2ヵ月続いた円高終了─米政権の北朝鮮ミサイル発射対応に安堵感

 

対話重視の米政権と異なり石油禁輸制裁を唱え孤立する安倍外交は円安要因ともなりそうです。

米政権の対話姿勢に市場は安堵

北朝鮮が北海道上空を通過する弾道ミサイルを発射(8月29日早朝)した翌30日、チャート上では、2ヵ月近く続いた円高の動きが止まりました。7月上旬(1ドル=114円台)から続いたドル下落トレンドにおけるドル上値抵抗線を、ドルは109円台後半で上方に抜けたのです。円安転換の兆しには、市場の安堵感が読み取れます。

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不安心理を和らげたのは、「北朝鮮に対しトランプ米政権は単独で強硬姿勢をとる可能性は低い」との見方が市場で広がったためです。市場が警戒していたのは、今年4月に巡航ミサイル50発超でシリア軍施設を攻撃したような「米国の単独行動」による軍事衝突です。北朝鮮を支えてきたロシアや中国との決定的な対立にも発展しかねません。

大統領の強硬姿勢を封印した米政権幹部

米政権が強硬姿勢を控え、国際社会による圧力を通じた外交的対話を重視する方針となったことを、市場は次の2点から悟りました。一つは、発表されたトランプ大統領の短い声明文において、「近隣諸国」や「すべての国際連合加盟国」 (を侮辱)に言及した上で「北朝鮮の孤立を深めるだけ」との表現が使われたことです。しかも、大統領本人のツイッターではなく、ホワイトハウス発表の声明文であったことは大きな安心材料でした(後述)。

もう一つは、ミサイル発射後の国連安全保障理事会・緊急会合での「協議は4時間に及んだが、追加制裁は見送られた」(NYタイムズ、29日付)こと、しかも「米国が作成した文案には、当初から追加制裁の記載はなかった」(ロイター、30日付)ことです。米国が追加制裁に消極的なロシアや中国に配慮したようです。ティラーソン国務長官の基本的見解「中国やロシアによる関与も含め、国際社会による圧力を通じた外交的対話を望む」(8月9日)に沿った動きでした。

現実路線に変化した米政権幹部

すでにティラーソン国務長官やマティス国防長官は二人とも、就任当初の強硬姿勢を改め、対話重視の姿勢に変化しており、トランプ大統領とは温度差があります。「北朝鮮は炎と怒りに見舞われることになる」(8月8日)とのトランプ大統領の強硬発言に対し、ティラーソン国務長官は「言葉で強いメッセージを送ろうとしたに過ぎない」(8月9日)と火消しに回った経緯があります。これに不満だったのか大統領はツイッターで「大統領として私が最初に指示したことは核兵器の刷新と近代化だった」と反論するそぶりも見せました。また、強気発言で知られ「狂犬」の異名も持つベテラン軍人だったマティス国防長官ですら、「北朝鮮問題の軍事的解決は、想像を絶する悲劇を引き起こす」(5月19日)と述べ、すでに対話重視の姿勢です。

これら政権幹部と大統領との発言力が逆転したのは、米南部州シャーロッツビルでの白人至上主義者グループと反対派の衝突事件(8月12日)だったと筆者は考えます。事件に対するトランプ大統領の姿勢を批判したコーンNEC(国家経済会議)委員長が、大統領を(税制改革の全米遊説に行かされる形で)動かすようになったことに別稿(注)で触れましたが、同様に大統領を批判したティラーソン国務長官も、大統領の(対北朝鮮)強硬姿勢を封印できたようです。ちなみにホワイトハウス報道官はこの二人の大統領批判を重要視しない考えを表明し「政権内の高官らは大統領と距離を置いていない」(29日)とし、政権内の亀裂を否定しました。

(注)「トランプ大統領、全米遊説へ─税制改革の期待は株高円安の要因」(MYAM Market Report 2017.8.29)

日本の孤立を生んだ安倍外交は円安要因となるか

(トランプ大統領に歩調を合わせた)安倍政権の強硬姿勢が、国際社会で日本の孤立を際立たせたことは、海外投資家のアベノミクス期待が下火となった現状では、円安要因の一つにもなりかねません。「安倍首相が『今は対話する時ではなく圧力をさらに高めていく必要』との認識でトランプ大統領と一致」とか「日米、石油禁輸提起へ─対北朝鮮、安保理に」(主要紙一面トップ記事、29日付)と強硬姿勢でした。外相も(事前予告の米領グアム沖でなく日本向けミサイル発射を)「北朝鮮はひるんだ」と挑発的でした。結局、米政権の支持を得られず追加制裁は見送りとなったのです。

明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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