米国取材報告②:インフレよりも心配な「治安」の問題

2022/08/08 <>

米国の治安悪化

米国が直面する大きな問題は、インフレ(物価高)だけではありません。もっと大きな問題と言えるかもしれないのは、犯罪の増加です。7月に米国を往訪した筆者も、治安の悪さを頻繁に警告されました。

それが顕著なのは、米国第3位の人口を擁する大都市、シカゴです(第1位はニューヨーク、第2位はロサンゼルス)。そこで会った人(米国人と日本人)の多くが、最近の治安悪化を嘆いていたのです。インフレは、それ自体は人命を奪いません。一方、治安悪化は、人間の生命や尊厳に対する直接的な脅威です。

シカゴの殺人増

元来、シカゴではマフィアが活動し、必ずしも安全とは言えませんでした。ただ、2019年まで、殺人件数は減っていました。しかし、2020年と2021年には、それが増加傾向になってしまいました(図表1)。

凶悪犯罪増の理由としては、様々な点が考えられます。例えば、全米での警察の不祥事(暴行事件など)が報じられたことなどによる、まじめな警察官の士気低下(→犯罪取締りが緩む)です。さらに、コロナウイルスも挙げられます。行動制限による孤立感などから、心理的に衰弱する人が増えたようなのです。

鉄道の利用者減

行動制限に伴い多くの人が鉄道(写真1)利用を控え、駅構内や車両内の人が減ったことも、犯罪を助長した模様です。そして、犯罪を恐れる人は鉄道利用を避け、利用者減と治安悪化の悪循環が進みました。

そうした悪循環は、ニューヨークでも同様です。ニューヨークはシカゴよりは安全ですが、「コロナ前」よりも治安が悪化しているのは間違いなさそうです。筆者は今回、危険な目にはあわなかったものの、シカゴやニューヨークの地下鉄内では、早朝や夕刻はやや不穏な空気を感じました(夜間の利用は極力回避)。

感染阻止を断念

感染の徹底的な阻止を、米国は諦めています。理由の一つは、行動制限を再強化すると、治安が一層悪化しかねないことです(検査やワクチン接種の体制が整い死亡者数は抑制されていることも、大きな理由)。

日本は、米国の諦めを真似する必要はありません。日本の場合、行動自粛で治安が悪化した、とは言えないからです(むしろ、刑法犯認知件数は2020年以降減少)。米国ではマスクを着ける人が少ない点も、見習うべきではありません。もともと慣習が異なるので、マスク着用率が日米で大きく違うのは当然です。

魅力は健在だが

しかし、治安や健康の問題にもかかわらず、米国の魅力や経済の強さはまだ健在です。ニューヨークは、人種・民族の多様性を受け入れる寛容さが世界の人々を招き寄せ、コロナ前の活力をほぼ回復しています。

シカゴは、ミシガン湖からの風が心地よく、人々は友好的です。また、川沿いに近代的なビルが建ち並ぶ風景(写真2)には、独特の美しさがあります。それらを見ると、20世紀に覇権国となった米国の卓越した力を感じます。しかし21世紀には、治安など多くの問題が押し寄せ、米国を悩ませ続けるでしょう。

図表入りのレポートはこちら

https://www.skam.co.jp/report_column/topics/

 

 

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融市場の注目材料を取り上げつつ、表面的な現象の底流にある世界経済の構造変化を多角的にとらえ、これを分かりやすく記述します。
<本資料に関してご留意していただきたい事項>
※本資料は、ご投資家の皆さまに投資判断の参考となる情報の提供を目的として、しんきんアセットマネジメント投信株式会社が作成した資料であり、投資勧誘を目的として作成したもの、または、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。
※本資料の内容に基づいて取られた行動の結果については、当社は責任を負いません。
※本資料は、信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。また、いかなるデータも過去のものであり、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。
※本資料の内容は、当社の見解を示しているに過ぎず、将来の投資成果を保証・示唆するものではありません。記載内容は作成時点のものですので、予告なく変更する場合があります。
※本資料の内容に関する一切の権利は当社にあります。当社の承認無く複製または第三者への開示を行うことを固く禁じます。
※本資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。

しんきんアセットマネジメント投信株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第338号
加入協会/一般社団法人投資信託協会 一般社団法人日本投資顧問業協会