インフレターゲットを再考する
市川レポート(No.80) インフレターゲットを再考する
- 物価を安定させるためインフレターゲットは多くの国々で導入されている。
- 日銀は厳格に運用しているが、2016年度前半頃の2%達成は難しいとの見方が多い。
- 日銀が将来的に達成期間を他の中央銀行と同様、中長期に変更しても違和感はない。
物価を安定させるためインフレターゲットは多くの国々で導入されている
インフレターゲットとは、年間の物価上昇率に具体的な数値目標を定め、中央銀行が金融政策を運営する1つの枠組みです。一般に金融政策の目的は「物価の安定を通じて持続的な経済成長を実現すること」であり、インフレターゲットを導入している国の中央銀行は、実際の物価上昇率がインフレターゲット内で安定するように金融政策を行うことになります。物価の伸びが安定すれば将来の価格変動に関する不確実性が低下し、企業や家計は長期的な投資計画が立てやすくなります。投資の意思決定にかかわる効率性が向上すれば、持続的な経済成長が実現する可能性は高まりますので、物価の安定は金融政策にとって極めて重要な意味を持ちます。
インフレターゲットは多くの国々で導入されており、以下、具体的な例をみていきます。インフレターゲットは1990年にニュージーランドで初めて導入されました。その後は1991年にカナダ、1992年にイギリス、1993年にオーストラリア、スウェーデンなどが続き、日本では2013年に物価安定の目標が導入されました。なお米国とユーロ圏では明確なインフレターゲットの導入は表明されていませんが、米連邦準備制度理事会(FRB)は「長期的な物価目標(longer-run goal)」として、個人消費支出(PCE)物価指数の前年比上昇率を「2%」と定義しており、欧州中央銀行(ECB)は「物価安定の数値的定義(quantitative definition)」として、消費者物価指数の前年比上昇率を「2%未満だがその近辺」に設定しています。
日銀は厳格に運用しているが、2016年度前半頃の2%達成は難しいとの見方が多い
図表1は各国中央銀行のインフレターゲットについて、その内容を比較したものですが、ターゲットの達成期間を明確に示し厳格に運用しているのは日銀だけです。日銀は2013年4月4日、消費者物価の前年比上昇率2%の物価安定の目標を「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」ことを表明しました。その後、2015年4月30日の経済・物価情勢の展望(展望レポート)では、「2%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提にたてば、2016年度前半頃になると予想される」との見解が示されました。しかしながらそれでも達成は難しいとの見方が多いように思われます。
日銀が将来的に達成期間を他の中央銀行と同様、中長期に変更しても違和感はない
日銀は目標達成の時期に縛られ過ぎない方が良いと考えますが、黒田総裁は明確な期限をコミットすることはデフレ脱却の強力な手段であるとの立場にあり、達成時期に関する方針はそう簡単に変更されないと思われます。しかしながら今日では、インフレターゲットを採用する中央銀行の多くが足元の物価が目標から乖離しても金融政策を柔軟に運営し、中期的な物価の安定と持続的な経済成長を目指すという姿勢を明確にしています。つまりインフレターゲットの位置づけは、厳格な目標値から政策運営の透明性を高める参照値に移行する流れにあります。そうしたなかで、日銀が将来的にインフレターゲットの達成期間を他の中央銀行と同様、中長期に変更しても何ら違和感はありません。現時点で物価の伸びがマイナス圏に沈み続ける状況からは脱しており、少なくとも変更を検討することに躊躇する必要はないと思います。
(2015年5月28日)
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