日米株式市場の見通し 金利上昇をきっかけとした株式市場の下落を受けて

日米株式市場の見通し 金利上昇をきっかけとした株式市場の下落を受けて

 

【ポイント1】長期金利の上昇をきっかけに調整局面を迎えた日米株式市場

 

■上昇が続いてきた内外株式市場は、先週末から長期金利の上昇をきっかけに大幅な調整局面を迎えています。NYダウは先週金曜日と昨日の二日間で1,841ドル(▲7.0%)の下げ幅となり、日経平均株価の下げ幅は金曜日から本日の正午までで、1,998円(▲8.5%)となっています。

■きっかけとなったのが米国の長期金利の上昇です。もともと世界経済の上振れ、それに伴う欧州中央銀行(ECB)の金融緩和縮小への見方の高まりや、原油価格の上昇などを背景にして長期金利が上昇してきたところに、先週金曜日に発表された1月の米雇用統計の賃金上昇率が予想を上回ったため、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げペースが速まるとの思惑が高まったことが主な要因と言えます。

■長期金利の大幅な上昇が株価の下落を伴ったために、市場のボラティリティ(価格変動率)が全般的に上昇し、それが投資家のポジション調整を巻き起こして更に株式などの下落につながり、それらが連鎖して今回の大きな株式の調整につながったと見られます。

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【ポイント2】米長期金利の大幅な上昇の背景と今後の見方

 

■米10年国債利回りは、米雇用統計などの強い経済指標を受けて、前々週末の2.66%から一週間で18bpほど上昇し、先週金曜日は2.84%で引けました。

■世界的に経済が上振れてきており、原油などの素材価格も徐々に高まってきているため、FRBやECBの金融緩和の巻き戻しは更に進むと考えられます。このため、長期金利が従来のような極めて低い水準で推移する局面から、緩やかに高まる局面に移行してきていると見られ、長期金利の上昇はある程度はやむを得ないと考えられます。

■ただし、アメリカのインフレは高まっていませんし、今後もインフレの高まりは緩やかだと考えられます。先週の雇用統計では、賃金上昇率が前年同月比で+2.9%と上振れましたが、これは厳冬の影響で労働時間が短くなったため計算上高まっている部分があると考えられます。失業率が4.1%と、米国としては低水準となっていることもあり賃金は上昇していくと見られますが、賃金の上昇は緩やかなものとなると見られます。これは、昨今の新しいIT技術の活用・応用によって小売りでの価格上昇に歯止めがかかっていると見られるほか、企業も自由な価格設定ができない中、賃金を大きく引き上げることができないことも背景です。

■このため、FRBの利上げペースは速まらず、市場もそれを織り込むと見られるため、米国の長期金利は短期的には現在の水準近辺を中心とした展開になり、時間をかけて上昇していくと見込まれます。米10年国債利回りは今年年末に向けて3%程度を目指すような緩やかな上昇になると想定します。

 

 

【今後の展開】経済は堅調さを保ち、株式市場も徐々に落ち着きを取り戻そう

 

1.金融ショックが経済に与える影響は限定的

■これまでのところ、多くの経済指標は順調な景気拡大と比較的落ちついたインフレといった、金融市場にとって望ましい環境を示しています。今回の長期金利の上昇や株式市場の大幅な下落の後も、経済は比較的堅調に拡大を続けると見込んでいます。

■これは先進国を中心に、消費や投資が借り入れに過度に依存している状況ではないため、長期金利上昇の影響が限定的と考えられるためです。借り入れに過度に依存していなければ、金利上昇の悪影響は比較的小さいものにとどまります。また、世界の景気サイクルが設備投資の持ち直しも含めて上向きつつあるため、株価の下落による景気の冷え込み効果への耐性が高まっていると考えられるためです。

2.米国株式市場は徐々に落ち着きを取り戻そう

■今回の米国株式市場の下落のもう1つの背景として、株式のバリュエーションが高かったことがあげられます。株価を一株当たり利益で割った株価収益率(PER)を見ると、相場調整前のS&P500種株価指数のPERは12カ月先の予想ベースで約18.5倍でした。2015年以降の平均の16倍程度と比べると比較的高かったと言えます(PERはBloombergによる)。

■高いバリュエーションは、投資家の楽観の表れと言えますが、その状況下、雇用統計によって将来のインフレの芽となりうる賃金が想定以上に高まったため、その楽観に修正が入ったと考えられます。

■今後は、発表される経済指標によって、インフレが落ち着いていることが明らかになると見られます。あわせて、バリュエーションがより適正水準に戻れば、市場は落ち着いていくと見られます。S&P500の予想ベースのPERは、この相場調整によって既に約16.8倍に下がっており、2015年以降の平均的な水準に近づいています。

■弊社では、株式は依然として上昇傾向にあると考えています。それは景気が堅調に推移すると見込んでいるほか、技術の進歩もあってインフレが世界的に上がりにくい状況になっていると見られるためです。また、米国企業の業績の伸びも極めて堅調です。一株当たり利益は、2017年の+12.4%に続き、2018年は+18.4%の伸びが見込まれます(トムソンロイター、I/B/E/S集計。2月5日現在)。現在進行中の2017年10-12月期の米国企業業績発表も7割以上が事前予想を上回る好調なものとなっています。

3.日本の株式市場も落ち着きを取り戻す展開へ

■日経平均株価も大きく下落し、本日の前場引けで見て、1月23日につけた年初来高値から▲10.9%の下落となっています。日本経済や日本の企業業績は好調であるため、この株価下落は米国株式の下落に連れたものと解釈できます。

■日本株(東証株価指数)のバリュエーション(PER)は、足元の相場下落を受けて12カ月先の予想ベースで14倍程度と、昨年の夏場ごろの水準に戻っています。また、過去10年平均の14.8倍を下回っています(PERはBloombergによる)。

■先々については、世界経済が引き続き堅調な拡大を続け、日本からの輸出も堅調さを維持し、緩やかな内需の拡大とともに日本経済の拡大を支えると考えられます。企業業績も、現在発表が進んでいる業績発表も概ね好調です。企業業績(経常利益)の年度の伸びの見込みは、17年度は+17.3%、18年度は+9.2%となっており(Quick調べ、2月5日現在)、堅調な見通しとなっています。

■日本株式市場固有のリスクとしては為替相場があります。円相場の変動要因には内外の金融政策や経常収支、市場のリスク許容度などをあげることができます。前述の通り、米国の金融市場は徐々に落ち着きを取り戻すと見込まれることに加え、日銀の金融政策は日本の低インフレを受けて超緩和的な政策が継続されると見込まれるため、円の為替相場も比較的落ち着いた動きを取り戻すと見込まれます。

■以上の通り、日本の株式市場も米国株式市場が落ち着きを取り戻すにつれ、企業業績の伸びを反映した相場に戻っていくと考えることができます。

■金融市場の動揺が大きくなっているため、市場が落ち着きを取り戻すにはある程度の時間を要する可能性があります。現在の局面は、改めて経済、企業業績、インフレや金融政策、地政学リスクなどの金融市場を取り巻く材料を丹念に吟味し、投資機会を探る機会と言えそうです。

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(2018年 2月 6日)

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