米国経済と株式市場の見通し(2017年8月)景気や企業業績は好調、株価も徐々に堅調な展開へ
米国経済と株式市場の見通し(2017年8月)
【ポイント1】不透明感が高まり株価下落
いずれ堅調な業績に焦点が当たろう
■米国の株式市場は、8月上旬まで底堅い景気や、好調な企業業績を背景に、堅調な相場展開でした。ところが、8月中旬から核・ミサイル開発を巡る米国と北朝鮮との間の緊張の高まりや、トランプ米政権における人事の混乱、政策進展の不透明感等から調整含みの展開となっています。
■米国では、市場参加者の投資態度を表すといわれるS&P500種指数オプションを基に算出されるVIX指数が7月21日に付けた年初来の最低値9.36%から8月10日の16.04%へ上昇し、昨年11月の米大統領選挙以来となる予想変動率の高さとなりました。8月の米国株式市場は、概ね1%強の下落となりました(8月の株価騰落率24日まで)。
■北朝鮮では8月25日の先軍節、9月9日の建国記念日と重要な行事が控えているため、当面地政学リスクが意識されそうです。また米国の政府債務上限、新年度予算の決着には時間を要すると見られ、政治状況の混迷はまだ続くと見られます。
■もっとも、米景気は拡大基調を維持しており、いずれ堅調な企業業績に焦点が当たる可能性は高いと考えられます。以下、米株式市場を取り巻く環境をチェックしていきます。
【ポイント2】緩やかな利上げ継続へ
景気は堅調、物価は低い水準で安定
(1)経済動向と企業業績
■米国の景気は、安定した雇用・消費の増加を支えに、順調に拡大しています。アトランタ地区連邦準備銀行が8月16日までに公表された景気指標をもとに推計した17年7~9月期の実質GDP成長率は、前期比年率+3.8%でした。
■企業収益も堅調に推移しています。トムソン・ロイターによれば、17年4-6月期の企業利益は前年同期比+12.1%と好調です。続く7-9月期は同+6.5%へ鈍化すると見られていますが、10-12月期は同+12.2%と再び二桁台の伸びが予想されています。年間でも、情報技術や金融セクターを牽引役に同+11.5%程度の増益が見込まれています(業績予想は8月24日時点のもの)。
(2)物価と金融政策
■物価は引き続き落ち着いています。米連邦準備制度理事会(FRB)が、金融政策を決定する際に重視している個人消費コアデフレーターの17年6月は前年同月比+1.5% と、FRBの目標である+2%を依然として下回っています。
■労働市場はほぼ完全雇用の状態に到達したと見られますが、賃金上昇率の加速も見られません。
■労働市場が完全雇用の状態に達したと見られること等から、FRBは金融緩和の解除、すなわち政策金利の引き上げと、FRBバランスシートの縮小(FRBが保有している債券等の資産売却)を進める見通しです。
■もっとも、物価上昇率が目標値を下回っているため、金融緩和解除の速度は緩やかと考えられます。
【今後の展開】焦点は政治の停滞から業績に移り、株価は堅調な展開へ
■トランプ政権は、発足以来ゴタゴタが続いています。8月18日にはバノン上級顧問が辞任しました。ホワイトハウス高官との関係も良くなかったと伝えられていることを踏まえると、同氏の辞任は政権にとって必ずしもマイナスとはいえません。しかし、問題はこれにとどまらず、メキシコ国境線上の壁の予算化等を巡って議会との関係も悪化しています。
■当面の焦点は、18年度(17年10月~18年9月)予算と考えられます。トランプ大統領が国境の壁予算にこだわるようであれば、大統領選挙中に公約として掲げていた大型公共投資の実施は先送りされる可能性があります。
■株価は足元では、こうしたトランプ大統領を巡る政治的な不透明感という悪材料と、良好な景気・企業収益という好材料との綱引きが続くと見られます。但し、来年に中間選挙を控えていることを踏まえると、税制改革や公共投資といった政策は徐々に実現していくと考えられます。株式市場の焦点も政治から業績に移り、株価は堅調な展開に戻ると見られます。
(2017年 8月25日)
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