英国のEU離脱期限は取り敢えず延期か

 

市川レポート(No.651)英国のEU離脱期限は取り敢えず延期か

  • 英下院議長の見解で、メイ首相の離脱案について、3度目の採決は見送られる可能性が高まった。
  • 英国は離脱期限の長期延長をEUに申請へ、仮に3度目の採決でも離脱案は否決で同じ結果に。
  • 離脱期限は取り敢えず延期される見通し、ただ問題先送りで市場に安心感は広がらないであろう。

英下院議長の見解で、メイ首相の離脱案について、3度目の採決は見送られる可能性が高まった

英国の欧州連合(EU)離脱期限が3月29日に迫っています。こうしたなか、メイ首相は、英議会下院ですでに2度否決された離脱案について、3月20日までに3度目の採決をめざし、可決された場合、離脱期限を6月末まで延期するようEUに求める準備を進めていました。しかしながら、英議会下院のバーコウ議長は3月18日、メイ首相の離脱案について、3度目の採決は認めないとの見方を明らかにしました。

バーコウ議長は声明で、政府は議会で否決された提案を再び議会に提出することはできないという規定を強調し、もし3度目の離脱案を提出する場合は、実質的な変更や修正の有無を確認するとの立場を示しました。また、バーコウ議長は、同じ提案を再び議会に提出するには、規定の変更が必要としましたが、現時点で3度目の採決は見送られる公算が大きくなったとみられます。

メイ首相は離脱期限の長期延長をEUに申請へ、仮に3度目の採決でも離脱案否決で同じ結果に

3度目の採決が見送りとなれば、メイ首相は3月21日、22日に開催されるEU首脳会議で、離脱期限の長期延期をEUに申請すると思われます。ただ、メイ首相の離脱案については、仮に3度目の採決が実施されても、与党保守党の強硬離脱派全員が支持に回る可能性は低く、最終的には離脱期限の長期延期をEUに申請せざるを得ないとの見方がもともと主流でした。

したがって、今回のバーコウ議長の見解は、大勢には影響ないと解釈できます。なお、メイ首相は離脱期限の延期をEUに申請するにあたり、EUから出来るだけ早期に離脱したいとする保守党議員に対し、一定の配慮を示すと考えられます。具体的には、長期延期となっても、英議会下院で離脱案が成立し、EUと合意できた時点で、EUから離脱できるという条項を盛り込むことです。

離脱期限は取り敢えず延期される見通し、ただ問題先送りで市場に安心感は広がらないであろう

この条項により、英国は離脱期限を実質的に短期化することができるため、EUがこれを認めれば、少なくとも保守党内で延期期間を巡る意見の対立は回避されます。なお、EUは離脱期限の長期延期シナリオを中心に検討を進めている模様ですが、延期決定後の英国の政治リスク(総選挙など)を警戒しており、延期を認める場合は、離脱協定存続の確約をメイ首相に求めることも考えられます。

延期期間についてはEU加盟国の間でも温度差がみられます。フランスは厳格な条件のもと2020年末まで延期との考えを示す一方、ドイツはあまり厳しい条件はつけず、より現実的な期間にすべきとの立場です。いずれにせよ、3月29日の離脱期限は取り敢えず延期となる見通しですが、基本的には問題の先送りに過ぎず、まだ市場に安心感は広がらないと思われます。

(2019年3月20日)

 

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