吉川レポート(2018年11月)再び動揺した株式市場と世界経済

2018/11/05

吉川レポート(2018年11月)再び動揺した株式市場と世界経済

【ポイント1】今年2回目の動揺
今回の動揺の背景は「タカ派的FRB」と「中国」

■2018月10月に入り、世界の株式市場は再び大きく動揺しました。米国のS&P500種指数は10月初から一時約9%の下落となりました。東証株価指数(TOPIX)も9月下旬に大きく上昇していたこともあり、12%~13%の下落を記録しました。2月に株価が急落した「VIX*ショック」に続き、今年2回目の大きな動揺といえます。*VIX(指数):株価の変動性の予想を示す指数。恐怖指数とも呼ばれ、景気の先行き不透明感が強まる際に上昇する傾向があります。

■2月の「VIXショック」の際は、2月初に発表された1月分米雇用統計で、時間当たり賃金が予想を上回る伸びを示したことをきっかけに、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げペースが加速するとの警戒感から、長期金利が大幅に上昇し、株価急落の要因となりました。加えて、株価が下落する過程で、一部クォンツ系(リターンの変動(ボラティリティ)を一定に保つように投資するボラティリティ・ターゲッティング戦略)のファンドが短期間にリスク圧縮に動き、株価の変動を激しくしたとみられます。

■今回は、米国を含め主要国の賃金、インフレ率は緩やかに加速していますが、景気は全体として安定しています。したがって、金融市場が予想するインフレ率(例えばインフレ連動債市場におけるブレーク・イーブン・インフレ率など)にも大きな動きはみられません。

■そうした中で、10月の株価調整につながった要因は大きく分けて二つあったとみられます。第一は、インフレというよりも景気が予想よりも堅調であることを主な理由に、パウエル議長をはじめFRB首脳が来年にかけて利上げ回数が増える可能性について言及したことです。それを受けて、米10年国債利回りは一時0.20%~0.25%上振れました。

■第二は、米中対立に関する見方の変化です。米国との対立において中国政府はIT産業育成策では妥協しない立場を堅持しており、結果として2019年にかけて、米国の追加制裁(関税など)もある程度やむを得ないとの姿勢に傾きつつあるとの見方が浮上してきました。国際通貨基金(IMF)が10月の改訂世界経済見通しで、2019年の世界及び中国の成長見通しを0.2%引き下げたことは、中国の姿勢の変化を反映したものとの見方も多いようです。今回の調整は「タカ派的FRB」と「中国」が材料だったといえます。

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【ポイント2】中国景気の減速度合いと2019年の世界経済成長見通しが鍵

■今後は、中国の景気減速の度合いと2019年の世界経済の成長見通しが焦点となりそうです。中国政府は、2019年の景気に関して2018年12月の中央経済工作会議で議論を詰めたうえ、来年3月の全人代で成長見通しを前年比+6.0%~+6.5%にやや下方修正し、最終的に同+6.3%の成長を達成できるように政策を運営する可能性が高いとみられます。これは、米国との対立の影響による景気下振れを若干容認しつつ、財政金融政策の活用によって雇用の安定に影響が広がらない範囲にダメージを限定することを意味します。これがうまくいくとすれば、米国経済が底堅いこともあり、IMFの予測のように、世界経済への影響は0.2%前後で済む可能性が高いと考えられます。

■成長率と株価の関係から推定すると、10月に入ってからの10%近い株価の調整は、0.6%~0.7%の成長減速を反映したと考えられ、一旦かなり悲観的なシナリオを織り込んだとみられます。今回もクォンツ系ファンドがリバランスに動いているため、しばらく大幅な値動きが起こることを覚悟しておく必要はあります。しかし、景気のデータが極端に悪化してこないことを確認するにつれ落ち着きを取り戻すと考えられます。

【今後の展開】米国企業の業績、人民元、政治イベントと原油に注目
警戒しておくべき2つの材料

■今後の展開を考える上で、警戒しておくべき材料は二つあると思われます。第一は、中国を含む新興諸国やその輸出比率が高いユーロ圏などの成長鈍化が、米企業の売上等にどの程度影響してくるかという点です。今回の株価急落においては米企業の決算発表でも米中対立の悪影響に言及するケースがでてきており、それが市場を神経質にさせる一因になったとみられます。これに関しては、企業の売上の予想と実績を比較していくことが基本ですが、業績の下振れ懸念が強まると、米企業が発行する社債のスプレッド(国債に対する上乗せ金利)が広がる傾向があり、警戒指標として注目しています。

■第二は、人民元の動向です。1米ドル7.0人民元のレベルを突破し、かつ、急速に人民元安が進めば、中国人民銀行も大規模介入など事実上の金融引き締め措置を実施する必要が出てくるほか、他の新興国からの資金流出が加速する恐れも考えられます。人民銀行は為替安定重視の姿勢を明確にしていますが、注視が必要です。

政治イベントと原油

■政治イベントでは11月6日の米中間選挙が注目されます。上院が共和党、下院が民主党というのは現在のコンセンサスであり、市場への影響は限られると見られます。上下院とも共和党が多数を維持した場合はややリスクオン、両院とも民主党の場合はややリスクオフの動きとなると考えられます。

■欧州の政治については、イタリア財政問題が2019年初まで、英国のEU離脱も(少なくとも)今年12月までは不透明な状況が続く見通しです。世界的な影響は限られると思われますが、ユーロ安要因といえそうです。世界経済の視点からは米国とサウジアラビアの関係複雑化を受けた原油価格の変動を警戒しておく必要がありそうです。

■米中対立は中間選挙後も楽観できません。ただ、20カ国・地域(G20)首脳会議などでの米中首脳会談(焦点が貿易から他分野に移るかなど)に注意を払っておきたいです。

(吉川チーフマクロストラテジスト)

(2018年11月 5日)

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