ヘッジコスト低下でヘッジ付き外債投資に妙味

ヘッジコスト低下でヘッジ付き外債投資に妙味

1.ドル円のヘッジコストは2014年以来の低水準
2.ヘッジコストは低水準が続く見通し
3.ヘッジ付き外債は、国内債券の代替として有力な選択肢

1.ドル円のヘッジコストは2014年以来の低水準

■日本円から外貨建て資産に投資する際、為替レートの影響を回避するには「為替ヘッジ」という手法があります。ドル円であれば、「直物のドル買い・円売り」と、「先物のドル売り・円買い」を同時に行うもので、先物の期間は、1カ月や3カ月などの短期が一般的です。

■ドル円のヘッジコスト(ドルの調達金利)は、日米の金利差とベーシススワップ(上乗せ金利)の合計で決まります。ベーシススワップは、本邦企業や投資家などのドル需要や、グローバルなドル需要の影響を受ける需給要因による部分です。ドルを調達する側が需給に応じた上乗せ金利を支払います。

■ドル円のヘッジコストは、日米の短期金利差拡大により2018年には3%を超える水準にありましたが、米国の政策金利(FFレート)が引き下げられるにつれ金利差が縮小し、低下してきました。ただ、コロナショックが起きた2020年3月に、一時2.7%まで急反発しました。これは、米連邦準備制度理事会(FRB)が、ゼロ金利政策を復活させたにも関わらず、多くの投資家が手元にドルを確保することに動いたことでベーシススワップが急上昇したためです。国内外でのドル需給ひっ迫に対し、FRBが積極的にドル供給策を打ち出したことなどから、ベーシススワップは落ち着きを取り戻し、日米短期金利差縮小を反映してヘッジコストは、同年5月には0.5%程度まで低下しました。その後も、ドルの調達環境が安定し、ヘッジコストは低下しました。足元のヘッジコストは0.3%程度と、2014年以来の低水準で推移しています。

■ユーロ円のヘッジコストは現在、欧州の金利が日本の金利を下回っているためマイナス(ヘッジプレミアム)となっており、▲0.4%程度の水準で安定的に推移しています。国内投資家が為替ヘッジをして欧州債に投資した場合、利回りはヘッジプレミアム分が上乗せされ、高くなります。

2.ヘッジコストは低水準が続く見通し

■次に、今後のヘッジコストの動向を展望します。ヘッジコストは、日本、米国、ユーロ圏の短期金利の動向、すなわち各中央銀行の金融政策により大きな影響を受けます。弊社は、世界的な景気回復が見込まれる中、インフレ圧力は一過性のものにとどまり、低金利環境が長期化するとみています。各国中銀の金融政策とそれに伴う金利差、ベーシススワップの見通しは下記のとおりです。

✓日米短期金利差・日欧短期金利差は横ばい

■日本では3度目の緊急事態宣言が発出されたため、景気回復の足取りは鈍いと考えられます。日銀は金融緩和の持続性を高めるため3月の金融政策決定会合で政策の微修正を行っていることから、現行の大規模金融緩和を長期化するとみられます。

■米国では力強い景気回復が見込まれるものの、インフレ懸念は一過性のものにとどまるとみています。FRBは2022年初以降、債券購入ペースの減額(テーパリング)を開始する可能性がありますが、長期にわたり政策金利を据え置くとみられます。

■欧州でも同様に景気が回復に向かうとみられますが、欧州中央銀行(ECB)は今後も緩和的な金融環境維持に向け、政策金利を据え置く見通しです。

■弊社は、日銀、FRB、ECBともに政策金利を据え置くと予想しています。このため日米及び日欧の短期金利差は、当面横ばい推移が続くと見込んでいます。

✓ベーシススワップは低位安定

■ドル円のベーシススワップは、ドルの資金需要の影響を大きく受けます。昨年3月には金融市場の混乱からドル需要が極端に高まりましたが、FRBの積極的なドル供給や大規模な金融緩和により、ドル需給は落ち着き、その後は低水準で安定しています。今後もFRBの機動的な対応により、基本的にはベーシススワップは低水準で推移するとみられます。

✓ヘッジコストは低水準続く

■日米、日欧間の金利差が動かず、ベーシススワップは低水準での推移が見込まれるため、ヘッジコストは歴史的に低い水準で横ばいが続く見通しです。ただし、FRBがテーパリングの開始時期について、市場に上手く伝達できなかった場合など、市場が動揺することで、ヘッジコストが上昇する可能性には注意が必要です。

3.ヘッジ付き外債は、国内債券の代替として有力な選択肢

■昨年半ば以降、ドル円のヘッジコストが低位安定している一方、今年に入り世界景気の回復や財政拡大を背景に米国の長期金利が大幅に上昇したことで、例えば米10年国債利回りからヘッジコストを差し引いた利回りは、足元で1.3%程度の水準となっています。為替ヘッジ付きの米10年国債の利回りは年初に0.5%を割っていましたが、3月末には約1.4%と2015年末以来の高水準を付け、その後も高止まりしています。

■このような状況は、国内の機関投資家などにとって、ヘッジ付きの米国債投資を行いやすい環境と考えられます。財務省が発表する対外及び対内証券売買契約などの状況(指定報告機関ベース)によると、国内居住者による海外中長期債への投資は、新年度入りした4月に1.4兆円の買い越しとなっています。

■国内主要生保の2021年度の資産運用計画をみると、将来の金利変動リスクを減らすため、超長期国債など国内債券の残高を増やすと同時に、利回りを確保するため、外国債券にも資金を振り向ける計画となっています。ただ、通年度では外債投資にやや慎重で、米金融政策の不確実性などを一定程度、勘案している様子がうかがえます。生保は米国債に比べて信用リスクが大きい分、高い利回りが期待できる社債を積極的に積み増す計画です。

■ワクチンの普及に伴い世界景気が回復する中でも、新型コロナの経済への悪影響が当面残るため、インフレ圧力は持続的には高まらないとみられ、低金利環境が長期化する見通しです。こうした状況下、比較的低いボラティリティで利回りを得られる、ヘッジ付きの米国債や米社債などは、安全資産の国内債券の代替として有力な選択肢になると思われます。

(2021年5月31日)

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