014年4月には、Cambridge Energy Data Lab Limitedにおいて日本の電力自由化を見据えた家庭向け電力・ガス特化型比較サイト「エネチェンジ」を開発した。
2015年4月に東京都墨田区に「エネチェンジ株式会社」を設立し、同年6月Cambridge Energy Data Lab Limitedから事業譲渡を受け、現在の事業を本格的に開始した。2018年5月に「ENECHANGE株式会社」へと商号変更。
電力自由化に対応した電力切替プラットフォーム開始(2016年1月)、電力会社向け電気料金シミュレーションASPサービスに機能追加し「EMAP」サービスとしてリニューアル(2018年8月)、電力データ解析技術を用いた再生可能エネルギー発電所の運営効率化・ファンド運営事務サービス「JEF」開始(2019年12月)など、サービスラインナップを拡充。売上は順調に拡大し、2020年12月、東証マザーズに上場した。

 

【1-2 企業理念など】

ミッションは、CHANGING ENERGY FOR A BETTER WORLD ~エネルギーの未来をつくる~」

 

会社名「ENECHANGE」には「エネルギー問題に人生をかけて取り組んでいきたい」と思う多くの人々の想いが込められている。
脱炭素社会実現のために不可欠な「エネルギーの4D」(後述)全ての領域において、エネルギーの未来をつくる革新的なサービスを創造し、社会に貢献することを目指している。

 

【1-3 市場環境】

同社が事業の対象とする「エネルギー」に関連する市場環境及び現在展開している電力・ガス切替サービスである「エネルギープラットフォーム事業」、電力・ガス会社向けのクラウド型DXサービスである「エネルギーデータ事業」についての市場環境、事業環境は以下の通りである。
(一部、同社有価証券報告書などから引用)

 

(1)エネルギー業界の大変革
◎脱炭素社会構築に向けた足取りと「「エネルギーの4D」
脱炭素社会に向けた足取りがスピードアップしている。
一歩先んじて2050年の脱炭素化を合意している欧州諸国に次いで、日本も2050年のカーボン・ニュートラルを目指す「グリーン成長戦略」を公表、アメリカのパリ協定復帰など、世界のエネルギー業界は大きな変革期を迎えている。

 

そうした状況下、EV(電気自動車)の普及、アジア新興国の電力需要拡大などが確実視される中、環境問題を考慮しつつ安定的かつ効率的に電力を供給するためには「エネルギーの4D」によるイノベーションが不可欠であるといわれている。

 

*エネルギーの4D

自由化(Deregulation) 競争導入・市場メカニズムを活用
デジタル化(Digitalization) DX推進による安定的・効率的な電力供給
脱炭素化(Decarbonization) 気候変動への取り組み、再生エネルギーの拡大
分散化(Decentralization) 大規模な集中型システムから分散型システムへ

 

◎脱炭素社会の実現に向けた日本政府の動向 ~グリーン成長戦略~
「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の公表(2020年12月25日)により、日本の脱炭素社会の実現に向けた道筋が示された。
2021年1月に開催された第204回通常国会での施政方針演説で菅首相はグリーン成長戦略に言及し、グリーン成長戦略を実現することで、2050年には年額190兆円の経済効果と大きな雇用創出が見込まれると述べた。

 

(枠組み)
2050年カーボンニュートラルへの挑戦を、産業構造や経済社会の変革を通じた、大きな成長につなげる。民間投資を後押しし、240兆円の現預金の活用を促し、ひいては3,000兆円とも言われる世界中の環境関連の投資資金を我が国に呼び込み、雇用と成長を生み出す。そのための政策ツールを総動員する。
2050年カーボンニュートラルを実現する上で不可欠な重点分野ごとに、①年限を明確化した目標、②研究開発・実証、③規制改革・標準化などの制度整備、④国際連携、などを盛り込んだ「実行計画」を策定し、関係省庁が一体となって、取り組んでいく。
(重要分野)
2050年カーボンニュートラルへの挑戦に、成長戦略として取り組む観点から、今後の産業としての成長が期待される重要分野であって、温室効果ガスの排出削減の観点からも、2050年カーボンニュートラルを目指す上で取組が不可欠な分野において、「実行計画」を策定する。重要分野には、足下から2030年にかけて市場が立ち上がるものから、2050年にかけて市場が立ち上がってくるものまで、成長に至る時間軸が異なる14分野を取り上げている。

 

(「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」 経済産業省より)

 

(更なる改革の進行が見込まれるエネルギー業界)
「グリーン成長戦略」においては、2050年の参考値として、産業・運輸・家庭部門の電化によって、電力需要は現状より30~50%増加し、カーボンニュートラル実現のためのエネルギーミックスも掲げられるなど、「グリーン成長戦略」の中心テーマの一つは「電力」である。
既に自由化が進行しているエネルギー業界であるが、今後も更に大きな構造変革、投資、競争促進などが起こることが見込まれる。

 

◎「電化」により急拡大する電力市場
「脱炭素」のトレンドを受け、オール電化・電気自動車の普及により、7兆円の都市ガス・LPガス市場、9兆円のガソリン市場の取り込みにより、電力市場は現在の13兆円から最大50%程度増加し20兆円規模にまで拡大すると、同社では見ている。

 

(2)「エネルギープラットフォーム事業」の事業環境
(電力自由化の概況)
日本国内の電力自由化は2000年に法人向けの特別高圧区分、2004年に高圧区分で開始された。
2016年4月に家庭向け(低圧電灯・低圧電力)の小売市場の自由化が開始されたことを機に、新規参入事業者の増加による競争環境の激化や、電力・ガス会社の切替に対する認知度の拡大に伴い、家庭向け、法人向けともに新電力シェアが拡大している。
2018年3月の法人向け、家庭向けにおける新電力のシェア(契約口数ベース)はそれぞれ25.7%、7.0%であったが、2020年末には29.5%、18.0%まで上昇している。

 

(電力切替について)
家庭向けにおいて主となる低圧電灯の小売市場においては、2016年の全面自由化以降、電力契約の切替が進んでいる。

 

*電力契約切替数の年間推移

 

2017年

2018年

2019年

2020年

大手電力からの切替件数

3,171,284

3,476,507

3,365,446

3,415,391

新電力からの切替件数

72,561

320,975

846,613

839,484

新電力の新規契約件数

426,232

648,271

1,164,921

1,781,378

合計

3,670,077

4,445,753

5,376,980

6,036,253

 

大手電力からの切替需要は、電力・ガス切替の認知向上により、今後も安定的に推移すると同社では考えている。

 

新電力からの切替需要は、主に一度新電力に切り替えたユーザーが、より良い料金プラン等を探す需要によるもの。一度切り替えたユーザーは、電力・ガス切替に対する心理的ハードルが低くなり、また切替に関するメリットも認識しているため、継続的により良い電力・ガス会社を探す傾向にあるものと考えられる。
特に初回切替に関しては、電力・ガス会社による直接的な営業活動により受動的に切替を実施しているユーザーが多いと思われ、そうしたユーザーが2回目以降に切り替える場合は、能動的に電力・ガス会社を比較して検討する、すなわち同社のような切替サービスを活用する需要が高まるものと見られる。
また、新電力の新規契約需要は、引越し時に電力・ガス契約を新規契約する際に、大手電力ではなく新電力を選択するユーザーの需要があるためと同社では見ている。電力・ガス切替の認知向上により、引越し時により良い料金プラン等を探す需要は今後も増加していくと同社では考えている。

 

(3)「エネルギーデータ事業」の事業環境
(エネルギー業界のITシステム市場の概況)
電力業界におけるデジタル・イニシアチブ(デジタル化の進展によって産み出される価値)について、世界経済フォーラム・アクセンチュア共同レポートによると、2016年から2025年にかけて世界全体で享受できる価値は、1.3兆ドルに達すると見込まれている。
日本国内においても、自由化の進展による電力・ガス会社間の競争激化、スマートメーターの設置・普及による電力データ量の増加、AI等の技術の進化、再生可能エネルギー発電所の大量導入を背景とした弾力性・柔軟性のある電力系統運用の必要性等により、電力・ガス会社には旺盛なデータ解析ニーズがあるものと同社では考えている。

 

このように電力データ活用の関連分野は、デジタル化領域のみに限定されるものではなく、前述の「エネルギーの4D」分野で横断的に生じる。
同社グループがエネルギーデータ事業において展開するサービスの対象であるエネルギー業界のIT投資の金額は、競争環境の整備によるIT投資の活性化により、近年拡大傾向にあり、日本のエネルギー業界に属する企業の売上高に占めるIT予算比率は、2015年度の0.82%から2019年度の1.05%へと上昇している。
この背景には、電力・ガスの小売全面自由化、発送電分離、スマートメーターの普及、再生可能エネルギーの増加等の業界構造の変革に伴うITシステムの刷新需要があると見られ、今後もエネルギー業界のIT投資は拡大が続くと思われる。

 

【1-4 「ENECHANGE」とは?】

「ENECHANGE」は、発電や小売を行わず中立的な立場でエネルギー業界のイノベーションを推進する「エネルギーテック」企業である。
脱炭素社会の実現に向けて、急速な変化が求められるエネルギー企業に対して、最先端のテクノロジーサービス提供を通じて、エネルギー業界全体の変革を支援することをミッションとし、「エネルギーの4D」に特化したエネルギーSaaS事業を展開している。

 

(同社資料より)

 

【1-5 事業内容】

(1)事業セグメント
事業セグメントは、電力・ガス切替サービスである「エネルギープラットフォーム事業」と、電力・ガス会社向けのクラウド型DXサービスである「エネルギーデータ事業」の2つ。両事業ともBtoBtoC型のSaaSモデルである

 

(同社資料を基に(株)インベストメントブリッジ作成)

 

「エネルギーの4D」のうち、「自由化」領域をエネルギープラットフォーム事業、その他の3D領域をエネルギーデータ事業とセグメント区分している。

 

(同社資料より)

 

①エネルギープラットフォーム事業
「エネルギーを選ぶを常識に」を掲げ、最適な電力・ガス会社等を選択するための比較・診断・切替申込を、ワンストップで行うことができるインターネット・プラットフォームを提供している。
ユーザーは個人(家庭)及び法人で、サービス名は、家庭向けサービスが「エネチェンジ」、法人向けサービスが「エネチェンジBiz」。ユーザーは無料で利用することができる。
2020年12月末時点における電力・ガス会社の提携社数は「エネチェンジ」と「エネチェンジBiz」合わせて52社(重複を除く)。
これら電力・ガス会社とのネットワークにより、価格面での訴求だけではなく、電気・ガスセットでの提供や、「再生可能エネルギー100%の電力プラン」の取り扱いを開始しており、幅広いユーザーのニーズに合わせたサービス展開を行っている。
2016年の電力自由化、2017年のガス自由化を受けて開始されたサービスで、2019年11月より順次買取期間が終了する固定価格買取制度(FIT)にあわせた電気の買取や、蓄電池の紹介サービスも提供している。

 

(サービス概要)
エネチェンジ
2020年の月間平均ユニークユーザー数は220万人。
ユーザーは、オンライン上で居住地域の郵便番号や世帯人数、在宅状況や電気の使用量といった情報を簡易的に入力することで、地域ごとの気象条件やロードカーブ(電力負荷曲線:電力需要量の変化を把握するために用いる)を考慮したアルゴリズムの診断結果に基づいた最適な電力・ガス会社の比較情報を、様々なランキング形式で得ることができる。
また、診断と比較だけではなく、オンライン上で電力・ガス会社の切替手続きまでをワンストップで行うことができる。

 

*エネチェンジBiz
大手新電力を中心とした電力・ガス会社と提携し、法人ユーザーに対して無料で一括見積と申込手続きを代行するサービスを全国規模で提供している。
2020年12月時点において、月間問い合わせ件数が300件を超える規模にまで成長している。
法人ユーザーは、無料診断登録後、過去12か月分の電気使用量を記載した明細書を提出することで、複数の電力・ガス会社からの新しい電気料金単価での見積提案の取得から電力会社の切替手続きまでの手続きを、一括して同社に委託することができる。初期費用が不要で手間が少なく、経費削減につながる点が法人ユーザーに好評である。

 

(同社資料より)

 

 

(エネルギープラットフォーム事業の収益モデル)
ユーザーが、「エネチェンジ」上で電力・ガス契約の切替を実施すると、同社は、切替先の電力・ガス会社から一定の報酬を受領する。

 

報酬は、以下の2種類。

ストック型切替報酬 プラットフォームサービス上で切替を実施したユーザーが電力・ガス会社に対して支払う毎月の電力代・ガス代に、あらかじめ定められた料率を乗じた金額を、切替以降、原則として電力・ガス小売供給契約が継続する限り、毎月継続的に受領する。

プラットフォームサービスを通じた申し込みが行われ切替が行われると、契約数に比例して報酬が増大するストック型の報酬。

その他報酬 電力・ガス契約の切替時に、ストック型切替報酬に加えて、追加で電力・ガス会社から受領する切替の一時報酬や、メディアとしての「エネチェンジ」及び「エネチェンジBiz」における宣伝効果を期待する電力・ガス会社からの広告掲載依頼・配信活動に伴い受領する広告収入等。申込数や広告件数に応じて売上高が増減する。

(同社資料より)

 

(集客方法)
オンライン、オフラインの2つにより家庭から法人ユーザーまで幅広く集客を実施している。
オンラインでの集客では、自社メディアの運営のほか、価格比較サイトなどで実際のシステムを運営してる。
また、オフラインでの電力切替は、営業人件費等に費用がかかるため、ユーザーの節約額は限定的であるが、同社ではオンラインの利点を有効活用したエネチェンジ限定キャッシュバック施策をさまざまな提携企業と実施することで、申込数増加、ARPU向上に繋げている。

 

オフラインでは、家庭向けでは不動産仲介業者等、法人向けでは金融機関等の「パートナー」へのシステム提供による、パートナー経由の切替申込にも対応している。
同社では、切替件数増大に大きく寄与するパートナー数の拡大に努めており、2021年3月のパートナーは325社まで増大。パートナー数の拡大に合わせて、パートナー経由の切替件数も順調に増加している。

 

(同社資料を基に(株)インベストメントブリッジ作成)

 

2021年3月末の継続報酬対象ユーザー数は、家庭ユーザーで10万件、法人ユーザー(※換算値)で15万件となっている。

 

※換算値
家庭ユーザーの電力容量は平均的に4キロワットとみられているため、法人ユーザーの総獲得容量から割り戻した一般家庭ユーザー相当への換算値を算出している。

 

(ユーザー獲得費用についての考え方)
広告宣伝費やパートナーへ支払う販売手数料などのユーザー獲得費用は、21年12月期第1四半期でセグメント売上高比率約60%。
足元では費用対効果の見えやすい販売手数料(自社チャネルにおけるキャッシュバック等やパートナーチャネルにおけるインセンティブの支払い)に優先的に投下している。
ユーザー獲得費用を積極的に投下しているが、ユーザー獲得が順調に増加しているためLTV/CACは前期末の3.4倍から5.3倍へ上昇した。

 

LTV/CACとは、LTV(顧客生涯価値)をCAC(顧客獲得単価)で割った比率。一般的にSaaS企業において顧客獲得コストの健全性をはかる指標として使われている。3倍を上回る水準が健全性の目安と言われている。

 

同社ではLTVを、『(一時報酬・クロスセル-販売手数料)+ライフタイムの継続報酬×売上総利益率』と定義している。

 

LTV上昇のための主要な取り組みは、以下の2つ。
*一時報酬・クロスセルの拡大:法人ユーザーにおける省エネ商材のクロスセル拡大
*ライフタイムの継続報酬の拡大:家庭ユーザーにおける解約率改善のためのユーザー維持施策の開発・導入

 

また、CAC(顧客獲得単価)に関しては、LTV/CACの現在の水準から費用投下の余力は大きいため、効果を見ながら積極的に広告宣伝等を検討していく方針である。

 

(シェア向上に向けて)
電力自由化以降、新電力への切替は、毎年着実に増加しており、契約口数ベースでの新電力シェアは家庭向け、法人向けともに上昇し、20年末にはそれぞれ18.0%、29.5%となっている。
新電力の利用者における同社の切替サービス利用者のシェアは、20年末時点で家庭向け1.3%、法人向け1.8%と順調に上昇している。

 

(同社資料より。電力シェアは、電力・ガス取引監視等委員会による電力取引報の契約口数をベースに作成。同社シェアは契約口数をKWに換算し同社が算出している。)

 

こうした中、同社ではシェア向上の余地は極めて大きいと考え、様々な取り組みを進めている。

 

*「新電力から新電力への切替」
電力自由化の普及に伴い、一度新電力に切り替えたユーザーが、再度切り替えを検討する「2回目以降の切替」が増加している。
ただ、「初回の切替」に比べて切り替えの効果が試算しにくい、切り替えの処理が複雑になるなどの課題があった。
こうした課題に対し同社では、新電力600社、1,600プラン以上のデータベースを日々管理・更新し、「新電力からの切替」に際する料金シミュレーションや切り替えフローを提供することで、「新電力から新電力への切替」を本格的にサポートしている。

 

*「引っ越しなどに伴う新電力との新規契約」
電力自由化以降、引越し時にいずれかの電力会社と電気使用の契約をしないと電気がつながらないようになった。そのため、契約手続きを忘れて入居時に電気がつながらないというトラブルが多発している。
同社では、不動産会社と提携して、引越し時に速やかに電気を利用できるように、「エネチェンジでんき開通代行サービス」を提供している。
現在、不動産管理・仲介会社とのパートナー契約締結を進めており、シェアは約4.7パーセントまで拡大していると推定している。未開拓な領域であり拡大の余地が大きいと考えている。

 

(海外の事例)
電力自由化先進国であり、日本と制度が類似しているイギリスでは、オンライン比較サイト経由での電気の切替が2019年度に60パーセントまで達している。
切替シェア2位のイギリス大手価格比較サイトを運営する「MONEY SUPER MARKET社」は、2006年に電力・ガス切替に
参入以降、積極的な広告投資(売上高比率約60%)、パートナー提携の拡大、M&Aにより売上高はCAGR約37%で成長。2020年度にはエネルギー関連の切替売上が推定77億円、営業利益率は推定30%、切替における推定シェアは15.9%となっている。
日本の電力自由化はまだまだ黎明期であり、ENECHANGEのシェアは約1%にとどまるが、イギリス同様にさまざまな施策を積極的に行っていくことにより、大きな成長余地があると、同社では考えている。

 

②エネルギーデータ事業
「デジタル化でエネルギーをより効率的に」を掲げ、スマートメーターのデータ解析、再生可能エネルギー発電所の運営効率化等、「エネルギーの4D」の進行に伴い必要となる新たなITシステムを、エネルギー事業者向けにクラウド型で提供している。

 

現在は、「EMAP」「SMAP」を中心としたサービスを提供しており、どのサービスも独自データを活用した電力・ガス業界特化型のシステムを汎用的に展開している点に特徴がある。

 

国内の電力・ガス会社との戦略的な業務提携を始めとして、国内外の電力・ガス会社に対してこれらのサービスを提供している。いずれもクラウドベースで行われているため、サービス提供を通じて様々なデータの蓄積が可能であり、また蓄積されたデータを解析・活用することで更なるサービス品質や機能の強化に繋がるため、サービス提供を通じ競争力を高めていくことが可能である。サービス導入社数は2020年12月末時点で32社。

 

(同社資料より)

 

(サービス概要)
*EMAP(イーマップ 、 Energy Marketing Acceleration Platform)
エネルギー事業者向けのデジタルマーケティング支援SaaS。
電力・ガス切替プラットフォーム「エネチェンジ」を運営する中で得た知見・情報・技術資産を基にした、電力・ガス小売の現場へのデジタル化・効率化サービスをSaaS型で提供している。

 

2020年12月末時点においては東京電力エナジーパートナー株式会社、東京瓦斯株式会社、北陸電力株式会社をはじめとした電力・ガス会社にサービス提供をしている。
2020年に導入した北陸電力では、引っ越しや契約変更など各種手続きのDX化を推進している。「エネチェンジ」での運用実績を活かしたサービスをSaaSで提供することで、ユーザー満足度の向上やコスト削減に貢献している。

 

「EMAP」を利用して蓄積された電力・ガス切替に関する契約情報は2020年12月末時点において100万件以上。
標準的なパッケージが用意されているため、導入企業は速やかにセットアップを行うことが可能。運用開始後も、システムの死活監視や、定期的な保守、燃料費調整額の定期更新といったメンテナンスまで、ワンストップで提供している。

 

主な機能は以下の2つ。
①EMAP FRONT SERIES(マーケティング機能)
「エネチェンジ」で蓄積されたユーザー行動等のデータベースを活用して開発された高いCVR(コンバージョンレート、成約率)を実現する申込受付フォームや、全国の電力・ガス会社の料金プランに対応した料金シミュレーション、請求額や電力使用量グラフ機能を備えたユーザーマイページ等、オンライン上での新規顧客獲得やユーザーリレーション深化に有効な機能を提供している。「エネチェンジ」の運営経験により最適化された機能を基に電力・ガス会社のサイト向けに再設計を施しているため、最短1か月でのセットアップが可能である。

 

②EMAP DESK SERIES(顧客・営業管理、バックオフィス機能、データ解析)
代理店として多くの電力・ガス会社の顧客管理を行ってきた「エネチェンジ」の知見や、ユーザー管理機能等のソフトウェア資産をベースに構築した顧客管理システムを提供している。全申込顧客の情報(エリア、プラン、申込ステータス等)を管理できる機能等、取次店の獲得成果・営業管理、アクセス・ユーザー行動解析等を柔軟に行いたいというニーズに対応した機能が特徴。
また、EMAP DESKを起点に、新電力など事業立ち上げ期の電力・ガス会社をメインターゲットとして想定した切替業務のBPOサービスも提供している。BPOでは、必要とされる機能の共通化・自動化による効率化により、少ない人的リソースでの事業展開や既存の顧客管理システムでは対応できない柔軟なサービス設計構築が可能である。

 

*SMAP(スマップ、Smart Meter Analytics Platform)
エネルギー事業者向けスマートメータデータ解析SaaS。
子会社のSMAP ENERGY LIMITEDが、開発・運営を国内外で行っている。
スマートメーターを経由して送られてくるユーザーの電力使用量(kWh:キロワットアワー)の30分値データを様々な観点で解析・予測するサービスをSaaS型で提供している。

 

現在、大手新電力をはじめとした電力・ガス会社にサービス提供している。特に、スマートメーターの普及拡大により、新電力各社でデータ活用のニーズが高まっている。
管理及び解析の対象としているスマートメーターの電力使用量データは2020年12月末時点において25億件以上。

 

主な機能は以下の2つ。
①顧客収益性改善機能
電力会社は自社の電力調達原価のデータと既存顧客への小売供給価格のデータをAPI等により連携させることで、自社全体から業種別・個別顧客別の収支状況まで、様々な形での収益性分析ができるため、自社の電源状況と照らし合わせた効果的な顧客獲得及び維持の戦略立案と実行が可能である。
その他、電力会社が一般送配電事業者に支払っている託送料金を削減するためのデータ分析結果を提供しており、電力会社はこの分析結果をもとに既存顧客の電力使用状況に合わせた託送料金へと変更することで、収益性向上を図ることもできる。

 

②デマンドレスポンス機能
電力会社が提供する電気料金プランの一部には時間帯別の料金設定がなされており、また電力の調達価格も一部時間帯別に変動するため、電力会社の収支は時間帯毎に変動する。
デマンドレスポンスとは、電気の需要(消費)と供給(発電)のバランスをとるために、需要側の電力を制御する技術のことで、再生可能エネルギーの普及による発電量の変動に伴い、今後重要になる技術である。
「SMAP」ではデマンドレスポンスを実施する上で重要となる電力需要抑制量の予測機能等を提供している。

 

(エネルギーデータ事業の収益モデル)
いずれのサービスも、電力・ガス会社を中心とするサービス提供先の企業から、サービス提供の対価として一定の報酬を受領する。
エネルギー業界に特化したサービスのため、直接的なサービス対象顧客は電力・ガス会社が中心だが、利用者数に応じた従量課金体系を採用することで、電力・ガスを利用するエンドユーザーを間接的なサービス対象顧客とする「BtoBtoC型サービス」である。

 

報酬は、以下の2種類。

ストック型ライセンス報酬 サービス提供に対して毎月継続的に受領する報酬。プロダクトを電力・ガス会社に対してSaaS型のライセンス課金形式で提供するストック型の収益と、エンドユーザー(需要家、スマートメーター数等)に連動する従量報酬を基本とする。「EMAP」「SMAP」の報酬は主にユーザー(需要家、スマートメーター数等)数に連動している。
その他報酬 「EMAP」「SMAP」においては、初期導入時やカスタマイズ時の開発料、コンサルティング料等の一時報酬。

 

(同社資料より)

 

(エネルギーデータ事業における経営方針)
「エネルギーの4D」は世界的潮流であり、欧米が先進している。海外事情を的確に把握した上で、日本の市場環境にあわせた事業展開をする「タイムマシン経営」が求められていると同社では考えている。
電力自由化ではイギリスが先行しているが、デジタル化・脱炭素化・分散化においては、国により状況が異なるため、より詳細な分析が必要となる。
イギリスで創業し海外との強力なネットワークを有する同社は、その強みを活かして「タイムマシン経営」を実践していく。

 

(新たな動き:新プロダクトの開発)
前述のように、エネルギーデータ事業は「エネルギーの4D」のうち、自由化を除く「脱炭素化(Decarbonization)」「デジタル化(Digitalization)」「分散化(Decentralization)」を担う。
電力会社の様々なニーズ(新規顧客獲得、顧客エンゲージメント、需給計画)に対応したプロダクト開発を行なっていく方針で、現在の主力プロダクトであるEMAP・SMAPに加えて、約10個のプロダクトを現在開発・実証中である。

 

(同社資料より)

 

これら新たなプロダクトのうち、同社がリリースしているものが以下の各サービスである。

 

*「電力データ自由化」による電力データ活用サービス
2022年4月に「電力データ自由化」が予定され、7,800万台を超えるスマートメーターから取得される電力データへのアクセスが第三者(電力小売事業者以外)に解放される。
これまではユーザーのデータにアクセスできなかった同社であるが、この自由化により事業機会が拡大する。
切替前、切替後のデータを管理・分析できるようになるため、「エネチェンジ」で新たな会員向けサービス(電気の家計簿など)を開発することに加え、電力データ解析に関する新たなニーズが生まれるため、下記のような異業種へのアプローチを強化する。事業化、アライアンスに向けて積極的に取り組んでいる。

 

(同社資料より)

 

*VPP市場への本格参入
2021年2月、VPP(Virtual Power Plant、仮想発電所)市場への本格参入を発表した。

 

(VPPとは)
VPPとは、点在する小規模な再生エネルギー発電や蓄電池、燃料電池等の設備をまとめて制御し、あたかも1つの発電所のようにまとめて機能させること。「エネルギーの4D」のうちの、「分散化(Decentralization):大規模な集中型システムから分散型システムへ」の一例である。

 

(VPPの役割と日本のVPP市場)
前述のように「グリーン成長戦略」においては、2050年の参考値として、電力需要は現状より30~50%増加すると見込まれている。この需要増に対して、電気事業者が、「同時同量(需要量と供給量を同量に調整すること)」達成のための需給調整能力(調整力)や、中期的スパンでの供給能力を市場原理の下で従来よりも効率的に確保することができるようにするためにスタートするのが、「需給調整市場」(2021年から段階的に開始)および「容量市場」(2024年度開始)である。
脱炭素社会構築に向けて太陽光発電、風力発電といった再生可能エネルギーの普及が進められているが、発電量が一定でないという欠点を補うためにも、両市場を通じた安定的な需給バランスの実現は極めて重要である。

 

両市場とも、売手(供給側)は発電事業者、小売電気事業者などだが、VPPも大きな役割を果たすと見られる。
日本では、ビルや病院などに防災目的で設置されている大型蓄電池や自家発電など平時未活用の電源は、2015年以降に設置されたものだけで7万件、累計では560万キロワットで、これは原発約6基相当分と推定される。
先行する欧州では、すでにイギリス790億円、ドイツ850億円のVPP市場が形成されており、日本においても需給調整市場や容量市場の段階的な拡大に伴い、これらの平時未活用の電源の柔軟な運用により1,000億円市場に成長すると言われている

(同社資料より)

 

(「エネチェンジ DR」のサービス開始)
こうしたVPP市場の成長性を見据え、同社は日本最大のエネルギー関連の顧客基盤とデータ活用技術を活かし、VPP市場へ本格参入する。
第一弾として、平時未活用な電源を集めるサービスとして、「エネチェンジDR」を発表した。

 

「エネチェンジDR」は、用途の限られている常用自家発電機、非常用自家発電機、蓄電池などのリソース所有者および、工場の生産スケジュールのシフトや空調機・冷凍機制御によるデマンドレスポンス(※)の対応が可能な法人のリソース所有者を対象にサービス提供を行う。
リソース所有者は、アグリゲーター(※)らの依頼に従い電力需要を抑制、シフトすることで電気料金の低減や報酬を得ることが可能。また、デマンドレスポンスの市場取り引きには1,000kW以上の容量が必要となるが、容量が1,000kW未満の場合でもデマンドレスポンスの取り引きが行えるように、リソース所有者を束ねてアグリゲーターに紹介するため、容量の小さいリソース所有者も取り引きにより収益を得ることができる。
ENECHANGEはリソース所有者の設備に合わせて、最適なアグリゲーターの選定も行う。

 

VPPとはいわば、刻々と変わる需給環境の下で、自家発電機1台、蓄電池1台の市場価値を発見するもので、データ解析力の有無が大きな鍵となる。大量のデータを保有し、解析力に優れる同社は大きなアドバンテージを有している。

 

※デマンドレスポンス
供給不足になることが予想された場合、予めDR(デマンドレスポンス)契約をしている消費者が節電や使用時間のシフトで電力不足を解消する取組み。

 

※アグリゲータ―
需要家の需要量を制御して電力の需要と供給のバランスを保つ、デマンドレスポンス(DR)において、電力会社と需要者の間に立ってバランスをコントロールする事業者。

 

(KIWI POWER社との独占提携によるVPP SaaSへの本格参入)
2021年5月、Kiwi Power Limited(イギリス)との間で、自家用発電機・蓄電池など電力の需給調整が可能な分散型エネルギーリソースを束ねるリソースアグリゲーター向けのVPPソフトウェア提供を目的とした業務提携契約を締結した。

 

Kiwi Power社概要
10年以上にわたり10カ国以上でサービスを提供してきた実績と、自家用発電機や蓄電池など5kWの小型リソースから80MW規模の大型定置型蓄電池まで、幅広いリソースとの接続経験を有する。これにより、現時点に至るまで1GW以上の分散化電源アセットがKiwi Coreと呼ばれるプラットフォームに接続されている。また、Kiwi Fruitという自社開発のデバイスを通じて顧客に安定した接続性を提供することで、細かな出力制御が必要となる需給調整市場におけるリソース制御の確実性を高めることができるものと見られている。

 

業務提携の目的・内容
ENECHANGEでは、Kiwi Power社の持つリソース制御技術を活用することで、日本のVPP事業に求められる課題に対し、安定したオペレーションを提供することが可能になるものと考えている。
このアライアンスに基づいて自家用発電機や蓄電池などのリソースを束ねるリソースアグリゲーター向けのリソースマネジメントに特化した「ENECHANGE Kiwiプラットフォーム」を提供する予定。
このプラットフォームは分散型電源アセットの制御技術に強みを有する他、市場取引システムとAPI連携できる仕組みであることが特徴であり、今後業務提携によるシナジー効果の発揮を追求していく。

 

*グリーン電力証書発行プラットフォーム「GreenCart」の提供開始
2021年5月、グリーン電力証書の取扱い最大手日本自然エネルギー株式会社と、グリーン電力証書のオンライン発行プラットフォーム「GreenCart」の共同運営を開始した。

 

背景・目的
環境省は、家庭や事業所等が再生可能エネルギー由来100%の電力を調達することを要件に、EV等のクリーンエネルギー自動車の購入に補助金を出す「クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金」の申請受付を2021年3月26日より開始した。
再エネルギー100%の電力調達方法としては、「自家発電」「再エネ電力メニューの購入」「再エネ電力証書の購入」が挙げられている。
ENECHANGEが日本自然エネルギー車と共同運営する「GreenCart」は、「再エネ電力証書の購入」に該当するグリーン電力証書を購入できるオンライン発行プラットフォーム。
ENECHANGEでは、このプラットフォームを通じてグリーン電力証書の利用普及を促すとともに、脱炭素社会の早期実現に貢献できるものと考えている。

 

サービス概要
「GreenCart」は、クレジットカード決済システムを導入したグリーン電力証書のオンライン発行プラットフォーム。
これまで申し込みから証書の発行までに約1カ月間かかっていたフローについて、オンライン上での即時発行を実現した。
さらに、補助金受給に必要なグリーン電力証書の購入量や年間消費電力量の原則4年分以上の算出方法や目安を表示し、購入額を自動計算するなどの機能も有している。

 

*海外の事例
電力会社向けSaaSを提供する海外の類似企業としては、Oracle Utilities Opower社(米国)、Uplight社(米国)などが挙げられる。

 

Oracle Utilities Opower社は2014年にニューヨーク証券取引所に上場、その後オラクル社が約585億円で買収。売上高163億円、顧客数100社。
Uplight社は売上高110億円、顧客数80社で、未上場ながら推定時価総額1,650億円のユニコーン企業。

 

ENECHANGEでは、こうした企業の研究を進めつつ、日本市場の独占、成長を目指していく。
(上記数値などはENECHANGE社資料より引用)

 

【1-6 特長と強み】

(1)電力業界のトレンドに特化した SaaSシステムを提供している唯一の企業
参入障壁が高い電力業界において既にポジションを確立し、各電力会社にも評価されている唯一のエネルギーテック企業である。今後もこのポジションをベースに、業界の変化に深くコミットしていこうと考えており、競争優位性はさらに強固なものとなると考えている。

 

(2)ストック型収益による強固な事業基盤
電力市場は、電力の消費者数自体の増加が見込まれないゼロサムゲームであり、電力会社にとっては新規に顧客を獲得するだけではなく、獲得した顧客を維持・継続することが重要となる。
同社は、新規顧客獲得のみならず、継続的なサポートも提供することで継続報酬を受領するモデルを構築している。このため解約率も低い。
電力・ガスは、継続的に使用する生活インフラであることに加え、2019年度以降の契約に関してはすべて継続報酬型の契約となっているため、事業基盤は更に強固になることが確実である。

 

(3)豊富な知見を有する人材で構成された経営チーム
先般の株主総会では前シーメンス日本法人代表取締役社長、会長の藤田研一氏を新たに社外取締役として迎えたほか、ロイヤルダッチシェル日本法人社長であった武田稔氏、株式会社レノバCFOであった森暁彦氏、エプコ社(東京電力とJV設立などの実績がある)代表取締役CFOの吉原信一郎氏と、世界と日本両方のエネルギー事情に精通し、豊富な知見を持ったボードメンバーが揃っている。

 

【1-7 企業価値向上の方針】
長期でのフリーキャッシュ・フローを最大化させることを経営方針とし、中期的には売上高成長率を重視している。
そのために、2事業のKPIを「顧客・ユーザー数」と「ARPU(Average Revenue Per User:顧客またはユーザーあたりの売上高)」と定義し、その最大化を目指して、成長投資を実行していく。

 

エネルギープラットフォーム事業においては、電力会社からのキャッシュバックなど一時報酬によるARPU上昇は今後も一定程度見込んでいるが、中期的にはストック型収益部分の増額を進める。
具体的には、電気とガスのセット購入や再生エネルギーを使用する際に発行される「グリーン電力証書」の購入などによるユーザーの使用料増額を図る。
エネルギーデータ事業においては、EMAPに加えてSMAPを提案するといったクロスセルを推進する。

 

(同社資料より)

 

 

2.2021年12月期第1四半期決算概要

(1)連結業績概要

20/12期1Q

対売上比

21/12期1Q

対売上比

前年同期比

売上高

420

100.0%

657

100.0%

+56%

売上総利益

315

75.2%

560

85.3%

+78%

販管費

273

65.0%

527

80.3%

+93%

営業利益

42

10.0%

33

5.0%

-22%

経常利益

42

10.0%

43

6.7%

+3%

四半期純利益

40

9.5%

14

2.1%

-65%

*単位:百万円。四半期純利益は親会社株主に帰属する四半期純利益。

 

増収、営業減益。売上高は過去最高を更新。
売上高は前年同期比56%増の6億57百万円。
売上総利益も同78%増と大幅に増加し、売上総利益率の高いプラットフォーム事業の売上増加により粗利率も10.1pt上昇した。
営業利益は同22%減の33百万円。プラットフォーム事業においてユーザー獲得費用(広告宣伝や販売手数料)の積極的な投資を行った。ただ、期初は赤字予想であったが増収で利益を確保。また、営業損益からユーザー獲得費用を除いて算出した調整後営業利益は同163%増の3億21百万円と大幅な増益となった。

 

◎ストック型収益
毎期、経常的・反復的に生じる継続報酬やソフトウェアライセンス料などを集計したストック型収益は前年同期比26%増の2億56百万円と過去最高を更新。ストック型収益の占める割合は、エネルギープラットフォーム事業、エネルギーデータ事業でそれぞれ26.9%、69.0%。全社では39.0%。

 

既存顧客の売上を対前年比で維持できているかを計る指標であるネットレベニューリテンション(NRR)は2020年12月期で129%。提携企業(電力・ガス会社等)に対して、複数のサービスをクロスセルすることにより、既存顧客からのストック型収益が順調に増加していることが寄与しており、今期に入ってからものその傾向が強まっている。

 

 

エネルギープラットフォーム事業におけるストック型収益の報酬比率は現在2%。
20年12月期のストック型収益は426百万円。2020年12月末の継続報酬対象ユーザー数は、約24万件であり、1件当たりのストック型収益は約1,700円となる。日本人の平均的な1年間の電気使用料は約8万円なので、1,700円÷80,000円×100=2.12%と概ね一致する。

 

(2)セグメント動向

   

20/12期1Q

21/12期1Q

前年同期比

売上高 エネルギープラットフォーム事業

201

469

+133%

エネルギーデータ事業

218

187

-14%

セグメント利益 エネルギープラットフォーム事業

28

75

+168%

エネルギーデータ事業

89

60

-33%

*単位:百万円。全社費用を配分していないセグメント利益。

 

①エネルギープラットフォーム事業
増収増益。
電力切替需要の増加、一時報酬単価の上昇を背景に売上高は前年同期比133%増の4億69百万円。
ストック型収益は同38%増の1億26百万円。

 

 

*KPIの推移

 

*継続報酬対象ユーザー数とは解約を加味した現在の契約件数。解約数は家庭・法人ユーザーの(前月の契約数+今月の供給開始数-今月の契約数)にて算出し、解約率は家庭・法人ユーザーにおける継続手数料の請求対象となる契約数に対する解約数の割合(直近12カ月の月次平均)で算出 。法人の一般家庭換算は、一般家庭の容量を4kWとし総獲得容量から割り戻して計算。継続報酬対象ユーザーあたりの売上高は四半期セグメント売上高を四半期末の継続報酬対象ユーザー数で除して算出。

 

継続報酬対象ユーザー数は前年同期比40%増の25.4万件。家庭向けは同56%増、法人向けは同30%増。解約率は月次1.1%と低位で推移。
JEPX価格高騰等による切替ニーズの顕在化、オンラインチャネルの利用拡大により、期初想定よりも切替申込が順調に推移した。
継続報酬対象ユーザーあたりの売上高(ARPU)は、同67%増の1,842円。競争環境の高まりによる一時報酬単価の上昇が寄与した。

 

②エネルギーデータ事業
減収減益。
売上高は前年同期比14%減の1億87百万円。ストック型収益は同15%増の1億29百万円。非ストック型収益は前年同期に大型の開発案件を計上、今期はストック型収益の積み上げに注力し計画通りの減少で同45%の減収。

 

 

*KPIの推移

 

*解約率=年度の解約数(期中解約を含む) / 前年度末の継続プロダクト数+年度の新規プロダクト数(期中解約を含む)。 顧客数は期末時点の顧客数をカウント。顧客あたりの売上高は四半期セグメント売上高を四半期末の顧客数で除して算出。

 

EMAPを中心とした主力プロダクトの新規導入により顧客数は前年同期比41%増の41社。解約率は月次1%程度。
顧客あたりの売上高(ARPU)は、非ストック型収益の計画的な減少により前年同期比39%減収。
2024年以降の制度変更(VPP市場・電力データ自由化等)に伴う新規需要により将来的な拡大を予想している。

 

(4)財政状態とキャッシュ・フロー

◎主要BS

 

20/12月末

21/3月末

増減

 

20/12月末

21/3月末

増減

流動資産

1,626

1,638

+11

流動負債

364

534

+170

 現預金

1,334

1,265

-68

 仕入債務

7

11

+4

 売上債権

254

339

+84

 短期有利子負債

9

9

+0

固定資産

340

434

+93

固定負債

750

750

+0

 有形固定資産

27

24

-2

 長期有利子負債

750

750

+0

 無形固定資産

120

136

+15

負債合計

1,114

1,285

+170

 投資その他の資産

192

273

+80

純資産

852

787

-65

資産合計

1,967

2,072

+105

負債純資産合計

1,967

2,072

+105

        有利子負債残高

759

759

+0

*単位:百万円。

 

20/12月末の自己資本比率は前期末から5.3%低下し37.3%となった。
営業キャッシュ・フローは黒字のため、営業利益が黒字を維持できる範囲での事業投資を積極的に行う方針である。合わせて資本コストを意識し、有利子負債の活用も行っていく。

 

(5)トピックス

◎新任取締役を選任
2021年3月に開催された定時株主総会で、新たに前シーメンス日本法人代表取締役社長、会長の藤田研一氏が独立社外取締役に選任された。
藤田氏はシーメンスグループ(ドイツ本社および日本法人)で、エナジーセクターを長く担当。経済同友会幹事(環境資源エネルギー委員会)を務めるなど豊富な経験・実績を有している。エネルギーのデジタル化領域における国際的な知見を活かし、エネルギーデータ事業に対しての貢献を期待している。

 

 

3.2021年12月期業績予想

(1)業績予想

 

20/12期

21/12期(予)

前期比

修正率

売上高

1,713

2,600

+51.8%

+13.0%

営業利益

53

黒字

経常利益

6

黒字

当期純利益

-16

黒字

*単位:百万円。予想は会社側発表。

 

業績予想を上方修正
第1四半期決算発表後の21年5月24日、売上高予想を前期比51.8%増の26億円に上方修正した。
エネルギープラットフォーム事業において、電力切替件数及びARPUが期初想定よりも順調に推移し、エネルギーデータ事業においても、期初計画に対して順調に進捗しているため。
営業利益以下の各段階利益についてはユーザー獲得費用(広告宣伝費・販売手数料)の投下を行いながらも黒字を維持する方針。機動的な投資判断を実施する観点から、具体的な金額予想は開示していない。

 

21年2月時点の業績予想の前提、および第1四半期決算発表時のアップデートは以下の通りである。

 

エネルギープラットフォーム事業 (業績予想公表時 2021年2月12日の前提)

*売上高40%以上の成長を目指す

*顧客数:前年同月比対比、一定の増加を見込んだユーザー獲得数

*ARPU:一時報酬の単価上昇を中心として向上

*セグメント費用:LTV/CACの規律を保ちながら、広告宣伝費・販売手数料を増加。その他のセグメント共通費は人件費を中心に増加する

(1Q発表時のアップデート)

*顧客数は寒波やJEPXの影響による申込増でユーザー獲得が期初想定から上振れ

*ARPUは一時報酬単価の上昇が寄与し期初想定から上振れ

*セグメント費用は一時報酬(売上)の増加に連動して増加。LTV/CACの規律は維持

エネルギーデータ事業 (業績予想公表時 2021年2月12日の前提)

*売上高10~20%の成長を目指す

*顧客数:前年同月比対比、一定の増加を見込んだ顧客獲得数

*ARPU:既存顧客へのアップセルの一方、低単価商品の導入拡大により同水準を見込む

*セグメント費用:中期的な開発投資のために人件費を中心に増加

(1Q発表時のアップデート)

*顧客数は期初想定どおりの新規受注により増加

*ARPUは期初の想定どおり2020年第4四半期と同水準で推移

*セグメント費用は期初想定どおり採用に伴い増加

全社共通費用 (業績予想公表時 2021年2月12日の前提)

*成長に向けての人員採用等により増加

(1Q発表時のアップデート)

*期初想定どおりに採用進捗により人件費は5%程度増加

*緊急事態宣言による各種イベント見送り等で期初想定より費用減

営業利益 (業績予想公表時 2021年2月12日の前提)

*売上高成長のために主にプラットフォーム事業へのユーザー獲得費用(広告宣伝費・販売手数料)の投下を行いながら黒字を維持する

*2021年上半期にユーザー獲得活動を活発に行う方針のため、第1四半期、第2四半期は営業赤字となる見込み

(1Q発表時のアップデート)

*営業赤字を想定していたが、プラットフォーム事業のユーザー獲得が好調で一時報酬が想定より増加し営業黒字で着地

*第2四半期は営業赤字の想定は変わらず

その他 (業績予想公表時 2021年2月12日の前提)

*新型コロナウイルス感染症や緊急事態宣言の影響などは保守的に考慮

*未確定の新規事業やM&A等の不確実な事象による損益の発生は織り込まず

(1Q発表時のアップデート)

*3月に連結子会社(SMAP ENERGY LIMITED)の完全子会社化を実施(業績への影響は軽微)

 

ストック型収益は前期比30%以上の増加を見込む。カスタマイズやコンサルティングなど一時的な受注を低減させ、そのリソースを新規プロダクトの開発に優先的に振り分け、ストック型収益やライセンス料を積み上げる。

 

4.成長戦略

【4-1 マクロトレンドからの対応】

(1)基本戦略
【1-3 市場環境】の項で触れたように、日本政府が掲げた「グリーン成長戦略」では、14の成長分野が明記されている。
脱炭素社会の実現には、洋上風力など、発電分野の技術革新だけではなく、電力のバリューチェーン全体の革新が必要である。同社は、「家庭・オフィス関連産業」という消費者との接点を生かしたデマンドサイドのテクノロジーサービスを通じて、脱炭素社会の実現に貢献していく考えである。

 

(同社資料より)

 

(2)「グリーン成長戦略」が与える同社への影響
電力市場拡大、競争環境の促進、グリーン電力への切替需要の増加、デジタル活用の促進など、事業の様々な側面において、プラスの影響があると考えている。

 

(同社資料より)

 

(3)「グリーン成長戦略」に即した取り組み
消費者との接点を生かした戦略により「グリーン成長戦略」の実行を担っていく。現時点では以下2つの取り組みを公表している。

 

◎成長分野「12.住宅・建築物、次世代太陽光」
株式会社Looopと共同で、全国22,370世帯に対し、電力需要逼迫時の緊急デマンドレスポンスプログラムの提供を開始した。今後は、家電、蓄電池、電気自動車などAI自動制御ネットワークを構築し、デマンドレスポンスプラットフォームを構築する予定である。

 

◎成長分野「14.ライフスタイル」
株式会社ライトスタッフ(ヘアサロン「モッズ・ヘア」運営会社)と提携し、全国理容室・美容室37万店舗におけるグリーン電力の選定支援を行う事業を開始した。今後は、脱炭素を志向する企業、個人に対して、環境配慮型メニューの促進、新サービスの開発などを通じて、脱炭素化の支援を行う予定である。

 

【4-2 両事業における取り組み】

日本のエネルギー制度改革は現在、2016年の電力自由化から2024年の容量市場開始まで、9年にわたる大変革の過渡期にある。
前半の2020年までにエネルギープラットフォーム事業関連の制度改革はほぼすべて完了しているため、プラットフォーム事業は現在売上拡大フェーズにある。
一方、エネルギーデータ事業の関連制度改革は2021年から2024年までかかり、特に重要な「電力データ自由化」「需給調整市場(三次調整力②)(VPP市場の開幕)」は、2022年に予定されているため、当面は先行投資(サービス開発・実証)を重視する。

 

そうした状況を踏まえた上での両事業の経営方針、売上高成長目標は以下の通りである。

 

①エネルギープラットフォーム市場
(経営方針)
関連の制度改革は2020年度までに概ね完了しているため、環境整備はなされている。
LTV/CACの健全なライン内において広告宣伝費を強化することにより、売上高成長の最大化を目指す。
(売上高成長目標)
継続的な30%以上の成長

 

②エネルギーデータ事業
(経営方針)
2022年の重要な制度改革を見据え、2021年は先行投資(サービス開発・実証)を重視。2022年から段階的に新事業を開始し、2024年からの本格成長を見込む。

 

(売上高成長目標)
2021年から2023年は10~20%の成長を、2024年以降は30%以上の成長を見込む。

 

【4-3 中長期成長イメージ】

毎年30%以上の売上高成長を継続し、2027年12月期までに売上高100億円を目指す。
売上高100億円が見込まれるタイミングで、ステークホルダーからの更なる信頼を獲得するため、プライム市場への上場を目指す。

 

(同社資料より)

 

 

5.城口CEOに聞く

城口洋平代表取締役CEOは、日本人初となる欧州版Forbes30に選出されるなど海外での受賞、講演実績を有し、世界のエネルギー先進事情に精通するのが強み。ENECHANGE株式会社及び子会社SMAP ENERGY LIMITEDのCEOとして、グループ全体の経営戦略、海外との連携を管掌している。
自社の競争優位性、今後の成長戦略、課題、株主・投資家へのメッセージ等を伺った。

 

Q:「まず初めに創業時のことを伺いたいと思います。2011年の東日本大震災を機にエネルギー問題への関心を深め、エネルギー・電力制度の最先端であるイギリスの理系最高峰であるケンブリッジ大学へ留学され、その後御社の前身となる「Cambridge Energy Data Lab Limited」を設立し、研究を行われたということですが、当時、イギリスから日本の電力業界、エネルギー産業をどのように見ていらしたのでしょうか?」

 

エネルギー問題についての理解がより深まってきたころ、2016年から日本でも電力自由化が始まるというニュースを見て、日本でもエネルギーの大変革が始まろうとしていることがわかりました。
既にイギリスでは1999に電力自由化が行われ、他の欧州諸国も概ね2008年から2009年までに電力は自由化されていましたので、欧州で起こっていることが日本でも起きる、使用する電力会社を自分で選択することは極めて自然な、かつ、必要なアクションであるということを強く感じ、創業に至りました。
必要なアクションであるというのは2つの意味があります。
1つは、日本のエネルギー業界を健全化する、イノベーションを促進する必要性です。
どんな業界でもそうですが、適切な競争環境があることでイノベーションが促進され、無駄が省かれ、新しいベンチャー企業も生まれてくる。反対に競争のない産業はそうした新陳代謝も生まれず、ユーザーにメリットを与えることもできず産業自体の発展が望めない。日本のエネルギー業界はまさにそうした状況で、多くの問題を抱えており、自由化により外部の知恵や知見を入れて改革していかなければならないということです。

 

もう1つは消費者に電力会社を選ぶ自由、選択肢を与える必要性です。
東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故の惨状を見て、多くの国民が原発反対を唱えましたが、実際の抗議としてはデモをする以外には特に手段はないという状態でした。
一方で、イギリスにもグリーン推進派という人たちがいますが、彼らは電力会社を自分で選ぶという行動を通じて自分の意思表示が可能です。
原発に反対でグリーンエネルギーを推進したいのなら自分でグリーンエネルギーを供給している電力会社と契約すればいいわけです。ところが日本では原発反対と言っていても東京電力を始め、原発を稼働させている電力会社から電気を買うしかない。こういう状況を変革し、消費者が電力会社を自らの意思で選択できるようにするということは、原発問題に限らず、極めて社会的意義のあることです。
この2つの必要性を感じたことが、創業の大きなきっかけです。

 

Q:「ありがとうございます。大変明確な創業の想いですね。さて、有価証券報告書を拝見すると、1年目は500万円程だった売上が、その後はハイスピードで成長しています。この背景、要因はどんなものだったのでしょうか?」

 

おっしゃるとおり、1年目の2015年12期は500万円の売上でしたが、2期目1.8億円、3期目5.2億円と急速に立ち上がっています。
この背景ですが、意外に思われるかもしれませんが、東京電力、東京ガスという日本のエネルギー業界の2大トップ企業が最初にお客様になっていただき、ともに成長してきたということなのです。
この2社が積極的に当社を活用くださったのを見た他の電力・ガス会社が当社に対して信頼感を持っていただき、ビジネスが広がっていったというわけです。

 

なぜ東京電力、東京ガスが私たちを使ってくれたか。創業間もないベンチャー企業と取り組みを行うというのは極めて稀なケースだったそうですが、両社とも、電力自由化の中で変革しなければならないという意識を極めて強く持たれていました。そうした中で、電力自由化でリードする欧州に精通した経営チームがいるという点をご評価いただき、初期段階からご一緒することができたのです。

 

Q:「御社の特長・強み、競争優位性はどこにあるとお考えですか?」

 

3つあります。
まず1つは、電力業界のトレンドに特化した SaaSシステムを提供している唯一の企業であるという点です。
電力業界は、医療業界などと同様大変参入障壁の高い業界です。その参入障壁が高い領域で、この業界のプロフェッショナルが集まり、既にしっかりとしたポジションを確立し、かつ多くの電力・ガス会社にも信頼していただいているエネルギーテック企業は、上場・未上場含め当社しかありません。
今後もこのポジションをベースに、自由化にとどまらず新たな事業を深堀することで、業界の変化に深くコミットしていこうと考えており、この競争優位性はさらに強固なものとなると考えています。

 

2つ目はストック型収益モデルに裏付けられた強固な収益基盤です。
2020年12月期の粗利率は77%でしたが、ストック型収益が今後さらに積み上がっていきますので、まだまだ上昇する余地は大です。
収益面でもこうした強固な基盤が確立できているという意味では、創業から6年目、上場間もない企業ではありますが、創業フェーズの段階から売上拡大のフェーズに移行しています。

 

3つ目は、豊富な知見を有する人材で構成された経営チームという点です。
先般の株主総会では前シーメンス日本法人代表取締役社長、会長の藤田研一氏を新たに社外取締役として迎えました。
他にも、ロイヤルダッチシェル日本法人社長であった武田稔氏、株式会社レノバCFOであった森暁彦氏、エプコ社代表取締役CFOの吉原信一郎氏と、世界と日本両方の事情に精通し、豊富な知見を持ったボードメンバーが揃っています。
また、執行役員も含め、日本のエネルギー業界の変革をプラットフォーマーとして推進したい、エネルギー問題の解決をライフキャリアとして取り組んでいきたいと思っているメンバーが集結しています。
イギリスチームとの連携による国際的な知見の活用も強みとなっています。

 

Q:「続いて成長戦略におけるポイントをお聞かせください」

 

エネルギープラットフォーム事業については、電力・ガスの切替についてはまだまだ成長余力が大きいですし、関連する法制度改革は既に終わっていますので、オンライン及びパートナー経由によるオフラインでの集客を拡大して着実に成長させていきます。
エネルギーデータ事業に関しては、2021年から2024年まで主要な制度改革が目白押しですので、この制度改革を事業機会として非連続的な高成長に繋げていきたいと考えています。
多少保守的に見て年率30%程度の売上成長により5-6年で売上高100億円は実現できると見ていますので、それに伴った利益が出てきたらプライム市場に行こうと思いますので、それまでは徹底的にトップラインの成長に集中していきます。

 

 

Q:「一方で、そうした成長戦略を進めるにあたって課題もおありかと思います。課題、不足しているリソース、それらにどう対応していこうと考えているかをお話しください」

 

2つあります。
1つは財務基盤の弱さです。
PL上では高い収益性を実現できるモデルを構築していますが、バランスシートに課題があります。
2020年12月に上場しましたが、公募価格との兼ね合いから、調達金額を絞りました。現預金は13億円強ありますが、有利子負債が7.6億円ですので、ネットキャッシュは6億円弱しかなく、グロース銘柄のIPO上場ベンチャーと比較すると極めてキャッシュが少ない状態です。
今後非連続的な成長を追求する中で、例えば、M&Aや広告宣伝など行うに際して、資金面での制限があるということが課題です。

 

2つ目の課題は認知度の低さです。
創業時のお話で申し上げたように、社会的な意義が高く、日本の国民全員が関心を持ち、使いうるサービスであるにもかかわらず当社が広告宣伝費をほとんどかけていないということもあり、当社のブランド認知度は極めて低いものです。
エネチェンジを利用されているお客様の半分以上は、価格比較サイトなどから到達されているので、当社のサービスであるという認識はほとんどありませんし、最初から自社サイトに来られた方も検索結果で一番上にあったサイトで電力会社を選んでいたら、結果的にエネチェンジで申し込んでいたというのが実態です。
今後ARPUを引き上げていくなどの取り組みを進めていくには顧客価値を資産として確立する必要がありますので、ブランド認知度の向上は必須です。
ただ、ここは第一の課題とも繋がるのですが、広告宣伝はその効果、結果がすぐに表れるものではありませんので、十分な投資を行うには財務基盤を強固なもののしておかないとなりません。

 

Q:「エンジニアの採用についてはいかがですか?」

 

特にボトルネックとは感じていません。
理由は二つあります。
1つは、世の中のためになることをしたい、貢献したいと思っているエンジニアは非常に多い。また、そうした人達は環境意識も高く、エネルギー問題や脱炭素問題に取り組みたいと思っており、当社を、その志を実現する場として捉えていただいているケースが多く、エンジニアの採用は順調です。

 

2つ目は、我々はイギリスでもエンジニアを採用していますので、イギリスオフィスで働く、イギリス以外のヨーロッパからイギリスに来て勤務するというスタイルもあり、日本のみに頼ることなく、シームレスにエンジニアの採用プールにアクセスすることができる点は大きなアドバンテージであると思っています。また、データ解析や機械学習といったハイレベルな部分はやはり海外の方が進んでいますので、欧州のエンジニアを活用し、英語でマネージメントできる点も大変有利です。
資金面の課題が解決すれば、さらに強化していきたいと思っています。

 

Q:「たくさんお話をおきかせいただきありがとうございます。それでは最後にこのレポートをお読みの株主や投資家の皆さんにメッセージをお願いいたします。

 

当社は脱炭素社会構築に貢献するエネルギーテック企業です。
脱炭素社会の実現、エネルギー業界変革のためには、エネルギーベンチャーの登場も必要ですが、日本のエネルギー業界を牽引してきた大企業の変革も欠かせません。
私たちの役割は、そうした変革や革新をユーザーにもメリットを提供しながら後方から支援するというものであり、私たちの活躍なしには真の変革は実現しないと考えています。
ただ、そうした変革を進めるには投資家の皆様にどれだけご評価いただけるかにもかかっていると思います。
足元の売上、利益水準からは現在の株価、時価総額を割高と感じている方もいらっしゃるかと思いますが、脱炭素社会の実現に向け、単に夢を語るだけではなく、これまでの取り組みによって着実に実績も積上げており、その将来性からもご評価いただきたいと考えています。

 

まだまだ当社の努力不足もあり、ご理解いただけていない部分も多いのですが、社会的な意義、事業の可能性・将来性をご評価いただき、皆様とともに脱炭素社会を実現していきたいと考えておりますので、我々の成長スピード加速に向けて是非ご支援いただきたいと思います。

 

6.今後の注目点

電力の切替に関する認知度の向上により切替件数自体が今後も増加する可能性が高いこと、その中で新電力利用者におけるシェアも上昇余地が起きいことを考えると、20年12月期約10億円のエネルギープラットフォーム事業のみの売上高だけで、100億円を超すことも難しくはないだろう。また、主要な制度改革が目白押しのエネルギーデータ事業についても、複数の新プロダクトが既にスタートしたことも注目される。

 

 

<参考:コーポレート・ガバナンスについて>

◎組織形態、取締役、監査役の構成

組織形態 監査役設置会社
取締役 6名、うち社外4名
監査役 3名、うち社外3名

 

◎コーポレート・ガバナンス報告書
最終更新日:2021年6月3日

 

<基本的な考え方>
当社グループは、「Changing Energy for a Better World ~エネルギーの未来をつくる~」というミッションを掲げ、エネルギー革命の軸となる「エネルギーの4D」、すなわち自由化(Deregulation)、デジタル化(Digitalization)、脱炭素化(Decarbonization)、分散化(Decentralization)に資する分野を主な事業領域としております。エネルギー分野特化型の「エネルギーテック」企業グループとして、エネルギーに関するデータの活用促進を通じ、相互シナジーを活かした事業展開を行い、「エネルギーの4D」におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することで、「エネルギー分野におけるデータプラットフォーマー」というユニークなポジショニングを目指しております。

 

このミッションの実現のため、取締役及び全従業員が法令・定款を遵守し、当社グループにおける「企業行動憲章」のもとにその職務を遂行し、企業活動を行っていくことで、経営の効率性及び透明性を高め、持続的な成長と企業価値の最大化を図ってまいります。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由>
当社は、コーポレートガバナンス・コードにおける5つの基本原則の全てを実施しております。

 

 

株式会社インベストメントブリッジ
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