米国株の反発は見せかけか?足元で横たわる「3つの死角」

2025/10/17

今週の米国株市場ですが、主要株価3指数(NYダウ・S&P500・ナスダック総合)の動きを見ると、先週末10日(金)にそれぞれ1.90%安、2.71%安、3.56%安と急落した状況から一転して、戻りをうかがう展開となっています。15日(水)の取引終了時点では、先週末の下落分をまだ完全に取り戻せていませんが、3指数ともに50日移動平均線がサポートとして機能して株価が反発したこともあり、ジェットコースターのような展開の中でも相場の上昇基調を保っている格好です。

このように、米国株の強気姿勢が印象付けられていますが、その裏では株式市場の土台が少しずつ蝕まれているのかもしれません。そのため、現在の米国株市場が抱える「3つの死角」をチェックしておく必要があります。

最初の死角は「米中対立」の火種です。先週末の急落も今週の反発も、主因となったのは米中対立でした。中国がレアアースをめぐる輸出規制を強化する姿勢を示したことに対し、トランプ米大統領が11月1日付で関税を引き上げると表明したことで、米中対立への警戒感が高まり、株価下落につながりましたが、今週に入ると、「中国のことは心配しなくていい」とトランプ米大統領が発信したことで過度な警戒が後退、株価が反発していきました。

ひとまず「一時休戦」となっていますが、中国では来週から4中全会という政治イベントが控えているタイミングであり、国威発揚の為に、中国側が態度を軟化するかは微妙なところで、大統領の一言で雪解けが進むほど、現在の状況は単純ではありません。実際に、市場の恐怖感を示す「VIX指数」は、株価が反発しても20前後の高い水準で推移しており、多くの投資家が「まだ何かあるかもしれない」と身構えている可能性があります。

ふたつめの死角は10月1日から続く「政府機関の一部閉鎖(シャットダウン)」です。すでに雇用統計をはじめ、今週15日(水)に予定されていた消費者物価指数(CPI)といった、経済指標の公表が軒並み延期されています。いまのところ、10月28日~29日に予定されているFOMCでの利下げ見通しに変化はありませんが、時間の経過とともに不安が高まるかもしれません。

そして最後の死角が、「AIブームの熱狂」です。足元の株価上昇を力強く牽引しているのが、米OpenAI社の大型データセンター構想に端を発したAI関連株への期待です。エヌビディアやブロードコムといった半導体株を中心に、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる大手ハイテク株が軒並み上昇し、相場全体を押し上げています。

AIの将来性や期待値が高いのは事実ですが、その期待がPER面での割高感などに現れているように、先取りし過ぎている可能性があります。これから本格化する第3四半期の米企業決算が、こうした市場の期待のハードルを超えられなかった場合、出尽くしや失望売りが一気に広がる可能性も否定できません。さらに、一部では、OpenAIの巨額投資の資金調達方法が不透明であるとの指摘もあり、熱狂の裏側にあるリスクにも目を向ける必要があります。

もちろん、現時点で悲観的になる必要はありませんが、不安定な環境下でが楽観が先行するムードは意外と脆く、突如として株価が大きく調整する展開になることも想定されるため、市場の空気の急変には注意しておく必要がありそうです。

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