ドル108円台で反発か?─三角保合い、抜けるなら円安方向へ
6年目のアベノミクス円安ラインと125円からの円高ラインの綱引きは、円安が競り勝ちそうです。
ドル/円の三角保合いは今、途切れるか?
ドル/円為替レートは1月に入ってから約4円の円高が進んでいます(1月30日午前7時時点)。チャート上でドル/円は三角保合い(もちあい)を形成しています(後述)が、そのドル下値支持線が通る1ドル=108円台に到達したのです。「ドルは下値支持線を下抜け円高が加速する」のか、それとも「ドルは反発して三角保合いが続く」のか、微妙な局面になりました。
三角保合いの(a)ドル下値支持線とは、6年目に入ったアベノミクス円安の流れを描いた円安ラインのことです。2012年秋、安倍・自民党総裁(当時)が日本銀行に対し「物価目標を達成するまで無制限で大胆な金融緩和を求める」方針を掲げたことを受け、1ドル=80円割れからスタートした現在のアベノミクス円安です。
三角保合いの(b)ドル上値抵抗線とは、黒田・日銀総裁の円安牽制発言(2015年6月)等で阻止された1ドル=125円から続く右肩下がりのドル上値抵抗線として描かれる円高ラインです。これら下値支持線と上値抵抗線に挟まれた三角形の領域(図表参照)でドルは上下動してきました。
ダボス会議に絡んだ一時的なドル売り崩しか
1月に入ってからの円高、ドル安は、いずれもスイスで開催されたダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に関連しており、一時的なドル売りの可能性が高そうです。
1月中にドル売り圧力は3回、高まりました。それぞれのきっかけを振り返りますと、1回目(1月10日)は、(i)米国との貿易関係の緊張等を理由に「中国当局が外貨準備としての米国債の購入ペースを落とすか、停止する用意がある」との報道でした。2回目(1月24日)は、(ii)ダボス会議に出席したムニューシン米財務長官の発言「明らかに弱いドルは米国にとって良い、貿易等に関わるからだ」でした。
(i)の米国債購入停止報道を、中国政府はただちに否定しました。市場は、18年ぶりの現職米国大統領のダボス会議出席を控え、「中国サイドからの対米牽制シグナルに過ぎない」と冷静でした。1年前のダボス会議で、習近平国家主席が反保護貿易主義を唱え「中国は自由貿易の新たな擁護者」と述べ存在感を高めた経緯とも関連がありそうです。
(ii)のムニューシン財務長官発言は、市場では「通商問題で強硬姿勢をアピールしようとしただけ」との冷ややかな見方が目立ちます。翌日、トランプ大統領が「強いドルを望む」(1月25日)と発言し、「財務長官の発言は誤って解釈された」との認識を示したこともあり、ドル買い戻しの動きにつながりました。IMF(国際通貨基金)が世界経済見通しを上方修正(1月22日)する原因ともなったトランプ減税によるドル高を見越し、発射台を引き下げておく狙いもありそうです。
外為市場では、経験則上、貿易関連報道は持続的な相場テーマとなりにくい傾向があります。今回、ドル売り材料となった前述の(i)も(ii)も、持続性ある相場テーマとは言い難く、短期筋によるドル売り崩しに使われただけだったようです。
持続性ある相場テーマは日米金利差によるドル高
3回目(1月26日)のドル売りのきっかけは、(iii)ダボス会議に出席した黒田・日銀総裁の発言「2%物価目標に近づきつつある」を受けた(日銀の緩和縮小だけに着目した)日米金利差の縮小観測でした。もっとも、かなり無理やり短期筋がドルを売り崩した印象です。
その理由の一つは、この「日銀も早晩、緩和縮小に動く」との観測に目新しさは無いからです。昨年11月に黒田総裁が「行き過ぎた金利(rate)低下は銀行経営を悪化させ、金融緩和の効果を反転(reverse)させる」というリバーサル・レート概念に言及した時点で市場は織り込み済みです。
もう一つの理由は、むしろ日米金利差は拡大方向で、円安圧力が高まりつつあるからです。「日銀は五輪不況にも警戒しつつ2018年後半に(短期金利はマイナスのまま)長期金利だけ0.2%前後の引き上げにとどめる」との見方が市場の大勢です。一方、トランプ減税の実現で米国景気過熱に警戒が高まっており「FRB (米連邦準備制度理事会)は2018年は0.25%ずつ3回利上げ」 (CME先物市場、1月29日時点)との見方が市場の大勢となっています。
無理やりドルを売り込んだ短期筋のドル・ショート・ポジションは何かのきっかけで、ショートカバーのドル買い圧力につながります。折しもECB(欧州中央銀行)はユーロ高牽制発言を始めており、ユーロ売り、ドル買い圧力となりつつあります。持続性あるテーマとしての日米金利差が意識され、三角保合いは抜けるとしたら円安方向のようです。
- 当資料は、明治安田アセットマネジメント株式会社がお客さまの投資判断の参考となる情報提供を目的として作成したものであり、投資勧誘を目的とするものではありません。また、法令にもとづく開示書類(目論見書等)ではありません。当資料は当社の個々のファンドの運用に影響を与えるものではありません。
- 当資料は、信頼できると判断した情報等にもとづき作成していますが、内容の正確性、完全性を保証するものではありません。
- 当資料の内容は作成日における筆者の個人的見解に基づいており、将来の運用成果を示唆あるいは保証するものではありません。また予告なしに変更することもあります。
- 投資に関する最終的な決定は、お客さま自身の判断でなさるようにお願いいたします。
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第405号
加入協会:一般社団法人投資信託協会/一般社団法人日本投資顧問業協会