米国・イラン情勢と日米株式市場の見通し 終息する可能性が高まるが今後の期待形成に影響残る
米国・イラン情勢と日米株式市場の見通し
【ポイント1】大きく調整した日本の株式市場
■8日の日本の金融市場は、米国・イラン情勢を巡り大きく変動する展開となりました。日本株式市場(日経平均)は、ザラ場で2万3,000円を割り込み、370.96円安の2万3,204.76円で引けました。米ドル/円レートが一時107円台まで円高・米ドル安となり、WTI原油先物価格も1バレル65ドル台まで達し、また、金価格も急騰しました。
■米国株式市場はひとまず落ち着いた動きとなりました。イランのザリフ外相が「相応の措置を完了した」とし、トランプ大統領の声明も戦争を回避することを示唆するなど、緊張はいったん緩和する可能性が見られたためです。
【ポイント2】市場の復元は可能
■今回は過去の紛争時、(1)湾岸戦争、(2)米同時多発テロ、(3)イラク戦争、の主な指標の動きをまとめました。
■(1)湾岸戦争は、1990年8月にイラク軍がクウェートへの侵攻を開始したことに端を発します。米英を中心とする多国籍軍が1991年1月17日にイラクへの攻撃を開始しました。日米株式市場は90年の後半は総じて値の重い展開でした。
■イラクへの攻撃開始後、NYダウは5日後に底を付け、反騰に向かいます。日経平均も6日後に底を付け、直ちに上昇に転じました。米ドル/円レートは円高・米ドル安が進行しますが、25日目に円高はピークとなり、その後は円安・米ドル高となります。一方、原油、金は下落に転じ、原油は36日後、金は98日後に底を付けました。
■(2)米同時多発テロは、2001年9月11日に発生しました。米国株式市場は大きな下落となりましたが、NYダウは10日後に底を付けました。日経平均は6日後に底を付け、米ドル/円レートは9日後に円高がピークとなりました。原油は65日後、金は91日後に底を付けました。
■(3)イラク戦争は、2003年3月20日に米英軍がイラクへの軍事作戦を展開し、4月9日に首都バクダッドを制圧した紛争です。イラク戦争では、最も早く底を形成したのはNYダウで11日後です。NYダウは、一つの目安としてみた50日後には、発生時の水準を上回っていました。日経平均の底は39日後と底打ちが遅れました。米ドル/円レートが約2カ月間、円高・米ドル安の基調が続いたことなどが影響したと思われます。米ドル/円レートは57日後に底を形成し、緩やかな円安・ドル高に転じました。日経平均も、50日後にほぼ発生時点の株価水準を回復し、100日後には発生時の水準を上回っており、堅調に推移しました。一方、原油は軟調な推移で40日後に底を形成し、その後2カ月ほど堅調に推移しました。また、金は19日後に底を形成した後、やはり2カ月ほど堅調に推移しました。
■今回取り上げた地政学リスクのケースでは、紛争が数カ月でいったん終息しています。市場が堅調さを取り戻すまでの期間には幅がありますが、復元可能な程度のリスクだったと思われます。日米株式市場は比較的早期に切り返していること、米ドル/円レートは、いったん円高・米ドル安に傾いた後、時間はかかる局面もあるものの、円安・米ドル高となる傾向があること、などが確認されました。イラク戦争では原油、金が上昇しており、原油生産への影響が懸念される場合は商品価格が上昇することも確認できました。
【今後の展開】地政学リスクを常に意識する地合いとなろう
■米国、イランともに戦争を望んでいないと述べており、全面的な軍事衝突となるリスクはある程度抑制されたと思われます。過去の例からは、日米株式市場への影響は限定的と考えられ、景気回復の見通しが揺るがなければ、堅調に推移すると期待されます。しかし、原油価格が上昇する可能性はあり、今後の原油生産や輸出動向への影響を通じて、景気・企業業績への影響を意識しておく必要がありそうです。
■米国とイランの対立がある程度抑制されたものになるとしても、米国のイランへの経済制裁は強化・継続される見通しで、イランは核施設の再稼働を進めるとみられ、両国の緊張状態は続くと考えられます。
■また、米中の貿易摩擦も両国の緊張を高めたうえ、今後も続く見通しです。米国を中心とした地政学的な緊張を意識する地合いが常態化すると思われます。
(2020年1月9日)
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