栄研化学 増収増益、通期予想を上方修正

2020/06/07

 

 

和田 守史 社長

栄研化学株式会社(4549)

 

 

会社情報

市場

東証1部

業種

医薬品(製造販売業)

代表取締役社長

和田 守史

所在地

東京都台東区台東4-19-9 山口ビル7   〒110-8408

決算月

3月末日

HP

https://www.eiken.co.jp/

 

株式情報

株価

発行済株式数

時価総額

ROE(実)

売買単位

1,721円

43,541,438株

74,934百万円

9.9%

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

未定

未定

1,002.86円

1.7倍

*株価は5/25終値。発行済株式数、ROE、BPSは20年3月期決算短信より。今期予想は新型コロナウイルス感染症による影響を現段階において合理的に算定することが困難であるため未定。

 

業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2017年3月(実)

33,274

3,976

4,112

2,918

79.69

25.00

2018年3月(実)

34,991

3,478

3,549

2,608

71.21

25.00

2019年3月(実)

35,761

4,611

4,681

3,447

93.63

30.00

2020年3月(実)

36,585

4,622

4,723

3,538

95.95

30.00

2021年3月(予)

*単位:円、百万円。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。2018年4月1日付で1:2の株式分割を実施。EPS、DPSは遡及して調整。今期予想は新型コロナウイルス感染症による影響を現段階において合理的に算定することが困難であるため未定。

 

栄研化学株式会社の2020年3月期決算概要などをご紹介致します。

 

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2020年3月決算概要
3.2021年3月期業績予想
4.今後の注目点
<参考1:EIKEN ROAD MAP 2019と新・中期経営計画>
<参考2:コーポレートガバナンスについて>

 

今回のポイント

  • 20年3月期の売上高は前期比2.3%増の365億円。国内は便潜血検査用及び尿検査用試薬が増加したものの微減収。海外は北米、欧州を中心に便潜血検査用試薬の売上が増加した。営業利益は同0.2%増の46億円。販管費が増加したものの、増収により微増益。2020年1月に、海外売上好調を主要因に通期予想を上方修正。配当予想も27円/株から30円/株に引き上げた。売上は期初予想を上回ったが、修正予想には若干の未達。 
  • 21年3月期については、新型コロナウイルス感染症の影響により厳しい事業環境を見込んでいる。臨床検査薬事業も大きな影響を受ける可能性があるが、同感染症収束時期を現時点で見通すことは難しく、業績への影響を合理的に算定することは困難であるため、業績予想は現時点では未定としている。 
  • 新型コロナウイルスの影響は、検査キット供給増と国内外での便潜血検査を中心とした検査件数の大幅な減少というプラス・マイナス両面があり、検査件数減は今後の減少程度および回復時期を現時点では予想することは困難なことが、今期業績予想を未定としている主要因である。 
  • 一方で「アフター・コロナ」においては、開発が完了した「Simprova」によって感染症を中心としたこれまでにない「検査プラットフォーム」を構築し、パラダイムシフトを起こすことが期待され、グローバル展開を一段と加速させる契機となるかもしれない。大いに注目したい。 

1.会社概要

臨床検査の内、免疫血清検査、微生物検査、生化学検査、尿検査、遺伝子検査など、人体から採取した試料(検体)を調べる臨床検査薬の総合メーカー。検査機器の開発・販売も行っている。
国内シェア60%以上の便潜血検査を始め、尿検査や微生物検査など他社にはない独自技術・ノウハウを利用した高シェア製品多数。また独自開発の遺伝子増幅技術「LAMP法」は世界的に高い評価を得ている。便潜血検査、尿検査とLAMP法などの独自技術を武器にグローバル企業への成長を目指している。

 

【1-1 沿革】

1939年

興亜化学工業(株)として創立し、家畜臓器を原料とした栄養食品および医薬品の製造販売開始

1949年

日本で初めて細菌検査用粉末培地(SS寒天培地)の製品化に成功

1961年

臨床検査部門を開設し、臨床検査薬の研究開発開始

1969年

創立30周年にあたり、栄研化学(株)と社名変更

1972年

尿試験紙「ウロペーパー‘栄研’」発売

1987年

便潜血検査用試薬「OC-ヘモディア」(目視判定法)発売

1989年

便潜血測定装置「OCセンサー」発売

1990年

東京証券取引所市場第二部に株式を上場

1992年

尿自動分析装置「US-2100」発売

1998年

新規遺伝子増幅技術LAMP法を開発、特許出願

2001年4月

臨床検査薬・装置の自社販売を開始

2002年3月

東京証券取引所市場第一部に株式を上場

2002年3月

LAMP法が米国で特許成立

2002年3月

LAMP法を用いた第1号製品の「Loopamp牛胚性判別試薬キット」及び専用装置を発売

2002年5月

LAMP法が日本で特許成立

2003年12月

LAMP法を用いた体外診断用医薬品「Loopamp SARSコロナウイルス検出試薬キット」発売

2004年11月

便潜血検査用試薬及び装置の米国(FDA)での承認取得、発売

2005年7月

FINDとLAMP法を利用した結核の遺伝子迅速検査法の共同開発契約を締結

2008年10月

FINDと新たにマラリア、アフリカ睡眠病、HIVの共同開発の契約を締結

2011年6月

オランダ・アムステルダムに欧州事務所開設(現・欧州支店)

2011年12月

FINDとリーシュマニア症の共同開発の契約を締結

2012年11月

イムノクロマト法による「イムノキャッチ-ノロ」発売

2014年1月

FINDとシャーガス病の共同開発の契約を締結

2014年11月

便潜血測定装置「OCセンサーPLEDIA」発売

2015年1月

LAMP法を利用した次世代の小型全自動遺伝子検査装置及び多項目検査チップを開発

2015年2月

全自動尿分析装置「US-3500」発売

2016年1月

シスメックス株式会社と海外市場の尿検査事業において業務提携

2016年8月

TB-LAMPがWHO(世界保健機構)の推奨を取得

HUMAN社とTB-LAMP、マラリア検査のグローバル販売提携

2019年4月

新経営構想『EIKEN ROAD MAP 2019』策定

2020年3月

LAMP法を利用した新型コロナウイルス検出用試薬発売

2020年4月

「全自動核酸検査装置Simprova」 発売

*LAMP法、FINDについては「2.特徴と強み④LAMP法の優位性」を参照

 

【1-2 経営理念】

*経営理念:「ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。」
*経営ビジョン:「EIKENグループは、人々の健康を守るために、検査のパイオニアとしてお客様に信頼される製品サービスを提供し、企業価値の向上を図ります。」
*モットー:「品質で信頼され、技術で発展する“EIKEN”」

 

これらを中心に各ステークホルダーへの考え方として、EIKEN WAYを策定している。

 

 

(同社資料より)

 

【1-3 市場環境】

<国内市場>
臨床検査薬市場は、2018年度で約3,668億円、研究用試薬と検査用機器を含めると約6,000億円(一般社団法人日本臨床検査薬協会調査。栄研化学提供データ)となっている。行政は増大している医療費を抑制するために特定健診(メタボ健診)やがん検診の受診率向上やOTC検査薬(薬局で購入できる検査薬)の規制緩和といった予防医療に力を入れており、今後、高齢化の進展と共に臨床検査数(検体数)の増加が見込まれる。

 

一方でマイナス面としては、価格競争による単価の低下、診療報酬改定(引き下げ)及び長期的には少子化による人口減少がある。ただ、診療報酬改定の対象である保険(検体検査実施料)の推移を見ると、1997年から2006年までの期間に約4割引き下げられたものの、その後はほぼ横ばいないし微減となっている(2018年度検体検査実施料 -0.4%)。これは同社の含めた業界全体として予防、検査の重要性を働きかけた結果という事で、中期的には国内市場は年率2%程度の微増傾向が続くと思われる。

 

前述の協会会員131社(2020年4月時点)の内メーカーは約80社で、売上100億円以上の企業は15社程度となっており、大多数は中堅・中小企業という構造。臨床検査は検査項目が多岐にわたっているため企業ごとに得意とする分野が異なり、企業間での棲み分けが出来ている。そのため、他社から原料・製品を仕入れて製造・販売するといった業務提携が多く見られる。また、そうした棲み分けが出来ている中、市場は小幅ながらも拡大しているため、明確な淘汰は現在のところ起きていないということだ。

 

<海外市場>
2018年の世界の検体検査薬・機器市場は約672億USDといわれており、地域別構成比は米国36%、欧州28%、アジア24%などとなっている。(富士経済「2019年World Wide臨床検査市場」栄研化学提供)

 

市場規模自体が国内市場の10倍超と巨大であると同時に、先進国では高齢化の進展に伴う検査数の増加、また新興国においては経済成長、所得増加に伴う医療ニーズの拡大などにより、年率5%以上と国内市場を大きく上回る成長が見込まれるため、国内企業は積極的にグローバル化を進めている。
ただ、グローバル市場においては、2019年の売上高614億ドルのロシュを筆頭に、アボット、シーメンス、ベックマンなど世界的大企業がメインプレーヤーとなっており、日本企業が競争に勝ち抜くためには独自性のある製品・システムの開発など競争力強化が不可欠である。

 

【1-4 事業内容】

1.臨床検査とは
臨床検査には、レントゲン、CT、MRI、心電図、超音波など、医療機器を使用して体を直接調べる「生体検査」と、患者から採取した血液、尿・便、細胞などの生体試料(検体)を調べる「検体検査」がある。
同社が取り扱う臨床検査薬とは、検体検査に使用する試薬の事で、例えば感染症の検査や便に含まれる微量の血液の測定など、病気の診断をサポートするもの。これら試薬の大部分は体外診断用医薬品と呼ばれ、医薬品医療機器等法の規制を受け、試薬メーカーなどがPMDA(医薬品医療機器総合機構)に対し申請し、認可を受けたものである。ユーザーは、病院、医院、診療所、受託を受けて検査を行う検査センター、健診センター、保健所、衛生検査所など。

 

2.主力製品
主として以下の各検査用試薬や測定装置を製造・販売している。
同社は幅広い検査薬を取り扱うために、自社製品に加え他社製品の仕入販売も行っている。
主要な自社製品は、便潜血検査用試薬、微生物検査用試薬、免疫血清検査用試薬、尿検査用試薬、遺伝子検査用試薬など。自社製品と他社製品の売上比率は約60:40。粗利率は自社製品が約55%、他社製品が約35%。

 

製品名

売上高

売上構成比

便潜血検査用試薬

10,352

28.3%

免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)

9,917

27.1%

尿検査用試薬

3,340

9.1%

微生物検査用試薬

4,623

12.6%

生化学検査用試薬

609

1.7%

器具・食品環境関連培地

2,162

5.9%

遺伝子(LAMP法)関連(機器含む)

1,331

3.6%

医療機器関連(遺伝子関連機器を除く)

4,247

11.6%

売上高合計

36,585

100.0%

*2020年3月期実績。単位:百万円

 

便潜血検査用試薬
大腸がんのスクリーニング検査として糞便中ヒトヘモグロビンを特異的に検出・測定する便潜血検査用試薬・採便容器を主力製品とし、グローバルに販売している。

 

免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)
リウマチや炎症性疾患の診断及び胃がんリスク層別化検査(ABC分類)に使用する汎用自動分析装置用試薬「LZテスト‘栄研’」を始め、各種検査用試薬の開発、製造、販売を行っている。また東ソー(株)から、全自動エンザイムイムノアッセイ装置用試薬及び自動グリコヘモグロビン分析装置用試薬を導入・販売している。

 

尿検査用試薬
尿中の潜血、たんぱく質、ブドウ糖など多項目の検査が行える尿検査用試験紙「ウロペーパーⅢ‘栄研’」、全自動尿分析装置用には専用試験紙の「ウロペーパーαⅢ‘栄研’」などを開発・製造・販売している。
また、海外については、2017年よりシスメックス株式会社と業務提携し、販売が開始されている。

 

微生物検査用試薬
同社は創立以来、感染症及び食中毒の予防を目的とし、生体試料や食品・環境の微生物検査用試薬を開発してきた。現在では、各種細菌検査用培地(増菌用培地、分離用培地、生物学的性状検査用培地、同定検査用培地)、薬剤感受性検査用試薬、迅速検査試薬など、微生物感染症の診断・治療に有用な各種検査用試薬を開発・製造・販売している。

 

 

生化学検査用試薬
生活習慣病との関連性が注目されている検査項目を中心に、血清や尿を検体とし生体成分を測定・分析する「エクディアXL ‘栄研’」シリーズなど、生化学検査用自動分析装置に対応する各種検査用試薬を開発・製造・販売している。

 

器具・食品環境関連培地
食中毒原因微生物の検査などの食品微生物検査用試薬や作業環境の汚染実態などを把握できる環境微生物検査用試薬及び検査用器具・器材の販売を行っている。

 

遺伝子(LAMP法)関連
同社は1998年、新規遺伝子増幅技術LAMP法を独自開発し特許を取得し、LAMP法を利用した遺伝子検査用試薬を開発・製造・販売している。また、ライセンスも積極的に実施している。このLAMP法は、「簡易、迅速、精確、安価」という特徴を有しており、今後のグローバル展開のための大きな武器となっている。(詳細は後述)

 

医療機器
各種自動分析装置を販売している。自社試薬を使用する専用装置は製造委託を行っている。便潜血測定装置「OCセンサー」は1989年の発売以来、技術革新と品質向上を重ねている。また、独自技術である画像処理システムを使用した尿自動分析装置「US」、臨床検査分野で世界初となる全自動生物化学発光免疫測定装置「BLEIA-1200」、LAMP法リアルタイム濁度測定装置「LoopampEXIA」など取り揃えている。

 

3.販売体制
国内の販売体制は10営業部。学術部門が販売促進の支援を行っている。
2020年3月期の全従業員724名(連結)中、約300名が営業部門。
ユーザーである病院など医療機関向けチャネルに関する直接の販売先は医療系卸会社で、殆ど全ての卸会社と取引を行っている。
海外販売においては、基本的に1か国・1代理店体制をとっており、販売とメンテナンスを委託しており、本社の海外事業室が管理している。輸出先は44ヵ国(2020年3月期)。米国、ドイツ、イタリア、スペイン、イングランド、フランス、オーストラリア、韓国、台湾が海外売上の大半を占めている。アムステルダム(オランダ)に欧州支店があるほか、中国に関しては連結子会社「栄研生物科技(中国)有限公司」での生産・販売体制の強化を行う他、中国事業室を設置しビジネス拡大を図っている。今後は規模拡大に伴い現地法人化も検討していく。
2020年3月期の海外売上高は7,040百万円。うち便潜血検査用試薬は4,265百万円で構成比は60.6%。

 

【1-5 ROE分析】

 

12/3期

13/3期

14/3期

15/3期

16/3期

17/3期

18/3期

19/3期

20/3期

ROE(%)

7.0

10.9

8.3

8.3

8.9

10.0

8.3

10.3

9.9

 売上高当期純利益率

5.27

8.56

6.61

6.77

7.55

8.77

7.45

9.64

9.67

 総資産回転率

0.84

0.84

0.84

0.83

0.83

0.80

0.78

0.77

0.75

 レバレッジ

1.58

1.52

1.50

1.47

1.42

1.43

1.43

1.38

1.36

*単位:%、回、倍

 

引き続き高付加価値製品の開発、新規事業・新規市場の創出及び原価率及び販管費率の低減による利益率及び生産性向上を一段と強化する。

 

【1-6 特徴と強み】

①高シェアの製品群
便潜血検査用試薬の国内シェアは63%でトップであるほか、尿検査用試薬で約27%(2位)、微生物検査用試薬で約16%(4位)等と他社にはない独自技術・ノウハウを利用した多くの自社製品において高いシェアを有している。同社が便潜血検査用試薬で高いシェアを獲得することができた背景としては、1987年に発売した目視判定法用の便潜血検査用試薬「OC-ヘモディア」が、競合品に比べユーザーニーズに合致した製品であったこと、1989年には測定原理に免疫法(ラテックス凝集法)を採用し世界初の全自動分析装置「OC-センサー」を発売したことである。
また、便潜血検査は1992年に老人保健法の改正が行われ、大腸がん検診のスクリーニング検査法として公費で受診が可能(受診者負担が無料)になったのをきっかけに、普及が加速し競争が激しくなったが、同社は、機能を一新した「OC-センサーneo」を2001年に発売し、シェアを拡大してきた。

 

(同社資料より)

 

便潜血検査に関してはこの特徴を活かして海外展開を進めている。
日本で実施されている免疫法は、ヒトの血液のみ反応する試薬となっており、また、自動化装置による大量処理が可能である。
一方海外では化学法による古いタイプの試薬が使用されており、精度面に課題がある。2011年になりようやく欧州の検診ガイドラインで免疫法による自動装置測定が推奨され、大きな市場の変化が現れ始めた。
また、市場が最も大きいアメリカでも化学法が主流であるが、徐々に免疫法へのシフトが始まっており、USPSTF(米国予防医療特別委員会)の大腸がんスクリーニングに関する新ガイドラインが2016年6月に発行されたが、その中で従来の化学法ではなく免疫法が優れていると指摘されたことに加え、当社の便潜血検査製品『the OC FIT-CHEK family of FITs』が、高い感受性と特定性で最高の検査パフォーマンスを有していると評価された。さらにアジア、南米の先進国・新興国には未開拓な大きな市場が控えている。
便潜血検査市場は、ニッチな市場であるため、いち早く免疫法を開始した日本企業の技術が最も進んでおり、同社の試薬・装置がグローバルスタンダードとなっている。

 

②研究開発に注力
研究開発型企業として独自性のある技術の研究開発と、それをベースとした顧客ニーズに対応したオリジナル製品の開発に注力している。研究開発要員は約110名。
顧客の要望は医療のクオリティ向上。具体的には、高感度・高品質による疾患の鑑別精度の向上、検出率の改善といった点が挙げられる。加えて、使用法が簡便であれば医療従事者の負荷軽減につながるため、そうしたニーズへの対応も重要なポイントとなっている。
同社は、1939年の創業以来培ってきた試薬製造の独自技術が蓄積されており、またその試薬の性能を有効に活用するための装置に関しても、便潜血検査用装置や尿自動分析装置、生物化学発光免疫測定装置(BLEIA法)、遺伝子検査などで他社にはない独自技術が用いられている。

 

③アライアンス戦略による多品種・多分野展開
臨床検査薬はその対象、項目は多岐にわたり、すべてを自社で開発・製造・販売を手掛けることは困難である。同業他社の多くは自社の得意な技術・製品に絞っているが、同社は臨床検査薬の総合メーカーとして、収益構造の安定化をめざし、アライアンス戦略を通じて自社の有する強みの拡大、機能の補完、新技術の取得といったシナジー効果を追求しつつ、広範に取扱製品を揃え、医療機関を始めとした顧客、ユーザーのニーズに対応している。
多品種・多分野に展開しているもう一つの理由としては、経営理念「ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。」にあるように国民の健康を守るという責務を達成するためには、幅広い臨床検査に対応することが企業としての社会的責任であるとの想いも根底にある。

 

④「LAMP法」の優位性
遺伝子検査の中の過程の一つである遺伝子増幅プロセスにおける現在の主流技術は「PCR法」と呼ばれるもの。これに対し同社は1998年「LAMP法」という独自技術を開発した。
「LAMP法」はPCR法と比較して、以下の様な優れた特徴を持ち、簡易で迅速に特異性の極めて高い遺伝子検査を行うことが出来るものである。

 

簡易 一定温度で増幅反応が進む。(PCR法は増幅に温度変化が必要)
迅速 増幅効率が高く30~60分で検出可能。(PCR法は2~3時間)。
精確 特異性が極めて高い。

 

現在、医療分野では感染症検査である結核やマイコプラズマ(真正細菌の一属で、肺炎の原因となることもある。)、レジオネラ、百日咳等の検査に使われている。
同社はLAMP法の地位確立のため感染症検査に注力すると同時に、LAMP法の普及・認知度向上のために、畜産・水産、食品・環境など医療以外の分野での利用を推進しており、実際にLAMP法に基づく製品は2002年以降次々と実現している。
また同様の目的から、LAMP法陣営構築のために外部に対し積極的なライセンス許諾を行っている。
LAMP法を世界的に普及させるための中心的な取り組みの一つが、「FIND」とのアライアンスである。
「FIND」は「Foundation for Innovative New Diagnostics」のことで、2003年5月に開催された国連の世界保健会議の場で設立されたスイス政府認可の非営利財団。当初5年間、Bill & Melinda Gates Foundationからの助成金を受けて活動を本格化している。途上国における感染症撲滅のために、手頃な価格で、取り扱い易く、先進的な検査・診断方法を開発・導入する事を活動の目的としている。
FINDでは対象とする感染症として、結核、マラリア、アフリカ睡眠病などを上げているが、このうち結核について途上国で実施されている顕微鏡検査(塗沫検査)よりも精度を向上させることを目的として、LAMP法による結核検査の共同研究が同社とFINDによって2005年7月より開始された。
途上国の現場でも利用できるように、前処理工程の簡略化(PURE法)、試薬保存方法の改良(室温保存)、装置の簡略化など、PCR法では実現できない改良が加えられた(TB-LAMP)。LAMP法を利用したこの製品は2011年に日本で既に販売となっている。その後、WHO(World Health Organization、世界保健機関)の推奨獲得のために、途上国14ヵ国での評価試験を終了し、WHOに資料を提出していたが、2016年8月、顕微鏡検査に代わる、あるいは顕微鏡検査を補強する検査としてWHOらの推奨を取得することができた。

 

WHOが2017年11月に発表した世界の結核に関する報告書によれば、2016年の世界202カ国における結核の罹患患者数は1,040万人で、2014年の960万人から80万人増加し、死亡者数は170万人で、2014年の150万人から20万人増加したという。そのほとんどが未診断例や未治療例と見られ、「診断や治療へのアクセスが整備されていない国での対策強化が必要」としており、TB-LAMPの普及、浸透はこうした問題解決に大きく貢献するものと同社では考えている。
加えて、結核以外にも前述の疾病のほか、リーシュマニア症及びシャーガス病の検査薬に関して、FINDと共同開発を進めている。

 

また、同社ではLAMP法を利用した次世代の小型全自動遺伝子検査装置および多項目検査チップによる検査システム「Simprova(シンプローバ)」の開発を完了し、2020年4月から発売を開始した。
本装置は、検体前処理(核酸抽出・精製)から増幅・検出までを全自動で行え、従来の高純度な核酸抽出・精製を行う装置と増幅・検出装置で合わせて2時間以上を要していた操作時間を、LAMP法の特徴を活かした独自プロトコルの開発により、1時間以内に短縮することが可能。
まず、呼吸器感染症パネルの発売を開始、次いで抗酸菌症パネルの発売を予定し、順次検査項目を拡大する。
同社では、「Simprova(シンプローバ)」はLAMP法の普及を加速させるとともに、新たな市場を構築した中でグローバルスタンダードとしての地位を確立させるものと期待している。

 

*遺伝子増幅法
遺伝子検査では、検体に含まれる目的の遺伝子量が極めてわずかなため、遺伝子を検出するためにはまず目的とする遺伝子を増幅させなければならず、遺伝子検査において最も重要なポイントが遺伝子増幅となる。

 

*アフリカ睡眠病
熱帯アフリカの風土病で、トリパノソーマという原虫がヒトに感染して引き起こす重大な熱帯病。ツェツェバエが媒介する。ヒトの血液中のトリパノソーマがツェツェバエに吸血され、その体内で発育、増殖し2~5週で終末トリパノソーマ型となって次の感染源となる。高熱、頭痛、嘔吐などをきたし、ひたすら眠るようになる。食事が摂れなくなるので痩せ、全身衰弱となり、多くは合併症を引き起こして死亡する。

 

*リーシュマニア症
リーシュマニアという原虫の感染によって引き起こされ、黒熱病といわれる内臓リーシュマニア症、皮膚と粘膜をおかすブラジルリーシュマニア症、皮膚をおかす熱帯リーシュマニア症があり、いずれも吸血昆虫、とくにサシチョウバエが媒介する。内臓リーシュマニア症は約3か月の潜伏期の後、高熱、発汗や下痢が生じ、1か月ぐらいすると肝臓と脾臓が腫れ、貧血が進み、放置すると衰弱し、半年から2年で死亡することもある。

 

*シャーガス病
米国南部や中南米において哺乳類吸血性であるオオサシガメ亜科のサシガメを媒介とする感染症。すぐには発病せず、一般的に30年ほどの潜伏期間がある。リンパ節、肝臓、脾臓などの腫脹、筋肉痛、心筋炎、心肥大、脳脊髄炎、心臓障害といった症状をもたらす。

 

2.2020年3月期決算概要

(1)連結業績概要

 

19/3期

構成比

20/3期

構成比

前期比

期初予想比

修正予想比

売上高

35,761

100.0%

36,585

100.0%

+2.3%

+1.9%

-0.6%

 国内

29,691

83.0%

29,545

80.8%

-0.5%

+1.9%

 海外

6,070

17.0%

7,040

19.2%

+16.0%

+1.7%

売上総利益

15,692

43.9%

16,230

44.4%

+3.4%

販管費

11,080

31.0%

11,608

31.7%

+4.8%

営業利益

4,611

12.9%

4,622

12.6%

+0.2%

+28.4%

+6.3%

経常利益

4,681

13.1%

4,723

12.9%

+0.9%

+29.4%

+6.1%

当期純利益

3,447

9.6%

3,538

9.7%

+2.6%

+36.1%

+4.1%

*単位:百万円

 

増収・微増益。期初予想を上回る。
売上高は前期比2.3%増の365億円。国内は便潜血検査用及び尿検査用試薬が増加したものの微減収。海外は北米、欧州を中心に便潜血検査用試薬の売上が増加した。
営業利益は同0.2%増の46億円。販管費が増加したものの、増収により微増益。
2020年1月に、海外売上好調を主要因に通期予想を上方修正。配当予想も27円/株から30円/株に引き上げた。売上は期初予想を上回ったが、修正予想には若干の未達。

 

(2)製品別売上高

製品名

19/3期

20/3期

前期比

便潜血検査用試薬

10,016

10,352

+3.4%

免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)

9,972

9,917

-0.6%

尿検査用試薬

3,097

3,340

+7.8%

微生物検査用試薬

5,153

4,623

-10.3%

生化学検査用試薬

595

609

+2.4%

器具・食品環境関連培地

2,169

2,162

-0.3%

遺伝子(LAMP法)関連(機器含む)

1,315

1,331

+1.3%

医療機器関連(遺伝子関連機器を除く)

3,440

4,247

+23.4%

売上高合計

35,761

36,585

+2.3%

*単位:百万円

 

○便潜血検査用試薬
国内は前期比0.2%増。他社切替に注力したほか、引き続き大腸がん検診受診率アップのための啓発活動を進めた。一方、海外は同8.2%の増収。北米、アジア・オセアニアを中心に好調だった。米国ではACS(American Cancer Society)ガイドラインが改訂され、受診対象年齢が50歳から45歳に引き下げられたことをうけ、ケンタッキー州が便潜血検査対象年齢を引き下げた。今後のマーケット拡大が期待される。
カナダ、UKでは新規スクリーニングプログラムが開始された。
またフランスの大腸がん国家スクリーニング検査において継続採用(5年間)が決定した。
ただ、新型コロナウイルスの影響で検査実施には遅れが出ている。

 

 

19/3期

20/3期

前期比

国内

6,076

6,087

+0.2%

海外

3,940

4,265

+8.2%

合計

10,016

10,352

+3.4%

*単位:百万円

 

○免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)
AIA関連試薬(東ソー導入品)は、ヘモグロビンA1cの新規導入により売上を維持。
ラテックス製品ではLZ試薬(FER、MMP3等)が増収となった一方、EIA関連試薬は競争激化により減収。

 

○尿検査用試薬
国内は、医療施設への「US-3500」と尿沈査機器との組み合わせ提案により新規採用が拡大した。
海外では、シスメックス社向け尿試験紙の売上が寄与した。米国FDAへの申請を対応中である。

 

○微生物検査用試薬
迅速検査試薬は、イムノキャッチシリーズの肺炎球菌/レジオネラのコンボキットが新型コロナウイルスの否定検査としてニーズが高まり、売上増となった。
薬剤感受性検査用試薬は、MALDIバイオタイパーとの組み合わせ提案等により売上増加。
培地は、血液培養検査用製品(導入販売)の販売契約が終了したため減収となった。

 

○遺伝子(LAMP法)関連
国内では、マイコプラズマ、百日咳菌検出試薬キットの売上が堅調に推移した。
海外では、グローバルファンド申請を目的としてカメルーン、フィリピン事例の水平展開を行った。
特許料収入は前期比35百万円増加の556百万円。

 

(3)海外動向

 

19/3期

20/3期

前期比

海外売上高

6,070

7,040

+16.0%

 北米

1,447

1,592

+10.0%

 欧州

2,134

2,002

-6.2%

 アジア・他

2,489

3,445

+38.4%

うち、OC

3,940

4,265

+8.2%

   その他

2,130

2,775

+30.3%

*単位:百万円

 

北米:米国のLabCorp、Kaiserなど大口顧客およびカナダの便潜血検査用試薬の売上が増加した。
欧州:ドイツ・スペイン・UK等の便潜血検査用試薬の売上が増加した一方、フランスではプログラムが一時中断したほか、イタリアは売上が減少した。
アジア・オセアニア・その他:シスメックス向けの尿検査用試薬・装置の売上が大幅に増加した。オセアニア、韓国等の便潜血検査用試薬の売上も増加した。

 

 

(4)設備投資・研究開発・減価償却

 

18/3期

19/3期

20/3期

20/3期

期初予想

研究開発費

3,238

2,904

3,332

3,440

設備投資

1,102

1,685

2,985

3,330

減価償却費

1,660

1,594

1,629

1,880

*単位:百万円

 

研究開発費はほぼ計画通り。設備投資は野木工場向け投資が若干来期にずれ込んだ。

 

(5)財務状態とキャッシュ・フロー

◎主要BS

 

19年3月末

20年3月末

 

19年3月末

20年3月末

流動資産

25,852

28,903

流動負債

10,981

11,740

 現預金

7,554

10,098

 買入債務

6,580

7,324

 売上債権

11,959

11,017

 未払法人税等

770

702

 たな卸資産

5,825

7,173

固定負債

1,284

1,278

固定資産

21,427

21,418

負債合計

12,265

13,018

 有形固定資産

11,095

12,041

純資産

35,014

37,303

 無形固定資産

744

1,019

 株主資本

34,537

36,969

 投資その他の資産

9,587

8,357

負債純資産合計

47,279

50,322

資産合計

47,279

50,322

自己資本比率

73.5%

73.5%

*単位:百万円。買入債務には電子記録債務を含む。

 

現預金の増加などで資産合計は同30億43百万円増加の503億22百万円。
買入債務の増加等で、負債合計は同7億53百万円増加の130億18百万円。
純資産は利益剰余金増などで同22億89百万円増加の373億3百万円。
この結果、自己資本比率は前期末と同じく73.5%となった。

 

◎キャッシュ・フロー

 

19年3月期

20年3月期

増減

営業CF

3,318

5,460

+2,142

投資CF

-4,435

-3,711

+724

フリーCF

-1,117

1,749

+2,866

財務CF

-1,083

-1,220

-137

現金及び現金同等物

4,448

4,981

+533

*単位:百万円

 

税金等調整前当期純利益の増加などで営業CFのプラス幅は拡大,フリーCFはプラスに転じた。
キャッシュポジションは上昇した。

 

(6)トピックス

◎新型コロナウイルス検出用試薬の早期開発・発売
検体より抽出したRNA から35 分で新型コロナウイルスを検出する新型コロナウイルス検出用試薬を開発、3月18日に発売。さらに、厚労省より製造販売承認を取得し、体外診断用医薬品「Loopamp新型コロナウイルス2019(SARS-CoV-2) 検出試薬キット」を4月10日に発売した。RNA抽出は既存試薬を用いて10分で可能である。
4月末までに全国の病院、検疫所、地方衛生研究所、保健所、民間検査会社等へ約8万キットを出荷した。
5月以降は20万キットまで供給を拡大する。

 

3.2021年3月期業績予想

(1)連結業績予想

事業環境については新型コロナウイルス感染症の影響により厳しい状況を見込んでいる。
臨床検査薬事業も大きな影響を受ける可能性があるが、同感染症収束時期を現時点で見通すことは難しく、業績への影響を合理的に算定することは困難であり、2021年3月期業績予想は現時点では未定としている。

 

(2)重点施策

新「中期経営計画」(2020年3月期~2022年3月期)に掲げる4つの重点施策について、継続的に取り組んでいく。

重点施策

概要

(1)経営効率を高めるための基盤整備 ○基幹システム統合

生産システム導入フェーズに移行し、2022年3月期の導入を予定している。

 

○組織機能・構造改革

ROADMAP2019目標達成のための人事制度・組織改革案の作成、健康経営の推進に取り組む。

 

○生産及び流通拠点の強化と整理統合

新研究棟構想の詳細プラン作成を進める。

(2)グローバル展開の推進 ○大腸がんスクリーニング検査の普及

米国ではACSガイドライン変更(対象年齢引き下げ)を受けた新規受診者獲得に取り組む。

欧州では既存採用国の受診率向上のほか、国家スクリーニング獲得に向けた取り組みを継続する。

中東、ロシア、東欧、南米など新規市場獲得を図る。

 

○胃がんリスク層別化検査(ABC分類)の普及拡大に向けたフィールドスタディを実施する。

 

○尿定性検査分野での販売拡大

シスメックス社との協業を推進する。

 

○結核及びマラリア検査等の展開加速

TB-LAMPにおいてWHO推奨価格($6)の実現のほか、グローバルファンド申請を促進する。

(3)国内販売の維持とシェアアップ 〇新型コロナウイルス検出試薬の供給体制整備を通じた医療への貢献

2020年5~6月は約20万テスト/月を供給する予定である。

 

○自社製品群のラインアップ拡大

大腸がん検診普及活動による市場拡大を図る。

腎臓病早期スクリーニングや学童検診市場の構築を図る。

胃がんリスク層別化検査(ABC分類)を普及推進する。

 

○Simprova上市後の市場展開(呼吸器感染症パネル販売促進、抗酸菌パネル上市等)

(4)研究開発力の強化 ○Simprovaの新規パネルの開発推進

項目数増加は必須課題と認識しており、(呼吸器ウイルスパネル、輸入感染症パネル)

 

○オープンイノベーションによる新規バイオマーカーの開発

新規バイオマーカー(がん、心血管疾患等)や新技術の探索に注力する。

 

○プライマリケア領域などを対象とした新たなPOCTプラットフォームの開発

 

4.今後の注目点

新型コロナウイルスの影響は、検査キット供給増と国内外での便潜血検査を中心とした検査件数の大幅な減少というプラス・マイナス両面があり、検査件数減は今後の減少程度および回復時期を現時点では予想することは困難なことが、今期業績予想を未定としている主要因である。
一方で「アフター・コロナ」においては、開発が完了した「Simprova」によって感染症を中心としたこれまでにない「検査プラットフォーム」を構築し、パラダイムシフトを起こすことが期待され、グローバル展開を一段と加速させる契機となるかもしれない。大いに注目したい。

 

<参考1:EIKEN ROAD MAP 2019と新・中期経営計画>

(1)EIKEN ROAD MAP2019

10年単位でありたい姿を掲げ、その実現に向け基本戦略を構築・推進していく同社は、持続的成長を継続し、事業のスピードアップと拡大を図るために、今期をスタートとする「EIKEN ROAD MAP 2019」を新たに策定した。
「EIKEN ROAD MAP 2019」におけるグランドビジョンは、創立90周年にあたる2029年3月期に「Saving Your Health: 世界的な臨床検査薬企業として、人々の健康を守り続ける」というもの。

 

ビジョン実現に向け以下3つの基本戦略を挙げている。

基本戦略

概要

(1)基本戦略1:成長と利益性の向上 ①グローバル展開の推進

②国内販売の維持・シェアアップ

③利益性の向上

(2)基本戦略2:新たなビジネスの創出 ①オープンイノベーションによる戦略的提携

②新規事業、新規市場の創出と進出

(3)基本戦略3:基盤整備 ①IoT、AIによる生産性の向上

②人財の育成・確保と機構改革

③販売網整備とマーケティングの強化

 

「EIKEN ROAD MAP 2019」では、10年間を3つのステージに分け、各ステージにおける実現すべきテーマを設定している。

期間

テーマ

2020年3月期~2022年3月期 構造改革期:しっかりと基盤を鍛える
2023年3月期~2025年3月期 ブランド価値向上期:骨太な体制からグローバルに通用するブランド価値を育成
2026年3月期~2029年3月期 持続的成長期:創造された新たな価値をベースに着実な成長

 

(2)新「中期経営計画」(2020年3月期~2022年3月期)

「EIKEN ROAD MAP 2019」の第1ステージとなる中期経営計画を策定した。
構造改革期と位置づけ、グローバル企業「EIKEN」の実現に向けた社内体制の整備を行い、ヘルスケアを通じて世界に貢献するとともに持続的な成長と着実な収益性の向上を目指す。

 

①重点施策
「構造改革期:しっかりと基盤を鍛える」として4つの重点施策を掲げている。

重点施策

概要

(1)経営効率を高めるための基盤整備 *基幹システムの統合、品質システムのIT化及び営業サービス部門のIT化による付加価値の高いサービスの提供。全社IT化を進める。

*グローバル展開を促進するためのシンプルかつフラットな組織機能・構造の改革。

*生産及び流通拠点の強化と整理統合による効率化のアップ。野木事業所の拡張を計画している。

(2)グローバル展開の推進 *大腸がんスクリーニング検査の普及促進と国家スクリーニングの獲得、新興国市場の開拓

*免疫血清学的検査用試薬、特に、胃がんリスク層別化検査(ABC分類)の普及拡大

*シスメックス株式会社との販売提携による尿定性検査分野での販売拡大

*LAMP法を用いた結核菌群検査及びマラリア検査等の展開加速。アフリカ・アジアを中心にカメルーン・フィリピンモデルの水平展開を推進する。

(3)国内販売の維持とシェアアップ *自社製品群のラインアップ拡大による着実な成長。腎臓病早期スクリーニングや学童検診市場の構築に注力する。

*大腸がん、ABC分類(胃の健康度評価)の普及拡大と消化器がんスクリーニングブランドの確立

*小型全自動遺伝子検査システム(Simprova)の販売展開

(4)研究開発力の強化 *小型全自動遺伝子検査システム(Simprova)の新規パネルの開発推進

*オープンイノベーションによる新規バイオマーカーの開発

*プライマリケア領域などを対象とした新たなPOCTプラットフォームの開発

 

②研究開発・設備投資
中計策定時には公表していたが、今般の環境下、現時点では未定としている。

 

基本的な考え方としては、強固な基盤構築に向け積極的な投資を実行する。

 

研究開発においては、「コア技術のブラッシュアップと新技術への進化」、「新規試薬・技術、及び抗体生産技術開発推進」、「Simprovaにおける多項目チップのラインアップの充実」、「便潜血検査用測定装置後継機の開発」を主要テーマとしている。

 

設備投資においては、「基幹システムの統合:品質および営業サービス部門のIT化」、「新生産システム」、「野木事業所の隣接エリアを含めた再構築」、「Simprovaの生産体制」に注力する。

 

③業績目標
中計策定時には公表していたが、今般の環境下、現時点では未定としている。

 

④株主還元
引続き配当性向30%以上の安定した配当を目標とする。

 

 

<参考2:コーポレートガバナンスについて>

◎組織形態、取締役、監査役の構成

組織形態 指名委員会等設置会社
取締役 9名、うち社外6名
指名委員会 3名、うち社外2名
報酬委員会 3名、うち社外2名
監査委員会 3名、うち社外3名

 

◎コーポレートガバナンス報告書
最終更新日:2019年6月26日

 

<基本的な考え方>
当社のコーポレートガバナンスの考え方は、経営理念、経営ビジョン、モットーを基本としております。
*経営理念
ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。
*経営ビジョン
EIKENグループは、人々の健康を守るため、検査のパイオニアとしてお客様に信頼される製品・サービスを提供し、企業価値の向上を図ります。

 

*モットー
品質で信頼され、技術で発展する“EIKEN”

 

当社は、経営の健全化、迅速化及び透明性を高め、企業価値の向上を図るためにも、株主の視点を重視したコーポレートガバナンスの充実を経営の重要課題の一つと認識し、その取り組みを行っております。
当社は、指名委員会等設置会社の体制を採用しており、経営の業務執行機能と監督機能を分離しております。経営の基本方針に係わる重要事項については、取締役会の審議を経て決定し、業務執行については、社内規則・規程に基づき、適正な指示命令系統のもと迅速かつ円滑に行っております。

 

<実施しない主な原則とその理由>
「当社はコーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しております。」。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示>

原則

開示内容

【原則1-3 資本政策の基本的な方針】 当社は、株主価値の維持向上を実現するために、資本効率の向上と持続的かつ安定的な株主還元を資本政策の基本方針としております。具体的な指標として、新中期経営計画の最終年度である2022年3月期に自己資本当期純利益率(ROE)10%を目指します。また、株主還元につきましては、財務体質の強化と積極的な事業展開に必要な内部留保の充実を勘案した上で、連結配当性向30%以上の配当の継続を目標としております。

なお、支配権の変動や大規模な希薄化をもたらす資本政策(増資、MBO等を含む)を行う際には、取締役会において、その必要性と合理性について十分検討し、適正な手続きを確保いたします。また、株主・投資家への十分な説明に努めてまいります。

【原則1-4政策保有株式】 1.上場株式の政策保有に関する方針

当社は、営業活動の円滑な推進、取引関係維持、業務及び資本提携のため、合理性があると認める場合に限り、取引先の株式を保有し、これら政策保有株式について、当社事業の発展に資すると判断する限り保有を継続することを基本方針としております。保有意義の検証については、毎年取締役会において当社の資本コストを踏まえ、リターン(配当や取引状況等の定量要素に加え、経営戦略上の重要性や事業上の関係等を総合的に判断)とリスクが見合っているかどうかについて議論しております。保有する意義が乏しいと判断される銘柄については、株価動向等を勘案した上で売却を進めることとしております。上場株式について、2018年度においては、2018年4月27日の取締役会において検討を実施した結果、1銘柄の売却、10銘柄の保有を継続するという方針を決定しております。

2.政策保有株式に係る議決権行使基準

当社は、政策保有株式の議決権について、当該企業のコーポレート・ガバナンスの整備状況、株主価値の向上に資する議案であるか、当社に与える影響等を総合的に判断して行使しております。

【補充原則4-11-3 取締役会の実効性の評価と結果の開示】 当社は、2018年度における取締役会の実効性に関する分析・評価を行いましたので、その結果の概要を開示いたします。

1.実施の目的

取締役会が適切に機能し、実効的に運営されていることを客観的に確認するとともに、指摘された課題については必要に応じて改善を図る。

2.実施対象及び実施方法

全取締役に対して、記名式・自由記述式のアンケートを実施

3.アンケート項目

(1) 取締役会の構成(2) 取締役会の運営(3) 取締役会の監視・監督状況等

4.分析・評価の結果概要

以下の点に鑑み、取締役会は適切に機能し、実効性が十分に確保できている。

(1) 現在の取締役会の社内・社外取締役の構成比は適切であり、経験・知見のバランスがとれている。

(2) 社外取締役を含めて取締役全員が積極的に各々の視点で意見を述べており、活発かつ円滑な議論が行われている。

一方で、指摘された課題に対しては、以下のとおり取り組んでおります。

(1) 前年度アンケート結果を受け、取締役会に企業経営経験者1名、女性弁護士1名を新たに加え、社内取締役だけでは得られない知識・経験の多様性を確保し、取締役会の機能強化を図っております。

(2) 議論の実効性を高めるため、引き続き重要事項の進捗状況を定期的に報告し、よりポイントを絞った資料作成・説明を行うなど、取締役会運営の更なる改善に努める。

【原則5-1 株主との建設的な対話に関する方針】 当社は、取締役会で承認されたIRポリシーを制定し、基本方針、開示情報、情報開示方法、沈黙期間等を開示しており、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう、合理的な範囲で株主からの対話に対応しております。

当社は、広報課をIR担当部署とし、広報課を管掌する経営管理統括部長をIR担当執行役としたIR体制を整備し、株主・投資家との対話の場を設けており、理解と信頼を得るよう努めております。経営管理統括部長は経営企画部、経理部、人事総務部等のIRに関連する部署も同時に管掌しており、情報共有を密にすることで部署間の連携を図っております。

株主との対話といたしましては、決算短信及び第2四半期決算短信発表時の年2回、アナリスト・機関投資家向けに決算説明会を開催し、代表執行役社長による説明及び対話を行っております。また、株主・投資家との個別面談に関しては、広報課が対応しております。株主・投資家からの要望や、保有株数によっては、合理的な範囲で経営陣幹部が面談に対応しております。対話によって把握されました株主・投資家の意見等は、必要に応じてIR担当執行役から取締役会へ報告されます。

なお、当社は、IRポリシーに基づき、株主・投資家との対話を行っており、インサイダー情報が含まれないように十分留意することはもちろん、所定の法令等を踏まえて社内規程を制定し、それに基づき適正に管理しております。

 

 

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