「鬼の居ぬ間の」リスクオン

2025/06/27

今週の株式市場ですが、これまでのところ、日米ともに株価の上昇基調が目立っています。日経平均は26日(木)の取引開始時点で39,000円台を回復したほか、米国株市場に目を向けても、S&Pやナスダック総合指数が最高値をうかがうところまで株価水準を押し上げています。

警戒されていた中東情勢がひとまず停戦に向けて動き出したことで過度な警戒感が後退したほか、米FRB(連邦準備理事会)の一部の要人からは今後の利下げについて前向きな発言が出てきたこと、そして、AIや半導体、暗号資産関連銘柄を中心に「買える銘柄」が存在していることなどが、足元の株高に寄与していることが考えられます。

とりわけ、国内株市場ではアドバンテスト、米国市場ではエヌビディアといった半導体銘柄が25日(水)の取引で最高値を更新しており、1月27日の「ディープシーク・ショック」がすでに過去のものと感じられるところまで上昇するなど、AIもしくは半導体関連銘柄の勢いはかなり強いと言えます。また、この日の米株市場取引終了後に発表された、マイクロンテクノロジーの決算も、好調な業績ともに強気の見通しを示すなど、今後のAI需要については、かつての悲観から楽観に傾いているため、株高基調がしばらく続く可能性がありそうです。

とはいえ、相場のマクロ環境を見渡すと、不安材料の火種もくすぶっています。いわゆるトランプ関税をめぐる米国と各国との交渉については、相互関税の「上乗せ分」の90日間の期日が7月9日に迫る中、どこまで進展・合意できるかが注目されています。市場の一部では「再延長」の見方もあるようですが、予定通りに発動されてしまった場合には、株式市場にとって悪影響を及ぼすことが想定されます。

また、米国の上院で現在審議中の「ひとつの大きくて美しい法案」についても、米トランプ政権は7月4日までの可決を目標にしていますが、中心となる減税政策の延長による米財政負担増への懸念をはじめ、法案内には「セクション899」と呼ばれる項目や、債務上限引き上げなどの項目が含まれていることが気掛かりな材料となっています。

「セクション899」とは、米国に対して不公平な税制や規制を行っている国を対象に、該当国の企業が米国の事業で得た所得や、米国への投資で受け取る配当や利息に追加で課税することができるという内容となっており、このまま法案が可決されれば、米国は関税以外にも、相手国にプレシャーを掛ける新たな武器を手にすることになります。実効されるのは27年からと時間的な猶予はあるようですが、別の見方をすれば、中長期的に海外からの投資の「米国離れ」につながる恐れもあるため、注意が必要です。

さらに、すでに発動しているトランプ関税の影響がそろそろ出てくるかもしれないタイミングに差し掛かっていることなどを踏まえると、相場のムードが一変しかねかねず、ここ1~2週間の米国の動きが市場にとって重要な期間になります。

そのため、足元の株高基調はもう少し続くことが考えられますが、懸念材料が表面化していない「鬼の居ぬ間の」株価上昇である可能性があり、過度な楽観と深追いには注意すべき局面なのかもしれません。

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