先行きを占う、3つのシナリオ(吉川レポート)

先行きを占う、3つのシナリオ(吉川レポート)

1.不透明材料を織り込みながらの展開
2.金融市場を支えるクッション
3.先行きの変化:3つのシナリオ

1.不透明材料を織り込みながらの展開

■内外の金融市場では、1月下旬に一旦踊り場的な動きとなりましたが、概ねリスクオン(選好)の状態が続いています。2021年に入ってからの環境変化をみると、米国では大統領・議会の上下院いずれも民主党となり、バイデン政権の財政支出拡大によるリフレ政策強化への期待が高まる一方で、米長期金利上昇によりドル安に歯止めがかかった他、民主党の増税・規制強化への警戒感が浮上しました。

■新型コロナウイルス感染が景気に与える影響(短期悲観、中期楽観)は変わっていません。しかし、変異株の広がりの影響は一定の先行き不透明感を生じさせています。

■加えて、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)での呼びかけに応じた個人投資家グループが一部企業の株式、商品を買い上げ、売り持ちポジションを膨らませた一部のヘッジファンドに損失が発生し、米国を中心に株式市場が不安定な動きを示しました。広い意味でみて金融市場の過熱感への警戒と解釈できます。

2.金融市場を支えるクッション

■1月下旬には上述の不透明材料が意識されました。ただし、タイプの違う複数のワクチンが実用化されつつある上、米国を中心に先進国ではコロナ対策の財政支出が積み増される見通しで、4-6月期以降、景気を刺激し始めます。マネーサプライの増加やMMFの残高が高水準で推移していることが示しているように、主要国の家計・企業は潤沢なキャッシュを保有しています。

■また、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で、①資産買取減額の議論は時期尚早、②金融市場の過熱は規制・監督で対応するべき、と述べています。基軸通貨国である米国の金融政策は、緩和的な姿勢が続く公算が大きいです。以上がクッションとなり、金融市場で一方的なリスクオフ(回避)傾向が長期化する可能性は小さいと考えます。

3.先行きの変化:3つのシナリオ

■先行きは、米英が先行する形でワクチンの接種が進む年央前後に、金融環境に変化が起きそうです。メインシナリオはコロナショックによる構造変化から雇用回復やインフレ率の上昇が緩慢に進む中、FRBが長期金利の上昇を緩やかに止める政策をとるケースです。米長期金利は1.3~1.5%に止まり、低金利(10年物実質金利は0.5%程度のマイナス)が続きます。ドル安基調の下、景気回復を受けたセクターローテーションや、日本、新興国の株式等に資金の分散が起こるとみられます。

■リスクシナリオは上下にあります。コロナウイルスの収束を受けて先進国の消費が想定以上に増加する(家計貯蓄率が下がる)場合、景気が上振れします(アップサイドリスク)。特にFRBが大き目の長期金利上昇を容認すれば、メインシナリオよりもドルが堅調となり、新興国は成長力の強弱によって選別されます。株価は収益上振れと金利上昇に伴うバリュエーション低下のバランスにより明暗が分かれることとなります。ダウンサイドリスクは変異型ウイルスの感染が拡大し、景気回復が遅れ、低金利下の利回り追求型資金フローが続きます。

■3つのケースを考える上で、カギとなるのは米家計の支出・貯蓄行動です。米家計の金融資産における株式比率は2020年9月末で36.0%(間接保有分含む)と歴史的に高水準ですが、主に株価の値上がりによるものです。コロナ禍で米政府が行った家計向け現金給付が貯蓄され、米家計の金融資産の取得(値上がり益ではなく新規取得)は2021年1-9月で年率3.6兆ドルと2019年(2.2兆ドル)から大幅に増加しました。このうち株式の取得は4,040億ドルである一方、現預金・MMFを3.2兆ドルも積み上げています。株式保有比率が上昇する中で、現預金保有比率も上昇しています。

■米家計が「予備的貯蓄」として金融資産を多めに持つ傾向が続き、消費が緩やかに増加する中、米株価は好材料を十分織り込んだ水準に上昇しているため、米家計の金融資産が海外を含めて分散投資され、ドル安傾向となるのがメインシナリオです。一方、予想以上に消費支出に向かうケースがアップサイドシナリオ、感染継続を受けて現預金を積み上げてしまうケースがダウンサイドシナリオにあたります。

■リスクファクターとしては、コロナウイルスの感染力、ワクチンの効果・副反応・普及スピード、欧州政治情勢などに加え、個人投資家の金融市場での行動による一層のボラティリティの高まりやそれに対する規制論の動向などがあり、注意しておく必要があります。

(吉川チーフマクロストラテジスト)

(2021年2月10日)

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