(4043)株式会社トクヤマ 減収減益 環境と成長の両立へ

2021/05/27

 

 

 

横田 浩 

代表取締役

社長執行役員

株式会社トクヤマ(4043)

 

 

企業情報

市場

東証1部

業種

化学(製造業)

代表取締役社長執行役員

横田 浩

所在地

東京都千代田区外神田1-7-5 フロントプレイス秋葉原

決算月

3月

HP

https://www.tokuyama.co.jp/

 

株式情報

株価

発行済株式数

時価総額

ROE(実)

売買単位

2,334円

72,088,327株

168,254百万円

13.4%

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

70.00円

3.0%

305.62円

7.6倍

2,758.37円

0.8倍

*株価は5/13終値。各数値は21年3月期決算短信より。

 

業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2018年3月(実)

308,061

41,268

36,196

19,698

259.81

30.00

2019年3月(実)

324,661

35,262

33,400

34,279

493.26

50.00

2020年3月(実)

316,096

34,281

32,837

19,937

287.05

70.00

2021年3月(実)

302,407

30,921

30,796

24,534

351.11

70.00

2022年3月(予)

271000

26,000

26,000

22,000

305.62

70.00

*単位:円、百万円。予想は会社側予想。2022年3月期 の期首より「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を適用予定。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。以下、同様。
2017年10月1日より売買単位を1000株から100株へ変更するとともに、同日付で株式併合(5株を1株へ併合)を実施。DPSは併合を考慮した年間配当金合計。EPS、DPSは遡及再計算していない。

 

トクヤマの2021年3月期決算概要、中期経営計画、横田社長へのインタビューなどをお伝えします。

 

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2021年3月期決算概要
3.2022年3月期業績見通し
4.中期経営計画2025
5.横田社長に聞く
6.今後の注目点
<参考:コーポレートガバナンスについて>

 

今回のポイント

  • 21年3月期の売上高は前期比4.3%減の3,024億円。苛性ソーダの国内販売数量が減少し、石化製品の販売価格が軟調だった。歯科器材等の輸出数量も減少した。半導体関連製品は堅調に推移。営業利益は同9.8%減の309億円。国産ナフサなど原燃料コスト減少がプラス寄与したが、苛性ソーダの国内販売数量が減少したほか、輸出価格が軟調だった。定期修理などを行ったが固定費増は想定よりも小幅にとどまった。前期比減収減益ではあったが、予想を上回る着地となった。

     

  • 22年3月期の売上高は前期比10.4%減の2,710億円の予想。収益認識基準の適用無し場合は約4%の増収。新型コロナウイルスの影響が改善し、半導体関連製品の拡販、石化製品の販売価格上昇を見込んでいる。営業利益は同15.9%減の260億円を予想。先行投資が増加するほか、原燃料コスト増加を予想している。為替の前提は105円/USD(21/3期は106円/USD)、国産ナフサは45,000円/kl(31,200円/kl)。配当は前期と同じく70.00円/株の予定。予想配当性向は22.9%。

     

  • 事業環境が大きく変化する中で、今後も持続的に収益力を向上させ、社会的課題を解決していくには、これまでの延長線上にない事業の構築・成長、収益力・競争力の確保が必要と考え、「中期経営計画2025」を策定した。最終2025年度「売上高3,200億円、営業利益400億円、成長事業の売上高成長率 CAGR10%以上、ROE10%以上」を目標としている。

     

  • 「事業ポートフォリオの転換」「地球温暖化防止への貢献」「CSR経営の推進」の3つを重点課題としている。「事業ポートフォリオの転換」においては成長事業を「電子」「健康」「環境」に再定義した。2025年度には成長事業の連結売上高比率50%以上を目指す。化成品事業・セメント事業は効率化を進め、持続的なキャッシュを創出する。

     

  • 「地球温暖化防止への貢献」においては、次世代エネルギーの技術開発を加速、事業化し、2030年度にCO2総排出量を2019年度比30%(200万トン)削減し、2050年度にはカーボンニュートラルを実現する。2050年度カーボンニュートラルの内訳は、エネルギー起源CO2削減70%、原料起源CO2削減10%、環境貢献製品・革新的技術開発20%を計画している。技術開発の成否が大きなカギを握っている。

     

  • 横田社長に前中期経営計画「再生の礎」の振り返り、新中期経営計画の注力ポイント、株主・投資家へのメッセージ伺った。「今回の中計は、今後の当社の在り方を決める非常に重要なものです。目標達成に向け全社一丸となって邁進して参りますので、是非ご理解、ご支援いただきますようお願い申し上げます」とのことだ。

     

  • 「脱炭素社会への実現」という世界的な課題を前にして、今回の中期経営計画は企業としての存続に向けた強い決意を込めたものである。ただ、現在のPER、PBRからは、カーボンニュートラルは同社にとって強力な向かい風であるとマーケットは判断しているようだ。確かに、一般的には「環境」分野でリスク低減と事業機会の創出双方に投資を行いつつ収益を上げることは容易ではないと思われるが、同社の場合、長年蓄積してきた化学技術を有している点は、環境関連製品の開発、リサイクル事業の拡大、独自のバイオマスの発掘といった点で大きなアドバンテージになりうるであろう。短期的な視点としては、成長事業ではあるものの今期減益見込みの電子材料事業の動向を見つつ、新中計の各施策の進捗を注目していきたい。

     

     

1.会社概要

ソーダ灰、苛性ソーダなど幅広い用途に用いられる必要不可欠な基礎化学製品、多結晶シリコンを始めとする半導体関連製品、国内第4位の生産量のセメントのほか、メガネ関連材料や医薬品原薬などのファインケミカル製品を展開する総合化学メーカー。1918年創業。多様な特有技術から生み出される先端製品、高度に統合・集積された徳山製造所の競争力などが大きな強み。

 

【1-1 沿革】

1918年にガラスの原料であるソーダ灰(炭酸ナトリウム)の国産化を目指し、創業者 岩井勝次郎により「日本曹達工業株式会社」として設立された。現在でもソーダ灰製造を継続する唯一の国産メーカーである。
1938年にはソーダ灰事業の副産物を生かした湿式法によるセメント製造を開始した。
第二次大戦後、無機関連事業を伸張させた後、高度経済成長時代に入ると、塩化ビニルやポリプロピレンなど石油化学関連事業を拡大させた。
2度のオイルショックを経た後は、電子材料・ファインケミカルなど高付加価値分野へ進出。1984年には、現在では世界トップスリーに入る多結晶シリコン事業に進出した。また、1985年には電子部品の放熱材料として用いられる窒化アルミニウム粉末を独自開発の製法である還元窒化法により製造を開始した。
以降も、メガネレンズ材料や歯科器材など生活・医療分野、環境・エネルギー分野などへ事業フィールドを拡大させてきた。

 

ただ、2009年にマレーシアに設立した連結子会社「トクヤママレーシア」における多結晶シリコン事業が市況下落により大幅に収益が悪化。これにより15年3月期、16年3月期に多額の減損損失を計上し無配に転じた。
こうした状況に対し、2016年5月には「財務基盤の再建」に向けた種類株式の発行による資金調達を実施。
同時に、「あらたなる創業」に向けたビジョンの下、5年間の中期経営計画「再生の礎」を策定・発表し、組織風土の変革、事業戦略の再構築などの重要課題に取り組んでいる。18年3月期には4期ぶりの配当を実施した。

 

【1-2 経営理念など】

同社を取り巻く事業環境の変化を踏まえ、2022年3月期を初年度とする「中期経営計画2025」策定にあたり存在意義を再定義し、スローガン「もっと未来の人のために」を掲げ、新たにMission、Vision、Valuesを定めた。

 

Mission

経営理念

 

存在意義

化学を礎に、環境と調和した幸せな未来を顧客と共に創造する

Vision

経営方針

ありたい姿

*マーケティングと研究開発から始める価値創造型企業

*独自の強みを磨き、活かし、新領域に挑み続ける企業

*社員と家族が健康で自分の仕事と会社に誇りを持てる企業

*世界中の地域・社会の人々との繋がりを大切にする企業

Values

行動指針

価値観

*顧客満足が利益の源泉

*目線はより広くより高く

*前任を超える人材たれ

*誠実、根気、遊び心。そして勇気

 

【1-3 事業内容】

「中期経営計画2025」において、成長事業を「電子」「健康」「環境」と定義したことに伴い、22年3月期からよりセグメントを見直し、「化成品」「セメント」「電子材料」「ライフサイエンス」「環境事業」及び「その他」の6セグメントとした。

 

*以下のセグメント詳細説明は、旧セグメント分類による。

 

◎化成品
<概要・主要製品>
ソーダ灰、苛性ソーダ、塩化カルシウムなど、幅広い用途に用いられ、各産業において必要不可欠な基礎化学製品を取り扱っている。
また、苛性ソーダの製造工程で発生する塩素と水素は多結晶シリコンの製造工程で使用されるなど、効率的な事業運営が行われている。
「顧客に選ばれ続けるトクヤマを実現する」という部門目標のもと、顧客企業個々のニーズに見合った安定的かつタイムリーな製品・サービスの提供に努めている。

 

事業

特長

主要製品

ソ-ダ・塩カル

国内需要の伸び悩みや輸入品の増加による競争激化から、事業環境は厳しく、国内のソーダ灰メーカーは現在同社1社。国内メーカーとしての存在意義と責任は今まで以上に大きく、創業以来培ってきた技術と、長年にわたり築き上げてきた顧客との信頼関係を軸に、競争力を維持・強化し国内市場で確固たる地位を築いくことを目指している。

また珪酸ソーダカレットは、原料であるソーダ灰や苛性ソーダから一貫して自社生産する競争力と生産能力の高さを武器に国内トップシェアを誇っている。

ソーダ灰、塩化カルシウム、珪酸ソーダ、重曹

クロルアルカリ・塩ビ

苛性ソーダ生産能力は年間49万トンで国内第3位。また、併産される塩素を利用して多様な製品を生産しており、同社の競争力を下支えしている。これらの製品群は多岐にわたるため、特定の分野の消費動向から受ける影響が少ないのも特長。

塩化ビニル樹脂(塩ビ)はその40%が石油由来で、残りの60%は塩由来。石油への依存度という面からは、塩ビは省資源性の高いプラスチックである。さらに塩ビ製の複層ガラスサッシは住宅の保温効果に優れ、冷暖房のエネルギーを節約することによる地球温暖化ガスの排出削減にも有効である。

苛性ソーダ、塩化ビニルモノマー、酸化プロピレン、メチレンクロライド

ニューオーガニックケミカルズ

同社の工業用イソプロピルアルコール(IPA)は、大気汚染物質や産業廃棄物が全く排出されない無公害のプロセスが特徴。

自社技術であるプロピレンの直接水和法は、1974年日本石油学会技術進歩賞、75年毎日工業技術賞、76年日本化学会化学技術賞を受賞した。また、省エネルギー、低コストといった特性に加えて、高純度の製品を提供できるため、品質面でも高い評価を受けている。

工業用イソプロピルアルコール(IPA)

 

主要製品

用途

ソーダ灰

ガラス原料、グラスウール原料、石けん・洗剤原料、かん水、水処理助剤 他

塩化カルシウム

凍結防止剤、防塵、除湿剤、廃液処理、食品添加物

 

(同社提供)

 

<基本方針と施策>
顧客ニーズに沿った、高品質及びコスト競争力に優れた基礎化学素材及びサービスを提供することにより、顧客の事業発展に貢献するとともに、中核事業として安定的かつ、継続的な収益向上に貢献する。

 

事業

主要施策

ソ-ダ・塩カル

*国内単一メーカーとして、安定供給・品質を維持

*融雪向け粒状塩化カルシウムの増産

クロルアルカリ・塩ビ

*苛性ソーダ・塩素の更なる原価低減を目指した自家発電と電解の競争力強化

*塩化ビニルモノマーの輸出拡大とプラントフル稼働の維持

*塩素誘導品(塩ビ、酸化プロピレン、クロロメタン他)の収益力強化

 

◎特殊品
<概要・主要製品>
取扱製品群は、エネルギー、エレクトロニクス、環境など多方面に亘る。半導体に使われる高純度多結晶シリコンは、世界有数のシェアを有する。またその副生物から製造する乾式シリカはシリコーンゴムや複写機トナーなどに使用されている。放熱性に優れた窒化アルミニウムは、半導体製造装置のほか、インバーター、LEDなどの省エネルギー分野で、電子工業用高純度薬品は半導体、液晶パネルの製造などで使用されている。

 

事業

特長

主要製品

電子材料

徳山製造所において年産8,500トンの多結晶シリコン生産能力を有し、国内一位。

半導体用多結晶シリコン

乾式シリカ

独自の技術により開発されたレオロシールは高度に精製した原料ガスを酸水素炎中で高温加水分解させ、反応から包装まで全てクローズドシステムで一貫した管理のもとに製造されている。そのため、高純度、高分散性、高比表面積という特徴を有しており、多くの用途で使われている。日本国内だけでなく中国にも生産拠点を持ち、事業の最適化を図りながら、安定・継続的な供給に努め、世界市場を視野に入れて更なる事業拡大を目指している。

乾式シリカ

放熱材

窒化アルミニウム粉末から、顆粒、粉末を焼結したセラミックスなど、用途にあわせた製品を展開している。独自開発の製法・還元窒化法は、不純物の極めて少ない良質な製品を生み出し、その製造能力は世界最大の年産840トンを誇る。窒化アルミニウム粉末では、世界シェア70%以上を獲得している。

窒化アルミニウム

ICケミカル/洗浄システム

アジアの成長市場に向け、より高純度な製品を供給すべく、製造・販売拠点を各地に展開している。

電子工業用高純度薬品、ポジ型フォトレジスト用現像液

 

主要製品

用途

多結晶シリコン

半導体ウエハ

乾式シリカ

各種エラストマー、各種シーラント、液状樹脂製品、粉体製品

窒化アルミニウム

電子部品の放熱材料

電子工業用高純度薬品

ウエハ、電子デバイス等の精密洗浄及び乾燥

 

 

(多結晶シリコン)

 

(窒化アルミニウムセラミックス)

 

(同社提供)

 

<基本方針と施策>
顧客から選ばれ続ける製品の供給と開発品の提案により事業と収益の拡大を図る。

 

事業

主要施策

多結晶シリコン

*最先端品を始めとし顧客要求品質を的確に把握し、品質世界一・コスト極小化を実現

乾式シリカ

*CMP、シリコン向けに続く高機能品の拡充

*中国子会社徳山化工におけるコストダウンと高付加価値化

ICケミカル

*先端半導体向け製品の品質追求、拡販

放熱材

*窒化アルミ粉末生産能力増強

*窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウムフィラーの事業化

 

同社が製造している世界シェア30%の多結晶シリコンや放熱材用窒化アルミニウムなど半導体製造プロセスに不可欠な様々な半導体関連製品は、同社が長年かけて開発・蓄積してきた様々な特有の要素技術の組み合わせから創出された先端材料であり、どれも世界的に極めて高い競争力を有している。

 

(同社資料より)

 

半導体製造分野では半導体の大容量化・小型化に伴う 半導体の微細化・3次元化が急速に進んでいる。
同社の「半導体用高純度多結晶シリコン」、「電子工業用高純度薬品」は、歩留まり悪化を引き起こす不純物、残渣物を極限まで低減させた超高純度材料であり、微細化・3次元化を進める半導体メーカーから高い評価を得ている。

 

また、半導体の安定した動作に不可欠な放熱材料においても同社製品の評価は高い。
近年、車載用、産業機器、電鉄向けパワーデバイスの高出力化・小型化に伴い放熱材料の需要が急増しているが、同社では、窒化アルミニウム粉末、窒化アルミニウムセラミックス、窒化ケイ素、窒化ホウ素など、独自の還元窒化法などにより開発された不純物の極めて少ない高熱伝導率の放熱材料を供給している。

 

上の図の様に、原料から最終製品に至る半導体製造プロセスにおいて、「点」ではなく、多様な先端製品を「面」で供給することで、より大きな事業機会を創出し、需要を取り込んでいく考えだ。

 

◎セメント
<概要・主要製品>
1938年、徳山製造所内の副産物の有効活用という観点でスタートした。徳山製造所南陽工場で製造するセメントやセメント系固化材など関連製品は、生コンクリートやコンクリート二次製品として、住宅・ビル・ライフラインを支える構造物、港・橋・道路など社会資本となり人々の暮らしを支えている。
社内だけでなく、社外からも廃プラスチックや家庭ゴミを燃やした後の灰など多くの廃棄物を受け入れ、セメントを製造する工程で原料や熱エネルギーとして利用しており、資源循環型社会の形成に貢献している。

 

事業

特長

主要製品

セメント

徳山製造所南陽工場は、単一工場としては国内最大規模。

セメント事業は国内第4位で、東京・大阪・広島・高松・福岡を主な拠点として、地域に根ざした営業活動を展開している。また東京・大阪・広島・福岡の4地区にセメント試験室を設置。セメントおよびセメント系固化材の使用に際し、施工前の配合試験、施工後の管理試験を実施し、きめ細かいユーザーサポートを提供している。

 

またセメント系やモルタル系の各種建材製品をトクヤマエムテックが製造販売するほか、同社独自の漆喰をシート化する技術により、建築内装材「漆喰ルマージュ」や、古典的なフレスコ画の技法に漆喰による立体造形技術を組み合わせた最新フレスコ技法「Fresco Graph」などを展開し、セメント・建材分野で培った技術で新たな事業機会を追求している。

ポルトランドセメント、高炉セメント、セメント系固化材

資源環境

低含水・高含水汚泥設備や鋭角廃棄物処理施設など様々な再資源化設備で、廃プラスチック類、汚泥、ガラスくずを始め多様な廃棄物を受け入れている。

廃棄物処理

 

<基本方針と施策>
事業環境の変化に柔軟に対応し、最適な製造・販売・物流体制を整備・構築する。輸出拡大による廃棄物処理収益の最大化、原価低減による競争力強化を図る。

 

事業

主要施策

セメント

*生産効率及び原単位改善と廃棄物受入増を軸とした原価低減

*4号キルン(セメントの焼成に使う窯)を最大限活用した輸出の拡大による収益確保

*トクヤマエムテックによるインフラの補修・補強事業の拡充

資源環境

*原料系の最適化と可燃系廃棄物の活用促進及び燃料化プラント事業の最適化

*廃石膏ボードリサイクルなど既存リサイクル事業の安定操業及び新たなリサイクル事業の創生

 

2013年6月に買収したトクヤマニューカレドニアは、クリンカ(セメントの製造過程でできる塊状の物質で、粉砕してセメントを作る。)の輸出先としてセメント部門の収益改善に寄与している。

 

中長期では人口減に伴う国内需要の縮小が不可避であるため、安定した輸出先の確保による販売数量の増大、セメント工場の稼働率向上、廃棄物受け入れ拡大を目指し、トクヤマニューカレドニアに続く海外粉砕工場の展開を検討・推進していく。

 

(同社資料より)

 

◎ライフアメニティー
<概要・主要製品>
トクヤマ本体が手掛けるファインケミカル事業とNF事業および、グループ会社が開発・製造・販売するイオン交換膜、歯科材料、臨床検査システム、ポリオレフィンフィルム、樹脂サッシ等から成る。
ファインケミカル事業では、同社の強みである有機合成技術から生まれた、メガネ関連材料やジェネリック医薬品原薬・中間体を中心に事業展開をしており、NF事業では、水は通さず空気や湿気は通すという微多孔質フィルムを製造販売している。
海外グループ会社としては、中国はじめ新興国で急速に需要が伸びている紙おむつ用の通気性フィルムの製造販売を担っている上海徳山塑料などがある。

 

事業

主要製品

ファインケミカル

医薬品原薬・中間体(アミノ基保護材、縮合剤)、プラスチックレンズ関連材料(フォトクロミック材料、ハードコート剤)

NF

微多孔質フィルム

(株)トクヤマデンタル

歯科医療器材の製造・輸出入・販売

(株)エイアンドティー

臨床検査試薬・機器システムの開発・製造・販売

サン・トックス(株)

ポリオレフィンフィルムの製造・販売

(株)アストム

脱塩・濃縮用イオン交換膜及び電気透析装置の製造販売

(株)エクセルシャノン

樹脂サッシ及び関連製品、住宅用建築資材の製造販売

*サン・トックスは2020年10月1日付で持分法適用関連会社。エイアンドティーは2021年2月1日付で完全子会社。

 

(医薬品)

(同社提供)

 

<基本方針と施策>
顧客起点の開発・製造・販売体制の確立・強化により、国内外の市場で優位なポジションを獲得。事業の拡大を図り、人々の生活・健康(QOL)の改善に貢献する。

 

事業

主要施策

ファインケミカル

メガネ用調光材料のシェア拡大、用途開拓

NF

中国事業の立て直し

歯科器材事業

審美充填材料を中心とした海外展開の加速

医療診断システム事業

江刺工場増設による生産体制強化

ポリオレフィンフィルム事業

製造設備のスクラップアンドビルドによる生産性改善(17年10月~)

イオン交換膜

海外大型案件への対応

樹脂サッシ

ゼロエネルギーハウス(ZEH)向け拡販

 

同セグメントでは、フォトクロミック材料(調光材料)の成長に力を入れている。

 

フォトクロミック材料とは、太陽光(紫外線)を照射すると無色からグレーやブラウンなどに発色し、照射を止めると再び無色の状態に戻る樹脂材料。
近年では、スポーツウェア・ドライブウェア用途に加え、有害紫外線への意識の高まり、高齢化にともなう緑内障など眼の疾患増加を背景に、フォトクロミック材料の使用が増大している。

 

同社製品は、「赤・青・黄の3原色発色による豊富なカラーバリエーション」、「速い発色および退色速度」、「夏場の高温下でも十分な発色性能」、「優れた耐久性」、「紫外線を99%以上カット」といった特長を持っている。
こうした特長を訴求し、製品仕様に関する顧客ニーズへの対応など細やかな顧客対応や製品ラインナップの拡充によりシェア拡大を図るとともに、視認性向上、紫外線遮蔽などの特長を活かした新規用途の開拓も進める。

 

 

 

 

(同社資料より)

 

◎その他
報告セグメントである「化成品」、「特殊品」、「セメント」、「ライフアメニティー」に含まれない事業セグメントで、海外販売会社、運送業、不動産業などを含む。

 

【1-4 研究開発】

「化学技術で暮らしに役立つ価値を創造する」という研究開発の理念に基づき、①顧客起点をベースに事業にコミットした研究開発の推進、②特有技術の深耕と新技術との融合によるオンリーワン、ナンバーワン技術の創出、③技術を基軸としたマーケットインによる独自製品の創出、の4つを目指して研究開発に取り組んでいる。

 

高齢化社会の到来、環境重視、ICT技術の飛躍的発展・普及などを見据え、化学メーカーとしてこれまでに培ってきた無機や有機の材料合成、高純度化、結晶・析出、粉体制御、焼結などの特有技術をベースにしつつ、大学等とのオープンイノベーションにも積極的に取り組んで更に新たな技術を融合し、先端材料で世界トップとなる研究開発を目指している。

 

研究開発拠点として「つくば研究所」(茨城県つくば市)、「徳山研究所」(山口県周南市)を持ち、東西2拠点体制を敷いている。
「つくば研究所」では、中長期的な視点に立った先端技術開発、基盤技術としての分析解析技術開発、複合材料を特徴とする歯科材料分野、高付加価値製品をターゲットとした有機ファインケミカル分野の研究開発を行っている。

 

徳山製造所内に立地する「徳山研究所」は、徳山地区の研究・開発の拠点。
徳山地区の開発グループのみならず様々な研究・開発チームが集まることによって得られるシナジー効果や、ものづくりの現場である製造部にも近く情報交換が容易といったメリットも大きい。

 

【1-5 同業他社】

コード

社名

売上高

増収率

営業利益

増益率

営業利益率

ROE

ROA

時価総額

PER

PBR

4005

住友化学

2,610,000

+14.1

200,000

+35.5

7.7%

4.7

3.6

964,293

9.5

0.9

4042

東ソー

800,000

+9.2

93,000

+5.9

11.6%

10.7

10.2

664,140

10.8

1.1

4043

トクヤマ

271,000

-10.4

26,000

-15.9

9.6%

13.4

8.0

168,254

7.6

0.8

4063

信越化学

10.7

12.3

7,312,432

2.6

4118

カネカ

620,000

+7.4

37,000

+34.3

6.0%

4.6

3.3

296,140

12.9

0.8

4183

三井化学

1,400,000

+15.5

115,000

+35.1

8.2%

10.2

4.8

746,821

9.1

1.2

4185

JSR

468,000

+4.8

53,000

+104.1

11.3%

-15.1

-9.3

753,000

22.4

2.1

4205

日本ゼオン

310,000

+2.7

33,000

-1.2

10.6%

10.0

9.1

395,916

14.6

1.2

5711

三菱マテリアル

1,620,000

+9.1

35,000

+31.7

2.2%

4.6

2.3

339,637

16.9

0.6

*売上高、営業利益は今期予想、単位は百万円。ROE、ROAは前期実績、単位は%。時価総額、PER(予)・PBR(実)は5月13日終値ベース。単位は百万円、倍。信越化学は現時点では非開示。開示が可能となった時点で速やかに開示する。

 

トクヤマは同業中、ROE、ROAは高水準な一方、PER、PBRとも低水準にとどまっている。一層の成長戦略の訴求が求められる。

 

【1-6 特長と強み】

①多様な特有技術から生み出される先端製品
有機・無機合成、高純度化、粉体制御、結晶・析出、焼結、電解、精製、焼成、資源再処理など長年に亘って蓄積・磨き上げてきた特有技術をベースにしつつ、更に新たな技術を融合して、無機薬品、セメント、シリカ、シリコン、窒化アルミニウム、半導体用高純度薬品、レンズ材料、イオン交換膜、各種フィルムや樹脂、センサ材料、歯科材料等の先端製品を生み出してきた。

 

例えば、放熱材で幅広く用いられている窒化アルミニウム粉末を創り出す還元窒化技術は同社のオリジナル。
不純物の極めて少ない良質な同社の窒化アルミニウム粉末はその競争力の高さから70%以上の世界シェアを有している。
また、現在では世界最高レベルの高純度を実現し、世界のトップスリーに入る多結晶シリコンも、自社の電解プラントから生成される水素と塩素の有効活用を目的に進出したものであり、極めて幅広く、奥の深い技術基盤がこのような飛躍を可能にしたと言えるだろう。

 

②高度に統合・集積された徳山製造所の競争力
特有技術により生み出される製品の低コストでの製造、世界中への供給のために不可欠なのが徳山製造所。
国内有数の港湾インフラと自家発電所を有する徳山製造所は、以下のような特長を持っている。

国内第7位の発電量の自家発電所により、競争力あるコストで電力を使用することができる。

無機・有機化学、セメント、電子材料などの工場が複合的に集積し、原料・製品・副産物・廃棄物を相互に有効活用することが可能である。

セメントキルン(セメントの焼成に使う窯)への自社廃棄物受入れによりゼロエミッションを実現している。また、周南コンビナートの外部企業の廃棄物も受け入れており、環境面での社会貢献も果たしている。

 

(同社資料より)

 

また、大型輸送船も着岸可能な水深10メートル以上の天然の良港も有しているため、原材料および製品の大量搬入・搬出も可能。
徳山製造所における高度に統合・集積された高効率の生産・供給体制は同社競争優位性の源泉となっている。

 

トクヤマの競争力の源泉である徳山製造所だが、ESG投資が世界的にメインストリーム化する中、化石燃料を使用した発電により発生するCO2は自社の将来を大きく左右する問題であると認識している。
そこで、「基準年を2013年度とし、2030年度までに特段の対策のない自然体ケースと比較してCO2排出量を15%削減する」との目標達成に向け、2019年11月にCO2プロジェクトグループを立ち上げ、様々な施策に取り組んでいる。

 

(主な施策)

(1)新規技術開発:CO2の回収・利活用

大学など社外の研究機関の連携なども行いながら、徳山製造所から発生するCO2の回収技術、あるいは回収したCO2を活用する技術などを開発する。

(2)再生可能エネルギー由来電力(再エネ電力)による水素製造

大規模な変動再エネ電力にも対応可能な水素製造設備の開発として、商用サイズ電解槽及びプロセスの開発と実証を行う。

(3)再生可能エネルギー導入

*バイオマス混焼

自社保有の火力発電設備においてバイオマス燃料の使用を増やし、化石燃料使用量を削減する検討を開始する。

*エネルギーミックス

将来の環境行政やエネルギー情勢などについてシナリオを策定し、2030年度における製造所のエネルギーミックス(電源構成)を検討する。

(4)徳山製造所のエネルギー効率の最適化

徳山製造所内の各プラントの省エネルギーに加えて、プラント間でのエネルギー融通や、社外への熱、エネルギー供給などを行い、徳山製造所全体でのエネルギー効率を最適化する。

 

(2)の再生可能エネルギー由来電力(再エネ電力)による水素製造については、今後の事業化を目指すとともに、構築したモデルを地域内外へ地球温暖化防止対策の一つの手法として発信していく。
(3)のエネルギーミックスに関しては、国立大学法人 山口大学との包括連携協力の一環として、2019年11月に共同で調査・検討を開始した。

 

また、2020年6月には、トヨタ自動車株式会社と共同で、トヨタ自動車の燃料電池自動車「MIRAI」に搭載されている燃料電池システムを活用した定置式の燃料電池発電機を徳山製造所内に設置して、副生水素を利用した実証運転を開始した。

 

今回の実証運転の特徴は、トクヤマが食塩電解法で苛性ソーダを製造する時に副次的に発生する副生水素を燃料電池発電機の燃料として活用すること。
トクヤマは、副生水素を安定供給する役割を担い、燃料電池発電機で発電した電力は、定格出力50kWで徳山製造所内へ供給する。
この実証研究を機に、トクヤマは、国内有数の高純度な副生水素供給能力を持つ総合化学メーカーとして、副生水素を活用した地域貢献モデル事業の検討を進める。

 

2.2021年3月期決算概要

(1)連結業績概要

 

20/3期

構成比

21/3期

構成比

前期比

予想比

売上高

316,096

100.0%

302,407

100.0%

-4.3%

+0.8%

売上総利益

98,650

31.2%

95,152

31.5%

-3.5%

販管費

64,359

20.4%

64,230

21.2%

-0.2%

営業利益

34,281

10.8%

30,921

10.2%

-9.8%

+3.1%

経常利益

32,837

10.4%

30,796

10.2%

-6.2%

+2.7%

当期純利益

19,937

6.3%

24,534

8.1%

+23.1%

-5.6%

*単位:百万円。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。以下同様。予想比は2021年1月公表の修正予想に対する比率。

 

主力製品中心に販売が低調で減収減益
売上高は前期比4.3%減の3,024億円。苛性ソーダの国内販売数量が減少し、石化製品の販売価格が軟調だった。歯科器材等の輸出数量も減少した。半導体関連製品は堅調に推移。
営業利益は同9.8%減の309億円。国産ナフサなど原燃料コスト減少がプラス寄与したが、苛性ソーダの国内販売数量が減少したほか、輸出価格が軟調だった。定期修理などを行ったが固定費増は想定よりも小幅にとどまった。
前期比減収減益ではあったが、予想を上回る着地となった。

 

(2)セグメント別動向

売上高

20/3期

構成比

21/3期

構成比

前期比

予想比

化成品

93,730

29.7%

85,459

28.3%

-8.8%

-1.8%

特殊品

54,466

17.2%

57,779

19.1%

+6.1%

-5.3%

セメント

87,289

27.6%

90,864

30.0%

+4.1%

+5.7%

ライフアメニティー

56,307

17.8%

45,936

15.2%

-18.4%

-4.3%

その他

65,232

20.6%

53,637

17.7%

-17.8%

+11.7%

調整額

-40,929

-31,270

合計

316,096

100.0%

302,407

100.0%

-4.3%

+0.8%

営業利益

 

 

 

 

 

 

化成品

15,366

16.4%

14,118

16.5%

-8.1%

+17.7%

特殊品

7,058

13.0%

6,572

11.4%

-6.9%

-12.4%

セメント

3,835

4.4%

4,580

5.0%

+19.4%

+1.8%

ライフアメニティー

2,885

5.1%

3,107

6.8%

+7.7%

+24.3%

その他

6,935

10.6%

5,623

10.5%

-18.9%

+25.0%

調整額

-1,801

-3,080

合計

34,281

10.8%

30,921

10.2%

-9.8%

+10.4%

*単位:百万円。利益の構成比は売上高利益率。予想比は2020年10月発表分に対する比率。

 

*化成品
減収減益。

苛性ソーダ

新型コロナウイルスの影響で国内販売数量が減少に加え、海外市況が下落したことにより減益

塩化ビニルモノマー/塩化ビニル樹脂

輸出価格が上昇し増益

塩化カルシウム

降雪の影響により販売数量が増加し増益

 

*特殊品
増収減益。

半導体向け多結晶シリコン

5Gの導入やリモートワークの増加を背景に販売は堅調に推移したが、売上構成の変動等により微減益

電子工業用高純度薬品

海外向けを中心として販売数量が増加し増益

乾式シリカ

新型コロナウイルスの影響で販売数量が減少し減益

 

*セメント
増収増益。

セメント

新型コロナウイルスの国内出荷への影響は限定的だった。原料価格の下落で製造コストが低減したこともあり増益

 

*ライフアメニティー
減収増益

医薬品原薬・中間体

ジェネリック医薬品向けの販売数量が堅調に推移し増益

医療診断システム

臨床検査情報システム及び検体検査自動化システムの販売が減少し減益

ポリオレフィンフィルム

サン・トックス株式会社の株式の一部を譲渡したことに伴い、第3四半期より、同社を連結の範囲から除外した。

歯科器材

新型コロナウイルス感染症拡大の影響から減少していた欧米向け輸出数量が回復傾向にあり、広告宣伝費等が低減し増益

 

 

(3)財務状態とキャッシュ・フロー

◎主要BS

 

20年3月末

21年3月末

増減

 

20年3月末

21年3月末

増減

流動資産

203,849

199,760

-4,089

流動負債

95,241

83,308

-11,933

現預金

81,524

83,681

+2,157

仕入債務

42,795

39,547

-3,248

売上債権

72,929

70,901

-2,028

固定負債

107,775

98,224

-9,551

たな卸資産

44,645

39,599

-5,046

負債合計

203,017

181,533

-21,484

固定資産

179,597

187,034

+7,437

純資産

180,429

205,261

+24,832

有形固定資産

123,192

124,025

+833

株主資本

165,874

190,438

+24,564

無形固定資産

1,657

1,882

+225

利益剰余金

137,665

157,332

+19,667

投資その他の資産

54,747

61,126

+6,379

負債純資産合計

383,447

386,794

+3,347

資産合計

383,447

386,794

+3,347

有利子負債残高

116,341

98,436

-17,905

*単位:百万円。有利子負債にはリース債務を含む。
現預金及び投資有価証券増加などで、資産合計は前期末比33億円増加し3,867億円となった。
仕入債務及び有利子負債の減少などで、負債合計は同214億円減少の1,815億円。
利益剰余金の増加で、純資産は同248億円増加の2,052億円。
この結果、自己資本比率は前期末から7.3ポイント上昇し51.3%となった。
DEレシオは前期末の0.69から0.50へ低下した。

 

◎キャッシュ・フロー

 

20/3期

21/3期

増減

営業CF

52,364

43,314

-9,050

投資CF

-20,548

-19,276

+1,272

フリーCF

31,816

24,038

-7,778

財務CF

-18,348

-22,530

-4,182

現金同等物残高

80,918

83,050

+2,132

*単位:百万円。

 

営業CFおよびフリーCFのプラス幅は縮小。キャッシュポジションは上昇した。

 

 

3.2022年3月期業績見通し

(1)通期業績予想

 

21/3期

構成比

22/3期(予)

構成比

前期比

売上高

302,407

100.0%

271,000

100.0%

-10.4%

営業利益

30,921

10.2%

26,000

9.6%

-15.9%

経常利益

30,796

10.2%

26,000

9.6%

-15.6%

当期純利益

24,534

8.1%

22,000

8.1%

-10.3%

*単位: 百万円。予想は会社側発表。2022年3月期の期首より「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)等を適用予定。21/3期は適用していない。

 

減収減益
売上高は前期比10.4%減の2,710億円の予想。収益認識基準の適用無しの場合は約4%の増収。新型コロナウイルスの影響が改善し、半導体関連製品の拡販、石化製品の販売価格上昇を見込んでいる。
営業利益は同15.9%減の260億円を予想。先行投資が増加するほか、原燃料コスト増加を予想している。
為替の前提は105円/USD(21/3期は106円/USD)、国産ナフサは45,000円/kl(31,200円/kl)。
配当は前期と同じく70.00円/株の予定。予想配当性向は22.9%。

 

(2)セグメント別動向

 

21/3期

構成比

22/3期(予)

構成比

前期比

売上高

 

 

 

 

 

化成品

813

26.9%

900

33.2%

+10.7%

セメント

895

29.6%

530

19.6%

-40.8%

電子材料

618

20.4%

685

25.3%

+10.8%

ライフサイエンス

286

9.5%

310

11.4%

+8.4%

環境事業

95

3.1%

110

4.1%

+15.8%

その他

623

20.6%

330

12.2%

-47.0%

調整

-310

-155

合計

3,024

100.0%

2,710

100.0%

-10.4%

営業利益

 

 

 

 

 

化成品

135

16.6%

135

15.0%

0.0%

セメント

43

4.8%

30

5.7%

-30.2%

電子材料

71

11.5%

50

7.3%

-29.6%

ライフサイエンス

34

11.9%

40

12.9%

+17.6%

環境事業

-3

0

その他

56

9.0%

50

15.2%

-10.7%

調整

-30

-45

合計

309

10.2%

260

9.6%

-15.9%

*単位:億円。2022年3月期予想は「収益認識に関する会計基準」等を適用の上、作成。

 

新中期経営計画スタートに当たり、2022年3月期から「化成品」「セメント」「電子材料」「ライフサイエンス」「環境事業」「その他」の6セグメントに変更する。2021年3月期実績は、変更後のセグメントに組み替えて表示している。

 

各セグメントについて以下のような状況を見込んでいる。

 

*化成品
増収減益
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により減少していた販売数量は、徐々に回復に向かう一方で、原燃料コストや主要製品の海外市況は、引き続き変動リスクが大きい状況が続く。
主要製品における出荷数量の確保及び原単位や固定費削減などのコスト競争力強化を推進し、収益確保に努める。

 

*セメント
減収減益
新型コロナウイルス感染症拡大の影響等で減少していた販売数量は、一定の回復を見込んでいるが、今後の需要及び原料価格の動向等、事業を取り巻く環境は不透明な状況が続く。
製造コストの徹底した削減、及び各営業拠点における施策の実行等により、収益確保に努める。

 

*電子材料
増収減益
半導体関連製品の更なる拡販に向けた積極的な設備投資を行う。半導体市場は、5Gの導入やリモートワークの増加を背景に堅調な推移が予想され、微細化の進展に伴い、高品質化と安定供給に対する顧客からの要求がますます高まっている。
このような環境の中、半導体向けの多結晶シリコンは、品質を更に追求し、他社と差別化した高付加価値品の拡販を目指す。電子工業用高純度薬品は、日本及び台湾を中心とした製造・販売拠点を強化し、需要拡大に対応した供給体制の確立に注力する。
放熱材は、既存製品の拡販を進めるとともに、製品のラインナップ拡充に向け開発に注力する。

 

*ライフサイエンス
増収増益
新型コロナウイルス感染症拡大の影響等で減少していたプラスチックレンズ関連材料、及び歯科器材等の欧米向け出荷数量は回復傾向にあり、引き続き顧客ニーズや市場の変化に対応した新製品開発と販売活動に注力し、収益の拡大を目指す。
医療診断システムについては、事業の選択と集中を進め、2021年2月に株式会社エイアンドティーを完全子会社化した。グループ全体でリソースの活用・協業を進め、診断試薬開発をより一層強化し、事業を拡大する。

 

*環境事業
増収赤字縮小
環境事業を将来の一つの柱とするために、グループ内に点在していた環境関連事業を集約し、新たな事業展開を目指すセグメントとして新設した。イオン交換膜、樹脂サッシ、廃石膏ボードリサイクル等の既存事業に加え、今後CO2排出削減の技術開発及び事業化により収益を拡大し、事業ポートフォリオ転換のシンボルとして持続可能な社会への貢献と事業の成長を実現する。

 

(3)設備投資・減価償却
21/3期は設備投資、研究開発費とも期初計画に及ばなかった。22/3期の主な投資案件は純度IPA台湾JV工場建設、新規放熱材料生産設備導入、多結晶シリコン品質向上、物流インフラ整備など。
投資額増加により減価償却費も前期を上回る。

4.中期経営計画2025

2022年3月期から2026年3月期までの5年間の「中期経営計画2025」を策定した。

 

【4-1 策定の背景】

前中期経営計画「再生の礎」では、「先端材料世界トップ」「伝統事業日本トップ」を掲げ、コスト競争力のある事業構造の実現に向け取り組んだ。
その結果、不採算事業からの撤退、半導体関連製品や歯科器材等の成長事業の販売増加、有利子負債の削減など、一定の成果を上げることができたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響、先行投資の実施による固定費増加等により、売上高、営業利益、総資産利益率(ROA)、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)は計画未達となった。

 

(前中計の振り返り)

 

16年3月期

21年3月期目標値

21年3月期実績

進捗評価

売上高

3,071億円

3,350億円

3,024億円

新型コロナ影響および次期中計に向けた先行投資の実施による固定費増加等により目標未達

営業利益

230億円

360億円

309億円

ROA

5.7%

10%

8.0%

不採算事業からの撤退と、半導体関連製品や歯科器材等の成長事業の販売増加により、売上高営業利益率は目標達成

売上高営業利益率

7.5%

10%

10.2%

総資産回転率

0.77回転

1.0回転

0.79回転

財務指標

 

CCC

69日

55日

 

在庫の削減が進まず目標未達

D/Eレシオ

4.7倍

1倍

0.50倍

利益の積み上げと有利子負債削減により達成

 

同社を取り巻く事業環境は、「産業構造変化の加速」「デジタル革命の急進」「環境意識の高まり」「国内需要の縮小」「健康志向の高まり」「環境意識の高まりと規制強化」など今後も大きな変化が予想される。

 

そうした中、今後も持続的に収益力を向上させ、社会的課題を解決していくには、徳山製造所の統合された高効率な生産プロセスを競争力の源泉とし、石炭火力発電に依存したエネルギー多消費型事業が収益を牽引してきた事業構造のまま変化に対応するのではなく、これまでの延長線上にない事業の構築・成長、収益力・競争力の確保が必要と考え、「中期経営計画2025」を策定した。

 

【4-2 中期経営計画2025概要】

(1)目指す姿
スローガン「もっと未来の人のために」を掲げ、新たにMission、Vision、Valuesを定めた。

Mission

経営理念

 

存在意義

化学を礎に、環境と調和した幸せな未来を顧客と共に創造する

Vision

経営方針

ありたい姿

*マーケティングと研究開発から始める価値創造型企業

*独自の強みを磨き、活かし、新領域に挑み続ける企業

*社員と家族が健康で自分の仕事と会社に誇りを持てる企業

*世界中の地域・社会の人々との繋がりを大切にする企業

Values

行動指針

価値観

*顧客満足が利益の源泉

*目線はより広くより高く

*前任を超える人材たれ

*誠実、根気、遊び心。そして勇気

 

前述の事業環境の変化を踏まえ、「電子」「健康」「環境」の3分野を、自社が貢献できる注力事業領域と明確化し事業を推進する。
また、CO2排出量削減にも積極的に取り組む。
エネルギー多消費型事業(化成品・セメント)の比率を下げ、省エネルギー型事業(電子・健康・環境)の比率を高め、2050年度カーボンニュートラルを実現する。

 

(2)数値目標
最終年度2026年3月期の数値目標及び達成に向けたポイントは以下の通り。

 

 

2021年3月期

(実績)

2026年3月期

(計画)

CAGR

達成に向けたポイント

売上高:現行基準

3,024億円

3,700億円

4.7%

ポートフォリオ転換も成長維持

売上高:収益認識基準

2,550億円

3,200億円

4.1%

営業利益

309億円

400億円

5.3%

高収益事業の強化、拡大

成長事業の売上高成長率

CAGR10%以上

研究開発強化・国際展開加速

ROE

13.2%

10%以上

株主資本効率と財務基盤の両立

*CAGRはインベストメントブリッジが計算。

 

(3)重点課題
「事業ポートフォリオの転換」「地球温暖化防止への貢献」「CSR経営の推進」の3つを重点課題としている。

 

①事業ポートフォリオの転換
成長事業を「電子」「健康」「環境」に再定義し、組織化(事業領域「電子」「健康」「環境」と事業部門を一致)し戦略推進スピードを加速する。成長事業の連結売上高比率50%以上を目指す。
化成品事業・セメント事業は効率化を進め、持続的なキャッシュを創出する。

 

技術面においては社外との連携強化に技術よる技術の差別化を促進し、付加価値を追求する。
また、DX推進などにより、全社規模で効率的なオペレーションを展開するほか、成長する海外市場における事業拡大を推進する。

 

◎目指す事業ポートフォリオ
(2025年度目標)
成長事業の連結売上高比率50%以上は通過点とし、更なる高みを目指す。
2030年度は「電子」「健康」「環境」の3事業で売上高構成比60%以上を目指す。

 

(同社資料より)
◎事業別戦略

 

事業目標

重点施策

投資方針/国際展開

化成品

既存事業での安定的収益確保

*持続可能な環境に配慮した製造プロセスの革新

*電解槽のエネルギー効率を世界トップ水準に高め省エネによるCO2排出量の削減

*DX推進による製造プロセスとサプライチェーンの改善

*安定した事業の継続に必要な設備の維持更新

*環境課題に対応する省エネ・合理化

セメント

エネルギー効率国内トップクラス

*CO2排出量削減に向けた省エネ設備導入

*廃プラスチック燃焼量増加による石炭使用量減少

*安定した事業の継続に必要な設備の維持更新

*環境課題に対応する省エネ・合理化

*循環型社会に貢献する廃棄物処理の拡大

電子材料

半導体の微細化を支える高純度材料分野や放熱材料分野でトップシェアを獲得し、国際展開を加速

*海外市場へ積極展開

*新規用途展開・製品ラインナップ拡充

*ICケミカル

台湾JVの増設他グローバル拠点の拡充(アジア、北米)

 

*放熱材料

窒化ケイ素、窒化ホウ素の上市と海外拡販(アジア、北米、欧州)

 

*シリコン

高純度多結晶シリコンのマーケティング強化/シラン系製品の拡充とアジア展開(アジア)

 

*シリカ

CASE(※)やパーソナルケア用途の拡大/有機シリコン分野への参入

(アジア、北米)

 

※CASE

Coating, Adhesive, Sealant, Elastomer

ライフサイエンス

特有技術で差別化可能な領域(眼・歯・診断)でのニッチトップ獲得

*ビオチンなどの健康・医薬向け製品ラインナップの拡充

*独自性を持つ二軸延伸微多孔質フィルムの新規用途展開と上海拠点拡充

*化粧品素材、サプリ等ヘルスケア製品の海外展開加速と新規分野開拓

*化学との融合による診断試薬の開発加速、新規アライアンス、検査対象領域の拡大

*ファインケミカル

フォトクロミック材料で世界シェア25%を目指す(北米、欧州、アジア)/化粧品素材、サプリ、動物用関連製品などの海外展開加速(欧州、東南アジア)

 

*歯科器材

ブランド浸透、オムニクロマシリーズの海外販売拡充(北米、欧州・ロシア・CIS、新興国)

 

*診断

オープンな検体検査自動化システムをアライアンスを通じてOEM供給No.1を目指す(中国、韓国)

環境事業

将来を担う新たな事業の柱として確立

*環境規制強化による水処理膜の需要拡大への対応

*廃石膏ボードや太陽光発電モジュール等の資源リサイクル事業の拡大

*開発した次世代エネルギー技術の事業化

(投資方針)

*イオン交換膜:生産能力増強

*廃石膏ボードリサイクル:事業拠点の拡大

*太陽光発電モジュールのリサイクル:リサイクル技術の確立と事業化

 

(国際展開)

環境対応需要を取り込み、アジア及び欧州各国へ進出(中国、韓国、アジア、欧州)

 

数値目標

 

2021年3月期

2026年3月期

増減

売上高

 

 

 

化成品

810

850

+4.9%

セメント

480

560

+16.7%

電子材料

650

1,020

+56.9%

ライフサイエンス

310

460

+48.4%

環境事業

80

180

+125.0%

その他

440

380

-13.6%

調整

-300

-250

合計

2,550

3,200

+25.5%

営業利益

 

 

 

化成品

135

135

0.0%

セメント

45

35

-22.2%

電子材料

80

200

+150.0%

ライフサイエンス

30

75

+150.0%

環境事業

-5

15

その他

45

50

+11.1%

調整

-30

-110

合計

300

400

+33.3%

*21年3月期は収益認識基準適用した21年2月時点(中計発表時)での予想値。

 

◎研究開発方針
現中計では、研究開発方針として顧客起点の研究開発、事業部門開発への経営資源集中、オープンイノベーションの強化を掲げていた。
結果としては、新規半導体薬液やアルカリ水電解、要素技術の棚卸と強みの再検証、開発テーマの軌道修正、パイプラインの増加といった成果もあったが、コーポレート開発希薄化起因の中長期開発テーマの設定不足、環境分野に関する技術開発の遅れといった課題も残った。

 

そこで今中計では、価値創造型企業・ソリューション提供型企業への転換を果たすために、以下のような方針のもと研究開発を進める。

 

*コーポレート開発へ経営資源集中
・マーケティングを軸にした中長期開発テーマへの注力
・事業部門開発の未着手領域を攻める

*事業部門開発の強化
・顧客提案のバリエーションを増やす
・更なる開発スピードの向上

 

*オープンイノベーションの強化

 

高純度化技術、還元窒化、焼結、粉体制御、結晶・析出、電極・膜、ゾルゲル、光重合、分子設計といった同社の特有技術を活用して競争力のある製品開発を目指す。

 

◎DX推進
データとデジタル技術の利活用によりDXを推進する。
AI活用で、従来の不可能を可能にし、製造プロセスの改善や研究開発を加速させる。
以下3つのフェーズで変革を推進し、労働人口の減少、デジタル化推進、競争環境の変化といった変化を乗り越える。

 

〈Phase1〉企業存続への施策実行

効率化による人材余力の確保

製造プロセス管理の革新

CRMツール活用

〈Phase2〉変革への基盤整備

サプライチェーン管理レベル向上/

デジタル教育拡充/

AI活用

〈Phase3〉変革の推進

MI(※)による開発速度向上/

顧客起点でのビジネスモデル創出

※MI:マテリアルズ・インフォマティクス。統計分析などを活用したインフォマティクス(情報科学)の手法により、材料開発を高効率化する取り組み

 

◎国際展開の加速
現在約20%の海外売上高比率を2030年度までに50%以上まで引き上げる。

 

◎設備投資計画
5年間で2,000億円の設備投資を計画している。
成長事業への重点投資、CO2排出量削減、省エネがキーワードである。
主な投資案件は、台塑徳山精密化学(IPA-SE)、窒化ケイ素生産設備、発電所:バイオマス混焼設備、徳山製造所:港湾インフラ設備など。
積極的な投資により事業ポートフォリオの転換を強力に推進する考えだ。

 

◎キャッシュ・フローの創出と配分
事業収益の増加、新規開発品によるキャッシュ創出、投資案件の精査、たな卸資産の圧縮により5年間で2,500億円の営業キャッシュ・フローを生み出す。
キャッシュの使途は、設備投資2,000億円、M&Aや新規事業開発など戦略的投資に最大300億円。
株主還元は配当性向20-30%を予定しており、タイミングを見て自己株式の取得も検討する。

 

②地球温暖化防止への貢献
次世代エネルギーの技術開発を加速、事業化し、2030年度にCO2総排出量を2019年度比30%(200万トン)削減し、2050年度にはカーボンニュートラルを実現する。

 

そのために自家発電では2030年度に50%削減を目指し、最終的にはCO2排出量ゼロを実現する。
またセメント・化成品においても、石灰石使用量の低減やCCU技術(※)・環境貢献製品の使用などオフセットの可能性を検討中である。

 

※CCU技術(Carbon dioxide Capture and Utilization):CO2を回収・利用する技術。従来の化石燃料由来の燃料や化学品等の製品を、CO2を原料として製造した製品へと置き換えることで低炭素化を図る。さらに、CO2を耐久性のある素材に変えればCO2を長期間固定でき、固定している期間はCO2ゼロ排出となる。

 

2050年度カーボンニュートラルの内訳は、エネルギー起源CO2削減70%、原料起源CO2削減10%、環境貢献製品・革新的技術開発20%を計画している。
原燃料の脱炭素を目指すとともに、環境貢献製品の開発・実装によりカーボンニュートラルを達成する。

 

カーボンニュートラルに向けたアクションプランは以下の通りである。
技術開発の成否が大きなカギを握っている。

(同社資料より)

 

③CSR経営の推進
ありたい姿の実現に向けた具体的なアクションプランとして重要課題(マテリアリティ)に取り組む方針である。

 

(同社資料より)

 

 

5.横田社長に聞く

横田社長に前中期経営計画「再生の礎」の振り返り、新中期経営計画の注力ポイント、株主・投資家へのメッセージ伺った。

 

Q:「初めに、前中期経営計画『再生の礎』についての自己評価を伺いたいと思います。重点施策のうち、横田社長が最も重視してきた組織風土の変革についてはいかがでしたでしょうか?」

 

投資家の皆さんが期待していた数値目標、中でも売上・利益については、新型コロナウイルスの影響があったとはいえ、未達となってしまった点は、大いに反省しなければならないと痛感しています。

 

重点施策についてですが、トクヤマの再生に向けた人作りである「組織風土の変革」の成果は、事業分野によって大きく異なるものとなりました。

 

「特有技術で先端材料の世界トップ」を掲げた成長事業では、新しいことに積極的にチャレンジしたいという意欲のある若手社員が多数出てきました。そのため、新事業に向けてのパイプライン構築、研究開発テーマ、あるいは事業をいかにスピードアップして作り上げるかといった場面でこれまでにはないスピーディーな動きが見られ、成長事業の社員は大きく意識が変わりつつあります。
またキャリア採用にも積極的に取り組んだ結果、新しい事業に必要なテクノロジーを持った人、人員構成ギャップを埋めることのできる優秀な人材の確保も進めることができました。

 

一方、「競争力日本トップ」を掲げた伝統事業は、仕事のやり方そのものを変える取り組みの中で、ものの考え方を変えて、人を育てて行かなければならないと考え、積極的に様々な機会を創っていますが、比較的安定した成熟市場であること、一定のシェアを有していることなどから、想定したような意識の変化を生み出すことは、残念ながらまだ道半ばです。

 

この課題は新しい中期経営計画に持ち越すこととなりましたが、「組織風土改革」を止めることはありません。
ただ、新中期経営計画においては、「組織風土改革」を掲げるというよりも、伝統事業の在り方そのものをどのように考えていくべきかという視点からのアプローチとなると考えています。

 

 

Q:「わかりました。その点は、後ほど改めて伺いたいと思います。前中計における他の重点施策についてもコメント頂けますか?」

 

「事業の再構築」については、私が社長就任時の最大の課題であったトクヤママレーシアの整理は全て終了させることができました。一方で特殊品部門における半導体関連製品についても積極的な投資をしながら、オープンイノベーションやアライアンスを進め、放熱材料、高純度薬品といった当社独自の技術を活かした製品の事業基盤を構築することができたと考えています。新中計ではいかにして刈り取り、収益に貢献させるかが課題となります。

 

「グループ経営の強化」については、この2月に臨床検査のための装置、試薬などの開発、製造、販売や、臨床検査作業の効率化支援を手掛けるエイアンドティーを完全子会社化したように、グループ会社各社の位置づけを今一度明確にし、グループ全体としての経営管理を一段と強化する準備は完了しました。

 

「財務体質改善」は、有利子負債の返済と自己資本の増強を前倒しで達成し、十分な成果を上げることができました。

 

このように、重点施策に関しては、組織風土改革については課題が残ったものの、他の3つは十分な合格点をつけることができたのではないかと考えています。

 

 

Q:「では、新しい中期経営計画について伺いたいと思います。まず、内容を伺う前に、社長がどんな問題意識を持ったうえで
新中計策定に臨んだのか、そのあたりからお話しいただけますか?」

 

ちょうど昨年の今頃です。CO2問題が間違いなく世界的な大きなうねりとなって押し寄せて来ると予想しました。
要因はいくつかありましたが、一つは新型コロナウイルスです。パンデミックへの対応により各国が大幅な財政出動を余儀なくされたため、この財源をどうするのかという点から炭素税は大きな反対もなく導入が進むことは間違いないと考えました。
また、2期目に入ることが確実視されていた米国トランプ政権の行方に不透明感が漂い始めたことも大きな要因でした。民主党政権となればパリ協定復帰も間違いないわけですから。
もともとCO2問題が世界的な課題となることは以前から理解はしていましたが、以上のような要因から想定以上のスピードで一気に表面化するであろうと考えました。

 

そうなると、石炭火力発電の利用をベースとしたビジネスモデルの上に成り立っている当社は、事業の在り方そのものの大転換を迫られることとなります。
そういう意味で、今のままでいけば10年程度は大丈夫かもしれないが、もう少し長いスパンで見ると、持続性に大きな不安が生じるかもしれない、そうした非常に強い危機感を持って策定に臨んだのが今回の中期経営計画です。

 

「事業ポートフォリオの転換」「地球温暖化防止への貢献」「CSR経営の推進」の3つを重点課題としましたが、どの課題も「環境との調和」を実現できなければエネルギー大量消費型の当社の未来は極めて厳しいとの認識の下で掲げたものです。

 

特に海外に比べると再生エネルギーの価格が高い日本で、2050年のカーボンニュートラルを見据えたとき、発電所という存在をどう考えていくか。まずはバイオマスなどCO2発生をトータルで削減できる燃料への転換などから手を付けていきますが、それで競争力を維持しながら持続的に事業を行っていけるのか。仮にそれは意味が無いという判断となれば、経営資源のシフトも一気に進めていかなければなりません。
ここ5年程度でそのあたりの見極めを行いながら、同時にいくつかのオプションを設定してその後の進め方を詰めていくということになります。
自社保有の石炭火力発電の利用を競争優位性としてきた伝統産業は一定のキャッシュを創出できる分野ではありますが、こうした環境の下では決断する時がもっと手前に来るかもしれない。
極めて重要な時期にあるという認識です。

 

 

Q:「ありがとうございます。ではそうした認識の下で、最も需要な課題と思われる事業ポートフォリオの転換について伺います。
電子材料事業、ライフサイエンス事業における取り組みや課題をお話しください」

 

半導体の微細化を支える高純度材料分野や放熱材料分野でトップシェアを獲得し、国際展開を加速することを目指す電子材料事業では、マーケティング能力の強化が課題です。
この分野では最先端で事業を展開しているお客様とのパイプをどう構築するかが極めて重要です。最先端を行く企業と材料を始めとした様々な技術のすり合わせを行うことができるかがカギであり、これがまさにマーケティングなのです。ですからこの機能を強化するために世界的な半導体生産の集積地である台湾に研究所を設けて人材も派遣しています。
セラミックなど、日本が世界的のトップを行く分野では有力な大学の研究室の助力を得ながら最先端企業へのアプローチを強化しています。
また、素材、材料の供給にとどまらず、アプリケーションやモジュールのどの程度まで入っていけるか、つまり付加価値を高める取り組みも重要です。
最先端のお客様とすり合わせているとより細かいニーズが見えてくるし、そのために必要な技術もわかってくる。当社が保有していない新しい技術を取り込んでいくためにはそうした技術を有する企業を探してきたり、提携したりというアクションが必要で、そうしたマーケティング活動の強化にも注力していきます。

 

ライフサイエンス事業では特有技術で差別化可能な領域(眼・歯・診断)でのニッチトップ獲得を目指します。
フォトクロミック材料で世界シェア25%を目指すほか、歯科器材でのブランド浸透やオムニクロマシリーズの海外販売拡充を図りますが、こちらでもマーケティング機能の強化が欠かせません。
診断においては完全子会社化したエイアンドティーで診断試薬の開発にも注力するなど事業の進め方を見直し、しっかりと利益を生み出すことのできる体制に再構築していきます。

 

両事業とも、海外市場の開拓が重要です。現在約20%の海外売上高比率(全社)を2030年度までに50%以上まで引き上げます。

 

Q:「続いて環境事業について伺います。次世代エネルギー開発とは具体的にはどのような取り組みなのでしょうか?」

 

1つは水素です。
当社では既に再生可能エネルギー由来電力(再エネ電力)による水素製造については、水素製造設備の開発と商用サイズ電解槽及びプロセスの開発と実証に着手しています。
また、トヨタ自動車株式会社と共同で、トヨタ自動車の燃料電池自動車「MIRAI」に搭載されている燃料電池システムを活用した定置式の燃料電池発電機を徳山製造所内に設置して、副生水素を利用した実証運転も行っています。この実証研究を機に、国内有数の高純度な副生水素供給能力を持つ総合化学メーカーとして、副生水素を活用した地域貢献モデル事業の検討を進めています。

 

2つ目はバイオマスの事業化です。
当社発電所における使用に加え、一定の競争力を維持していくためには他社に外販するくらいの経済規模で自社開発していかなければなりません。いままで無価値と思われていたような素材をバイオマスとして活用するために、当社の化学技術と外部パートナーのエンジニアリング技術を組み合わせて、適切なバイオマス材料を発掘、実用化していきたいと考えています。

 

 

Q:「環境貢献製品の開発やリサイクル事業の拡大にも言及されています」

 

環境貢献製品の筆頭は「イオン交換膜」です。
排水処理や有価物の回収に使用されるイオン交換膜の生産能力を増強します。その他にも、環境貢献製品の開発に注力します。

 

リサイクル事業の対象としては、「廃石膏ボード」と「太陽光発電モジュール」が有望です。

 

石膏というのは石炭や天然ガスを発電所で燃焼させて発生する硫黄酸化物を中和する過程でできるもので、今後化石燃料で発電をしないということは石膏の生産量は確実に減少に向かいます。
一方で建築物の内装などに使われる「石膏ボード」」は、たとえば住宅を解体した際には廃棄物として最終処分場に持ち込むしかないのですが、現在最終処分場の受け入れ余力の不足が問題となっており、自治体が受け入れを拒否するケースも出てきています。
加えて天然の石膏価格は高価なので、こうした流れから建築物に不可欠な「石膏ボード」をリサイクルして使用するという動きは世界的に高まると考えられます。

 

太陽光発電モジュールについては、これから5年程度で老朽化したモジュールが大量に破棄されると見込まれています。
太陽光パネルは、シリコンの表面に接着剤でガラスを貼り付けてあるため、廃棄する際にガラスを剝がすことが難しく、リサイクルが困難でした。当社ではその基礎技術が確立できましたので、現在NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成金を基に北海道で実証実験を行っています。
分離する技術を完成させるとともに、シリコンの回収も含め、コスト的に見合うレベルまで2年程度をめどに完成させたいと考えています。
こちらも世界的な市場が見込まれますので、知財戦略も進めながら事業拡大を目指していきます。

 

 

Q:「CCU(CO2有効利用)技術開発という記述もありますが、自社で独自に開発するということなのですか?」

 

いえ、ある程度のベースとなる技術は持っていますが、経済性が発揮できるものではないので、外部のパートナーと連携して社会実装できるレベルまで引き上げていきたいと思っています。
当社には、CO2が既に豊富にあり、今後水素も自社で生成できるということになれば、当社の材料や設備と、大学や研究機関の先進技術を組み合わせてCCU技術を開発していくというイメージです。

 

 

Q:「それでは最後に株主や投資家へのメッセージをお願いいたします」

 

当社株価は2018年5月の高値の後、低調な展開が続いています。
この要因は、一つには、CO2問題と考えています。エネルギー大量消費型の当社がCO2削減に取り組むことでこれまでの収益力が失われるのではないかという懸念です。これに対しては今お話ししたように、今回の中計で「事業ポートフォリオの転換」という重点施策を示すことで、今後の取り組みや方向性をはっきりと打ち出しました。
もう一つの要因は、成長分野である電子材料事業の収益力がまだまだ不十分であるとの市場の評価であろうと理解しています。こちらについても、2030年に向けた目標と取り組みをお示ししました。
ただ、現時点でのPER、PBRからは、成長性、投資の効果などについて確信を持っていただけていない状態です。
様々なご指摘は頂いていますが、成長のための投資を今行わなければ「目指す姿」を実現することはできませんので、適切な財務規律を維持しつつ、重点施策に取り組み、しっかりと成果に結びつける考えです。

 

今回の中計は、今後の当社の在り方を決める非常に重要なものです。
目標達成に向け全社一丸となって邁進して参りますので、是非ご理解、ご支援いただきますようお願い申し上げます。

 

 

6.今後の注目点

「脱炭素社会への実現」という世界的な課題を前にして、今回の中期経営計画は企業としての存続に向けた強い決意を込めたものである。
ただ、横田社長のインタビューにもあるように、現在のPER、PBRからは、カーボンニュートラルは同社にとって強力な向かい風であるとマーケットは判断しているようだ。
確かに、一般的には「環境」分野でリスク低減と事業機会の創出双方に投資を行いつつ収益を上げることは容易ではないと思われるが、同社の場合は長年蓄積してきた化学技術を有している点は、環境関連製品の開発、リサイクル事業の拡大、独自のバイオマスの発掘といった点で大きなアドバンテージになりうるであろう。
短期的な視点としては、成長事業ではあるものの今期減益見込みの電子材料事業の動向を見つつ、新中計の各施策の進捗を注目していきたい。

 

 

<参考:コーポレートガバナンスについて>

◎組織形態、取締役、監査役の構成

組織形態

監査等委員会設置会社

取締役

9名、うち社外3名

監査等委員会

4名、うち社外3名

 

◎コーポレートガバナンス報告書
最終更新日:2020年6月25日

 

<基本的な考え方>
当社は、2016年に制定した「トクヤマのビジョン」において、トクヤマグループの存在意義を「化学を通じて暮らしに役立つ価値を創造する」と定めました。トクヤマグループが培ってきた化学技術を用いて、新しい価値を創造し、提供し続けることを通じて、人々の幸せや社会の発展に貢献していきます。新しい価値を創造し、提供し続けることは、株主の皆様をはじめとして、顧客、取引先、従業員、地域社会等のステークホルダーの方々との信頼と協働によってこそ可能であり、それが持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に繋がると考えております。その実現のためには、コーポレートガバナンスは経営の重要な課題であり、常に充実を図ってゆく必要があると認識しています。以上が基本的な考え方です。

 

 

 基本方針としては、コーポレートガバナンスコードを踏まえて、株主の皆様の権利・平等性の尊重、各種ステークホルダーとの適切な協働、適切な情報開示と透明性の確立、取締役会の独立性整備と監督機能の強化、意思決定の迅速化と責任の明確化、および株主の皆様との建設的な対話などに努めます。

 

<実施しない主な原則とその理由>

原則

実施しない理由

補充原則4-1-3【最高経営責任者の後継者計画】

最高経営責任者(社長執行役員)の選任については、経営理念や経営戦略を踏まえ慎重に行っていますが、後継者を計画的に育成するサクセションプログラムについては、その導入が課題であると認識しており、引続き検討します。

手続きについては、公正性・透明性を保証するために、人材委員会で慎重に審議の上、取締役会へ答申しており、これを受けて取締役会で決議しています。

補充原則4-11-1【取締役会の多様性に関する考え方】

「原則3-1(iv) 経営陣幹部の選解任と取締役の指名における方針と手続」にある通り、取締役会の全体としてのバランス及び多様性に配慮していますが、ジェンダー及び国際性を含む領域での多様性の確保が課題であると認識しています。

この点については、引続き検討します。

 

<開示している主な原則>

原則

開示内容

原則1-4【いわゆる政策保有株式】

当社は、経営戦略の一環として、取引の維持強化、資金調達、原材料の安定調達等事業活動の必要性に応じて、政策的に上場企業の株式を保有することがあります。

この政策保有上場株式については、効率的な企業経営を目指す観点から、可能な限り縮減します。2019年度は上場株式1銘柄を売却し、保有する上場株式は24銘柄となりました。

また、毎年取締役会において、リスクを織り込んだ資本コストと便益との比較により経済合理性を検証し、将来の見通しを踏まえて保有の適否を確認します。

当社は、当社と投資先企業双方の企業価値への寄与を基準に議決権を行使します。

原則5-1【株主との建設的な対話に関する方針】

当社は、株主・投資家の皆様からの理解と信頼を得るため、会社の経営・財務情報のみならず社会に提供する製品・サービス、環境的・社会的側面などの非財務情報についても、適時・適切にかつわかりやすく開示するよう努めています。情報開示の基本姿勢、適時開示体制については、本報告書の「V-2.その他コーポレートガバナンス体制等に関する事項(適時開示体制の概要)」をご覧ください。

株主・投資家の皆様との建設的な対話を促進する統括的な役割は、広報・IRグループ所管部門長が担います。

対話の企画、実施などについては、広報・IRグループが主体となり、経営企画グループ、経営管理グループ、財務・投融資グループ、CSR企画グループ、総務グループ、研究開発部門、事業部門など社内の各部署と密接に連携しています。

経営トップ自らが株主・投資家と対話を行うIR活動として、アナリスト・機関投資家向けの決算説明会を年4回開催している他、証券会社主催のカンファレンスやスモールミーティングへの出席などを随時実施しています。またIR活動を担当する広報・IRグループは、国内外の機関投資家との個別面談や個人投資家向け会社説明会などを行っています。その他IR活動の詳細については、本報告書の「III-2.IRに関する活動状況」をご覧ください。

株主・投資家の皆様との対話で得られたご意見等につきましては、経営トップと関係部署の責任者が出席するIR会議の中で確認・共有しているほか、IR報告書により社内の各部署へフィードバックし、経営戦略や事業戦略の策定や軌道修正に活かし、企業価値向上につなげています。

なお、インサイダー情報の管理については、社内規程を定め、秘密保持誓約等で情報管理を徹底しています。

 

株式会社インベストメントブリッジ
ブリッジレポート   株式会社インベストメントブリッジ
個人投資家に注目企業の事業内容、ビジネスモデル、特徴や強み、今後の成長戦略、足元の業績動向などをわかりやすくお伝えするレポートです。
Copyright(C) 2011 Investment Bridge Co.,Ltd. All Rights Reserved.
本レポートは情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を意図するものではありません。 また、本レポートに記載されている情報及び見解は当社が公表されたデータに基づいて作成したものです。本レポートに掲載された情報は、当社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その正確性・完全性を全面的に保証するものではありません。 当該情報や見解の正確性、完全性もしくは妥当性についても保証するものではなく、また責任を負うものではありません。 本レポートに関する一切の権利は(株)インベストメントブリッジにあり、本レポートの内容等につきましては今後予告無く変更される場合があります。 投資にあたっての決定は、ご自身の判断でなされますようお願い申しあげます。

このページのトップへ