ヘリコプター・マネーの実現性
市川レポート(No.276)ヘリコプター・マネーの実現性
- ヘリコプター・マネー政策への期待が高まり、日経平均株価の上昇とドル高・円安の動きが加速。
- ただ報道された永久国債の買い入れでは、中央銀行の独立性や政府の財政規律の問題は残る。
- ヘリコプター・マネー実現の可能性は低いが、期待剥落でも株高・円安の調整はさほど深くなかろう。
ヘリコプター・マネー政策への期待が高まり、日経平均株価の上昇とドル高・円安の動きが加速
日本時間7月14日午後、ベン・バーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長が4月に本田悦郎前内閣官房参与と永久国債の発行を議論していたという報道が伝わりました。これを受け、日銀が永久国債を買い入れ政府に財政資金を供給する「ヘリコプター・マネー」政策が実施されるとの思惑が市場で強まりました。日経平均株価は引けにかけて一段高となり、結局16,385円89銭で取引を終え、4日続伸となりました(図表1)。
104円台後半で推移していたドル円は、報道後に105円を突破し、同日の海外市場で105円94銭近くまでドル高・円安が進行しました(図表2)。バーナンキ氏は7月11日に黒田日銀総裁と、翌12日に安倍首相とそれぞれ会談を行っていましたが、今回の報道はその直後というタイミングだったこともあり、一気にヘリコプター・マネー実施の期待が高まったと推測されます。
ただ報道された永久国債の買い入れでは、中央銀行の独立性や政府の財政規律の問題は残る
4月27日付レポート「ヘリコプター・ベンのヘリコプター・マネー」でお話しした通り、バーナンキ氏は4月に自身のブログで「マネーによる財政プログラム」という考えを披露しました。このプログラムでは、中央銀行が政府口座に資金を直接振り込むことによって財源が賄われ、中央銀行は目標達成に必要な振り込み金額を決める権限を持ち、政府は資金使途を決める権限を持つことになります。
そのため、中央銀行が政府から国債を買い入れるという一般的なヘリコプター・マネーの仕組みに生じる、中央銀行の独立性や政府の財政規律という問題は、理論上解決されます。ただ今回の報道によれば、バーナンキ氏は自身が提唱する「マネーによる財政プログラム」ではなく、日銀が永久国債を買い入れる手法に言及したとのことですので、独立性や財政規律の問題は残ります。
ヘリコプター・マネー実現の可能性は低いが、期待剥落でも株高・円安の調整はさほど深くなかろう
また「マネーによる財政プログラム」でさえ、中央銀行のバランスシート規模は際限なく拡大するなどの問題点があり、そもそも日本では財政法第5条によって日銀の国債引き受けや政府の日銀からの借り入れを禁止しています。この第5条には例外(特別の事由がある場合において国会の議決を経た金額の範囲内ではこの限りでない)も規定されていますが、それでもヘリコプター・マネー政策がすぐに実現する可能性は極めて低いと考えます。
海外では、イングランド銀行が7月14日に金融政策を据え置きましたが、8月の利下げに言及し、市場の緩和期待をつなぎました。翌15日の中国経済指標は多くが市場予想を上回り、過度な景気減速懸念はいったん後退しました。足元ではこれらがタイミングよく株高・円安の流れを支え、ドル円は一時106円台を回復しています。この先、ヘリコプター・マネー政策への期待剥落と共に、株高・円安の調整は十分予想されますが、英国民投票後の市場混乱を受けた主要国のポリシー・ミックス(金融緩和と財政拡張)が、その調整度合いを軽減することも考えられます。
(2016年7月15日)
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