急激なる円安:スタグフレーション懸念の中で

2021/10/14 <>

本当に一時的?

「一時的」は便利な言葉なので、よく使われます。主な中央銀行も、大幅なインフレは「一時的」との予測を理由に、金融政策の修正を先送りしてきました。しかし「一時的」の期間は、次第に伸びています。

実際、インフレ率(物価上昇率、図表1)は、世界的に上昇基調が続いています。大きな原因は、サプライチェーンの混乱による部品や製品の供給不足・遅延、および、需給ひっ迫による天然ガスや原油の価格高騰です。いずれも収束の兆しはあまりなく、したがって当面、インフレ傾向を覚悟すべきでしょう。

FRBの悩み

こうした情勢を受け、米連邦準備理事会(FRB)は9月、利上げ時期の見通しを前倒ししました(再来年でなく、来年に利上げを始める可能性を示唆)。ただ、FRBの舵取りは今後、非常に難しくなります。 

たしかに、インフレを抑えるには利上げを行い、投資や消費を抑制する必要があります。しかし急激に景気を冷やすと、雇用が落ち込むので、本末転倒です。また、利上げで部品や天然ガスの不足が解消されるわけではないため、最悪の場合、インフレと不況の同時進行(スタグフレーション)となりかねません。

利上げモード

9月には、英国の中央銀行(BOE)も早期利上げを示唆しました。エネルギー高などで、インフレ率が近々4%を超える見通しだからです。BOEは、早ければ今年12月に、利上げを行うと予想されます。

利上げは、すでにモード(流行)となりつつあります。8月には韓国、9月にはノルウェー、10月にはポーランドで、利上げが始まりました。それらに先んじ、ブラジル、ロシア、メキシコでそれが始まっています。新興国は、支出に占めるエネルギーや食品の割合が大きく、インフレ率が高まりやすいからです。

温度差が拡大

ユーロ圏の場合、欧州中央銀行(ECB)が利上げに慎重です。しかし、圏内のインフレ率も、3%台へ高まっています。今後、エネルギー価格に加え賃金なども急上昇すれば、利上げが視野に入るはずです。

一方、近い将来に想定しにくいのが、日本銀行の利上げです。日本でも今、ガソリン価格などが高騰していますが、消費者物価指数(総合)の上昇率は、前年比0%未満なのです。携帯電話通信料の値下げなど特殊要因もあるとはいえ、長引く低インフレは、人口減や賃金停滞による日本経済の低迷を表します。

不本意な円安

超低金利政策の長期化が必至、との日本の異質性は際立っており、それらを受け最近、円安が加速しています(図表2)。ただ、背後にあるのは日本経済の低迷なので、円安→株高という動きは限られています。

また、インフレ懸念などで世界株が下落すれば、日本株だけ堅調とはならないはずです。そして、欧米などで暖房用のエネルギー需要が増えるこの冬、ガスや原油の価格はさらに上昇する可能性があります。よってスタグフレーションも警戒される、厳しめの経済環境は、少なくとも「一時的」には続きそうです。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

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