約5ヵ月続いた円高局面は終了か─外債・外株投資は再開へ

 

米国利上げ局面は必ずしも円安を意味せず、年末にも見込まれるトランプ減税策次第のようです。

円高局面は終了か

ゴールデンウィーク明けの5月8日(月)、米ドルの対円為替レートは「米ドル下落トレンド」の上値抵抗線を上方に抜けました。昨年12月から約5ヵ月間続いた円高局面は、どうやら終了したようです。主因は、「欧州政治リスク」が和らぎ、これまでリスク回避的に買い進まれた米欧の国債や円を売り戻す動きとみられます。

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フランスでは、7日の大統領選・決選投票で、EU(欧州連合)の統合強化を唱えるマクロン前経済相が、EU離脱を唱える排他的な極右政党のルペン党首に圧勝しました。ドイツでは、7日のシュレスウィヒ・ホルシュタイン州での地方議会選で、メルケル首相率いるCDU(キリスト教民主同盟)が勝利しました。

フランス大統領選と並び、今年最大の「欧州政治リスク」と市場が注目するのは、9月のドイツ連邦議会選です。その前哨戦として3つの州で地方議会選があり、そのうち(今回と3月に実施された州選挙をあわせた)2つの州で与党CDUが勝利しました。政権4期目をめざすメルケル首相の勢いに弾みがついた形です。一方、EU離脱を唱え移民受入れに反対する極右政党AfD(ドイツのための選択肢)の得票数は、2州とも伸び悩む結果となりました。

ユーロ圏諸国のリーダー格ともいえる独仏の両大国において反EU勢力躍進が阻止されたことは、①市場の警戒感を和らげたと同時に、②(不況期に躍進しやすい極右勢力が劣勢となり)各国民が「欧州景気は良好」と感じ始めている証左とも言えそうです。

「円高終了」は外債・外株投資に追い風

「約5ヵ月間続いた円高局面は終了」とのチャート上のサインは、(日本銀行が異常な緩和策で国内債券市場のイールドカーブを潰してしまったせいで)消去法的に外債・外株投資に頼らざるを得ない機関投資家とっては、好材料かも知れません。例えば先月末、公表された主要生保各社の2017年度運用計画は引き続き外債頼みの構図でしたが、チャート上の「円高局面終了」サインは外債購入のタイミング等を捉える上で有益と思われます。信託銀行等の年金勘定運用であれば、為替ヘッジ外し(円売り・ドル買い)タイミング等を捉える上でも有益でしょう。

前回の利上げ局面で米長期金利の上昇は限定的

本邦機関投資家が、外債購入タイミングを捉える上では、米国の長期金利が昨年12月以降、概ね横ばい圏内で推移していることも好材料かも知れません。最近の米国長期金利の落ち着きで、米債購入に動くのは本邦勢だけではなさそうです。中国は、昨年まで人民元買い支えのため外貨準備を大幅に取り崩し、巨額の米債売りに動いたと推測されます。ところが直近4月末時点で中国の外貨準備高は3ヵ月連続の増加です。

前回の米国利上げ局面(2004~2006年)では、長期金利がさほど上昇しませんでした。「謎(conundrum)だ」とのグリーンスパンFRB議長(当時)発言も想起されます。大幅な円安も進行しませんでした。現状の米国利上げ局面が、必ずしも円安を意味するものではなさそうです。

円安進行はトランプ減税策待ちか

大統領就任100日が経過しましたが、減税策の議会調整は難航し、ムニューシン米財務長官は「年内」の法案成立を示唆しています。米国金利が再び急上昇するとしたら、年末にかけて、減税策の議会成立の目途が立つタイミングと考えられます。もっとも、トランプラリー(金利上昇・ドル高・株高)再燃に対しては、FRB(米連邦準備制度理事会)が、利上げ2回分に相当する「FRBバランスシート縮小アナウンス」というカードを用意して待ち構えています。これによる長期金利押し上げ効果をFRBは「0.15%ポイント程度」と試算しており、長期金利上昇への影響は軽微とみられます。

チャート上で「約5ヵ月間続いた円高局面は終了」とは言っても、「リスク回避的な円高が終わっただけ」との見方も可能で、円安が大きく進行しそうな気配は市場では感じられません。トランプラリー再燃まで、力強い円安進行の可能性は低いのかも知れません。

明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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