ゆるやかな円高、ゴールデンウィーク後も長引くか

 

トランプ・ラリー再燃の年末先送り観測等で、本格的な円安進行は年後半にずれ込みそうです。

ドル安の加速は回避されたが、、、

週明け4月17日(月)の東京外国為替市場で、ドル/円が1ドル=108円台前半へ急落し、昨年末から約4ヵ月間続く「ゆるやかなドル下落トレンド」の下値抵抗線を一時、割り込みました(図表参照)。ほぼ同じタイミングで、これまで「米国景気が良好なので下抜けする可能性は低い」とみられてきた108円台半ば付近の200日移動平均線も、東京市場で一時、割り込みました。同日、ニューヨーク市場でドルは小反発し、いずれも元に戻りました。さらなるドル安の加速は回避されましたが、昨年末からの「ゆるやかなドル下落トレンド」は、なお継続しています。

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主因は「有事の円買い」ではなさそう

ドル安、円高が加速しかけた主因は、逃避的な円買いではなさそうです。朝鮮半島情勢は、比較的落ち着いています。日曜日(16日)の北朝鮮のミサイル発射が失敗に終わった安堵感や、米大統領補佐官(国家安全保障担当)が「米国は軍事的な衝突に至らないよう外交による解決に努める」と示唆したこと(16日)等は、むしろ円売り戻し材料です。週明けの韓国株価も小幅高となっており、朝鮮半島情勢がさらに緊迫化した気配はありません。また世界第2位の経済規模の中国の経済情勢をみても、2017年1~3月期GDP(国内総生産)前年同期比が、市場予想を上回る6.9%と発表され(17日)、かつての過度な中国景気の悪化懸念も薄らいでいます。市場心理は比較的落ち着いており、リスク回避的な「有事の円買い」が進む雰囲気は感じられません。

主因は米国景気の一時的な減速懸念か

ドル安、円高が加速しかけた主因は、力強く拡大している米国景気が「やや減速するのでは」との市場の一部の観測のようです。2017年1~3月期には、天候不順等により「一時的にやや景気拡大ペースが鈍る可能性」が意識されており、「ソフト・データは強いが、ハード・データは強弱まちまち」との声が聞かれます。ソフト・データとは、企業景況感や消費者信頼感など回答者の実感を反映するアンケート調査形式の統計です。ハード・データは、失業率や小売売上高など経済活動の現況を示す統計です。「ソフト・データとハード・データの乖離」は、最近、米国株価の上昇力が鈍った原因の一つともされています。もっとも、ソフト・データは景気先行指標であり、タイム・ラグ(時間の経過)をおいてハード・データに反映されると考えられます。

米国の景気刺激策先送り観測

さらにトランプ・ラリー再燃が、年末近くまで先送りされる公算が高まってきたことが、新たに材料に加わりました。ムニューシン米財務長官が4月17日、これまで「8月の議会休会入りまでに」と述べてきた減税策の議会成立が困難となったことを認め、「2017年中に」と述べたのです。トランプ・ラリーが再燃すれば、日米金利差の拡大を通じ、本格的に円安が進行すると市場はなお期待しています。

一方、FRB(米連邦準備制度理事会)は、「ほぼ完全雇用に達した米国経済で、さらにトランプ政権が減税策など景気刺激策を実施すれば、景気は過熱する」との「米国景気上振れリスク」を警戒しています。FRBは利上げ2回分に相当する「FRBバランスシート縮小アナウンス」のカードも用意して、トランプ・ラリー再燃に備え、準備を進めています。

「世界的な景気減速懸念」もまだ早計

鉄鉱石など資源価格が、4月に入ってから目立って下落しており、円高材料に使われやすくなっている点にも、筆者は注目しています。昨年後半以降、トランプ・ラリーに伴って資源価格は大きく上昇していました。鉄鉱石については、1トン=約90ドルの高値を付けた今年2月には、オーストラリア準備銀行(中央銀行)が「中国やブラジルからの供給増も見込まれ、90ドルは長続きしない」(ロウ総裁議会証言、2月24日)と市場を戒めていました。最近の値動きは「期待先行で上昇した分が剥げ落ち、実勢価格に落ち着きつつある」ためと考えられます。今のところは、資源価格下落も「世界的な景気悪化懸念」を示す材料にまではなっていないようです。

明治安田アセットマネジメント株式会社
かつて山間部の中学校などに金融教育の補助教材を届けていた頃の現場の先生方の言葉が、コラム執筆の原動力です。「金銭面で生きる力をつける教育は大切だが、私自身、株式など金融は教えられないのですよ」と。
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