米ドルと原油の動向が関連市場に与える影響
市川レポート(No.83) 米ドルと原油の動向が関連市場に与える影響
- 3月FOMC後の「米ドル安・原油高」を受け、産油国通貨、MLP、米国株は上昇。
- 5月のイエレン議長発言で「米ドル高・原油安」に転じ、産油国通貨などの重しに。
- ただ長い目でみれば、産油国通貨、MLP、米国株について悲観する必要はない。
3月FOMC後の「米ドル安・原油高」を受け、産油国通貨、MLP、米国株は上昇
米ドルの総合的な価値を表す米ドル指数と、原油価格の代表的な指標であるWTI原油先物価格の動きをみると、昨年半ば以降3月中旬まで、「米ドル高・原油安」の推移が続きました。背景には米国の利上げ観測とそれに伴う過剰流動性の縮小懸念があったと推測されます。その後、3月18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明がハト派的な内容だったことから、利上げ観測が後退して過剰流動性の継続期待が強まると、相場は「米ドル安・原油高」に転じました。
米ドルと原油の相場転換を受け、関連市場にも顕著な変化がみられました。産油国通貨は対米ドルで下落から上昇に転じ、資源関連事業の多いMLP(Master Limited Partnership、米国で行われる共同事業形態のひとつ)も同様に下落から上昇に転じています。また米企業の業績悪化要因である「米ドル高・原油安」が修正されたことを受け、ダウ工業株30種平均とS&P500種株価種数は5月下旬にそろって最高値を更新しました。このように緩やかなペースでの「米ドル安・原油高」の進行は、産油国通貨、MLP、米国株にとって好材料と考えられます。
5月のイエレン議長発言で「米ドル高・原油安」に転じ、産油国通貨などの重しに
しかしながらその後、米ドル相場と原油相場の動きに再び変化がみられました。米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長が5月22日の講演において年内利上げの可能性を示唆したことから、米ドルと原油は再び「米ドル高・原油安」の動きに転じました。年初からの米ドル、原油、関連資産の動きをまとめると図表1の通りになります。やはり足元の「米ドル高・原油安」は、産油国通貨、MLP、米国株にとって重しとなっているように見受けられます。これまでの流れを踏まえると、産油国通貨、MLP、米国株の今後を展望するにあたっては、これらに大きな影響を及ぼす米ドルと原油の動向に引き続き注意する必要があると思われます。
ただ長い目でみれば、産油国通貨、MLP、米国株について悲観する必要はない
米国の年内利上げ観測が再浮上するなか、思惑的なドル買いと原油の売りが優勢になることは妥当な動きと考えます。ただ今回の利上げは、金利をゼロからプラスの状態に戻す、いわゆる金融政策の正常化です。そのため初回の一手を打ち出す時期は極めて慎重に見極められ、かつ利上げのペースもかなり緩やかになると予想されます。また原油価格についても、米国における石油掘削装置(リグ)の稼働数が減少を続け、原油在庫もピークアウトの兆しが窺えることから(図表2)、下値不安は後退しつつあります。これらを勘案すれば、この先「米ドル高・原油安」が大幅に進行する可能性は低いと思われます。
産油国通貨、MLP、米国株は、しばらく足元の「米ドル高・原油安」の動きをにらみ、神経質な動きが予想されますが、やや長い目でみればそれほど悲観する必要はないと考えます。米国で年内に利上げが行われても、日本やユーロ圏をはじめ主要国では緩和的な金融政策を維持しており、グローバルでみれば流動性は潤沢です。過剰流動性相場は投資家のリスク許容度を高め、米国株には追い風です。また米アレリアン社が算出するMLP指数の配当利回りは6%台にあり、低金利環境の先進国では相対的に高い水準です。一方、産油国通貨についても、原油の下値不安が後退しつつあることは心強い材料です。なお中国をはじめとする新興国の経済活動が明確に持ち直せば、原油需要回復の思惑から、産油国通貨の一段高も期待できますが、このシナリオの実現には今暫く時間を要するものと思われます。
(2015年6月2日)
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