楽観と悲観の「いびつな均衡」、その強さに潜む脆さ

2025/10/24

10月に入ってからの金融市場では、米国株市場が最高値圏で推移する一方、ゴールド(金価格)も最高値を更新するという展開が目立っていましたが、今週に入ってからは、こうした動きが一服しつつあるような印象になっています。

「リスク資産」の株式と「安全資産」の金が同時に上昇するというのは、教科書的に見れば珍しい状況なのですが、この同時高は、市場が二つの相反する力に支えられていたことを意味していると思われます。

ひとつめの力は、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ継続に対する期待です。利下げ効果による「流動性相場」と、「景気の下支え」によって株高が継続するという見方です。さらに、株式市場にはAIという大きなテーマがあり、割高感が意識されながらも株価を押し上げています。

そして、もう一つの力は、根強い米景気減速不安やインフレの再燃懸念、米中対立や米政府機関の閉鎖といった地政学的リスクなどの警戒です。こうした不安による分散投資先として金が選好されている背景になっています。

最近までの状況は楽観と悲観がバランスをとっている「いびつな均衡」だったとも言えます。それ故に、足元で首脳会談の有無など、米中対立をめぐる報道が相次いだことで、金価格が歴史的な急落を記録する一方で、堅調な米企業の決算が多いことを受けて、株式市場が上昇するといった具合に、今週は本来の教科書的な動きを見せるようになってきたと思われます。

ここで、市場の材料を「高値トライの材料」と「買い戻しの材料」に区別する必要がありそうです。足元で出てきた米中対立の緩和期待は、後者の「買い戻しの材料」に過ぎず、株式市場の懸念材料(ブレーキ)が外れ、金などの安全資産を外すきっかけにはなっても、企業の将来的な収益見通しや市場の流動性そのものを押し上げる「アクセル」にはなりません。

それでもなお株価が上昇しているのは、FRBの利下げ期待と、米企業の好決算が支えている面はありますが、ブレーキが外れた解放感で、アクセルを必要以上に踏み込んでいる、いわば「買われ過ぎ」の可能性には注意しておく必要があります。

株式市場が注目するAI関連の米企業の決算がこれから出てくることや、これまで公表が延期されていた米9月の消費者物価指数(CPI)が24日(金)に予定されていることを踏まえると、米国株市場が一段高していくためには、すでに株価が期待を先取りして上昇しているだけに、市場の期待を上回る決算内容と見通しを示すことや、CPIの結果が利下げ期待を妨げない内容になることが必要になります。

テクニカル分析的にも、株価と25日などの移動平均線との乖離が生じており、そろそろ本格的な調整が欲しいところであるほか、米中関係などについても日々状況が変化しているため、足元の株式市場が「脆さ」を抱えていることを意識しながら取引に臨む必要がありそうです。

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