総選挙後の市場環境について

 

日銀緩和縮小は「漸進的に進められる」との観測等で円安が進行しやすいとみられます。

安倍首相による突然の解散・総選挙(10月22日)は、自民党勝利の結果となりました。外為市場では「政権交代となれば日本銀行の黒田総裁(来年4月任期満了)の後任総裁が、急激に緩和縮小に舵を切る」リスクを警戒していたため、安堵感でドルは一時114円台へ急伸しました。①安倍首相の財政規律を軽視する姿勢や、②憲法改正に伴うアジア情勢の緊迫化が、円安を加速する中長期的な「日本売り」となるリスクを市場は警戒しています。日本株は、構造改革にも消極的な安倍政権の続投により積極的に買い上げる材料は乏しく、米国株やドルの上下動に伴ったポートフォリオ調整に伴う海外投資家の機械的な日本株の売買にとどまるとみられます。当面は、過熱感の高まっている米国株急落リスクが意識されそうです。

短期的な円安要因: 日銀緩和の縮小は「漸進的に進められる」との安堵感

日本銀行の黒田総裁の任期満了(2018年4月)を控え、市場は「次期総裁のスタンス次第では金融政策運営が大きく変化する」と警戒していました。安倍首相の支持率低迷や健康不安説、(一時期の)小池新党の躍進報道等が交錯する中で、「政権交代となれば、国民に不人気な大規模緩和の縮小へ急速に舵を切る次期総裁が任命されかねない」とのリスク・シナリオへの警戒感がありました。

こうした警戒感は「日米金利差が拡大している割にはドルの上昇は鈍い」という円安を抑制する要因となっていました。米国では12月利上げ観測やトランプ減税期待の再燃で、2年物金利が約9年ぶりの水準へ上昇しつつあり、円安圧力は高まっています。選挙結果を受け、市場では「黒田総裁が再任され、任期途中で副総裁が昇格しバトンを渡す」との継続性重視の漸進的な緩和縮小シナリオが有力視されています。円安の流れは不変のようです。

中長期的な円安要因①: 安倍政権の財政規律軽視による「日本売り」懸念

今回、2019年消費増税で、増税分の8割を財政再建に充てる当初計画を撤回し「使途変更を問う解散総選挙」に踏み切った安倍首相に、市場は改めて「財政規律を崩壊させる」と失望しました。過去2回、消費増税を先送りし、「プライマリーバランス(PB、基礎的財政収支)を2020年に黒字化させる政府目標」は既に達成不可能です。安倍首相はかつて「PB黒字化を『国際公約』だと一度も申し上げたことはない」(参院予算委員会、2015年2月)と言い切ったこともありました。(かつてAAA格だった)日本国債の格付けはA格に下落したままです。何らかのきっかけで円安の流れが出来れば、それを加速する『日本売り』材料になってしまいます。

中長期的な円安要因②: アジアの緊張を高める安倍外交も「日本売り」要因に

海外勢の反応は、「憲法改正への政策重点シフトにより、国際情勢が不安定化する」として『日本売り』につながるとの懸念が目立ちます。「不戦の理念が憲法改正で弱まれば、かつて戦争した中国や韓国を怒らせ関係が悪化する。自衛隊の憲法明記によって、米国が引き金を引く戦争に巻き込まれる」 (英紙ガーディアン)等と、もっぱら憲法改正を取り上げた報道ばかり目につきます。

昨年(2016年)夏の参院選勝利の際には、海外主要紙は「市場が期待するのは、憲法改正でなく、経済政策」(同)とか、「安倍政権は海外投資家が期待するような施策には消極的」(米紙WSJ)との反応でした。ポジティブな受け止めの「日本人は安定を選んだ」(米紙NYT)と政権の安定性を評価する見方も、今回はみられません。(日本株の上昇要因ともなる)労働市場の流動性を高める改革など構造改革に期待する声などはもはや消え去ったようです。

これら円安要因が意識されやすいものの、当面は、別稿(注)で述べたように先週、急加速した株価上昇(図表参照)で米国株の急落リスクが高まっており、円安進行や日本株上昇を一時的に抑え得る要因となりそうです。

(注)MYAM Report「 米国株に急落リスク─日本株にも押し目買いチャンス到来か 」(2017年10月20日)

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明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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