AIの知力活用
・生成AIの普及スピードは驚異的である。PCのインターネットが7年、モバイルが11年かかったのに比べて、生成AIは1年で一気に広がった。生成AIは2023年が元年で、米国では8割の企業トップが使っている。日本は出遅れた。
・米国と比べると、クラウド化の遅れ、セクターの違い、リーダーシップのあり方が大きいと、日本マイクロソフトの津坂美樹社長をみている。データをきちんと分析する会社は、AIへの関心が高い。AIのよさは、リーダーが使って初めて分かる。AIは筋トレのようなもので、自らが使うことによって頭が鍛えられるという。
・AIを使うと、社員のパフォーマンスが平均的に上がってくる。よって、使った方が、ROIが高まってくる。カスタマーが使うよりも、まず企業の中で、使いこなすことがカギである、と津坂社長は強調した。
・津坂社長は、BCG(ボストンコンサルティンググループ)で35年働いた後、MSにスカウトされた。今はIT企業のトップとして、自らMSのCopilotを使って毎日学んでいる。
・NVIDIAは1993年創業、3万人の社員のうち9割がエンジニアで、その半数がソフトウェアを担当している。システムはハードウェア(IC)+ソフトウェア+PF(プラットフォーム)で成り立つが、ハード+ソフトで性能を上げていく。
・ゲームのIC(半導体)からスタートし、PCゲームでは今でもシェア8割を有する。ゲームのプロセッサーとしてGPU(Graphics Processing Unit:画像処理演算回路)を手掛け、画像をきれいにしていった。これが画像認識のAIでブレークし、一気に波に乗った。
・波に乗れた要因は、1)技術がバラバラではなく、PFで横につないでいった、2)ディベロッパーを無償で支援し、エコシステムを作りながら市場を創造した、3)感度を高くして、皆で集まって、いいものを作っていこうという文化を大切にした。NVIDIAの大崎氏(日本代表、米国本社副社長)はこのように語った。
・開発投資に集中して、垣根を越えていく。テックのマニアが集まっているので、熱気がある。いつも革ジャンを着ているCEOのジェンスン フアンのカリスマ性のもと、文鎮型の組織で走っている。
・いつも「Top 5 Things」を共有している。1日、1週、1月単位で、経営上何が最も大切な5つなのか。1人ひとりにとって重要な5点について、社内週報で共有している。
・日本の企業経営者には、何が足りないのか。リーダーシップを発揮する上で、技術力を理解すべく感度を高める必要がある。ここを腹に入れて、変革に臨む必要がある。ジレンマに陥ることなく、自らの会社を説得せよ、と大崎氏は強調する。
・AIはブレーンである。頭脳をサポートすると同時に身体性も帯びてくる。つまり、日本が得意とするものづくりのサポート役として、AIは大いに役立つ。
・AIは、あらゆる企業に役立つ。いかに活用して、わが社独自のAIを育てつつ、それを商品・サービスに活かしていくか。アナリストとして、経営者にはここを聞いてみたい。
・AIは誰でも使うようになる。どんなに便利になるか。あるいは、AIが社会や個人にどんな問題を起こすのか。イノベーションが社会的に浸透する時、新たな摩擦が生じる。これを克服しつつ、活用は進んでいくとみておきたい。
・2030年代にAIは社会にどのように広がっていくのか。NRIの「知的資産創造」(2025年1月号)では、AIで「拡張」する社会、を特集していた。そのエッセンスが参考になる。
・AIはヒトの能力を拡張してくれる。1つは労働力の拡張である。従来のイメージならロボットであろう。このロボットも、製造現場のロボットからサービスロボットに広がっている。ヒトの代わり(エージェント:代理人)となるAI社長、AI店長、AIプログラマー、AIセールスパーソン、AIアイドルなど、どんどん出てこよう。
・これまでの労働力ではなく、もっと判断力を備えた知力の拡張が進みそうである。NRIでは、6つの知力に注目している。①予測力、②識別力、③個別化力、④会話力、⑤構造化力、⑥創造力の6つである。
・1)自然災害時の被害予測、機器やシステムの故障予測、2)監視カメラでの人物の識別、医療画像からの診断の識別、3)平均的な顧客へのマスカスタマイゼーションから、個々の顧客に合わせたディープカスタマイゼーションへと進む。
・4)通訳、会話マシーン、動物とのコミュニケーション、5)何らかの仕事(タスク)を仕組みとして捉えて構造化するAI、6)全く新しい創造力を発揮するAIなど、領域は一段と広がろう。
・一方で、人間そっくりのAIエージェントによるフェイク情報や詐欺が横行するかもしれない、それを見抜くAIも出てこよう。AIエージェント同志がバイヤー、サプライヤーとして交渉するということも始まろう。AIファンドマネジャーの戦いも興味深い。
・知力の拡張はどこまでいくのか。ソフトバンクの孫会長は、人間の知力をはるかに凌ぐと予見している。これをいかに活かして、価値創造を実現するか、ここから10年、ますますおもしろくなりそうである。
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