低下したヘッジコストと外債投資

低下したヘッジコストと外債投資

1.ドル円のヘッジコストは2019年に1%程度低下
2.2020年のヘッジコストの見通し
3.ヘッジ外債はクレジットか欧州債、オープン外債も有力な選択肢

1.ドル円のヘッジコストは2019年に1%程度低下

■日本円から外貨建て資産に投資する場合、為替レートの影響で、円建てのリターンが変動します。このリスクを回避する手法が「為替ヘッジ」で、具体的には為替スワップという取引を行います。例えばドル円であれば、「直物のドル買い・円売り」と、「先物のドル売り・円買い」を同時に行います。先物の期間は、1カ月や3カ月などの短期が一般的です。

■ドル円のヘッジコスト(ドルの調達金利)は、日米の金利差と「ベーシススワップ」と呼ばれる上乗せ金利の合計で決まります。ベーシススワップは、本邦企業や投資家などのドル需要や、基軸通貨に対するグローバルなドル需要の影響を受ける需給要因による部分です。ドルを調達する側が需給に応じた上乗せ金利を支払います。

■ドル円のヘッジコストは、2019年に年初の2.99%から年末の2.07%まで低下しました。足元(1月24日)では1.95%と2%を割り込んでいます。米連邦準備制度理事会(FRB)が昨年7月以降3会合連続での利下げを行い、日米金利差が縮小したことが主要因です。加えて、ベーシススワップ(上乗せ金利)も低下しています。ドル需給の引き締まりで10月初には一時0.55%まで上昇しましたが、足元では0.11%程度に低下し、落ち着いています。

■一方、ユーロ円のヘッジコストは、欧州の金利が日本の金利を下回っているため、マイナス(ヘッジプレミアム)です。国内投資家が為替ヘッジをして欧州債に投資した場合、利回りがヘッジプレミアム分引き上がることを意味します。2019年の年初に▲0.09%だったヘッジコストは、欧州中央銀行(ECB)が9月に利下げを行ったことで日欧金利差が拡大したため、足元では▲0.26%と低下しました。このうち、ユーロ円のベーシススワップは0.1%台で、横ばい圏で推移しています。

2.2020年のヘッジコストの見通し

■次に、今後のヘッジコストの動向を展望します。為替スワップは実質的に資金取引であることから、日本、米国、ユーロ圏の短期金利の動向、すなわち、日銀、FRB、ECBの金融政策が、ドル円、ユーロ円のヘッジコストやヘッジプレミアムに、大きな影響を与えます。各中央銀行の金融政策とそれに伴う金利差の見通し、ベーシススワップの見通しは下記のとおりです。

✓日米金利差と日欧金利差は横ばい

■日本では目標水準への物価上昇が見通せないため、日銀は現状の大規模緩和策を維持するとみられます。

■米景気が緩やかに拡大するなか、インフレが落ち着いているためFRBは利下げを停止し、2020年にわたり政策金利を据え置く見通しです。

■ECBは2020年末に向けて金融政策の総点検を行うと発表しており、現行の金融政策を維持すると予想されます。

■弊社は、日銀およびFRBとも、金融政策を据え置くと予想していますので、日米金利差はこの先、横ばい推移が続くとみています。同様に、日欧の金利差についても、この先、横ばい推移が続くと見込んでいます。

✓ベーシススワップは安定推移

■昨年9月に米翌日物レポ金利が一時急上昇するなど、ドルの資金需給がひっ迫したため、ドル円のベーシススワップは、 0.5%を上回る水準まで上昇しました。これに対し、FRBは10月には短期国債の買い入れを再開し、バランスシートの再拡大に踏み切りました。FRBによる短期国債買い入れに伴うドル資金の供給で、ドルの需給が緩み、ベーシススワップは年末にかけて、大幅に低下しました。その後も安定して推移しています。

■一方、ユーロ円のベーシススワップは2019年を通して横ばい圏で推移しました。

■今後ベーシススワップはドル円、ユーロ円とも落ち着いた動きが見込まれます。

✓2020年のヘッジコストは横ばい

■日米、日欧間の短期金利差が動かず、ベーシススワップも安定推移が見込まれるため、2020年のドル円のヘッジコストは低下傾向に歯止めがかかり横ばい、ユーロ円のヘッジプレミアムも横ばいが続く見通しです。

3.ヘッジ外債はクレジットか欧州債、オープン外債も有力な選択肢

■2020年に入り、国内投資家の外国債券への投資が息を吹き返しています。財務省の対外・対内証券投資のデータによると、日本勢の外債(中長期債)の買越額は、昨年12月に8カ月ぶりに売り越しに転じましたが、今年1月の週次データによれば、年初の第1週に2兆3千億円の買越額となり、週次では18年9月以来の高水準となりました。

■12月に外債が8カ月ぶりの売り越しに転じたのは、日銀の追加緩和観測の後退で秋以降に日本の超長期国債利回りが上昇して投資妙味が出てきたため、国内投資家の資金が外債から国内債に移ったことが背景とみられます。

■しかし、1月に再び外債を大幅に買い越しているのは、日本の10年以下の国債利回りがマイナス圏に沈むなかで、国内投資家は外債投資も選択していると考えられます。

■こうした状況下、前述のとおり、ドル円のヘッジコストは足元で2%弱となっています。1年前との対比では、1%程度低下したものの、米長期金利(10年国債利回り)の1.7%程度よりも大きく、国内投資家にとって為替ヘッジ付きの米国債の投資妙味は低いままです。

■そのなかで利回りを得ようとすれば、高利回りの社債やローン担保証券(CLO)など、クレジットリスクをとることが選択肢の1つになると思われます。米景気が堅調に推移する一方、インフレが落ち着き、低金利環境が継続しているため、クレジットスプレッドは安定的な推移が期待されるためです。

■また、ユーロ円のヘッジプレミアムは国内投資家にとって受け取りになるため、ヘッジ付き欧州債への投資も選択肢と考えられます。例えば、ヘッジ付き仏国債10年債などは、利回りがプラスになり、日本国債を上回る水準にあります。

■2020年は、ドル円ヘッジコストの一段の低下が見込みにくいことに加え、近年、ドル円相場の変動幅が縮小しており、円の先高観が薄れていることから、国内投資家にとって為替オープンの外債投資も有力な選択肢となるでしょう。弊社は2020年の見通しについて、ドル円をレンジ相場、米長期金利は小幅な上昇にとどまるとみています。

(2020年 1月28日)

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