デジタルグリッド(350A)再エネ電源を含む多様な電源の提供と蓄電池事業への参入で成長目指す
電力の発電家と法人需要家を直接結ぶ電力取引プラットフォームを提供
再エネ電源を含む多様な電源の提供と蓄電池事業への参入で成長目指す
業種:電気・ガス業
アナリスト:鎌田良彦
◆ 発電家と法人需要家を直接結ぶ電力取引プラットフォームを提供
デジタルグリッド(以下、同社)グループは、同社と24年8月に設立した子会社1社からなり、電力の発電家と法人需要家を直接結ぶデジタルグリッドプラットフォーム(以下、DGP)を通じ、火力発電等の電力を取引する「電力プラットフォーム事業(以下、電力PF事業)」、太陽光発電等の再生可能エネルギー(以下、再エネ)由来の電力を取引する「再エネプラットフォーム事業(以下、再エネPF事業)」、及び蓄電池により電力の需給を調整する調整力事業及び脱炭素教育事業等の「その他」の3つのセグメントで事業を行っている。
◆ デジタルグリッドプラットフォーム「DGP」の概要
DGPでは利用者の発電家と需要家は、初期費用、専門知識、小売電気事業者のライセンス等が無くても直接電力取引を行うことができる。
電力の需要家は、電力価格変動等のリスク許容度に応じて、日本卸電力取引所(以下、JEPX)を通じた市場調達に加え、DGPを通じて電力を販売するLNGや石油等の化石電源を使用した火力発電所、再エネ電源の電力を供給する太陽光発電所等からの固定価格を含む多様な電源と価格での電力調達を相対で行うことができる(図表1)。
同社は小売電気事業者として需要家と小売供給契約を結び、電力の契約容量や電源構成等を決める。基本的な契約期間は1年で、需要家は契約期間中に1カ月に1度程度の頻度で化石電源や再エネ電源等の電力調達電源の構成変更ができる。使用した電力の代金はDGPを通じて同社に支払われる。
電力は大量かつ長期に貯蔵することが困難なため、需要と供給を常時一致させる需給管理が必要になる。発電事業者は発電計画として、小売電気事業者は需要計画として、年間計画、月間計画、週間計画を各々毎年、毎月、毎週、翌々日計画、翌日計画、当日計画については30分単位の計画を毎日、電力の安定供給のための需給調整等を行う電力広域的運営推進機関(以下、OCCTO)に提出する必要がある。計画と実績の差分については、送配電事業を行う一般送配電事業者との間でペナルティ性のある価格で精算されることになる。
同社は小売電気事業者として、契約している需要家の需要予測を行いOCCTOに提出している。DGPに参加している再エネ発電家からは需給管理業務を受託して発電計画を作成してOCCTOに提出している。需要計画、発電計画作成に際しては、電力を使用している拠点ごとの需要予測と発電拠点ごとの発電予測をAIを用いて作成している。
◆ DGPのビジネスモデル
DGPを通じた電力の取引では、同社は調達した電力を原価で需要家に提供し、需要家からは、DGPの利用や需要計画作成等のサービスの対価として、DGP利用料を徴収している。売上高には販売した電力の金額は計上せず、DGP利用料のみの純額が計上される。再エネ電源による発電家からは、発電計画の作成等のサービスの対価としてDGP利用料を徴収している(図表2)。
◆ 電力PF事業
電力PF事業では、DGPで取引される電力のうち、火力電源等、再エネ以外の電源が対象となる。DGP利用料は需要家の電力使用量(kWh)にkWh当たりの単価を乗じて算出される。
現状では、JEPXを通じた電力調達が中心となっており、25年1月の取引形態別の実績では、JEPXからのみ調達する顧客が、需要家との契約容量の81%を占めた。
JEPXを通じた電力調達では、一日前市場(スポット市場)が主要な調達源となっている。JEPXのスポット市場では、1日を30分単位で区切った48コマの商品として電力が取引され、コマごとに価格が異なる。同社ではDGPを通じ、AIを活用してこの入札業務を行っている。
顧客獲得は、省エネコンサルタントや省エネ資材取扱い業者等の代理店経由が多い。代理店には契約期間に亘って代理店報酬が支払われる。
◆ 再エネPF事業
再エネPF事業では、DGPで取引される電力のうち再エネ電源を対象としている。収益は、企業の再エネ調達に関する取引代行手数料、再エネ発電家の発電計画作成等の需給管理業務を受託することに伴う発電家からのDGP手数料等からなる。
再エネPF事業では、様々な再エネ取引に対応している。具体的には、①再エネ由来の電力のうちの環境価値注1部分を表す証書の取引、②顧客企業の敷地外に設置された再エネ設備を対象に相対で長期の電力購入契約を結ぶオフサイトPPA注2、③需要拠点から離れた自社拠点に設置された再エネ設備からの自家消費を行う自己託送、④小売電気事業者に再エネを販売する再エネ卸、⑤JEPXへの再エネ電力の売却に対応している。
再エネ発電家と法人需要家が相対で長期契約を結ぶ再エネコーポレートPPAの一手法であるオフサイトPPAには、電力と環境価値をセットで販売するフィジカルPPAと環境価値のみを販売するバーチャルPPAがあり、同社は双方に対応している。22年4月にバーチャルPPAが解禁されて以降、同社独自のバーチャルPPAの取引手法である「GPA(Green Purchase Agreement)」をリリースし、案件を獲得している。
再エネPF事業では、「エコのはし」と「RE Bridge」を提供している。エコのはしは、JEPXが年4回行うFIT非化石証書注3のオークションでの非化石証書の購入代行業務を行うものである。RE Bridgeは再エネコーポレートPPAのマッチングプラットフォームであり、登録や利用は無料であるが、ここで成立した商談は、DGP上で取引が行われることになる。
◆ その他
その他は、調整力事業、脱炭素教育事業、及び顧客企業の需要に対応したJ-クレジット注4のスポット的取引等からなる。
1) 調整力事業
調整力とは、電力ネットワークの安定性を保つために電力の需要と供給のバランスを調整することを指す。同社の調整力事業は、電力ネットワークと直接連係する系統用蓄電池の保有や運用を行う事業である。
系統用蓄電池の収益機会としては、①JEPXを通じた充電と放電の差額収益、②需給調整市場で蓄電した電力を調整力として提供して収益を得る、③容量市場注5での入札に応じ、容量確保契約金を得るという3つがある。
同社は24年12月に系統用蓄電池の保有者から運用を受託するアグリゲーションサービスを開始し、系統用蓄電池の運用による収益の一部を報酬として得ている。
また、24年8月に設立した子会社のデジタルグリッドアセットマネジメントにより系統用蓄電池の開発・保有・運用を本格的に展開する予定であり、上場時に調達した資金を充当する計画である。
2) 脱炭素教育事業
脱炭素教育事業としては、23年4月から、カーボンニュートラルに取組む企業の実務担当者の知識習得を支援するオンライン学習コンテンツのGX naviを提供している。
◆ セグメント情報
同社の24/7期の売上高構成比は、電力PF事業が90.1%、再エネPF事業が5.3%、その他が4.6%であった。その他がセグメント損失となっているのは、GX naviの開発費と運営のための人件費の負担が重いためである(図表3)。

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