日銀とECB~マイナス金利政策の相違点

 

市川レポート 日銀とECB~マイナス金利政策の相違点

  • 日銀のマイナス金利政策は階層構造方式で、日銀当座預金残高の一部にマイナス金利を付利。
  • ECBは中銀預金金利のほか、準備預金制度における超過準備にもマイナス金利を付利している。
  • ユーロ圏の金融機関は、コスト転嫁でマイナス金利の影響を緩和か、12日のECB理事会に注目。

日銀のマイナス金利政策は階層構造方式で、日銀当座預金残高の一部にマイナス金利を付利

日銀と欧州中央銀行(ECB)は、ともにマイナス金利政策を実施しています。しかしながら、両者の間にはマイナス金利を付利する手法に相違点があります。以下、具体的にその違いを検証し、マイナス金利深掘りに対する日銀とECBの考え方を整理します。まず、日銀の政策を確認します。日銀はマイナス金利導入にあたり、階層構造方式を採用し、日銀当座預金残高を3つの階層に区分しています。

3つの階層とは、①基礎残高、②マクロ加算残高、③政策金利残高であり、①には0.1%、②には0.0%、③には-0.1%が、それぞれ付利されています。実際の残高は、直近のデータによると、①は約208兆円、②は約155兆円、③は約19兆円となっており、マイナス金利が付利される③の残高は、全体の5%程度に過ぎません。なお、日銀は、民間金融機関に配慮し、③の残高を一定水準に保つよう、様々な規定を設けています。

ECBは中銀預金金利のほか、準備預金制度における超過準備にもマイナス金利を付利している

次に、ECBの政策を確認します。ECBの政策金利は、主要リファイナンス金利で、現状0.0%です。また、政策金利の上限となる限界貸出金利は0.25%、下限となる中銀預金金利は-0.4%となっています。中銀預金金利は、ユーロ加盟国の民間金融機関が、余剰資金を各国の中銀に預け入れた際に付利される翌日物の金利です。中銀預金の残高は、2019年8月30日時点で、約5,500億ユーロ(約65兆円)に達しています。

なお、ECBは中銀預金のほか、準備預金制度における超過準備にもマイナス金利を付利しています。準備預金制度とは、民間金融機関に預金の一定割合を中央銀行に預け入れることを義務付ける制度です。預け入れに必要な準備預金を所要準備、それを超える分を超過準備といいます。直近の残高は、所要準備が約1,300億ユーロ(約15兆円)、マイナス金利が付利される超過準備は、約1兆2,000億ユーロ(約142兆円)です。

ユーロ圏の金融機関は、コスト転嫁でマイナス金利の影響を緩和か、12日のECB理事会に注目

つまり、日銀は、日銀当座預金残高の一部である政策金利残高にマイナス金利を付利しているのに対し、ECBはより広範に、中銀預金や超過準備の全額にマイナス金利を付利しています。また、政策金利残高は、日銀の民間金融機関への配慮により、ほぼ一定水準を保っているのに対し(図表1)、ECBがマイナス金利を付利する中銀預金残高や超過準備残高は、大きく増加した後、依然高水準にとどまっています(図表2)。

日銀の従来のスタンスを踏まえれば、マイナス金利を深掘りする際には、民間金融機関への影響を極力和らげるような配慮がなされる可能性は高いと思われます。一方、ユーロ圏では、民間金融機関は中銀預金や超過準備を積み上げたままとしていますが、企業へのコスト転嫁などで、マイナス金利の影響をある程度緩和できているとの見方もあります。ECB理事会は9月12日に開催されますが、マイナス金利の深掘りが決定された場合、どのような理由が示されるのか、注目が集まります。

(2019年9月10日)

 

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