「ペース」のギャップと日銀短観

新年度入りとなった4月1日(水)に日銀短観が公表されました。この日の株式市場では、日経平均が一時的に節目の19,000円台を割り込んでしまう場面が見られるなど軟調な展開でしたが、その要因として「日銀短観の結果が期待外れだった」ことを挙げる見方も多いようです。

株式市場がネガティブ視したと思われる今回の日銀短観の具体的なポイントは、(1)大企業製造業の業況判断(DI)が+12と、市場予想(+14)を下回ったこと、(2)プラスが見込まれていた大企業の15年度の設備投資計画が結果的にマイナス(前年度比で1.2%の減少)だったこと、の2点になります。

まず、(1)についてですが、日銀短観のDIと呼ばれる企業の業況判断指数は、足元の状況を示す「最近」と、3カ月先の見通しを示す「先行き」の二つで公表しています。今回の大企業製造業の場合、「最近」が+12、「先行き」が+10という結果でしたので、この数値だけでみると、今から3カ月先、つまり6月の見通しは足元よりもやや慎重に見ているということになります。

同様に、昨年12月に実施した前回分の結果を振り返って見ますと、それぞれ+12と+9でした。やはり、当時も「先行き」を慎重に見ていたわけですが、当時の「先行き」にあたる+9が今回の「最近」になるため、「12月時点では+9と思っていた見通しが実際は+12だった」ということになり、確かに予想(+14)には及ばなかったものの、景況感自体は改善していると言えます。

また、(2)設備投資についてですが、2008年のリーマン・ショック以降、毎年、期初となる4月発表の調査分では減額見通しになることが多いこともあり、ここ数年では珍しいことではありません。米国の金融政策の今後の動向や中国の景気減速懸念などを踏まえると、今回も「とりあえず最初は様子見で」という企業の姿勢が現れたと考えることができそうです。

なお、この設備投資を少し細かく見ていくと、大企業製造業が前年度比で+5.0%、非製造業が同-4.1%となっています。「非製造業は大丈夫か?」みたいな印象ですが、この非製造業のDIを見てみると予想よりも改善する結果となっており、予想の+17に対して+19という結果でした。円安進行が一服したことや原油安によるコスト減、訪日外国人による、いわゆるインバウンド消費などが寄与したと思われます。

そのため、日銀短観の結果は株式市場の反応ほど悪くはないと言えそうですが、3月の株式市場は、国内経済や国内企業業績への楽観シナリオを先取りして、日経平均が2000年以来の2万円目前まで上昇していました。急ピッチな上昇によって、期待先行の株価の上昇ペースと、実体経済の改善ペースとのあいだにギャップが生じつつあったと考えれば、期待が先行していた分、下落幅が大きくなったと言えそうです。

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