統合レポートから何を学ぶか~オムロンのケース

2016/09/13 <>

・オムロンの2016年版統合レポートが8月に出されたので、早速読んでみた。今回は、企業価値の評価という視点ではなく、日ごろ十分に馴染んでいないことを学ぶ、という観点で目を通してみた。

・「学ぶ」という立場で熟読すると、統合レポートは実によくできた“事例に基づく価値創造の教科書”であると、改めて感心した。その中からいくつかを取り上げてみる。

・第1は、価値創造のストーリーをどのように展開するのか。まず何よりも、大切にしている企業理念に基づいて、世に先がけて商品・サービスを生み出し、社会的課題の解決に貢献する。この貢献を通して、企業価値を持続的に向上させていく。それをわが社の言葉で語ることである。

・第2は、経営の重要課題をどのように決めていくのか。10年間の長期ビジョンの実施に向けて、①成長力、②収益力、③変化対応力の3つの軸から、取締役会での議論を経て重要課題を決定する。その時、株主・投資家をはじめとするステークホールダーとの対話に基づく意見も、取締役会にフィードバックして織り込んでいく。

・第3は、プロダクトのポートフォリオ・マネジメントである。1)売上高成長率(%)×ROIC(%)で経済的価値評価を行い、次いで、2)市場成長率(%)×市場シェア(%)で市場価値評価を行う。大事な指標はROICである。自社で新しい事業を生み出したり、必要な分野のM&Aを手掛けたりする一方で、撤退させる事業も同じプロセスからきちんと決めていく。

・第4は、社会的課題の抽出である。オムロンでは人材不足や生活習慣病の増加などを社会的課題ととらえ、それに対して、「センシング&コントロール+Think」に基づく独自技術開発を活かし、商品・サービスを生み出し、新たな価値を提供していく。

・このことによって、オムロンは、人的資本、知的資本、製造資本、財務資本を継続的に蓄積していく。これがビジネスモデルの骨格である。

・第5は、これからどんな世の中になるのか。創業者の立石一真が開発した未来を予測する独自のモデル、「SINIC理論(Seed種、Innovation革新、Need必要性、Impetus刺激、Cyclic Evolution円環的発展)」をベースに、ソーシャルニーズの創造を目指す。

・おもしろいのは、技術発展の流れを、自動制御→電子制御→生体制御(現在~)→精神生体技術(2025年~)→超心理技術(2033年~)と位置付けている点にある。IoTやAIの先をにらんでいるともいえよう。

・第6は、サステナビリティ・マネジメントである。国連の「持続可能な開発目標」(SDGs : Sustainable Development Goals)の達成に向けて、事業を通して積極的に貢献していく。

・2030年に向けてのSDGsの17の目標とは、①貧困をなくそう、②飢餓をゼロに、③すべての人に健康と福祉を、④質の高い教育をみんなに、⑤ジェンダー平等を実現しよう。⑥安全な水とトイレを世界中へ、⑦エネルギーをみんなにそしてクリーンに、⑧働きがいも経済成長も、⑨産業と技術革新の基盤をつくろう。

・⑩人や国の不平等をなくそう、⑪住み続けられるまちづくりを、⑫つくる責任つかう責任、 ⑬気候変動に具体的な対策を、⑭海の豊かさを守ろう、⑮陸の豊かさも守ろう、⑯平和と公正をすべての人に、⑰パートナーシップで目標を達成しよう、である。

・第7は、コーボレートガバナンスにおける取締役会の実効性の評価をどのように行うか。これについては、独立社外取締役を委員長として、独立社外取締役と独立社外監査役で構成するコーポレート・ガバナンス委員会が主体となる。

・1)すべての取締役、監査役による自己評価(無記名方式の調査票の利用)、2)自己評価内容の分析、課題の整理、3)評価結果の取締役会への報告、4)取締役会で実効性向上の施策を議論、5)翌年の取締役会の運営方針に反映、というプロセスを実践している。

・これらの7点が、とりわけ印象に残った。自らの関心事によって、統合レポートから何を学ぶかは変わってこよう。学んだ上で、統合レポートを投資家視点でみた時、その会社の企業価値創造を十分知り得て、腹に入ったか。まだよく分からないとすれば、何かが足らないのか。それらの疑問点を、ぜひ会社に聞いてみる必要があろう。

・さらに、会社として不十分な点があるとすれば、それは対話を通して大いに改善を求めていけばよい。統合レポートをおもしろく読むには、このような学びから入るのも1つの方法であろう。まずはオムロンを読んでほしいと思う。

 

 

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