日銀ETF買い入れ額の大幅減少が意味すること

日銀ETF買い入れ額の大幅減少が意味すること

  • ETFの年間買い入れ額は昨年8,734億円にとどまり、前年から大幅に減少、9年ぶりの低水準に。
  • 日銀は昨年3月にETFを必要に応じて買い入れる方針を新たに公表し、実際の運用も変更した。
  • 昨年はリスクプレミアム拡大の懸念は小さいとの判断だが今後必要なら大規模買い入れも実施へ。

ETFの年間買い入れ額は昨年8,734億円にとどまり、前年から大幅に減少、9年ぶりの低水準に

日銀は現在、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の枠組みにおいて、上場投資信託(ETF)の買い入れを行っています。図表1は、ETFの年間買い入れ額の推移を示したものですが、2020年は7兆1,366億円に達しており(設備・人材投資に積極的に取り組む企業の株式を対象とするETFを含む)、ETFの買い入れが開始された2010年以降、最大の金額となりました。

しかしながら、2021年の年間買い入れ額は8,734億円にとどまり、2020年の実績に比べ大幅に減少しました。この金額は、黒田東彦氏が日銀総裁に就任した2013年(1兆953億円)以降で最小となり、2012年(6,397億円)以来、9年ぶりの低水準です。そこで、今回のレポートでは、2021年にETFの年間買い入れ額が大幅に減少した理由について考えてみます。

日銀は昨年3月にETFを必要に応じて買い入れる方針を新たに公表し、実際の運用も変更した

日銀の買い入れ政策は、2010年以降、年間買い入れペースの引き上げや、買い入れ対象の拡大、更には買い入れ配分の見直しなど、いくつかの変更を経て、現在に至っています。直近の変更は2021年3月19日で、ETFの買い入れ額は原則の目安(年間残高増加ペース約6兆円)が撤廃された一方、上限(同約12兆円)は維持され、市場の状況を鑑み「必要に応じて」買い入れを行う方針が示されました。

また、日銀は2016年4月以降、東証株価指数(TOPIX)の前場終値が、前日終値から0.5%を超えて下落すると、ETFを買い入れる傾向がありましたが、2021年4月以降は2.0%超の下落で買い入れるようになっています。さらに、2016年4月から毎営業日12億円ずつ買い入れてきた、設備・人材投資に積極的に取り組む企業の株式を対象とするETFは、2021年4月以降、買い入れが見送られています。

昨年はリスクプレミアム拡大の懸念は小さいとの判断だが今後必要なら大規模買い入れも実施へ

このように、2021年3月19日に公表された新たなETFの買い入れ方針に基づき、同年4月以降、実際の買い入れの運用が大きく修正されたと推測されます。ただ、日銀の黒田総裁は12月17日の記者会見で、ETFの買い入れ額が減少していることについて、緩和縮小などの状況では全くないと述べ、ETFの買い入れに関する現行の基本方針に変更はないとしました。

日銀のETF買い入れの目的はリスクプレミアムの縮小を促すことであるため、2021年にETFの年間買い入れ額が大幅に減少したのは、日銀がリスクプレミアム拡大の懸念は小さいと判断したためと思われます。ただ、リスクプレミアムを計測する指標の1つであるイールドスプレッド(株式益回りと国債利回りとの差)は、足元で拡大方向にあり(図表2)、日銀はこの先、必要であれば大規模な買い入れを行うこともあると考えます。

 

(2022年1月11日)

 

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