日本人は現預金志向?

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◆個人金融資産、戦後一貫して現預金

6月27日、日銀は2025年3月末時点の資金循環統計を発表しました。個人金融資産における現金・預金比率が51%、株式、投資信託などが18%となっており、現金・預金比率の高い状態が続いています。2024年から新しいNISA(少額非課税制度)が始まり、以前と比べれば投資教育も充実するなど、資産形成の重要性は認識されてきているとみられます。一方、個人金融資産に占める現金・預金がほかの資産へ大きく動く様子はありません。

やはり、日本人は他国に比べて安全志向が強いということなのでしょうか。日本は、1989年のバブル崩壊を受けて、株式や投資信託に対する恐怖感が増し、個人資産として株式保有が大きく減ったとの見方があります。確かにバブル崩壊後の1990年代は、大きく下がる株価を背景に、個人投資家がさらなる損失を回避するため、株式を売却する行動が目立ちました。その結果として、現金・預金の比率が膨らんだという部分もあると思われます。また、株式を保有していなかった人は、「株は危険だ。手を出さなくてよかった」と考え、以降も現金保有を続けたということもありそうです。

日銀の資料によると、実際に、1987~1989年は個人の現金・預金比率は40%半ばまで低下し、株式・投資信託の比率は、逆に20%台半ばまで上昇していました。その後、1990年以降は現金・預金比率の上昇とともに株式・投資信託比率は一貫して下落しており、2002年には株式・投資信託比率が7.5%になりました。

同時期に日本はデフレ経済に陥りました。バブル崩壊後に起こった資産の投げ売り、会社の倒産や業績悪化に伴う賃金の減少などもあり、個人はより安価なモノを求めた消費行動を行うようになりました。企業もそれに合わせたコスト削減を行い、より低価格での商品やサービスの提供に努めました。これにより、いわゆるデフレ・スパイラルに陥り、低価格志向→物価下落→企業業績低下→給与伸び悩み、といった構造が定着しました。この頃から、現金・預金志向がますます高まったとも考えられます。

◆バブル崩壊の教訓?

日本人はバブル崩壊の教訓から、現金・預金志向となったのでしょうか。日銀の資金循環統計の過去データをみると、必ずしもそうとは言いきれません。1980年前後は現金・預金比率が60%に迫っており、株式・投資信託比率は10%台前半に過ぎませんでした。さらに1950年代にさかのぼると、現金・預金比率が70%を超えている年もあるなど、戦後一貫して現金・預金志向だったことがわかります。ただ今とは異なり、定期預金金利が1990年頃までは総じて高かったことから、預金=資産運用になっていた面もあるのです。

日本人が現金・預金志向にあるのは、バブル崩壊後の『失われた30年』が原因と言うよりは、戦後の金融経済政策により、株式・投資信託を保有しなくても資産形成が出来ていたとも言えそうです。

(チーフストラテジスト 上野 裕之)

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