黒田総裁発言とドル円相場

市川レポート(No.89) 黒田総裁発言とドル円相場

  • 黒田総裁発言で一時1ドル=122円台半ば付近までドル安・円高が進行。
  • 日銀総裁自身の発言はサプライズ、政府がG7に配慮を示したとの見方も。
  • ドル円はいったんスピード調整、125円台乗せの新たな材料を模索する展開か。

 

黒田総裁発言で一時1ドル=122円台半ば付近までドル安・円高が進行

 日銀の黒田総裁は6月10日午後の衆議院財務金融委員会において、「実質実効為替レートではかなりの円安の水準になっている」との見方を示し、「ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れるということはなかなかありそうにない」と述べました。外国為替市場ではこの発言を受けて円買いが膨らみ、1ドル=124円台半ばで推移していたドル円相場は1ドル=122円台半ば付近までドル安・円高が進行しました(日本時間14時54分時点)。

 6月に入り各方面から為替相場に関する発言が相次ぎました。日銀の原田審議委員は6月4日、「過度の円高の修正はかなりいいところまできた」、「米国が実際に利上げをしても、必ずしもさらに円安になることはないのではないか」との見解を示しました。またコロンビア大学大学院の伊藤隆俊教授は6月5日、「ドル円が125円を超えてどんどん進行していくとは考えにくい」、「来年以降はさらなる円安進行はあまりないかも知れない」と述べました。国際協力銀行(JBIC)の渡辺博史総裁(元財務官)は6月9日、為替相場について「米国の金融政策の変更を織り込んでおり、130円台まではいかない」と発言しています。 

日銀総裁自身の発言はサプライズ、政府がG7に配慮を示したとの見方も

 日本において通貨を管轄するのは財務省ですが、連日一様にドル高・円安けん制とも受け取れる発言が続いたため、多くの市場参加者の意識がドル円相場の水準に向いていた可能性があります。そのようなタイミングで日銀総裁自身が、実質実効為替レートについてではあるものの、「円安に振れるということはなかなかありそうにない」と発言したことは、為替市場に驚きをもって受け止められたと思われます。また先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が6月8日に採択した首脳宣言に、既存のG7の為替相場の合意(為替相場の過度の変動や無秩序な動きは経済や金融の安定に悪影響を与える)を再確認する事項が盛り込まれたため、日本政府が早々に配慮を示したのではないかとの見方も浮上しています。

ドル円はいったんスピード調整、125円台乗せの新たな材料を模索する展開か

 なお黒田総裁が触れた実質実効為替レートとは、貿易相手国通貨と日本円との2通貨間為替レートを貿易額等で計った相対的な重要度でウエイト付けし、物価調整をして算出したもので、日本円の相対的な通貨の実力を測るための総合的な指標です(図表1)。日頃ニュースや新聞で目にする数字、つまり本レポートでも記述している1ドル=124円という数字は名目為替レートですので(図表2)、厳密に言えば黒田総裁は名目為替レートが円安に振れそうにないと述べた訳ではありません。しかしながら黒田総裁発言はドル円相場の上昇スピードを調整するには十分効果があったように思われます。ドル円はいったん1ドル=120円~125円のレンジに戻っての推移となり、125円台乗せの新たな材料を模索する展開が予想されます。

 150610 図表1150610 図表2

 (2015年6月10日)

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