介護ヘルスケア~どこに住むか、どこで看取られるか

2015/10/06 <>

・誰でもいつかは介護を受けるようになろう。その前に、自分の親や親族の介護で一定の役割を果たす必要がある。順送りの巡り合わせといえよう。介護制度が充実してきたとはいえ、自らの現場にあってその負担は重い。人生の下り坂を人に迷惑をかけずに過ごしたいと思いつつ、互いに支え合う仕組みの充実も一層求められる。

・敬老の日、田舎に住む95歳の母を訪ねた。特養(特別養護老人ホーム)に入っている。要介護3のレベルながら、至って元気である。会話をすれば、息子であるとわかってくれるが、すぐに忘れてしまう。月額の費用は本人がもらう年金でほぼ賄える。これも国のおかげである。福島県猪苗代にある特養の施設は広く充実しており、お世話を担当する人々にも恵まれている。

・9月に、ベネッセホールディングスで有料老人ホーム事業を展開するベネッセスタイルケアの滝山真也社長の話を聴いた。滝山社長は現在44歳、20年間この仕事をしている。介護制度の実態について認識を深めたが、印象に残った点をいくつか取り上げてみたい。

・介護保険は2000年にスタートした。これによって利用者はサービス内容や事業者を選べるようになった。一方で、民間営利法人も参入できるようになった。現在、介護サービスの6割以上が民間企業によって運営されている。その次が社会福祉法人で、2割強を占める。

・介護保険料は、40歳以上の人が支払っている。65歳以上は年金から天引きされ、40~64歳の人は医療保険と一括して徴収されている。介護保険を利用したい時は、要介護認定(市町村の認定調査、医師の意見書)を受け、ケアマネジャーが作成したケアプランに従う。7段階(軽いほうから要支援1~2、要介護1~5)の認定に応じてサービスを受ける。本人の自己負担は1割で済む。但し限度額があり、これを超えると全額自己負担となる。財源は、保険料が半分(現在40~64歳が29%、65歳以上が21%を負担)、税金(国、県、市町村)が半分を担う。

・問題は、この財政負担がどんどん増えることである。介護保険の税費用は2000年度3.6兆円であったが、2014年度10.0兆円となり、このペースでいくと2025年度には21兆円になりそうである。65歳以上の人が払う保険料もスタート時は月2900円であったが、現在は5500円、これが10年後は8100円に増えることになる。

・介護保険料を支払う人は、いずれ自分もお世話になるとしても、保険料がどんどん上がっていくのはたまらない。介護サービスを受ける人は少しでもよいサービスを受けたい。家族や周りの人も自己の経済的・労力的負担が減ることを望む。国は財政がもたないので、できるだけ切り詰めようとする。問題は確実に大きくなっていく。

・民間企業は介護サービスをビジネスチャンスと捉えるが、介護サービスの付加価値をどのように高めていくのか。時に不正も発生しているので、フェアな競争環境が必須である。介護サービスで働く人々の報酬は全般的に低い。ひいては働き手が不足している。しかし、他の仕事と同等の賃金を実現するには介護サービスの生産性を上げることが求められる。しかし、人へのサービスはそう簡単に効率が上がるものではない。ここに、どうイノベーションを起こすかが問われている。

・民間企業に比べて社会福祉法人は税制(非課税)、施設整備への補助(国が半分を負担)、職員への給付等で優遇を受けている。民間企業ではできない介護サービスを担っているという側面もあるが、その組織体制のガバナンスや財務状況の情報開示については、今後の改革が必要であろう。

・介護の人手不足は著しい。正社員の処遇は全国平均で月20.4万円、パートの時給は1200円弱である。全国の正社員の有効求人倍率は2倍、東京23区のパートの倍率は10倍である。つまり、パートでは人がほとんど集まらない状況にある。介護職員数は2013年度171万人であったが、2025年度には253万人が必要で、このままでは38万人ほど不足するという試算(厚生労働省)もある。外国人介護士の導入も容易ではない。ここにも仕組み革新が求められよう。

・介護サービスの住居には、①特養(9000カ所、54万人)、②グループホーム(認知症対応、1.25万カ所、18万人)、③ケアハウス(軽費老人ホーム、500カ所)、④有料老人ホーム(3500カ所)、⑤サ高住(サービス付高齢者住宅、250カ所)がある。③、④、⑤は特定施設入居者生活介護で、その他に居住介護支援(ケアプラン)、訪問介護(ホームヘルパー)、通所介護(デイサービス)等がある。

・これらの施設が不足している。高齢者はますます増える。既に生まれる子供数より亡くなる高齢者の方が多く、人口減少社会となっている。これからは「多死社会」となる。厚労省の統計では、2030年の年間死亡者は165万人に達するとみられる。その内訳(死亡場所)は、医療機関89万人、介護施設9万人、自宅20万人、その他47万人となっている。この47万人はまだ死亡場所が推計できない人である。つまり、死に場所が不足している、と滝山社長は指摘する。

・死亡前1年間の医療費は急増する。病院に比べて、在宅で死亡する場合の医療・介護費は少ない。さまざまな理由や要因はあろうが、医療機関以外での看取りができるような整備が必要であるという見方には賛同できる。苦しいだけの高額延命治療を受けたくないという人も今後増えてこよう。自分らしい最後をどのように迎えるかは、それぞれの覚悟として自ら定める必要がある。

・財政的な負担増からみると、補助を必要とするような介護施設を作るよりも、在宅で済むようにしたいという政策が働くことになろう。しかし、在宅介護にも課題がある。介護と仕事の両立が難しいことである。介護のために職を離れる人も増えている。年間10万人が介護離職している。老老介護の問題もある。介護のストレスや悩みを緩和する仕組みも必要となっている。

・2011年度の改正以来、サ高住が増えている。特養やグループホームよりは手軽にサービスを提供できると考えた。しかし、サ高住では看取りができない。介護付有料老人ホームは看取りにも力を入れている。死亡を理由にした退去者のうち、50%がホーム内での逝去であり、3年前と比較して14%増加しているというデータもある。しかし、介護付有料老人ホーム(特定施設)は介護給付費が自宅暮らしの住民に比べ高いため、各自治体は建設  総量を規制する方向にある。

・主要業態別に提供企業のトップ3をみると、1)有料老人ホームで、ベネッセスタイルケア、ベストライフ、メッセージ、2)グループホームでニチイグループ、メディカル・ケア・サービス、ユニマット、3)サ高住で、メッセージ、学研、ヴァティーである。

・ベネッセは、現在280の介護付き有料老人ホームを有する。1.36万人が入居しており、そのうち2014年で3000人が退居した。平均年齢は85歳で、その7割が死亡であった。死亡した2000人のうち、半分の1000人をホーム内で看取っている。業界のデータとほぼ一致する。ホームへの平均入居期間は5年であった。ベネッセには、この4月に新卒420名が入社した。新卒を採って、人材を育成している。企業としての発展と人材育成が若い人材を引き付けているものとみられる。

・介護ヘルスケアの潜在ニーズは大きい。マーケットの拡大は公的費用の増大をも意味するので、費用は抑制しつつサービスの量的・質的増強を図るということになろう。民間がいいとこ取りするだけでは済まない。かといって、従来の規制に守られてサービスするだけでは、需要増に全く対応できない。規制改革と民間企業のイノベーションに期待したい。個人的には、ベネッセスタイルケアなら将来入居したいという実感をもった。

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