仏大統領選・第一回投票を無難に通過─円高圧力和らぐ

 

市場の関心はECB緩和縮小に移り、世界的景気拡大期待も円高圧力を弱める要因となりそうです。

「リスク回避の円高」を巻き戻す動き

フランス大統領選の第一回投票では、欧州連合(EU)の統合強化を唱えるマクロン前経済相と、EU離脱を唱える排他的な極右政党のルペン党首が順当に勝ち残り、両候補が5月7日の決選投票に進むと判明しました(日本時間4月24日)。事前の世論調査では、反EUの極左政党候補者の追い上げに着目した市場の一部が「もしも第一回投票でともに反EU勢力である極右と極左の候補者が勝ち残れば、反EUの大統領が誕生する」と警戒する向きもありました。

決選投票については、これまで複数の世論調査が「得票率はマクロン前経済相が60%前後、ルペン党首が40%前後」との結果を繰り返し示してきたことから、市場は「マクロン前経済相の圧勝」をすでに織り込んだ様子です。反EU勢力の躍進を警戒した市場の不安が和らいだことで、これまでリスク回避的に買い進まれた米欧の国債や円を売り戻す動きがみられます。大勢判明の報道を受け、円は1ドル=109円付近から110円台前半へ、値が飛びました。

景気拡大が政局安定方向に作用か

ユーロ圏諸国ではこのところ、EU離脱を唱える反EU勢力の伸び悩みが目立ちます。もともとユーロ圏諸国とは距離を置き、米国との結びつきが深い英国において、国民がEU離脱を選択したのと対照的です。オランダ下院選挙(3月)では、EU離脱を唱える極右政党が事前予想ほど得票を伸ばせませんでした。今回のフランス大統領選でも「極右政党ルペン党首が決選投票を制して大統領になる可能性は低い」と複数の世論調査会社が、これまで繰り返し示唆しています。

これら排他的な反EU勢力は、かつてリーマンショック(2008年)や欧州債務危機(2011~2014年前後)で高まった雇用不安を背景に、「職が奪われる」とEUの移民政策を批判し、支持層を広げてきた面があるようです。しかし、すでにユーロ圏景気は、これら経済危機からの回復局面を脱し、拡大局面に入っています。ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が「回復局面を脱し拡大局面に入った」と示唆したのは、昨年9月のことでした。

ユーロ圏第2位の経済規模のフランスでは、失業率はなお高めながらすでに低下傾向に転じています。家計も、景気の先行きに自信を深めつつあるようです。フランスの消費者信頼感指数は、2013年につけた統計開始以来最悪の水準から大きく持ち直し、約10年振りの高い水準になっています(図表参照)。排他的な反EU勢力にとって、雇用情勢の改善は逆風と考えられます。

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市場の関心はECB緩和縮小へ

市場の関心は、これまで強力な金融緩和策を進めてきたECBが緩和の手綱をゆるめ始めるタイミングはいつかに移りつつあります。ECB高官は、最近、「ユーロ圏の長期化した力強い景気回復と物価圧力の高まりを考えると、金融政策の正常化をECB理事会がいつ検討すべきか討議するのはもっともだ」(ワイトマン独連銀総裁、4月6日)との発言を始めています。「FRB(米連邦準備制度理事会)にならい、ECBが金融緩和策の解除に着手することは悪い考えではない」(ワイゲル独財務相、4月20日)との声も出始めています。

もっとも、ECBが慎重に金融政策の正常化を進めようとしている点は、内外の債券投資家にとってもプラス要因と考えられます。先月「利上げを、現行の債券買入れプログラム終了(本年末)前にするか、後にするか、今後決定する」と発言した別のECB高官は、「今年いっぱいは現行の緩和策を維持する方針だが、来年以降の政策は今年後半に決める見通し」と述べ、ややトーンダウンしています(ノボトニー・オーストリア中銀総裁、4月22日)。かつて2015年4~5月にインフレ指標改善を受けドイツ長期金利が急上昇し、米国長期金利の上昇圧力ともなった教訓等を踏まえたとみられ、慎重に金融政策の正常化を進めようとするECBの姿勢が感じられます。トランプ米政権の減税策の議会通過が年後半に先送りされるとみられる中、景気拡大を続けるドイツの金利上昇圧力が米国金利の低下抑制要因となり、ひいては円高圧力を弱める要因ともなりそうです。

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かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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