吉川レポート:新たな軌道を模索する金融市場

吉川レポート:新たな軌道を模索する金融市場

1.9月の株価調整の背景
2.一方的なリスク回避の動きは避けられる見通し
3.低金利環境での資金フローが継続
4.「政治の季節」

1.9月の株価調整の背景

■9月の主要国金融市場は、ナスダック総合指数の大幅下落に先導される形で不安定な動きとなりました。9月前半の株価下落は米国に限定されており、米テクノロジー関連企業の株式に関して、オプション取引も含めた投機的な動きが強まっていたことへの調整であった可能性が高いと考えられます。

■9月後半に入ると欧州において新型コロナウイルスの新規感染の再拡大傾向が続き、経済活動に対する規制が強まるリスクが高まりました。加えて、米国でトランプ政権と議会の財政協議が予想以上に難航し、年内に追加対策がまとまらない可能性が浮上してきたことから、グローバル景気についての不透明材料となり始めました。これらを受けてリスク回避の動きが広がり、欧州や日本、新興国でも株価が下落に転じたほか、高利回り社債や新興国債券のスプレッド(上乗せ金利)の拡大も目立ちました。

2.一方的なリスク回避の動きは避けられる見通し

■しかし、金融市場がこのまま一方的にリスク回避の傾向を強める可能性は低いと考えます。

■第1に、世界経済の回復傾向は続いています。新型コロナウイルスの新規感染の再拡大を受けて、主要国でサービス業の回復が鈍化していることは事実ですが、営業・移動制限は地域・業種を限定して行われているため、全体としては悪化方向には転じていません。一方、製造業については、部分的な移動制限であれば工場の稼働はある程度可能です。その中、①中国の景気回復、②自動車などの需要回復、③受注が回復する中で在庫を復元するための生産増、などから堅調に推移しています。

■第2に、米連邦準備制度理事会(FRB)が8月に平均インフレ目標を導入するなど、主要国の金融政策は「危機を受けた緊急対応」から「中長期の緩和維持によるインフレ期待の押し上げ」にギアチェンジしつつあります。金融市場では追加の金融緩和策が矢継ぎ早に行われるとの期待が後退しましたが、各国ともサービス関連のインフレ率が低位に留まり、企業金融に関する潜在的なリスクが残る中、政策金利は長期にわたってゼロ近辺に維持されるとの見通しに変わりはありません。

■第3に、投資家の手元には現金に近い資産がなお高水準となっている可能性が高いと考えます。投信関係の資金フローを集計しているEPFRグローバルのデータを見ると、コロナ危機発生後、現金に近い資産であるMMFの残高が急増しました。7月以降、徐々に他資産に資金がシフトし始めていますが、なお高水準です。景気が崩れなければ、株価が調整した際にはこうした資金が買戻しに動き、下値を支えることが期待されます。

3.低金利環境での資金フローが継続

■先行きは、景気循環の底入れを背景に投資資金の流入先が新興国などを含めて広がる可能性を視野に入れておくべきですが、足元の景気回復は本格的なローテーションが起こるにはまだ力不足とみられます。低金利環境の中で、利回り追求型の資金フローが基調となりつつ、株式については地域やセクターを絞った投資機会を求めるなど、新しい軌道の模索が続く可能性が高いと考えます。

■為替面では、欧州における感染再拡大や欧州中央銀行(ECB)がユーロ高への警戒感を示したことなどを受け、ドル安ユーロ高傾向は一旦足踏みになる可能性があります。しかし、3~6カ月の期間でみれば、FRBの大規模緩和の浸透を受け、実効レートベースで緩やかなドル安傾向に戻ると予想されます。

■円/米ドルレートは、各種要因(市場心理、日米金利差、国際収支の変化等)が綱引きとなり100~115円のレンジ推移(中心は105円)との見方を維持します。

4.「政治の季節」

■米大統領・議会選挙が1カ月後に迫る一方、日本では衆院議員の任期が1年余りとなる中で菅新政権が発足するなど、年末に向けて「政治の季節」を迎えています。米大統領・議会選挙については民主党優勢で終盤を迎えています。仮にバイデン大統領となった場合、法人増税や規制強化といった経済成長にネガティブな要素と、インフラ投資の増額、秩序だった対中政策などの安定感を与える要素のどちらが前面にでてくるか、市場は選挙後の政策の内容をみながら判断することになります。選挙結果の確定に時間がかかって米国の追加財政政策に遅れがでる場合は、ダウンサイドリスクとなります。米国以外では、菅新政権が大規模な財政政策を追加すれば日本市場にとってはアップサイドの要因になる一方、英国のEU離脱(Brexit)や欧州連合(EU)復興基金の運営を巡る交渉は、その帰結次第で、欧州経済・金融市場にとって上下両方向の要因となり得ます。

(吉川チーフマクロストラテジスト)

(2020年10月6日)

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