日本株は高水準のショートポジションが株価下支え、過度の一極集中には注意

日本株は高水準のショートポジションが株価下支え、過度の一極集中には注意

1.春の株価急上昇は、パニック的な売りの買い戻しがけん引
2.反発後もショートポジションは依然高水準
3.日本株はショートポジションが株価下支え、過度の一極集中には注意

1.春の株価急上昇は、パニック的な売りの買い戻しがけん引

■日経平均株価は1月20日に年初来高値の24,083.51円となり、24,000円を上回っていました。ところが、新型コロナの欧米などへの感染拡大を背景に世界的に景気減速が懸念され、3月19日には16,552.83円まで急落しました。その後各国が思い切った金融・経済対策などを実施した事や、コロナワクチンの開発期待などから8月13日には23,000円を回復しました。ただその後はもみ合いとなり市場では強弱感が分かれています。

■ここでは今回の株価急上昇の背景と現在の状況や一極集中による一部指数のゆがみなどについて、「需給・テクニカル指標」などから確認していきたいと思います。

高水準かつ短期間にパニック的な売り

■まず今回の急落局面を各種指標から検証します。日経平均VI(ボラティリティー・インデックス、将来1カ月の変動を推定した指数)は40%が底入れのサインといわれますが、3月16日には、60.67%となりました。

■値上がり値下がり銘柄の割合を示す騰落レシオ(25日移動平均)は通常80~120%程度中心に推移し、70%を下回ることはまれですが、3月16日に40.12%まで低下しました。

■空売り比率は一般に40%を超えると高水準とされますが、3月6日には52.1%を示し、ネット裁定残も3月16日には▲8億株を下回る異例の水準となりました。

■これら指標のピークはいずれも日経平均株価が安値を付けた3月19日の少し前に出ています。また水準はリーマンショックなど暴落局面でないと出ないような異例なものとなりました。今回の急落局面での売りがパニック的であり、大量かつ短期間に集中したことがうかがえます。

■これら指標からは買い戻し圧力の大きさもうかがえます。なぜここまで大きな売りが出たかというと新型コロナの影響が見通せず、不安が不安をよぶ形となったことによります。短期間に集中して先物などに売りが出たため、損失回避の買い戻しも一斉に出る結果となりました。

2.反発後もショートポジションは依然高水準

■通常はこれほどの株価反発があると、先物や信用取引などを通じてロングポジションが積み上がり、それがその後の下落に転じる要因となりがちです。現状の状況を確認するには、ネット裁定残と信用取引がヒントになります。

■裁定買い残は割高となった先物を売って現物株を買う(裁定買い)取引を行った場合の現物買いの残高です。裁定売りはその反対の動きとなります。裁定売りは現物株を空売りするため、現物株の調達コストがかかるなど実行のハードルが高く、ネット裁定残高がマイナスになるのは極めて異例です。

■株価の戻り過程では先物に買いや買い戻しが入ってくるため、先物の割安感が解消しネット裁定残はプラス転換し、積みあがっていきます。ところが10月16日現在▲5.30億株と売り残超過が続いており、現時点でもショートポジションの高水準を示唆しています。

■信用取引をみると小幅に増加していますが特に心配になる水準ではありません。現状のネット裁定残高、信用買い残の状況では、急落リスクは大きくなく、ショートポジションが下支え要因となりそうです。なぜショートポジションの高水準が続くかというと下落時に継続して入る日銀のETF買い(購入目標額12兆円)の影響が大きいと考えられ、ロングポジションが積みあがりにくい構造になっています。

グロース指数やNT倍率には過熱感

■市場全体としては過熱感は見られない反面、銘柄間のパフォーマンスの散らばりは極めて大きく、グロース指数やNT倍率などは警戒が必要な状況にあります。

■グロース株とは利益成長性を評価して、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などでみて割高な株をいいます。医薬品、情報・通信、電気機器などが多く含まれます。反対に、バリュー株は、PERやPBRが低く企業価値に比べて株価が割安に放置されている銘柄を指します。鉱業、鉄鋼、商社、銀行などが多く含まれます。

■日本では2017年半ば以降、グロース株(成長株)がバリュー株(割安株)を上回る展開が一貫して続いています。今年に入り予測困難な新型コロナの感染拡大によりクオリティ指向が強まり一極集中が加速しました。2016年末対比でみると10月20日でグロース指数が30.3%、バリュー株は▲13.1%と大きな乖離があります。一方バリュー株のPBR(株価純資産倍率)は例えば大型株の日本製鉄で0.4倍程度、地銀株では0.1倍台もあります。

■日経平均株価を東証株価指数(TOPIX)で割り、両指数の相対的な強さを示すNT倍率は2005年には10倍を下回っていましたが、その後はほぼ一貫して上昇しNT倍率は14倍台半ばの水準となっています。構成比上位銘柄の電気機器、医薬品、小売業などのグロース色の強い銘柄の株価が上昇し構成比が高まり、構成銘柄数は225銘柄にもかかわらず、ファーストリテイリングなど16銘柄で50%を占め非常にゆがんだ状況にあります。

3.日本株はショートポジションが株価下支え、過度の一極集中には注意

■市場全体はこれだけ上昇したにもかかわらず、ショートポジションは高水準でテクニカル指標などにも過熱感は乏しく、健全な状況にあります。一方でグロース株はバリュー株を大きく上回って上昇し、NT倍率は一部のグロース系の銘柄に物色が集中したことにより拡大しています。米国株でもグロース相場が続いていますが、急成長企業が現れ10年ごとに時価総額上位銘柄が大きく入れ替わるのに対して、国内ではあまり入れ替わりがなくその点に違いがあります。

■ITバブルなど、過去の例をみても一極集中の後は調整が深くなりがちです。相場全体が安定して上昇するには、バリュー株などにも物色が循環するかがカギとみられます。ここからさらに一極集中が進む場合はこれら銘柄の株式市場全体への影響が大きくなり、ボラティリティが拡大するリスクがあり注意が必要です。割安株を長期保有することで知られるウォーレン・バフェット氏が率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイが子会社を通じて日本の5大商社株の株式を5%ずつ取得したと発表し、日本の割安株が再評価される契機になるとの見方が出てきました。こうした動きが継続するか注目されます。

(2020年10月22日)

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