オバマケア代替案を巡る動き

市川レポート(No.369)オバマケア代替案を巡る動き

  • 米共和党ライアン下院議長らの代替案で財政赤字は縮小するが、無保険者は増加する見通し。
  • 代替案は下院共和党保守派が反対、一部の上院共和党議員も反対、法制化は容易ではない。
  • 4月までに法制化、ただ困難なら税制改革優先へ、いずれにせよ5月以降に予算審議が始まろう。

米共和党ライアン下院議長らの代替案で財政赤字は縮小するが、無保険者は増加する見通し

今回のレポートでは、トランプ政権の最優先課題である、医療保険制度改革法(Affordable Care Act、通称「オバマケア」)の廃止とその代替案(American Health Care Act)を巡る動きについて整理します。米共和党のライアン下院議長らの立案により3月6日に発表された代替案は、個人や大企業従業員の保険加入義務の撤廃や、年齢と収入に応じた税額控除導入による公的補助金廃止などの内容を含んでいます(図表1)。

米連邦予算事務局(CBO)は、この代替案が財政に与える影響を推計し、その結果を3月13日に公表しました。それによると、米財政赤字は2017年から2026年までの間に3,370億ドル減少する一方、オバマケアを継続した場合と比べ、無保険者の数は2026年に2,400万人増え、平均保険料は2018年と2019年で10~15%上昇する見通しとなりました(図表2)。

代替案は下院共和党保守派が反対、一部の上院共和党議員も反対、法制化は容易ではない

代替案は、下院と上院での可決を経て、大統領の署名によって法制化されます。下院は共和党が237議席、民主党が193議席を占め、共和党が可決に必要な過半数216議席を上回っています。また上院も共和党が52議席と、可決に必要な過半数51議席を上回っています。しかしながら、より完全な形でオバマケアの廃止を求める下院共和党の保守派グループが代替案に反対しており、共和党単独で下院の過半数確保は難しい状況となっています。

下院での代替案の採決は3月23日に予定されていましたが、保守派グループの説得が難航し、採決は翌24日に延期となりました。この先、代替案が修正され下院を通過しても、ポートマン議員など4名の上院共和党議員が、低所得者への公的扶助制度であるメディケイドの適用拡大を撤廃するとしている代替案に反対しており、上院の通過も容易ではありません。

4月までに法制化、ただ困難なら税制改革優先へ、いずれにせよ5月以降に予算審議が始まろう

代替法案は2017年度の暫定予算に組み入れられており、暫定予算は4月28日に期限を迎えます。また議会は4月10日から21日まで休会のため、時間的な余裕はありません。最終的に代替案は反対派の意見を踏まえて修正され、暫定予算の期限までに法制化されると思われますが、法制化の見通しが立たなくなった場合、トランプ政権が税制改革を優先することも考えられます。

いずれにせよ、トランプ米大統領は5月に税制を含む本格的な予算教書を議会に提出し、議会はそれを受けて予算審議を開始する見通しです。オバマケア代替案を巡る市場の動揺は一時的なものと考えますが、予算関連のスケジュールが遅れた場合や、議会の予算規模が予算教書よりも小規模となった場合などは、再び市場が不安定になる可能性があります。ただこれも、着実に税制改革や景気対策が実行される限り、一時的なものと思われます。

170324図表1170324図表2

 

 

 (2017年3月24日)

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