米国の対中制裁発動が市場に与える影響

市川レポート(No.487)米国の対中制裁発動が市場に与える影響

  • 米中貿易戦争激化は世界経済に悪影響となる恐れ、強硬的な米安全保障政策もリスク要因に。
  • ただ強気の通商政策も安全保障政策もトランプ流の交渉術、本気で戦争を仕掛ける意図はない。
  • トランプ流の交渉術という認識が市場に広がれば、株安、円高の動きは徐々に後退するものとみる。

 

米中貿易戦争激化は世界経済に悪影響となる恐れ、強硬的な米安全保障政策もリスク要因に

トランプ米大統領は3月22日、米通商代表部(USTR)の報告に基づき通商法301条を発動し、中国製品に制裁関税を課す大統領令に署名しました。ポイントは、(1)技術移転に関する世界貿易機関(WTO)への提訴、(2)25%の輸入関税導入、(3)対米投資の制限、の3点です(図表1)。これに続き、中国は3月23日、米国からの鉄鋼や豚肉などの輸入品目30億ドル相当に相互関税を課す計画を発表し、いよいよ貿易戦争の様相を呈してきました。

また、トランプ米政権は対中制裁を発表した同日、マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)の辞任と、後任に対外強硬派として知られるボルトン元国連大使をあてる人事を発表しました。米中貿易戦争の激化は世界経済に悪影響を及ぼす恐れがあり、米国が強気の安全保障政策を進めれば、米朝首脳会談の実現が困難となり、かえって地政学リスクが高まることも想定されます。

 

ただ強気の通商政策も安全保障政策もトランプ流の交渉術、本気で戦争を仕掛ける意図はない

なお、対中制裁の発動は、トランプ米政権にとって中間選挙に向けた支持固めの一環であり、本気で貿易戦争を仕掛けるためのものではないと考えます。結局は、今回もトランプ流の交渉術であり、中国に強力なカード(制裁発動)を突き付けて交渉に持ち込み、有利な取引条件を引き出すことが真の狙いと思われます。米中両国は今後、貿易問題の現実的な着地点を見出すことに努め、最終的に世界経済への悪影響は回避されるとみています。

安全保障政策についても同様の考え方が可能です。トランプ米大統領は3月13日、ティラーソン米国務長官を解任し、後任にポンペオ中央情報局(CIA)長官を指名しました。トランプ米大統領は、前述のボルトン元国連大使やポンペオCIA長官など、タカ派の閣僚を揃えることで、北朝鮮問題や中東問題に強い姿勢で臨むことを内外に示す一方、本気で戦争を仕掛ける意図はないと考えます。

 

トランプ流の交渉術という認識が市場に広がれば、株安、円高の動きは徐々に後退するものとみる

それでも、相場は不透明感の強い材料に対し、まずはリスクオフで反応します。トランプ米政権による通商政策・安全保障政策に対する懸念が強まった3月23日、日米欧の主要国では、株安、長期金利低下の動きが顕著にみられました(図表2)。為替は円が対主要通貨でほぼ全面高となる一方、ドルは対主要通貨でほぼ全面安となり、ドル円は一時1ドル=104円64銭水準まで、ドル安・円高が進行しました。

相場の弱気地合いは、この先しばらく続く可能性があります。弊社は4-6月期について、日経平均株価の下値めどは20,000円、ドル安・円高のめどは1ドル=100円とみています。ただ、これらの水準に達する前に、米国の通商政策や安全保障政策が、実際にはそれほど強硬なものではないとの認識が市場に広がれば、株安、円高のリスクが徐々に後退することは十分に考えられます。

 

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(2018年3月26日)

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